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第84話:時雨家参上

 男の、下種な笑い声が聞こえる。

 お酒をつぐことには慣れた。でもこの酒臭くて暑苦しい空間にいることだけは今でも耐えられない。

 私の隣に座る品のないシャツを着た男は値踏みするように私の全身を見つめてきた。


「いやーかわいいねぇ。学生ってのがたまんねーよな」

「おいおい。手ぇ出すなら親父さんに許可とらねーと」

「はぁ? 金積めばいいだけじゃねーか。ぎゃはははははっ」

「―――っ」


 確信がある。私は今日にでも……いや、もしかしたらもうすぐ、汚されることになるだろう。

 手が震える。目の奥が熱くなる。時雨君に会いたい。みんなに会いたい。

 必死に震える体を押えていると、ごつごつとした手が私の肩に触れた。


「あっれぇ? 寒いの? おじさんが温めてあげよっか?」

「いやっ……」


 下種な笑いを浮かべた男の手が、私の服をしっかりと掴む。

 その力の強さに私は心の底から震え、声を出すこともできない。

 そのまま男は私の服を―――





「ひとーつ、不埒な悪行三昧」

「ふたーつ、不埒な悪行三昧」

「みーっつ、不埒な悪行三昧!」

「ちょっときな子姉ちゃん! あずき! セリフ全然違うんだけど!?」

「不埒な悪行三昧しか言ってないじゃない」

「まあまあいーじゃん! 細かいことは言いっこなし!」

「全然細かくないんだけど……」


突然部屋の窓を開け、部屋に飛び込む僕達。

きな子姉ちゃん、あずき、僕の三人はポーズをとりながらセリフが違うと揉め、刹那姉ちゃんはそんな僕らを見ると右手で頭を抱えていた。


「な、なんだ!? 誰だてめぇら!」

「我ら時雨家! 悪党に名乗る名などない!」

「きな子姉ちゃん名乗ってる! めちゃくちゃ名乗ってる!」


父親の取り巻きの1人から質問されたきな子姉ちゃんは、えっへんと胸を張りながら堂々と自己紹介する。

僕がそんなきな子姉ちゃんにツッコミを入れていると、刹那姉ちゃんは再びため息を落とした。


「ああもう、めちゃくちゃね」

「桜崎どのぉ! 助けに来たでござるよ!」


あずきはぶんぶんと右手を横に振り、能天気な笑顔で言葉を紡ぐ。

桜崎さんは両目を見開きながら返事を返して来た。


「あずき!? それに時雨君たちも、一体どうしたの!?」

「桜崎さんがピンチだって聞いて、助けに来たんだ。まあ要するに……」

「ただのおせっかいよ」

「お姉さん……」


胸の下で腕を組み、ぶっきらぼうに言い放つ刹那姉ちゃんを見てその瞳を潤ませる桜崎さん。

よかった。どうやらここに来たことは間違いじゃなかったみたいだ。


「なんだか知らねえが、人の家に勝手に入りやがって。覚悟は出来てんだろうなぁ?」

「よく見たら可愛い顔してんじゃん。一緒に遊ぼうぜ」

「遊ぶの!? いいよ!」

「よくない! 姉さん目的を忘れないで!」


相手の男の口車に乗りそうになるきな子姉ちゃんへ、即座にツッコミを入れる刹那姉ちゃん。

きな子姉ちゃんははっと目を見開いて言葉を続けた。


「そうだった! 騙そうったってそうはいかんぞ悪党どもめ!」

「そうでござる! 神妙にするでござるよ!」


きな子姉ちゃんとあずきはぷりぷりと怒りながら、男たちへと言葉をぶつける。

それを聞いた男たちの中の一人は怪訝そうな表情で口を開いた。


「ちっ、めんどくせぇ。いいからやっちまおうぜ」

「待て! 家の中で暴れるんじゃねえよ!」


桜崎さんの父親は男たちに向かって声を荒げ、男たちはその言葉を聞くと渋々といった様子で頷いた。


「ちっ。だったら……来い!」

「あっ!?」

「桜崎さん!」


桜崎さんは男に手を引かれ、玄関から外に引っ張り出される。

その様子を見た刹那姉ちゃんは声を荒げた。


「まずい! 追うわよ、信! あずき!」

「うん!」

「がってんでござる!」

「せっちゃん私は!? お姉ちゃん忘れてるよ!」


刹那姉ちゃんの声に頷き、走り出す僕達。

夜の街は薄暗く不気味で、僕は眉間に力を込めながら走る両足にさらなる力を込めた。

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