第78話:中庭にて
昼下がりのデパートの中庭に芝生が広がっているのを見つけた僕と桜崎さんは、そこにシートを引いて腰かける。
自信なさげに突き出された桜崎さんの弁当は、どのおかずも一級品の味がした。
好物のからあげを口いっぱいに含んだ僕は、涙を流しながら言葉を発した。
「やばい、美味すぎる。弁当うま男……」
「ふふっ、なにそれ。男じゃないし」
桜崎さんはどこかくすぐったそうに笑いながら、弁当を食べる僕の顔をじっと見つめる。
口の中のからあげを全て飲み込むと、僕は満面の笑顔で返事を返した。
「いやでも、本当に美味しいよ。ありがとう桜崎さん」
「べっ、べつに。お互いお金もないんだし、節約したほうがいいかなって思っただけだから」
桜崎さんはいそいそと水筒に入れてきたお茶をコップに注ぎながら、恥ずかしそうに言葉を返す。
僕はもう一口お弁当を食べると、さらに言葉を続けた。
「節約してこんなに良い思いができるならいいことづくめだよ。これから毎日作ってもらおうかな」
「よろしくお願いします!」
「へっ!? あ、いや、うん」
突然猛烈な勢いで頭を下げてきた桜崎さんを見た僕は、状況が理解できずわやわやとした返事を返す。
そんな僕の言葉を聞いた桜崎さんは、顔を真っ赤にしながら下げていた頭をがばっと起こした。
「ご、ごめん。ちょっと混乱した」
「いや、うん、とにかくありがとね」
僕は桜崎さんの動きに疑問符を浮かべながらも、口を動かす。
しばらく恥ずかしそうにしていた桜崎さんだったが、ふとした拍子に中庭にある時計に視線を向けた。
「そういえば、まだこんな時間なのね」
「そうだねぇ。せっかくだからこの辺をブラついてみようか」
夕方までまだ時間はたっぷりある。このまま帰るのももったいないし、せっかく駅前に来たんだからブラついてみるのも面白いだろう。
「そう、そうね! せっかくだからね!」
両手をぎゅっと握りながらふんすと鼻息を噴き出す桜崎さん。
普段見ない表情を見せた桜崎さんに驚いた僕は、ぽかんと口を開いたのち言葉を返した。
「えっと、じゃあとりあえず駅前商店街に行こうか。あそこは色々なお店も出てるしね」
「うんっ」
桜崎さんはにーっと笑いながら、僕に向かって返事を返す。
そうして僕たちは昼食を済ませ、駅前商店街に向かって歩みを進めていた。




