第74話:モブ子のきもち
やがて地元の駅に到着した僕らは、駅前広場に集合する。
いつのまにか空は茜色から群青色に変わってきており、懐かしい地元の空気に少しほっとした。
「はい! というわけで駅に着きました! みんな、家に帰るまでが遠足だかんね!」
えっへんと胸を張りながら言葉を発するきな子姉ちゃん。
しかし間髪入れずに刹那姉ちゃんが口を開いた。
「いや、そもそもこれ遠足じゃないでしょ」
「そうでござるな。修行合宿でござる」
「いやそれも違うあずき。温泉入って美味い飯食べる修行なんかないよね?」
僕は頭に大粒の汗を流しながら、こくこくと頷いて言葉を発しているあずきへとツッコミを入れる。
あずきはぽや~っとした笑顔を浮かべながら夢見心地で言葉を続けた。
「でも拙者、とっても心が豊かになったでござる。これは修行の成果でござるよ」
「そ、そう。まああずきが楽しめたなら何よりだよ」
ぽへっとしているあずきのほっぺたを見つめながら、苦笑いを浮かべる。
そんな僕の背後から、控えめな細い声が響いてきた。
「あの、桜崎さん、しぐれくん」
「ん? どうしたのモブ子さん」
「気分でも悪い? 電車酔っちゃった?」
僕の隣に立っていた桜崎さんは、心配そうな表情を浮かべながらモブ子さんを気遣う。
モブ子さんはぶんぶんと顔を横に振りながら口を開いた。
「あ、ううん大丈夫。そうじゃなくてね、えっと……」
「「???」」
もじもじと両手の先を合わせているモブ子さんを見て、僕も桜崎さんも頭に疑問符を浮かべる。
やがてモブ子さんは意を決したように両手をぎゅっと握り、言葉を続けた。
「ふ、二人に、買い物に行ってきてほしいの!」
「「え」」
予想外のモブ子さんの言葉に、思わず硬直する僕と桜崎さん。
やがて桜崎さんは再起動すると、モブ子さんへと質問した。
「買い物って、おつかいをしてきてほしいってこと?」
「う、うん。今週末駅前のデパートで一日限定販売のぬいぐるみが出るんだけど、その日は私遠出する予定なの。だから―――」
「ああ、それでおつかいしてきてほしいってわけか。いいよ」
事情を飲み込めた僕は、二つ返事で了承する。
週末は特に予定もないし、モブ子さんの頼みなら全然おっけーだ。
「ありがとうしぐれくん! 桜崎さんは?」
「え、えっと、私は……」
期待するモブ子さんの視線を避けるように顔を背け、迷っている様子の桜崎さん。何か用事でもあるのかな?
そうして桜崎さんが迷っていると、モブ子さんは落ち着いた様子で言葉を続けた。
「あのね、桜崎さん。ぬいぐるみはすごく大きいから、しぐれくん一人じゃ恥ずかしいと思うの。だから、一緒に行ってもらえないかな」
「そ、そう。そういうことなら……わかった、行く」
桜崎さんはこくりと頷きながら、モブ子さんへと返事を返す。
よかった。どうやら話はまとまったみたいだ。
「ありがとう桜崎さん! じゃあ、詳細はまたメールするね!」
「う、うん」
「わかった」
妙にテンションの高いモブ子さんを不思議に思いながらも、頷きながら返事を返す僕と桜崎さん。
その時、きな子姉ちゃんのハイテンションな声が届いた。
「おーし、じゃあみんなで飯食いに行くか! せっちゃんのおごりね!」
「だったらうちで作るわよ。スーパー寄っていい?」
「おおっ! 刹那姫の料理、久しぶりでござる!」
「うおおおお! 刹那姐さんの手料理、テンション上がるぜ!」
いえーい! とハイタッチするあずきと猛。いつのまに仲良くなったんだ?
いや、もしかしたら波長が合っていたのかもしれないな。
「ん。桃園さん、どうかした?」
「???」
いつのまにか桜崎さんはモブ子さんの方を向き、頭に疑問符を浮かべながら質問している。
モブ子さんの様子に、何か変わったところでもあったんだろうか。
「あ、ううん、なんでもないよ! 夕ご飯、私たちも手伝おうね!」
「う、うん」
ぐっと両手を握りこんだモブ子さんの様子を見た桜崎さんは、少し驚いた様子でこくりと頷く。
その後もモブ子さんはいつもより少しだけテンションが高く、僕と桜崎さんはそれを不思議に思いながらも、楽しい夜は更けていくのだった。




