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第73話:笑顔と共に

 暖かな日の光に包まれながら電車に揺られていると、あずきの元気な声が響いてきた。


「ついたでござるー!」

「お、もう着いたか。思ったより早かったね。というより……」

「ずっと寝てたから当たり前だよな」


 そう。僕も含めてみんなグーグー寝ていたので、正直言ってあっという間に着いたような気がする。

 車窓から見える景色は見慣れたものに変わっていて、なんだかもったいないことをしたような気持ちになるな。


「いやー、みんな寝ちゃって子どもみたいだったぜ!」


 ぐっと立てた親指を突き出しながら言葉を発するきな子姉ちゃん。そんな姉ちゃんの言葉を聞いた刹那姉ちゃんは疲れた様子で口を開いた。


「姉さんだって寝てたじゃない。しかも床で」

「ああ。椅子からずり落ちても寝てたのはファンタスティックだったね」


 疲れた様子の刹那姉ちゃんに同情的な視線を送りながら、座席の足元で爆睡していたきな子姉ちゃんの姿を思い出す。

 きな子姉ちゃんはたっはー! と自分のおでこを叩きながら返事を返した。


「いやぁー、居心地がよくってついね。ほら、床がカーペットだし」

「姉さんならドブの中でも寝れるでしょ」

「それ言い過ぎじゃね? ひどくない?」

「あはははははっ!」


 容赦のない刹那姉ちゃんの言葉を受けたきな子姉ちゃんは、死んだ目になりながらショックを隠せない様子だ。

 その表情を見て思わず笑っていると、猛が悪戯な笑顔を浮かべながら口を開いた。


「ともかく降りる準備しないとな。あずき隊員、撤収の準備だ!」

「あいっ! 了解でござる! 桜崎どの、拙者が先導するでござるよ!」

「えっちょ、あずき!?」


 あずきは飛び跳ねながら桜崎さんの手を引き、荷物入れへと引っ張っていく。その道中あずきは無邪気な笑顔を浮かべながら桜崎さんに話しかけていた。


「やー、桜崎どのの手は暖かいでござるなぁ。拙者このまま寝そうでござる」

「ふふっ、何よそれ。ほらもう、そんな引っ張らないで」


 桜崎さんは困ったように笑いながらも、どことなくその表情は明るくなった気がする。

 僕は安堵のため息を落としながらそんな二人を見つめた。


「桜崎さん、ちょっと元気になってくれたかな」

「……時雨くんも、気づいてたんだ。望月さんもね、心配してたよ」

「モブ子さん」


 いつのまにか後ろに立っていたモブ子さんから、控えめで細い声が聞こえてくる。

 楽しそうに会話をするあずきと桜崎さんを見たモブ子さんは、にっこりと笑いながら言葉を紡いだ。


「桜崎さん、ちょっとだけ元気になってくれたみたい。本当によかった」

「モブ子さんは、何か事情を知ってるの?」


 僕はモブ子さんの方に体を向け、真剣な表情で質問する。

 さっきの桜崎さんには、ただならぬ何かを感じた。もしかしたらモブ子さんなら何か事情を知っているかもしれない。


「ううん、私にもわからない。わかっているのは、ひとつだけ」

「??? それって……」

「おおーい信どのぉ! みんなの荷物を下ろしてるでござるよ!」

「あ、ああ! 今行くよ!」


 僕は後ろから響いてきたあずきの声に反応し、弾かれたように荷物入れに向かって歩いていく。

 高い位置にある荷物入れから大きなトランクを取り出すと、慎重に床の上に降ろした。


「ご、ごめん。私の荷物重いでしょ?」


 大きめのトランクを抱える僕を見た桜崎さんは、眉を顰めながら申し訳なさそうに口を開く。

 僕は大口で笑いながらできるだけ明るく返事を返した。


「なぁに、軽いもんだよ。これが猛の荷物なら燃やしてるけどね」

「うん。唐突にひどくね?」


 いきなり話に出された猛は僕を睨みつけながらツッコミを入れてくる。

 よかった、反応されなかったらかなり寂しかったよ。


「ふふっ、何よそれ。変なの」

「いやぁ、まあ、レディーファーストみたいな?」

「全然違うでしょそれ。あはははっ」

「いやぁ、はははっ」


 楽しそうに笑う桜崎さんを見た僕はなんだか嬉しくなって、テンションがどんどん上がっていくのを感じる。

 そしてそんな僕たちを見ていたモブ子さんは、何かを決意したような目で口を開いた。


「……ん、決めた」

「??? モブ子さん、何か言った?」


 小さく聞こえたその声に反応し、僕はモブ子さんに向かって言葉を紡ぐ。

 モブ子さんはふるふると小さく両手を横に振ると、困ったように笑いながら返事を返した。


「ううん、何でもない。私のことは気にしなくていいから」

「あ、えっと……うん」


 なんだろう。モブ子さんの顔は前髪に隠れてほとんど見えないけど、普段と違う何かを感じる。

 僕はその違和感の正体を掴めないまま、やがて手伝いを申し出てくれたモブ子さんと一緒に荷物の整理を続けていた。

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