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第72話:横顔に映る想いはどこに行くのか

 たっぷり残っていると思っていた旅行の日程も、あっという間に過ぎ去っていった。

 楽しい時間は終わるのも早いと言うけれど、今回ほどそれを実感したことはなかったなぁ。


「ぷぇー。もう帰るのぉ? もうここに住もうよ」

「馬鹿言わないで姉さん。道場を放っておくつもり?」

「私はもともと放っておいてるよ?」

「そんな純粋な眼で言われても……」


 刹那姉ちゃんは素っ頓狂なことを言い出しているきな子姉ちゃんにゲンナリとした視線を送りながら、がっくりと肩を落とす。

 でもまぁ、きな子姉ちゃんの言いたいこともよくわかる。ここは海も綺麗だし、本当に良いところだ。

 とはいえ今はもう、帰りの電車の中だ。体は適度な疲労感に包まれていて、柔らかい椅子と車窓から見える海の景色が心地よかった。


「……確かに私も、帰りたくないな」


 通路を挟んだ反対側の席に座っている桜崎さんが、小さく言葉を落とす。

 偶然その声が聞こえていた僕は、思わず桜崎さんの方を向いて返事を返した。


「ご飯もおいしかったし、何より楽しかったもんね。帰りたくない気持ちもわかるよ」


 これは間違いない、僕の本心だ。出来ることならずっと皆で遊んでいたいけど、現実はそうもいかない。

 小さく笑いながら言葉を発したが、そんな僕の言葉を聞いた桜崎さんは顔を俯かせてしまった。


「そう、ね。楽しかった。ずっと続けばいいのにって思う」


 桜崎さんは何故か憂いを含んだ表情を浮かべながら、ぽつりと言葉を落とす。

 そんな桜崎さんを不思議に思った僕はその横顔をしばらく見つめていたけど、結局答えはわからなかった。


「もう、変な顔しないでよ。私は大丈夫だから」

「あ、うん……?」


 果たして本当に大丈夫な人は、自分から大丈夫だ、なんて言うだろうか。

 僕の胸の中にざわざわとした何かが湧き上がってきたけど、その感情が何なのかうまく捉えられない。

 目の前の椅子の背もたれを見つめながら考えたけれど、やっぱり答えは出てくれない。

 やがて猛が元気よく僕の肩を叩いて話しかけてくるまで、その思考は止まることがなかった。

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