第70話:星々の輝き
無事ロープウェーに乗ることができた僕たちは、ほどなくして星空観賞イベントの会場に到着する。
芝生が一面に敷かれたその会場は山の上にありながら売店なども充実していて、なかなかの賑わいを見せていた。
「ここが会場かぁ。結構広いんだね」
「おおっ、見ろよ信。すでに星空がすごいぜ」
猛はロープウェーを降りるなり空を見上げ、満点の星空を笑顔で見上げる。
確かに凄い星空だ。こんな沢山の星、生まれてから今まで見たことがない。
「確かにそうだね。さすが―――」
「わぁぁぁっ。すごいすごい! すごいよ!? こんないっぱいの星見たことない!」
「ほぁっ!? う、うん桜崎さん。確かに凄いよね!」
「うん! わぁぁ。あんなにクッキリ天の川が見えるなんて……」
桜崎さん、星空が好きだったのかな。だとしたら来てよかった。
いつものちょっとクールな印象と違い、桜崎さんはぴょんぴょんと跳ねながら両手を広げ、穢れのない笑顔で空を見上げている。
綺麗な髪が風に流れ、星々の光を穏やかに反射する。
その綺麗な光景に目を奪われていると、微かに声が届いてきた。
「信どの! こっちに―――むぐっ!?」
「望月さん、しーっ。邪魔しないようにしよう!」
「???」
僕は声のした方向に顔を向けるが、そこには誰もいない。
不思議に思っていると、会場に設置されたスピーカーから声が響いてきた。
“ただいまより、ロープウェーの運行を停止します”
「あっ、いよいよ照明を落とすのかな? ギリギリだったけど間に合ってよかった」
「…………」
僕はほっと胸を撫で下ろしながら言葉を紡ぐが、桜崎さんは星空に夢中になっている。
凄い集中力だなぁ、桜崎さん。本当に来てよかった。
……あれ?
「そういえば、皆がいない。食べ物でも買いに行っちゃったのかな?」
「…………」
気づけば周辺にみんなの姿はなく、談笑している他の観覧者がいるだけだ。結果的に二人きりになったみたいだな。
とはいえ、取り乱すこともないだろう。
「まあ、いいか。ロープウェーは止まってるんだし、そのうち会えるよね」
僕は呼吸を整えて、じっと星空を見上げている桜崎さんの隣に立つ。
すると周りにいた人たちが、足元の芝生に腰かけていることに気づいた。
「桜崎さん、僕たちも座ろうか。邪魔になっちゃうしね」
「ん……」
桜崎さんは星空を見上げたまま返事を返し、足元を確認しないままゆっくりと腰を下ろす。
よっぽど夢中になってるんだな……これだけ星が綺麗なら気持ちもわかるけど。
“まもなく照明を落とします。観覧者の皆様はお気を付けください”
「お、いよいよか。なんかドキドキしてきたね」
「う、うん」
桜崎さんはごくりと唾を飲み込み、真剣な表情で空を見上げている。
その緊張した横顔を見た僕は反対に落ち着き、少し余裕を持って星空を見ることができた。
“3、2、1……スタート!”
「わぁ」
「……すごい」
照明が落ちた瞬間目の前に広がったのは、まさに星の海。
僕と桜崎さんはその瞳いっぱいに星空を広げ、息をするのも忘れていた。




