第69話:ロープウェー乗り場にて
旅館で無事夕食を食べた僕たちは、予定通り直通バスに乗って星空観賞イベント会場へ向かう。
おなか一杯の状態で眠くなりながらバスに揺られていると、ほどなくして会場に到着した。
日はすっかり落ちて暗くなっており、バスターミナルだけが薄ぼんやりと灯りに照らされていた。
「おー! ここが星空観賞イベントの会場でござるか! 結構近かったでござるな!」
「そうだね。直通バスのおかげかな」
バスから飛び降りたあずきを追いかけ、ゆっくりとバスを降りる。
爽やかな外の空気を吸い込むと、少し体が軽くなったような気がした。
「おおー、結構人がいっぱいいるねぇ」
後ろからバスを降りてきたきな子姉ちゃんは、きょろきょろと周囲を見回しながら言葉を落とす。
バスの中で寝てたせいで寝癖がいつも以上に強烈になってるな。
「ま、夏休み時期だしね。それより姉さん。人が多いんだから目立たないように―――」
「あっ見て見てせっちゃん! あのおっちゃんの頭地図みてぇ……いだいっ!?」
「言ったそばから騒がないで。殴るわよ?」
「もうぶってるよぉ……」
「あ、あはは」
早速刹那姉ちゃんにしばかれているきな子姉ちゃんを見た僕は、ひきつった笑顔を浮かべながらその様子を見つめる。
やがてさらに後ろからバスを降りてきた猛は、おーっと声を出しながら遠くに見える山を見つめた。
「どうやらあのロープウェーに乗って行くみてぇだな。会場は山の上なのか」
「えっ。ロープウェー……か」
僕は暗くなりそうな表情を隠しながら、少し離れた場所にあるロープウェー乗り場を見つめる。
ロープウェーかぁ。あの乗り物はどうも苦手なんだよなぁ。
「しぐれくん、どうかしたの?」
後からバスを降りてきたモブ子さんは、いつのまにかあずきを抱っこした状態で首を傾げる。
そんなモブ子さんの質問を聞いた僕は、ぽりぽりと頬をかきながら返事を返した。
「あー、うん。なんかあの乗り物苦手でさ。ワイヤーでしか支えられてないってのがどうも不安で……」
「あらら、信ちゃん大丈夫? 怖いなら私が山の上まで投げ飛ばそうか?」
「ワイヤーより危険だよねそれ!? どういう提案!?」
背後で物騒なことを言い出したきな子姉ちゃんに対し、即座にツッコミを入れる。
きな子姉ちゃんはそんな僕のツッコミを全く意に介さず、さらに言葉を続けてきた。
「はっはっは。安心せい信ちゃん。私はコントロール抜群だぜ?」
「問題はそこじゃないよ! 深刻なレベルで足りてないものがあるよね!?」
「あーそっか。全員投げるには時間が足りない」
「常識が足りないんだよ! ていうか全員投げるつもりだったの!?」
「あずきとか小さくて投げやすそうだよね」
「丸まった方がいいでござるか?」
「その気遣いいらないからあずき! みんなでロープウェー乗ろう!? なっ!?」
僕はがっしりとあずきの肩に手を置き、鬼気迫る表情で言葉をぶつける。
そんな僕の言葉を聞いたきな子姉ちゃんは、口の形を3にしながら言葉を返してきた。
「えー、でも信ちゃん怖いんしょ?」
「いやぁ一刻も早く乗りたいなぁ! ぼくロープウェーだいすき!」
「しぐれくん、顔が引きつってる……」
「あいつも難儀な男だな」
困ったように笑うモブ子さんと猛の表情を横目に見ながら、僕は空元気できな子姉ちゃんを説得する。
結局みんなでロープウェーに乗るまで、想定より長い時間がかかってしまった。




