第63話:桜崎さんの静かなる怒り
「いやーすまんすまん。ちょっと我を忘れてたわ」
「とりあえず気絶はしないでね。ていうか猛もシート敷くの手伝って」
灼熱の浜辺から逃れるため、パラソルとシートを準備する僕。
猛にも手伝ってもらって、準備は滞りなく進んだ。
浜辺に敷かれた明るいストライプ柄のシートに、きな子姉ちゃんとあずきが同時に飛び込む。
「うっひょおおおお! 最高だぜ!」
「涼しいでござるなぁ」
二人はぽへーっとした表情でパラソルの下に敷かれたシートに寝転がり、気持ち良さそうに息を落とす。
そんな二人を見た刹那姉ちゃんは、ゆっくりとした動作でシートの上に腰を下ろした。
「日射病になっても大変だし、このまま大人しくしてくれるといいんだけど―――」
「よっしゃああずき! さっそく城作ろうぜ! 原寸大の!」
「お、やるでござるか!? 腕がなるでござる!」
「大人しくしてるわけがなかったわね」
「あはは……」
作り始めたきな子姉ちゃんとあずきを冷たい視線で射抜いている刹那姉ちゃん。
僕はそんな刹那姉ちゃんの様子を見ると、苦笑いを浮かべた。
「あ、あの……」
「ん? モブ子さ―――」
「おおっ!? 桃園さん超かわい……ちょっ!? 何そのパーカー!」
背後からかけられた声に振り返ると、僕の声にかぶせるように猛が騒ぎ出す。
そう言われると確かにモブ子さんは前が開くタイプのパーカーを着ていて、上半身は隠しているようだ。
「ええっ!? だ、だめかな」
モブ子さんは困ったように眉を顰め、猛へと言葉を返す。
そんなモブ子さんに向かって、猛は噛み付くように言葉を続けた。
「だめだめ認めませんよそんなもの! 浜辺では水着でいなければならないというルールが―――」
「いや、どこのルールだよ猛」
「俺のルールだが?」
「猛のルールなの!? 知ったこっちゃないよ!」
素っ頓狂なことを言い出した猛に向かって即座にツッコミを入れる僕。
しかしモブ子さんはまともに猛の言葉を聞いてしまったのか、困ったように眉を顰めながらパーカーのチャックに手をかけた。
「え、えっと、脱いだほうがいいのかな?」
「いや、気にしないでモブ子さん。猛の戯言は放っておいて」
「ひどっ!? 何を言うんだ信! みんな水着なのにパーカー着るなんてよくないだろ!? おっぱい見たい!」
「本音が漏れ出してるよ猛!」
思い切り心の声が漏れ出している猛に向かって、再び言葉を突き刺す僕。
そんな猛の言葉でも心に響いたのか、モブ子さんは恥ずかしそうにしながらもパーカーのチャックを下におろした。
「えっと、じゃあやっぱり脱ぐね。確かにみんな水着なのに上着てるのも変だし」
「お、おおう……」
クラスメイトの女子が服を脱いでいる姿というのは、なかなかどうして刺激が強い。
そんなモブ子さんの姿を凝視していると、背後で猛の倒れる音が聞こえた。
「満足ナリィ」
「また気絶した!? 少しは学習してよ猛!」
再びぶっ倒れた猛に頭を抱え、言葉をぶつける。
パーカーを脱いだモブ子さんは心配そうに眉を顰めて言葉を紡いだ。
「えっと、赤井君大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。最悪浜辺に置いて行こう」
「ひどぅい……」
猛はぶっ倒れた状態で満足そうに笑い、僕の言葉に反応する。
うん、どうやら大丈夫そうだ。
「その様子なら平気そうだね。とりあえずシートに寝ててよ」
「無念なり」
僕は猛を抱えてぽいっとシートの上に放り投げ、再びモブ子さんのいる方へと体を向けた。
「うーん、それにしても……」
「???」
モブ子さんは真っ白な水着を着ていて、丁度良い大きさの胸が可愛らしい。
しかしクラスメイトの女子の水着姿ってのは、どうしてこうもドキドキすんでしょうね?
「あ、あの、しぐれくん。あんまり見られると恥ずかしい、かも……」
「ふぁっ!? ご、ご、ごめん!」
もじもじと両手の指先を合わせて紡がれたモブ子さんの言葉に反応し、弾かれるように返事を返す。
するとそんなモブ子さんの後ろに、頬をぷくーっと膨らませた桜崎さんが立っていた。
「ぶぅ……」
「うぉわっ!? さ、桜崎さん!?」
突然現れた桜崎さんに驚き、視線を泳がせる僕。
桜崎さんはさらに頬を膨らませ、僕に向かって言葉をぶつけた。
「ふん! どーせ私に見られるほどのものはないわよ! 悪かったわね!」
「どゆこと!? なんで怒ってんの!?」
僕は桜崎さんの言葉の意味がわからず、困惑しながら言葉を返す。
そんな僕達の後ろから、きな子姉ちゃんの声が小さく届いた。
「やー、みんな青春してるねぇ」
「ふぇ?」
きな子姉ちゃんの言葉に反応し、小さく言葉を落とすあずき。
僕は何故か怒っている桜崎さんをなだめながら、何故こんなに怒られているのか必死に考えを巡らせていた。




