第62話:水着!
「暑いな、信。もういっそ全部脱いじまうか」
「同感だけどそれ以上脱がないでね猛。確実に捕まるから」
僕と猛は浜辺で水着を着た状態で、女子組の到着を待っている。
真夏の太陽に晒された僕らの体力はガンガン減り始め、そんな自身の体を奮い立たせるように猛は叫んだ。
「ええい、これから女子たちの水着が拝めるってのに何沈んでんだ信! 気合い入れろ!」
「主に沈んでたのは猛だろ? さっきから暑いしか言ってないし」
「だって暑いじゃない!? 何この砂浜焼けた鉄板かと思ったわ!」
「だからビーチサンダル持ってきたじゃないか。とにかく今は耐えるしかないよ」
僕は小さく息を落としながら、猛へと返事を返す。
猛は苦々しい表情を浮かべながら、返事を返してきた。
「ぐぅ。まあいい。女子たちの水着姿を拝めれば元気百倍になるからな」
「猛はそのままで十分元気だと思うけどね」
「信! お前さっきからクールな様子だが、女子たちの水着が楽しみじゃないのか!?」
猛は信じられないものを見るような目で僕を睨みながら声を荒げる。
僕はぽりぽりと頬を掻いて返事を返した。
「いや、そりゃ僕だって楽しみではあるけどさ。あんまりジロジロ見るのも失礼じゃない?」
「バカ信お前バカ! こういうときに見とかないでいつ見るってんだよ! うちはプールの授業も男女別なんだぞ!?」
「そりゃ確かにそうだけど……猛。まさか撮影はしないよね?」
「大丈夫だ。ケータイはカバンに入れてきた」
「ほっ」
「ごついカメラは持ってるがな」
「撮影する気満々じゃないか! ちゃんと本人に許可取ってよ!?」
僕は補導される猛の姿を想像し、動揺しながら声を荒げる。
そんな僕の注意を聞いた猛は、ぐっと立てた親指を突き出しながら返事を返した。
「もちろんだぜ信! 俺は今日のため一睡もせずに土下座のイメージトレーニングを重ねてきたんだ!」
「熱意はものすごいね!?」
僕は頭に大粒の汗を流しながら、猛へとツッコミを入れる。
そんな会話を続けていると、ワンピースタイプの水着を着用したあずきが手を振りながら駆け寄ってきた。
「信どの! 猛どの! お待たせしたでござるー!」
「お、あずきか。可愛い水着だね」
あずきの水着は赤い縞々模様のワンピースで胸元にフリフリが付いており、腰元にあるピンク色の小さいリボンが可愛らしい。
恐らく刹那姉ちゃんあたりが選んだのだろう。
「拙者はふんどしで良いと言ったのでござるが、刹那姫が買ってくれたのでござる!」
「うん。それは本当によかった」
僕は頭に大粒の汗を流しながらぽりぽりと頬をかき、苦笑いを浮かべる。
猛は右手をぐっと強く握りしめながら、あずきに向かって言葉を発した。
「超似合うぜあずきちゃん! 写真撮っていい!?」
「いやぁー。恥ずかしいでござるが、別に良いでござるよ」
「ヒャッホオオオオウ!」
あずきの周りを旋回しながら連続してシャッターを切る猛。
そんな猛を見守っていると、背後から高い声が響いてきた。
「信ちゅわぁあぁぁん! 今日のために新調した私の水着どぅ!?」
「いやどぅも何も、それスク水じゃない? スク水だよね?」
「やだなぁ、違うよ信ちゃん」
「あ、違うんだ」
「うん。これは旧スク」
「スク水には変わりないよね!? 何も違わないよね!?」
「さっすが姐さん! 超似合ってるっす!」
「ありがとタケちゃん! いえーい!」
二人は意気投合したのか、小さく飛び上がりながらハイタッチを合わせる。
そんな二人を見た僕は、小さく笑いながら言葉を続けた。
「いやまあ、確かに似合ってはいるんだけどね?」
「はっはっは! だろう信ちゃん! 学園のプール授業は任しとけ! みんなの視線を独り占めだよ!」
「うん。姉ちゃんその学園だいぶ前に卒業してるよね?」
僕は大粒の汗を流しながら、姉ちゃんへとツッコミを入れる。
そんな僕たちの背後から、黒いビキニの水着を着用した刹那姉ちゃんが近づいてきた。
大きな胸を揺らしながらゆっくりと歩いてくる姉ちゃんには、周囲の男たちから多くの視線が突き刺さっている。
やがて目の前まで歩いてきた刹那姉ちゃんの姿を見た猛は、いい笑顔を浮かべながら後ろへと倒れた。
「完敗ナリィ」
「どういう断末魔なの!? 猛、気をしっかり持って!」
「今までありがとう信。わが生涯に一片の悔いなし」
「ゴールするには早すぎるよ猛! しっかりして!」
僕は倒れた猛を抱きかかえながら、懸命に声をかける。
猛はそんな僕の声に呼応して、震えながら返事を返した。
「大丈夫ナリ。水着を食べれば元気出るナリ」
「これはもうだめかもわからんね」
僕は乾いた瞳で猛を見つめ、小さく言葉を落とす。
その後猛が正気を取り戻すまで、実にバケツ三杯分の海水を必要とするのだった。




