第58話:りょかん!
バスの中にトランク等の荷物を積み込んだ僕達は、バスに乗車して今夜宿泊する旅館へと移動する。
しばらくバスに揺られていると、車窓から海辺に建てられている小奇麗な旅館が見えてきた。
バスから降りた僕達は静かに佇んでいる旅館を見上げ、ぽかんと口を開く。
木造建築のそれはどこか古めかしさは感じるものの不潔な雰囲気は欠片もなく、掃除が行き届いていることが容易に感じられる。
そのまま旅館に入ろうとしたところ、刹那姉ちゃんが数歩前に進んでこちらの方にくるっと体を向けて言葉を紡いだ。
「一応言っておくけど、旅館の人に失礼がないようにね。特に姉さん」
刹那姉ちゃんはびしっときな子姉ちゃんを指差し、釘を刺すように言葉を発する。
そんな刹那姉ちゃんの言葉を受けたきな子姉ちゃんは、口を3の形にしながら返事を返した。
「ぶー、何言ってんのさせっちゃん。私がいつ失礼だったって?」
「だいたいいつも失礼でしょ」
「いつもなの!? お姉ちゃんショック!」
あんまりな刹那姉ちゃんの言い草に、少なからずショックを受けるきな子姉ちゃん。
しかし刹那姉ちゃんはそんなきな子姉ちゃんに構うことなく言葉を続けた。
「まあとにかく、行きましょうか。みんなちゃんとついてきてね」
「「「「「「はぁーい」」」」」」
みんなからの返事を聞いた刹那姉ちゃんはすたすたと歩いて旅館の入り口に向かって歩いていく。
そうして旅館の中に入ると、清潔感のある広い玄関が僕達を迎えた。
「おおっ! 中はかなり広いんだね」
「すげーなぁ。俺家族旅行でこんなとこ泊まったことねぇよ」
猛は嬉しそうに玄関を見回し、玄関前の広間にあったソファにとりあえず腰掛ける。
そんな猛と同じようにソファに腰掛けた僕は、受付に近づいていく刹那姉ちゃんを見守る。
刹那姉ちゃんは冷静な様子で受付に向かい、受付には綺麗な女将さんらしきお姉さんが笑顔で立っていた。
刹那姉ちゃんはこっそり背後に迫っているきな子姉ちゃんに気付くことなく女将さんに向かって言葉を発する。
「すみません予約していた時雨ですが、お部屋への案内をお願いします」
「はいっ。時雨様ですね。お待ちしておりました」
女将さんはにっこりと微笑みながら応対し、刹那姉ちゃんへと爽やかに返事を返す。
するとその瞬間刹那姉ちゃんの背後に隠れていたきな子姉ちゃんが前に飛び出し、女将さんに向かって片手を挙げながら言葉を発した。
「ヘェイ女将さん! 小粋なカクテルひとつちょーだい!」
「うぉらっ!」
「でっぷ!」
刹那姉ちゃんはきな子姉ちゃんの声を聞いた瞬間、振り向きざまにボディブローを叩き込む。
きな子姉ちゃんは腹部を押さえながらふらふらとその場に倒れ、口から魂が抜け出ていた。
「き、きな子姉ちゃんしっかり! 大丈夫!?」
僕はすぐに倒れたきな子姉ちゃんに駆け寄り、体を揺すりながら声をかける。
するときな子姉ちゃんは少しだけ体を起こして返事を返した。
「うう……いたいよぉ。私なんか悪いことした?」
「うん。それはしたよね。女将さんにカクテルオーダーしちゃダメだよね」
「まじかよ……」
きな子姉ちゃんはがっくりと体を倒し、その両目をゆっくりと瞑る。
そんな姉ちゃんを見た僕が「き、きな子ねえちゃーん!」と悲壮感溢れる表情で叫んでいると、刹那姉ちゃんから冷たい視線が降り注いだ。
「馬鹿やってないでさっさと行くわよ。荷物を部屋に入れなきゃいけないんだから」
「「あっはい。すみません」」
僕ときな子姉ちゃんは同時に返事を返し、それぞれの荷物を持って立ち上がる。
こうして僕らは女将さん先導の元、宿泊する部屋へと案内されたのだった。




