第54話:レッツ乗車!
涼しい車内に入った僕らは、思ったよりも広い車内に驚きながら座席に近づいて行く。
自動ドアが開いて座席のある車両に入ると、ぽつぽつとお客さんはいるものの全体的には空いているように見えた。
まだ夏休みの初日だし、旅行に出かける人はそれほど多くないのかもしれない。
座席はいわゆるボックス席がいくつも続いており、どうやら三つで一ブロックになるように並んでいるらしい。
そしてその時僕はある疑問を覚えた。
「そういえば刹那姉ちゃん。席ってもう決まってるの?」
僕は改札前で刹那姉ちゃんから受け取った乗車券を取り出しながら質問する。
刹那姉ちゃんはその質問を予想していたのか、すぐに回答してくれた。
「座席は全部自由席よ。だから空いてる席へ適当に座ればいいわ」
刹那姉ちゃんは胸の下で腕を組み、淡々と僕の質問に回答する。
ただ質問に答えてるだけなんだけど、なんとなく格好いいのは凄いな。
いや、今はそれより座る席をどうするかだな。モタモタしてると発車しちゃって危ないし、迅速に座らなくては。
「いやっほぉぉぉう! あたし窓側の席とっぴー!」
「きな子姉ちゃん!? 空中を回転して進みながら着席するのやめて! こわい!」
きな子姉ちゃんは妙にアクロバティックな動きで座席に着席し、むふーと満足そうな笑顔を見せる。
確かに迅速に座るべきだとは思ったけど、空中を進む必要はひとつもないですよお姉さま。
「あ、じゃあ拙者はきな子どのの膝に座るでござる!」
「おお、来るか!? かもんあずき!」
きな子姉ちゃんはばっと両手を広げ、その中にあずきが飛び込んでいく。
そのままもぞもぞと動いて体勢を変えると、すぐにきな子姉ちゃんの膝の上にあずきがちょこんと座っている状態になった。
「ははっ。あずきも窓際が良かったの? それなら向かいの席でも―――」
「「ぐー」」
「もう寝とるー!?」
しかもきな子姉ちゃんとあずきの二人とも寝てるよ。やはりきな子姉ちゃんにくっつくと眠くなってしまうのか……。
いやまあ、とりあえず静かにはなったな。僕も向かい側の席に座るとするか。
こうして向かいの席に座った僕は、いそいそと弁当を広げる。
弁当の蓋を開くと芳しいハンバーグの香りが僕を包み、思わず恍惚の表情を浮かべて震えてしまった。
「ああ……めっちゃ美味そう。いただきま―――ん?」
なんか、さっきよりハンバーグが三分の一くらい減ってる気がする。
気のせいかと思って目をごしごしと擦ると、その瞬間ご飯も一口分減った。
僕はこの現象をすぐに理解して、目の前のきな子姉ちゃんをジト目で見つめた。
「きな子姉ちゃん……食った? 匂いに釣られて食ったでしょ」
「ぐ、ぐー……」
「はいダウトぉ! 口元にご飯つぶ付いてる!」
僕はびしっときな子姉ちゃんを指差し、言葉をぶつける。
そんな僕の言葉を受けたきな子姉ちゃんは、袖でごしごしと口元を拭いながら体を起こした。
「ぶええ!? マジかよ!」
「USOだよー! しかし犯人は見つかったぜ!」
「し、しまった!」
きな子姉ちゃんはガーンと頭を抱え、絶望に満ちた顔を見せる。
それだけで僕の怒りはだいぶ収まったが、貰うものは貰わないとな。
「というわけで、きな子姉ちゃんの弁当のおかずも一口頂戴よ」
「うう。仕方ないね。じゃあ一口持っておゆき」
そう言いながら取り出されたきな子姉ちゃんの弁当。
しかしその弁当のおかずはことごとくコゲており、僕は両手で頭を抱えた。
「ってきな子姉ちゃんも“豪熱爆焼き弁当”かよ! いらないよそのおかずは!」
なんてこった。よりによって身近に二人もこの弁当を買う猛者がいるとは。
しかしまあ、もういいや。残ったおかずでご飯を食べよう。
「ふぇー? 信ちゃんおかずいらないの? おいふぃよ?」
「うん。さっきから“ゴリ”とか“ボリ”とかいう咀嚼音が聞こえてくるから、いらない」
豪熱爆焼き弁当を食べるきな子姉ちゃんの口からは、およそ弁当のおかずを食べているとは思えない音が響いてくる。
そんなきな子姉ちゃんを見た猛はいつのまにか僕の隣に座っており、同じように弁当を広げていた。
「やー、さすがきな子姐さん美味そうに食うぜ。じゃあ俺もさっそく、いっただっきまーす♪」
「いや猛。あの擬音をどう導いたら“美味そう”って結論になるの? 止めといたほうがいいんじゃないかな」
さっそく弁当を広げた猛に僕はわたわたと両手を動かして言葉を発するが、猛はそんな僕に構わず豪熱爆焼き弁当を一口食べる。
その後ボリボリという咀嚼音を響かせた猛は、ぐっと親指を立てながら良い笑顔で言葉を発した。
「信。この弁当よぉ……くっそまずいぜ♪」
「だろうね! だから止めたじゃないか!」
「海底深く沈めたほうがいい」
「そこまで!? いや、そこまでかもしれないな」
がっくりと肩を落とし、この世の終わりのような表情を見せる猛。
その表情を見る限り、猛の言いっぷりもあながちオーバーじゃないかもしれない。
そうしてきな子姉ちゃんに視線を戻すと、相変わらず姉ちゃんは丸コゲのおかずを美味しそうに頬張っていた。
「ははは。なんか、おかずを取られたのが果てしなくもったいない事のような気がしてきたよ」
「???」
がっくりと両肩を落として、光を失った瞳できな子姉ちゃんを見つめる僕。
あずきは眠たそうに両目をこすって起き上がりながら、不思議そうにそんな僕を見つめていた。




