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第53話:駅弁を買おう

 どうにかこうにか改札を通った僕達は今、ホームで電車がやってくるのを待っている。

 日差しは相変わらず強くホームを照らし、僕達の額から汗を流していく。

 遠くから聞こえてくるセミの鳴き声に耳を澄ましていると、僕のシャツを小さな手がくいくいと引っ張った。


「信どの! 信どのはお弁当どれが良いでござるか?」

「あ、駅弁買ってるんだ。じゃあ僕はお肉系にしてスタミナつけようかな」


 僕はキラキラとした瞳で近付いてきたあずきの頭を撫で、駅弁屋さんへと近付く。

 気付けば駅弁屋さんの周りには皆が集まり、思い思いのお弁当を購入していた。


「よし、僕はハンバーグ弁当だ。二人は何を買ったの?」


 しばらく話していなかったことを思い出し、モブ子さんと桜崎さんへ声をかける。

 二人はほぼ同時に袋の中からお弁当を取り出し、声を合わせて返事を返してきた。


「「えっと……サンドイッチ」」


 凄い。二人の動きと声が完全にシンクロしてるぞ。結構好みが合うのかな。

 モブ子さんと桜崎さんは互いを見合わせるとびっくりした表情を浮かべ、その後恥ずかしそうな笑顔を浮かべる。

 そんな二人の様子を微笑ましく見ていた僕だったが、思い出したように言葉を続けた。


「あ、じゃあさ。飲み物は何買ったの? これはかぶらないでしょ」

「「ミルクティー……あ」」


 二人は再び同時に言葉を発して、お互いの顔を見合わせる。

 すると桜崎さんが笑いながら言葉を続けた。


「ふふっ。なんか本当に好みが合うみたい」

「そうだね。朝だからあんまり重いのは入らないなぁって」

「あー、それ思った! サンドイッチくらいが丁度いいよね」

「ねー」


 二人はいつのまにか話の花を咲かせ、楽しそうに会話している。

 思えば桜川祭の買出しに行った時から仲良かったもんなぁ。そう考えると今回は旅行に誘って本当に良かったよ。誘ったのは僕じゃないけど、きな子姉ちゃんグッジョブだ。


「モブ子どの、桜崎どのぉ! 拙者はにぎり飯を買ってもらったでござる! お茶もあるでござるよ!」


 そうして二人から視線を外そうとした僕の視界の下を、小さな影が横切って行く。

 気付けばあずきはビニール袋を持ったまま桜崎さんに飛びついていた。


「きゃあっ!? あ、あずき、突然抱きつくのやめなさいってば!」


 桜崎さんは一瞬驚いて悲鳴を上げるが、抱きついてきたのがあずきとわかると困ったように笑う。

 そんなあずきの様子を見たモブ子さんは、くすくすと笑った。


「ふふっ。でもにぎり飯~なんて久しぶりに聞いたかも。おにぎりじゃないんだね」


 モブ子さんは後ろ手に手を組み、桜崎さんに抱きついているあずきを覗き込みながら話しかける。

 そんなモブ子さんの言葉を受けたあずきは、満面の笑顔で返事を返した。


「ああー、そういえばそうでござるなぁ。さっきも注文する時にぎり飯って言ったら売店のおばちゃん笑ってたでござる」

「そりゃ、あんたの見た目でその単語はアンバランスだもん。笑うわよね」

「ふふふっ。でも、なんか可愛いかも」


 三人は集まって楽しそうに笑い、その様子を見た僕も小さく微笑む。

 仲も良いみたいだし、なんだかんだで良い旅行になりそうだな。

あと問題があるとすれば―――


「せっちゃあああん! 財布落としたぁ! お弁当買って!」

「姉さん元から財布なんて持ってないじゃない。ていうか持たせないし」

「そうでした!」


 あのテンションの高い姉さえ大人しくしてくれていれば、とりあえずこの旅行も平和に終わりそうだ。

 まあ、大人しくしてるわけなんか無いんですけどね。あはははは。


「なぁにニヤニヤしてんだよ信。早くも女子の水着姿を妄想かぁ?」

「人聞きが悪いな……そういえば猛はどの弁当を買ったの?」


 突然背後から話しかけてきた猛をジト目で見つめながら、僕は返事を返す。

 猛はじゃーん! と言いながら持っているビニール袋を突き出してきた。


「“豪熱爆焼き弁当”だ! いいだろ!」

「何その暑苦しい弁当!? どういう中身なの!?」


 あまりにも突飛なその名前に驚き、思わず質問を続ける僕。

 そんな僕の言葉を受けた猛は、えっへんと胸を張りながら言葉を続けた。


「聞いて驚け信。なんとこの弁当、おかずがことごとくコゲてんだ。すげーだろ」

「うん! それを売ろうって発想が凄いよね!」

「妙に安かった」

「だろうね!」


 凄い商売根性だな……というかそれ、完全に調理に失敗したおかずを詰め込んだだけじゃないのか?

 そんな猛の弁当を見た僕が売店のおばちゃんに視線を送ると、おばちゃんは良い笑顔でぐっと親指を立てて見せた。

 なんかあの笑顔を見る限り嫌な予感しかしないんだけど……まあいいか。猛だし。

 しばらくするとホームに列車が入ってきて、僕らはぞろぞろと列車に乗っていく。

 電車に乗って涼しい風に当てられた僕らは、思わず同時に「あぁ~」と声を漏らしていた。

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