第49話:時雨家の朝
桜川祭は無事終了し、うちのクラスも中々の集客を見せた。
お客さんも喜んでくれたし、みんなで頑張って準備をして本当に良かったと思う。
そうして無事に桜川祭を終えた僕はあっという間に夏休みを迎え、夏休み初日の今日は「楽しい休みだわーっほい」状態になってるはずだった。
はずだったんだけど……
「何故今我が家は、こんな状況になっているのでせう」
リビングに立った僕の目の前で、刹那姉ちゃんが四人分の着替えをトランクに入れようと奮闘している。
その奥にあるソファではきな子姉ちゃんが相変わらずの寝癖ヘアーでぼへーっとしている。まあ早朝だし、まだ眠いんだろう。
そしてあずきは……
「信どのぉ。旅行にはやっぱり手裏剣とまきびしは必須でござるかな?」
「うん。そのどれもいらないから、置いてきてね」
くいくいと服の裾を引っ張りながら話しかけてきたあずきへ、僕は引きつった笑顔で返事を返す。
そんな僕の言葉を受けたあずきは「そうでござるかぁ。じゃあ水蜘蛛を持ってくるでござる」と呟きながら自分の部屋に戻った。
水蜘蛛も旅行にはいらないんだけど……まあいいか。それより今は刹那姉ちゃんに状況を確認しなくては。
「あのー、ごめん刹那姉ちゃん。状況が全然わかってないんだけど、今から旅行に行くの?」
「そうよ。三泊四日でね」
刹那姉ちゃんはトランクの上に乗って閉じながら、僕に向かって冷静に返事を返す。
その言葉を受けた僕は、驚愕の表情を浮かべて返事を返した。
「三泊なの!? 一泊くらいかと思ってたよ!」
三泊くらいで何を大げさなと思うかもしれないが、考えてもみてほしい。僕が旅行の決行を知らされたのは今朝起きてリビングに下りてきた時だ。そりゃ多少は驚いたりするだろう? ていうか呆然とするわ。
「姉さんから信に旅行の件を伝えるはずだったんだけど、あの様子だとすっかり忘れてたみたいね」
「ぼへー……」
きな子姉ちゃんは口を半開きにした状態でソファに寄りかかり、ぼーっと中空を見つめている。
うん、だめだこりゃ。完全に寝ぼけてるよこの人。
「私とあずきはもう朝食とったから、とりあえずあんたは姉さんに目覚めのコーヒーでも淹れてあげて。あと朝食もね」
「あ、うん。わかったよ」
僕は刹那姉ちゃんに返事を返し、気を取り直してきな子姉ちゃんに近付いていく。
そうしてきな子姉ちゃんの視界に入った僕は、朝食のメニューを決めるため質問した。
「きな子姉ちゃん。トースト焼くけどジャム何がいい?」
「なっとう」
「ジャムにすんのそれ!? ご飯じゃなくてトーストだってば!」
「うう。じゃあ砂糖で」
「結局ジャムじゃないし……まあいいか」
僕は手早くトーストを準備し、コーヒーを淹れてきな子姉ちゃんの前にある机に置く。
そのままソファにだらけているきな子姉ちゃんを床に誘導すると、とりあえずコーヒーを一口飲ませた。
「ほら、きな子姉ちゃんコーヒー。いい加減目ぇ覚ましてよ」
「ふぁい……ずずっ。あんまい! うまし!」
きな子姉ちゃんは一口コーヒーを飲んだ瞬間しゃきーんと目を見開き、大声で味の感想をぶつけてくる。
そんなきな子姉ちゃんに苦笑いしながら、僕は言葉を続けた。
「ははは。コーヒーとはいえ砂糖いっぱい入れたからね。目ぇ覚めた?」
「おうよ! 信ちゃんさんきゅう! ちゅー♪」
「いや、ちゅーはいいかな」
「ひどひっ!? お姉ちゃんのスキンシップなのに!」
ほっぺに顔を近づけてくるきな子姉ちゃんを手で制止しながら、僕も机に乗ったトーストを一枚食べる。
うーん、やっぱこのメーカーのジャムは美味いなぁ。
「ふぅ。なんかようやく落ち着いた気がするよ。旅行って聞いた時はどうなるかと思ったけど、まあ楽しそうだしいいよね」
僕はサクサクとトーストを食べながら思考を切り替え、のんびりとテレビの電源を付ける。
テレビの中では見慣れた気象予報士さんが、今日の天気を伝えていた。
「やー、ほんとに朝ごはんを食べると元気でるねぇ。これならみんなを迎える力も沸いてくるってもんさ」
「そうそう。みんなを迎える力も……え?」
僕はきな子姉ちゃんの言葉を聞いた瞬間目を見開き、引きつった表情でその顔を見つめる。
きな子姉ちゃんはそんな僕の顔を見ると頭に疑問符を浮かべ、トーストをかじりながら首を傾げた。
「あれ? 言ってなかったっけ。信ちゃんのお友達も呼んであるよん?」
「え、ええええええええ!?」
きな子姉ちゃんの言葉を受けた僕は大声を出して驚き、持っていたトーストを机の上に落とす。
そんな僕にいつのまにか近付いて来たあずきは僕の服を引っ張り「信どのぉ。水蜘蛛がリュックに入らないでござる」と困り顔で眉を顰めていた。




