第47話:たのしい自己紹介
「いやぁーお騒がせして申し訳ない。あたしが信ちゃんのお姉ちゃん! 時雨きな子その人さ!」
「うん。かっこつけるのはいいんだけど、まだ髪に枝が刺さってるよきな子姉ちゃん」
教室に戻ってきたメイド服のきな子姉ちゃんはぐっと親指を立てながら、僕達に向かって自己紹介する。
僕がその髪に刺さった枝を抜いていると、あずきがきな子姉ちゃんの胸元に飛び込んできた。
「きな子どのぉ! 来てくれて嬉しいでござる!」
「おうおうあずきぃ。相変わらずかぁいぃのぅ」
きな子姉ちゃんはしっかりとあずきを抱きとめると、にいっと笑いながらその頭をわしゃわしゃと撫でる。
あずきはくすぐったそうに笑いながら、ぎゅっと強く抱きついていた。
その平和な様子に一瞬ぼーっとするが……いかんいかん。僕からもクラスメイトを紹介しなければ。
「紹介するねきな子姉ちゃん。こちら同じ桜川祭実行委員の桜崎さん」
「はじめましてお姉さん! 桜崎と申します!」
「いきなり頭が低い!? 桜崎さんそこまで頭下げなくていいよ!?」
桜崎さんは何故か緊張した様子で、きな子姉ちゃんの腰辺りまで頭を下げている。
随分と丁寧な人だったんだな、桜崎さん。しっかりしているとは思ってたけど、少しびっくりした。
「これでいいのよ時雨くん。将来のお姉さんにはちゃんと―――いえ、なんでもないわ」
「???」
桜崎さんは何故か頬を赤くしながら、僕からぷいっと顔を背ける。
そんな桜崎さんの様子に疑問符を浮かべていると、きな子姉ちゃんが言葉を挟んできた。
「やーやー、丁寧な子だねぇ。うちの子になるかい?」
「突然のスカウト!? いや意味わかんないよきな子姉ちゃん!」
「あ、えっと。どうぞよろしくお願いします」
「スカウト受けちゃったよ! 落ち着いて桜崎さん! こういうのはスルーしていいから!」
僕はぶんぶんと手を横に振り、桜崎さんへと言葉を発する。
そんな僕の言葉を受けた桜崎さんは「そっか、そうよね。冗談よね」と正気に戻ってくれたみたいだ。
しかし相変わらずエキセントリックだなうちの姉は……油断してると凄いところからパンチ打ってくるぞ。
僕はこめかみを流れる冷たい汗を拭いながら、呼吸を整える。そしてそのままクラスメイトの紹介を続けた。
「それと、こちらがクラス委員のモブ子さん。桜川祭の準備では随分助けてもらったんだ」
「は、はじめましてお姉さん! 桃園桃分子と申します!」
「頭が低い!? なにそれ流行ってんの!?」
続いて紹介したモブ子さんだったが、やっぱりとっても頭が低い。
一体どういうことだこれは。女子学生の間で流行ってるんだろうか。
「なんだかわからないけど、随分丁寧な子が揃ってるみたいね」
「あ、復活したんだ刹那姉ちゃん。もうメイド服は恥ずかしくない?」
「は ず か し く な い わ よ」
「あ、はい。すみませんでした殺さないで下さい」
掴んでいた台車の取っ手を握りつぶす刹那姉ちゃんを見て、反射的に腰の辺りまで頭を下げる僕。
ダメだ。今の刹那姉ちゃんを刺激したら死ねる。100回は死ねる。メイド服似合ってると思うんだけどなぁ……
「もーせっちゃんてば恥ずかしがり屋さんなんだからぁ。そのメイド服、超似合ってるゾ♪」
「うおらっ!」
「ぱるす!」
きな子姉ちゃんは刹那姉ちゃんのボディブローを食らい、妙な声を出してその場に倒れる。
そんなきな子姉ちゃんを見下した刹那姉ちゃんは、挨拶してきたモブ子さんに向かって身体を向けた。
「見ての通りうちの姉さんはアホだけど、仲良くしてあげてね。言うこと聞かなかったら爆破していいから」
「それどういうしつけ!? ほぼ死ぬよ!」
あんまりな刹那姉ちゃんの言い草に対し、ツッコミを入れる僕。
いや、きな子姉ちゃんなら爆破されても「やー、ちょっと煙たいねぇ」とか言いながら生きてそうだけど、そもそも実の姉を爆破しちゃダメだろ。
モブ子さんは気迫のこもった刹那姉ちゃんの言葉を受けると一瞬ビクッと肩をいからせながらも、やがて「こ、こちらこそよろしくお願いしましゅ!」と返事を返してくれた。
「うん。あずきはもう知ってるし、紹介する人はとりあえずこれくらいかな」
「ヘェーイ信君! でっかい忘れ物をしてるぜぇ!」
「あ、猛いたんだ」
「ずっといたよ! 何そのワイルドなスルー!」
猛はガーンという効果音を背負いながら、僕に向かって言葉を返す。
なんとなくきな子姉ちゃんとは会わせたくないんだけど……確かに猛もクラス委員だし、紹介しなきゃダメか。
「えーっと、彼は赤井猛。見ての通り変態だよ」
「見ての通り学生だよ! お前俺に恨みでもあんの!?」
「あるよ」
「あった!」
猛は再びガーンという効果音を背負い、がっくりと肩を落とす。
するとそんな猛の肩をがっしりと掴み、きな子姉ちゃんはぐっと親指を立てた。
「なかなか面白そうな男じゃない! 一緒に信ちゃんを面白おかしくいじろうぜ!」
「いいっすねー! とりあえずメイド服着せます?」
「そこ不穏な話合いやめてぇ!? できれば聞きたくなかった!」
僕は妙に気が合う様子の二人を見て戦慄し、声を荒げる。
なんだか会わせてはいけない二人を会わせてしまった気がするのは、僕だけだろうか。
いつのまにか混みあってきた喫茶店で一人立ち尽くしながら、僕は死んだ目で中空を見つめていた。




