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第44話:襲来

「おはよー」

「おはよーっす」


 僕のクラスの教室に、クラスメイト達が次々と登校してくる。

 そしてそんなクラスメイト達と協力して、メイド喫茶の準備は着々と進んでいた。


「なー時雨。ジュースのストックが無いんだけど、どこだっけ?」

「あ、ああ。それなら教卓の下のクーラーボックスに―――」

「おーい時雨ぇ! カーテンの一部が壊れちまったんだ、ちょっと手伝ってくれ!」

「う、うん! ちょっと待ってね!」

「時雨君! 女の子の数が足りないんだけど、ちょっと手伝ってくれない?」

「それを僕にどうしろと!? 僕思い切りメンズなんですけど!」


 僕は時折ふざけて入ってくる質問にツッコミを入れながら、クラスメイトの準備を手伝っていく。

 目の回るような忙しさに本当に目が回りそうになっていると、そんな僕の肩を猛がぽんっと叩いた。


「あんま無理すんなよ信。無理するのは女装とかそういうのだけでいいぜ?」

「その無理って誰か得する!? 誰も幸せにならないと思うんだけど!」


 僕は素っ頓狂なことを言ってくる猛にツッコミを入れ、片手で頭を抱える。

 な、なんか頭痛くなってきた。どうすりゃいいんだこれ。


「あ、あのしぐれくん。食品関係は私が担当するから、しぐれくんはそれ以外の仕事を受けて? 大変そうだから手伝うよ」


 モブ子さんは心配そうな表情を浮かべながら、優しい言葉を僕にかける。

 僕は感動に打ち震え、思わずモブ子さんの手を取って返事を返した。


「あ、ありがとうモブ子さん! 本当にありがとう!」

「ひぁうっ!? あ、あい……」

「???」


 僕が手を取りながら感謝の言葉を届けると、どんどんモブ子さんの顔が赤くなっていく。

 前髪に隠れて顔の上半分は見えないが、それ以外は真っ赤だ。

 するとモブ子さんはふらつきながら、教室のドアへと歩いていった。


「え、えっと……ごめんなさい! 限界です!」

「なにが!? モブ子さん!? モブ子さぁぁぁん!」


 モブ子さんは何故か顔から湯気を出し、教室を飛び出していく。

 僕はそんなモブ子さんに手を伸ばすが、その手がモブ子さんのメイド服を掴むことはなかった。


「なんか知らんが限界らしい。良かったな信」

「どこが!? たった今最後の希望が失われたところなんだけど!」


 肩をぽんっと叩きながら言葉を紡いでくる猛に対し、僕は鋭いツッコミを入れる。

 するとそんな僕達に、二人のメイドさんが近付いてきた。


「えっと……時雨くん。私達も準備手伝うわよ」

「拙者にも仕事が欲しいでござるよ信どの! 任せるでござる!」

「お、おお……!」


 桜崎さんとあずきはいつのまにかメイド服に着替え、僕に向かって言葉を紡ぐ。

 あずきのメイド姿はすでに見たけど、桜崎さんのは初めてだ。

 桜崎さんは桃色の髪をメイドカチューシャで押さえ、少し恥ずかしそうにその場に立っている。

 若干上気した頬と桃色の髪がマッチしていて、なんとも言えない可愛さを演出しているようだ。

 そんな二人の姿をしばらくぼーっと見つめていた僕だったが、やがてぶんぶんと顔を横に振って思考を取り戻した。


「そ、そうだ。ぼーっとしてる場合じゃない。早く準備しないと―――」

「じゃあとりあえず記念撮影しようぜ! スマホのカメラでいいかな」

「話聞いてた!? 早く準備しないとやばいんだってば!」


 スマホを構えて能天気な笑顔を見せる猛に対し、僕の賢明なツッコミが突き刺さる。

 しかし突き刺さった等の本人は、あっけらかんとした表情で返事を返してきた。


「なんだよ信つれねぇなぁ。やっぱちゃんとしたカメラのがよかった?」

「そういう問題じゃないよ! 強いて言えば今日猛が登校しなければよかったと思ってるよ!」

「あらひどい。そんなら喫茶店やめて信の性癖暴露大会に変更する? あることないこと言いふらすぜ!」

「わーい記念写真! 僕記念写真だぁいすき!」


 僕は両手を上げて飛び跳ね、全力で猛の機嫌をとる。

 なんて奴だよこの野郎。猛のことだから本気で凄い性癖を付けられるぞ僕。ていうか知らないのに暴露大会開こうってその発想が悪魔的だよ。どういう育ち方したらそんな発想が出るんだチクショウ。


「馬鹿言ってないで、準備を進めましょう? 本気で間に合わなくなるわよ」

「「アッハイ。すみません」」


 僕と猛は桜崎さんの一括を受け、素早く頭を下げる。

 その後桜崎さんの指揮とモブ子さんが戻ってくれたこともあり、準備は滞りなく進められた。


「ふぃぃ。なんとか間に合ったでござるなぁ」

「うむ。この功績を“B組の奇跡”と名づけよう」

「そうだね。まあ奇跡になった原因の八割は猛の妨害だったんだけどね?」

「ええー? そうなのぉー? たけるわかんにゃーい♪」

「うふふっ、やばーい。殺意が溢れ出しそう♪」


 僕は猛への殺意を盛り上げながら、きゃるんっと両手を丸めて言葉を紡ぐ。

 猛はそんな僕に合わせて同じようなポーズを取るが、僕の殺意が増すばかりだった。これはもう褒めるしかないだろう。


「今日は刹那姫やきな子どのも来るでござるから、楽しみでござるな信どの! 拙者ドキドキしてきたでござる!」

「あ、うん。そうだねあずき。僕も悪い意味でドキドキしてるよ」

「???」


 この教室にあの珍獣……失礼、きな子姉ちゃんがやってくるかと思うと不安でたまらない。

 まあこの教室に真っ直ぐ来るとは限らないし、覚悟を決めるのはまだ早いか。


「まあとにかく、開店しよう! 最初のお客さんは誰かなー♪」


 僕は準備が無事終わったことでテンションが上がり、教室のドアを軽やかな手つきで横にスライドさせる。

 すると開かれたドアの向こうで、スク水を着たきな子姉ちゃんが片手を上げて立っていた。


「やっほー信ちゃん! このファッションどう―――」


 きな子姉ちゃんの言葉の途中で、僕は無表情になってドアを閉める。

 するとそんな僕の様子に疑問符を浮かべたモブ子さんが、不思議そうに尋ねてきた。


「あれ? どうしたのしぐれくん。お客様は?」

「うん。このドアは呪われてるようだよモブ子さん。だから封印しよう、永遠に」

「永遠に!? それじゃ喫茶店できないよ!?」


 モブ子さんは突然変わった僕の態度に驚いたのか、わたわたと手を動かしながら困ったように言葉を紡ぐ。

 そんなモブ子さんに事情を説明しようと僕が口を開いた瞬間、教室の後ろにあるもうひとつのドアが思い切り開かれた。


「メイドさんの時間だオラァアアアアアアアアア!」

「ヒィィィ!? こ、こわい!」


 僕はずんずんと教室に入ってくるきな子姉ちゃんを見つめ、ホラー漫画のような表情で言葉を発する。

 きな子姉ちゃんは元気一杯な様子でぶんぶんと手を振りながら、軽やかなステップで僕達に近付いてきた。

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