第37話:すぐそこにある危機
「はあっはあっはあっはあっ……」
僕は桜川祭で賑わう学園の中を、息を切らせて走っていく。
すれ違う人々は奇異の目で僕を見ているけど、今は気にはならない。
それよりも考えるべきは、桜崎さんの無事だ。
「なんでだ……くそっ。嫌な予感がする……」
胸の中に巻き起こる原因不明の不安感と戦いながら、僕は走りつづける。
やがて二人の生徒が話していた校舎裏に到着すると、きょろきょろと辺りを見回した。
祭りの喧騒が少しだけ届いてくるこの校舎裏は、なんだかジメジメしていて嫌な感じがする。
その様子に胸の鼓動を跳ね上げさせた僕は、制服を強く掴んで言葉を落とした。
「はあっはあっ……だ、誰もいない?」
僕は息も絶え絶えになりながらかろうじて呼吸を整え、校舎裏から見える狭い空を見上げる。
散々走り回った頭は少し酸欠気味で、一度大きく深呼吸すると僕は再び思考を回転させた。
「桜崎さんは見当たらないけど……もう少しだけ、探してみるか。出来れば桜崎さんの無事を確認しておきたいし―――」
『ちょっと、やめてよ!!』
「っ!?」
突然僕の耳に響く、聞き慣れた声。
心臓の鼓動は激しく脈打ち、呼吸が再び乱れていく。
あの声はただごとじゃない。そんな感覚が僕の背中を冷たく走った。
「そんな、桜崎さん……!」
自分でも意識しないまま、自然と言葉が零れる。
考えるよりも先に、僕は弾かれるように声の元へと走り出していた。
「たぁーとぅっとぅたっとぅーん♪」
猛はあずきとしばらく会話していた後、いつまでも信が戻って来ないことを不思議に思い、廊下を鼻唄交じりに歩いていく。
この後トイレに顔を出し、その後職員室まで行ってみようか。
あいつも桜川祭実行委員だし、どうせ先生辺りに捕まって厄介な仕事でも頼まれてるんだろう。そんな風に楽観的に考えていた。
『信のやつ、モブ子さんと一緒にどこ行っちまったんだろな。まあどうせ、なんか用事でも―――ん?』
猛がぶらぶらと歩いていると、正面からメイド服を着たモブ子が慌てた様子で走ってくるのが見える。
そんなモブ子を見た猛は、おちゃらけた様子で片手を上げた。
「よっ、モブ子ちゃんひとり? 信と一緒に教室出てなかったっけ?」
猛は少しおどけた様子で、駆け寄ってきたモブ子へと話しかける。
モブ子は猛の前で膝に両手をついて乱れた呼吸を整えると、どうにか言葉を返した。
「し、しぐれくんが。不良に絡まれた桜崎さんを助けるために校舎裏に……私は先生に言おうと思って、ここまで走ってきたの」
「へっ?」
予想だにしない答えに今度は猛が呆然としながら、頭の中でその答えを反芻する。
猛はやがて弾かれたように動き出すと、モブ子の肩を強く掴んだ。
「ちょ、それっていつの話!? 信は桜崎嬢の話を聞いて、校舎裏に行ったの!?」
猛は両目を見開き、動揺した様子で言葉を紡ぐ。
モブ子はこくこくと頷き、無言で猛の言葉を肯定した。
「マジかよ……! くっそ、なんてこった!」
「あっ、赤井君!?』
猛はモブ子を置いて廊下を駆け出し、校舎裏に向かって全速力で走り抜けていく。
思ったよりも早く走れない己の体に苛立ちながら、猛は全身全霊を賭けて友の元へと急いだ。




