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第35話:ダブルメイド参上!

 我がクラスの出し物“メイド喫茶”の開催に向けて、クラスでは着々と準備が進められている。

 ホットプレートや飲み物の準備、何より目玉であるメイド衣装へのお着替えなど、やることは山ほどある。

 前日までにほとんどの準備は終わらせていたわけだけど、当日の朝だってやることが無いわけじゃない。

 むしろクラスの男子達にとっては、今日こそメインイベントなのだろう。

 先ほどからクラスの女子がメイド服姿になって教室に入ってくる度にクラスの男子は歓声を上げ、テンションがだだ上がりしている。

 かくいう僕も、別の意味でドキドキしていた。


「あずき、ちゃんと着替えられたかな。モブ子さんに任せたから大丈夫だとは思うけど……」


 桜川祭の準備期間中クラス委員であるモブ子さんとは話す機会も多く、幸いなことにそれをきっかけにしてあずきとも少し仲良くなってくれた。

 もっともクラスの女子の大半はまだあずきに慣れない様子だから、桜崎さん経由で仲良くなってもらう作戦は続行しなければならない。

 とはいえ、クラスの女子から嫌がらせなどが無いのは本当に良かった。まあうちのクラスは気の良い連中ばかりだし、そこは心配してなかったけどね。


「おいおい信。何ぼーっとしてんだ? あずきちゃんのメイド姿の妄想はそれくらいにしとけよ」

「それは猛でしょ。僕はただちゃんと着替えられるか心配してるだけだよ」


 肩に寄りかかってきた猛を押しのけながら、小さく息を落として返事を返す。

 僕をなんだと思ってるんだ猛は。


「えぇー、妄想しないのぉ? お前本当に信か?」

「普段僕にどんなイメージ持ってるんだよ」

「変態妄想サイコ野郎」

「ひどっ!? 唐突な毒はやめてよ!」


 僕はショックを隠し切れず、猛に向かって言葉をぶつける。

 猛は「あっはっは! じょーだんじょーだん!」とか言いながら肩を叩いてくるが、あの目は確かに本気だったぞ。

 というか猛にだけは言われたくないな。


「まあとにかく、俺達男子は期待に胸膨らませながら―――」

「おまたせしたでござる!」


 猛の言葉を切り裂くように、あずきの元気な声が教室内に響く。

 その姿は紛れも無くメイドさん……いや、マフラーを付けたちっちゃいメイドさんだった。


「やー、めいどさん? というのは中々綺麗な格好でござるな! 拙者照れるでござる!」


 あずきはメイド服を着た状態で頬を赤く染め、どこか恥ずかしそうに頭をかく。

 そんなあずきを見た僕は、正直な感想をあずきに届けた。


「でも似合ってるよあずき。凄くかわいい」

「おう! さっすがあずきちゃんだぜ!」


 身体がちっちゃくて子どもみたいなのでちゃんと給仕できるのかちょっと不安になるけど、この可愛さは本物だ。

 普段頭の上で縛っている前髪をメイドカチューシャによってまとめて後ろに下げ、おでこが眩しい。

 相変わらずマフラーを取らないのは謎だけど、そんなにアンバランスに見えないのが不思議だ。普段からマフラーを取らないから、僕らには自然に見えているだけかもしれないけど。


「いやぁ、褒めて頂けて嬉しいでござる! モブ子どのも是非見ていただきたいでござるよ!」

「??? あれ、そういえばモブ子さんはどうしたの?」


 今教室に入ってきたのはあずきだけで、モブ子さんの姿はない。

 そんな状況を把握したあずきは、驚きに目を見開いた。


「あ、あれ!? モブ子どのも着替えたんでござるよ!? モブ子どのー!?」

「も、望月さん。あんまり大声で名前呼ばないで……」


 モブ子さんはドアの隙間からひょっこりと顔を出し、あずきに向かって言葉を発する。

 そんなモブ子さんの言葉を受けたあずきは、あっけらかんと笑いながら返事を返した。


「なんだ、そこに居たのでござるな! せっかく可愛い服を着たのでござる、早く教室に入るでござるよ!」


 あずきはにぱーっと無垢な笑顔を向けながら、モブ子さんに向かって言葉を紡ぐ。

 そんなあずきの言葉を受けたモブ子さんは、頬を赤く染めながら返事を返した。


「で、でも、私あんまり自信ないし、やっぱり恥ずかしいよ……」

「なぁにを言うでござるか! モブ子どのはとってもお似合いでござるよ、ほら!」

「あっ!?」


 あずきは笑顔のままモブ子さんが隠れていたドアを横にスライドさせる。

 すると恥ずかしそうにもじもじとした黒髪のメイドさんが目の前に現れた。


「あぅ。あの、やっぱり変、だよね……」


 モブ子さんはいつも通り前髪で目が隠れてしまっているが、それ以外は全て綺麗に整っている。

 艶のある黒髪にメイドカチューシャの白が良く映えているし、口元も凄く可愛らしい。

 仕草はちょっと気弱なメイドさんって感じだが、それもまた良い。

 僕はうんうんと頷きながら率直な感想を届けた。


「よく似合うよモブ子さん! 凄く可愛い!」

「おおよ! やっぱメイドさんは最高だぜ!」


 僕は頷きながら、猛はガッツポーズを取りながら言葉を紡ぐ。

 そんな僕らの言葉を聞いたモブ子さんは、みるみるうちに耳まで赤くなっていった。


「あぅ、えぅ。その、あの……」

「???」


 急速に赤くなっていくモブ子さんの顔。僕が疑問符を浮かべてその様子をじっと見ていると、モブ子さんは急に頭を下げてきた。


「ご、ごめんなさい。限界です!」

「え、何が!? モブ子さん!? モブ子さぁん!?」


 突然の限界宣言と共に、廊下へと走り去っていくモブ子さん。

 どうしよう、僕が何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

 いや、とにかく今はモブ子さんを探さなくては。


「た、猛! ここは頼む、僕はモブ子さんを探してくるから!」

「おう! きっちり責任取ってこいよ!」

「なんで!? いつのまにか僕のせいになってる!」


 僕は猛の一言にショックを受けながらも、モブ子さんの走っていった方角へとダッシュする。

 その後風通しの良い玄関でぽーっと座って空を見上げ、頭から湯気を出しているモブ子さんを発見するまでそう時間はかからなかった。

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