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第31話:小さく落とされたその言葉

「っと……これでポスターは全部印刷できたね。二人ともおつかれさま」


 僕はパソコン教室のプリンタから出力されてきた最後のポスターを受け取ると、これまでに印刷されたポスターとまとめて束にしてそれを抱える。

 桜崎さんとあずきの二人は少し疲れた様子でそれぞれ言葉を返してきた。


「これでうちの仕事も終わりね。よかった」

「信どのこそお疲れさまでござるよ! なんだかわからないけど、拙者の絵がいっぱい増えて面白いでござる!」


 あずきはプリンタに興味を持ち、大量にある自分のイラスト入りポスターを両手で広げて「おおーっ」と声を漏らしてまじまじと見つめている。

 まあ冷蔵庫も知らなかったんだから、プリンタを知らなくても不思議はないか。

 そんなあずきの様子を微笑ましく見ていると、桜崎さんが胸の下で腕を組んで教室の窓に顔を向けているのが横目に見えた。

 そんな桜崎さんの視線を追っていくと、教室の窓から日の落ちたグラウンドがよく見える。

 夜間の練習をしている部活がいるおかげでグラウンドには灯りが灯っているけど、空を見上げるとそこはもうすっかり群青色だ。

 夕日の落ちきったそこには静寂だけが広がり、虫の鳴き声と空調の音だけが教室の中に響いてくる。

 そんな外の様子を見た桜崎さんは、肩を落としながら口を開いた。


「すっかり、暗くなっちゃったわね」

「あ、うん……まあ少し時間がかかったからね。仕方ないよ」


 僕は残念そうに言葉を落とす桜崎さんへと笑顔を向け、両手に抱えたポスターの束を抱えなおしながら返事を返す。

 するとそんな僕の顔を見た桜崎さんは、どこかバツの悪そうな顔をしたあと地面へと顔を向けた。


「??? 桜崎さん、どうかした?」


 俯いてなんだか落ち込んでるように見えるけど、どうかしたのかな。

 桜崎さんの様子に僕もあずきも頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる。

 そうして二人で桜崎さんを見つめていると、やがて桜崎さんは左右に視線をさ迷わせて言葉を続けた。


「…………ごめん、なさい」

「えっ?」


 小さな声で紡がれた、桜崎さんの言葉。

 僕はその言葉が信じられなくて、小さく声を漏らした。


「っだから、ごめんなさいって言ったの! その、ぱそこん? を壊しちゃったのは私だし、そのせいで時間がかかったし……めいわく、かけたから」


 桜崎さんは胸の下で腕を組みながら恥ずかしそうにそっぽを向き、言葉を続ける。

 そんな桜崎さんの言葉を理解した僕は、慌てて顔を横に振りながら返事を返した。


「い、いやいや! 迷惑なんてそんな、全然だよ! 後半は桜崎さんも手伝ってくれたし、三人で頑張ったからやり遂げられたんだ!」


 予想外の桜崎さんの雰囲気に面食らった僕は、おぼつかない口元で言葉を紡ぐ。

 そんな僕の言葉を受けた桜崎さんは僕の方へと顔を向けて一瞬驚いたように目を見開くと、やがて勢いよく俯いた。


「……そ、それと―――」

「ん?」


 俯いた桜崎さんが、小さく消え入りそうな声で言葉を落とす。

 僕が頭に疑問符を浮かべていると、か細い声が微かに響いてきた。


「あ―――とう」

「えっ? ご、ごめん。なんて?」


 俯いた桜崎さんの消え入りそうな声は、ぎりぎりのところで僕に届かない。

 僕が聞き返すと、桜崎さんは両手を強く握った。


「っもういい! そのポスターは明日の実行委員で提出するから、とりあえずここに置いておいて! 私帰るから!」

「えっ。あ、うん……」


 顔を上げた桜崎さんは何故か悔しそうに口元を結び、すたすたとパソコン教室を後にする。

 い、一体なんだったんだ? 今の。何がなんだかわからないぞ。


「じゃ、おつかれ!」

「ひぅっ!?」


 桜崎さんは強く扉を閉め、強い音が教室内に響く。

 あずきが「おつかれさまでござるよ、桜崎どの!」と手を振るのをドアの小窓から横目で見た桜崎さんは一度だけ小さく頷くと、そのまま駆け足で廊下を走っていく。

 そして勢いよく閉まったドアに完全にビビった僕は、冷や汗が背中を走っていくのを感じていた。


「な、なんで怒ってたんだろ。僕何かしちゃったのかな……」


 蘇ってくるかつての桜崎さんの暴言を頭に思い浮かべながら、閉められた扉を呆然と見つめる僕。

 やばい、やばいやばい。なんかわからんけど怒らせてしまったみたいだ。明日の朝また会うのがが超怖いんですけど。

 僕は真っ白な灰になりながら呆然とポスターの束を抱え、光を失った瞳で扉を見つめる。

 その後あずきの「おおーい信どのぉ。早く帰らない怒られるでござるよ?」という能天気な声が響いてくるまで、僕はその扉から目を離すことができなかった。

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