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第28話:桜崎さんとパソコンくん

「あ、あの桜崎さん、どちらへ……?」

「…………」


 早足で会議室を後にした桜崎さんはそのまま職員室に向かい、職員室を出ると再び廊下を歩き出す。

 僕はその後ろを黙ってついて行きながら時折こうして話しかけてみるものの、当然のように返答は無い。


「はぁ、まああの猛毒が返ってくるよりはいいのかな…………はっ!?」


 し、しまった、何を口に出しているんだ僕は。失言にもほどがあるぞ。


「……!」

「ひっ!? す、すいやせん旦那ぁ!」


 桜崎さんは突然立ち止まると、僕の方へとゆっくり振り返る。

 僕は涙目になりながら防御姿勢を取ると、毒によるショックで気を失わないよう腹部に力を込めた。


「は? 何言ってんの? パソコン教室着いたんだから、さっさとポスター作っちゃってよ」

「は、はいすいません! 自分とんでもないポスター野郎で……え? ぽ、ぽすたぁ?」


 僕はポカンと口を開き、鋭い眼光の桜崎さんを見返す。

 桜崎さんはそんな僕の様子に苛立ちをつのらせ、さらに言葉を続けた。


「いいから。さっさと中入ってクーラーつけてくんない?」

「あ、は、はいはい!」


 僕は桜崎さんの言葉を受けるとドアを勢い良く開き、パソコン教室の中に入る。

 そしてそのまま、照明類のスイッチを探した。


「えっと、照明と空調のスイッチは……これかな」


 ドアの横に設置されていたスイッチ類を操作し、照明と空調をONにする。

 熱されていた教室内の空気は次第に適温となり、涼しい風が頬を撫でた。


「嗚呼。す、涼しい……クーラーを考えた人はほんと偉大だよ」


 夏が来るたびに吐くこの台詞は、何度言っても疑いようがない。

 もし一人暮らしを始めるときには、便座カバー(冬対策)とエアコン(夏対策)だけは忘れないようにしたいもんだ。


「……ふぅ」


 桜崎さんも涼しい風に安心したのか、パソコン教室の椅子に腰掛けて携帯を操作し始める。

 僕は涼しい空気を深呼吸で体の中に取り込むと、心の中で気合を入れた。


「よっし、じゃあ始めよっか。僕はプリンタをチェックしてくるから、桜崎さんはパソコンの電源を入れておいてくれるかな」

「はいはい……はっ!? あ、え!?」

「???」


 桜崎さんは僕の言葉に反応すると大きく口を開け、視線を左右に巡らせる。

 一体どうしたんだろう、あの桜崎さんが動揺するなんて珍しいな。


「プリンタは教室の隅にあるのか……ちょっと面倒だな。多分電源落ちてるだろうし、パソコンの方はお願いするね桜崎さん」

「…………」


 僕は桜崎さんの返事を聞くことなくプリンタへと歩みを進め、本体をチェックする。

 ふむ。ケーブル類をチェックして、電源をONにして……特に問題ないみたいだ。


「おまたせ桜崎さん。準備できたから、もうポスター作り始めても……あ、あれ?」

「っ!?」


 桜崎さんが座っていた席の目の前にあるパソコンの画面が、真っ黒なままだ。

 いや、さっきまでと違ってモニターの電源はついているみたいだけど、肝心のパソコン本体が起動されていない。

 桜崎さん、やってくれなかったのかな?


「えっと……さ、桜崎さん。パソコンの電源を入れて頂けると、助かるのですが……」

「はぁっ!? そ、そんなもんあんたがやればいーでしょ!? そんなこともわかんないとか本当、馬鹿じゃないの!?」

「ひぃっ! す、すいやせん!」


 僕は桜崎さんの怒号に反射的に反応し、びくんと肩をいからせる。

 うーん、それくらいはやってくれるかと思ったけど僕が甘かったか。仕方ない、自分で―――あれ?


「あ、あのぅ、桜崎さん……」

「なによ!?」

「ひぅ!」


 な、なんなんだ、一体どうしたっていうんだ桜崎さん。急にイライラし始めたぞ。

 普段から殺し屋が隣に立ってるような気分だっていうのに、今は銃口を額に突きつけられているかのようだ。


「い、いやその、電源スイッチが、ですね、桜崎さんの足元にあるので。僕がそれを入れようとすると、その……桜崎さんのパン……もとい、ショーツが見えてしまうのですが」

「はあぁっ!? 知ってるわよ! だから今私がやろうとしてたんでしょ!?」

「えええええええ!?」


 い、いやチガウ! 桜崎サンやろうとしてナイヨ!? 僕にオシツケテタヨ!?

 いかん、思考が少し混乱してしまった。しかし今までで一番理不尽な発言だった気がする。

 ていうか桜崎さん、顔真っ赤だな。


「チッ……ま、まったく、パソコンの電源くらいさっさと入れなさいよね……」

「ええええ……す、すいません……」


 僕は腑に落ちないながらも頭を下げて桜崎さんに謝る。

 だって、ねえ? 桜崎さんですよ? 突っ込みなんて入れた日にはどんな猛毒が返ってくるか……想像しただけで遺書を書きたくなるよ。


「ん、なにこれ。えっと……ん?」

「え、えええええ!?」


 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

 “桜崎さんはパソコンのディスクトレイ開閉スイッチをやたらと連打し、不思議そうに首を傾げていた”

 なにを言ってるかわからねーと思うが、僕自身何がなんだかわからない。誰か説明してくれ。


「っなにこれ、壊れてるんじゃないの!?」

「えええええ……」


 なんという濡れ衣なんだパソコンくん。電源が入ってないからディスクトレイが出てくるわけもなく、うんともすんとも言わないのは当たり前だというのに。

 いや、これはまさか。うん、間違いない、よな……?


「あ、あのぅ、桜崎さん。もしかして…………パソコン苦手、なの?」

「!!!!?!?!?!?!??????!!??」


 おおぅ、ど、動揺している。わかりやすく動揺してる。

 顔は真っ赤だし、視線は左右に泳ぎまくってもはやどこを見ているのかすらわからない。

 ある意味“そうだよ! 機械オンチだよ!”と元気良く答えてもらうよりわかりやすいな。


「ばっ、ばばば、馬鹿言ってんじゃないわよ! このぱ、ぱそんこ? が壊れてるから、だから電源がつかないんでしょ!」

「えっと、あ、うん……」


 どうしよう、どう伝えればいいんだ。

 とにかく出来る限りソフトに、当たり障りない感じで伝えるしかないか。


「えー……あー……そ、そう! その下に、ほら、黒っぽいボタンあるでしょ!? それを押してみたらどうかなぁ!? 僕ほら、パソコンってよくわからないんだけども!」


 僕はさも手探りで指示しているかのような顔をしながら、大根芝居で押すボタンを指定する。

 桜崎さんは一瞬はっとした表情になると、何度か深呼吸を繰り返して平静な顔で返事を返した。


「ふ、ふーん? そうね。そういえば、このボタンが電源ボタンだったような気がしてきたわ」

「う、うんうん! きっとそうだよ! あ、いや、多分ね!? 多分そうかなーって、ね!」


 僕は両手をぶんぶんと左右に振りながら、焦った口調で言葉を紡ぐ。

 うう、まさかこんなところで気を使うことになろうとは思いもしなかった。

 普通に会話するだけで被弾するというのに、この気遣い……精神的負担がハンパないぞ。


「じ、じゃあ、押すわよ……」

「……ごくり」


 普段何気なくやっている行動なのに、桜崎さんの震えた指先を見ていると僕の方まで緊張してくる。

 頼むぞ……本当に故障しているとか、そういうオチは勘弁してくれ。マジで洒落にならない。


「「!? う、動いた!」」


 ずっとディスクトレー開閉ボタンを連打されていたパソコンくんはようやく電源が入れられたことに喜んでいるのか、快調に起動しているようだ。

 やがて画面には見慣れたOS起動画面が現れていた。


「や、やった、動いた!」

「うん! やったね桜崎さん!」


 桜崎さんは嬉しそうな笑顔でパソコンの画面を見つめ、両手を重ねてぎゅっと握り締める。

 僕はそんな桜崎さんの様子が嬉しくて、思わず一緒にガッツポーズしてしまった。


「はっ。あ、いや、当然よ! 電源ボタンを押せば、ぱそこんが起動するに決まってるじゃない! 馬鹿なの!?」

「ええっ!? す、すいません!?」


 なんだかよくわからないけど怒られてしまった。

 まあともかく、パソコンは無事起動したんだ。今はそれを喜ぶべきだな。


「じゃあ早速だけどポスター用の素材をチェックしようか。桜崎さん、デスクトップにある画像フォルダを開いてくれる? 実行委員長の話だと、そこに去年まで使ってた素材がまとめてあるみたいだからさ」

「はいっ!? あ、そ、そざいね。そうね。ポスターを作るにはそざいが必要よね……」

「うん……あっ!?」


 ば、馬鹿か僕は! 機械が苦手な桜崎さんに、これ以上パソコンの操作を頼むんじゃないよ!

 そんなことをしたら……


「っ! くっ……」

「ああん、さっそく苦戦していらっしゃる……」


 桜崎さんは奥歯を噛み締めながら、一体何をどうすれば良いのかわからない様子でパソコンの画面を睨みつける。

 しかしこれまで本当にパソコンに触れる機会が無かったんだな……携帯はあんなに流暢に使いこなしているのに。

 いや、家にもパソコンが無くて学園でも授業を受けてなければ使えないのは当然だよな。


「え、ええとですね桜崎さん。その画面に映ってる、黄色いのがあるでしょ? そこまでその矢印を動かして、開いてほしいんだ」

「!? てか、近い! 口も体臭も超臭いし、近寄らないでくんない!?」

「あっばぁぁぁ!」


 き、きつい、きついぜ桜崎さん。同じクラスの女子に臭いとか近寄るなとか言われるの、かなりダメージでかいんですよ?


「ぐっう……そ、そのマウスを、ですね、動かして、カーソルを黄色いのに合わせたら、左のボタンを2回押してほしい、です……!」


 僕はキリキリと傷む腹部を必死に押さえながら、かろうじて桜崎さんへと指示を出す。

 かなり省略してしまったが、聡明な桜崎さんの事だ。これできっと伝わるだろう。


「ま、まうす? あ、ああこれね。これでえっと、黄色いのを……」

「!? そ、そう! そんな感じ!」


 桜崎さんは左手を胸元に置き、白く綺麗な右手で恐る恐るマウスを握り締める。

 いや、さすがは桜崎さんだ。なんとなく様になっているぞ。

 後はそのマウスちゃんを操作して、黄色いの(フォルダ)を開けば、ミッションコンプリートだ。もう勝った様なもんだよ桜崎さん。


「……ていっ。あ、あれ? こう?」

「!?!?!?!?!?!??!?!」


 桜崎さんはマウスを持ち上げるとそのまま画面に持っていき、画面にマウスを押し付けて左のボタンをカチカチと連打する。

 いや、ちょ、惜しいっ。いやわりと惜しくない。やりたいことは分かるけど、完成形が別物だよ桜崎さん!


「ふぇ!? なにこれ、壊れちゃったの!?」

「Oh、桜崎さん。それ右クリックメニューっす……」


 桜崎さんは突然現れたメニューに驚き、慌てた様子でわたわたと両手を動かす。

 どうやら左クリックを連打してるうちに右クリックを押してしまったらしい……いや、それはともかくマウスの使い方を伝えなければ。


「あ、あのぅ桜崎さん、マウスはですね、そんなにアクロバティックに躍動するものではなく、机の上を滑らせるものなんです……」

「は、はぁっ!? 知ってるし! あんたほんと、馬鹿じゃないの!? ばーか!」


 うぐぅっ……! あれだけの猛毒が、動揺したせいか盛大に薄まっている。ついでに顔も真っ赤になっている。

 いや、もういっそその使い方でもいいよ! アクロバティックなマウスがあったっていいじゃないか。むしろ何でそう作らなかったんだよマウス考えた人!(八つ当たり)


「そ、そっか、このまうすを机の上で動かすと、矢印が動いて……じゃあ、こ、こうか!?」

「うおおおおおお!? フォルダが、フォルダが開いたぞおおおおおお!」


 僕はまるで熱血スポ根漫画の主人公のような濃い笑顔でガッツポーズを天に掲げ、喜びを全身で表現する。

 や、やった! ついに、ついに関門を突破したぞ!


「ん? ああ、なるほど。こうすれば……」

「す、すでに使いこなしつつある、だと……!?」


 桜崎さんは巧みにマウスを操作し、素材用の画像をチェックしていく。

 なんて飲み込みの速さだ桜崎さん。流石としか言いようが無いよ。


「う、うん。素材の方は問題ないみたいだね! じゃあ画像編集ソフトを立ち上げて、ポスターを作ってみよっか!」

「……は? が、画像編集、そふと……?」

「…………」


 ワァーイ! 僕の馬鹿! さらに無理難題を押し付けてどうする!

 いまさっきマウスの使い方を覚えたばかりで、ポスターなんか作れないよ! 桜崎さんの言う通り本当僕馬鹿なのかもしれない!


「が、がぞう。がぞう、へんしゅう……?」


 桜崎さんは自力でスタートメニューを探しだし、画像編集と名のついたアイコンを探しているように見える。

 ごめんなさい、ごめんなさい桜崎さん……そんなわかりやすい名前のソフトは入ってないんだ。

 いやしかし、初めてでここまでできるとはたいしたもんだ。さすがは桜崎さんだな。


「……はっ!? いやいや、感心してる場合か!」


 早く、早くフォローするんだ僕!  桜崎さんのプライドを傷つけず、なおかつ端的に操作方法を伝えなければ!

 もうご本人目が血走ってるよ! 爆発五秒前だもの!


「あ、あのね桜崎さん。画像編集ソフトっていうのは―――」

「は? 私今忙しいの、見てわかんない?」

「すびばぜん!」


 だ、駄目だ。もはや言葉すらとどかない。

 何気に毒も復活してるし。このまま話し掛けてたら命がいくつあっても足りない気がする。


「しかしこのままじゃ事態が好転しないぞ。一体どうしたら……」


 桜崎さんは意地でも僕には聞かないだろうし、なんとかして画像編集ソフトの立ち上げ方だけでも伝えなければ。

 できれば、実際の動きを見せながら伝えられれば最高なんだけど……んっ!? そ、そうか!


「えっと桜崎さん。隣のパソコンで色々やってみていいかな? 僕は役立たずかもしれないけど、それでも二人でやったほうが早いだろうし……ほら、早く帰りたいでしょ?」


 ううっ。こ、こわい。桜崎さんにとって最大限のメリットである“早く帰れる”という事実を矢面に立たせてみたけど、了承してくれるだろうか。


「は? ああ、勝手にすれば? あんたと早く離れられるならなんでもいいし」

「はは、は……ありがとう」


 イカン。思ったとおり酷い毒飛んできてる。

 僕はショックで気絶しないよう口の中を強く噛み、目の前のパソコンの電源を入れた。


「…………」

「…………」


 OSが起動するまでの、数分間の静寂。教室内には桜崎さんのクリック音だけが響き、なんともいえないプレッシャーが僕を押しつぶす。

 今まで生きてきた中で、これほど雰囲気の重い場所にいるのは初めてだ。


『っ! よし、OS起動したな、後は……』


 画面に表示されたデスクトップ画面を確認し、横目で桜崎さんの様子を観察する。

 どうやらまだ、画像編集ソフトの起動は出来てないみたいだ。


「えー……こほん。お、おやぁ? なんだぁ、このソフトわあ。画像をいじれるみたいだぞ~?」

「っ!?」


 僕は画面上のアイコンをダブルクリックして画像編集ソフトを起動し、桜崎さんに意図を悟られないよう、精一杯の演技をする。

 やがてその画面を最小化すると、デスクトップのアイコンに矢印を合わせた。


「どうやらこのアイコンに矢印を合わせて、左のボタンを2回押せばいいみたいだなぁ。覚えておこっと」

「…………」


 み、見てる、か? 見てるよな? 桜崎さん。

 さすがにこれだけ大声出して、全無視ってことはないだろう。


「…………」


 僕の画面を見ていたはずの桜崎さんは、心なしか迷いのないクリック音を教室に響かせる。

 そして―――


「……あっ!?」

「っ!?」


 う、うおおおお! ついに、ついに桜崎さんが画像編集ソフトを立ち上げたぞぉおおお!

 僕は再びスポ根漫画のキャラのような濃い顔で小さくガッツポーズし、感動の涙をどうにか押しとどめる。

 よし、よし! ここまでくれば、あと少しだ!


「うん、じゃあ桜崎さん。そのソフトを使ってポスターを……はっ!?」

「???」


 い、いかん。思わずポスター製作までやらせようとしてしまった。

 今日始めてパソコンに触ったばかりなのにポスター製作とか無茶だろ。

 さっきまでクリックもできなかったのに。

 よしよし、でも今度は僕の馬鹿な口を止めることができたぞ。これは大きな進歩だ。

 あとはこの先を、僕が引き継げばいいんだ。


「えっと、桜崎さん。それでポスター製作の準備は出来たから、後は僕に任せてくれないかな」

「はぁ? ここまでやって放り出すわけないじゃない。もしかしてゴミクズなの?」

「んもう! 桜崎さんの真面目ちゃん!」


 どうしよう、やる気まんまんだよ桜崎さん。さり気なく織り込まれた猛毒に思わず僕のキャラまで崩壊してしまった。


「なんだか知らないけど、黙ってて。教室の空気が汚れるから」

「すびばぜん!」


 なんてクールな返しなんだ桜崎さん。ある意味怒られるより辛いぞ。

 いやしかしここで引き下がったりしたら、ポスターの完成がいつになるかわからない。それ自体は問題ないんだけど……


「あ、あれ? なんか変なんなっちゃった。うぃんどう……ってなに?」

「み、見てられない……っ!」


 桜崎さんの画面がいつのまにか凄いことになっているし、桜崎さんずっと目線が泳いでわたわたしてるし。

 ダメだ、どうしても手伝いたい。ていうか精神衛生上よろしくないよこの状況。


「落ち着け……落ち着け、時雨信。なんとか穏便に、穏便にお手伝いするんだ」


 二度三度と深呼吸を繰り返し、精神を落ち着かせる。

 座禅でも組めれば一番いいけど、この状況では難しいだろう。とにかく心を落ち着かせて、慎重に言葉を選ぶんだ。


「あ、あのぅ。桜崎さん……?」

「黙ってろって言ったの聞こえなかった? 私今忙しいんだけど」

「ひぅっ!? ずみまぜん!」


 確かに、忙しいことになっている。主に桜崎さんのパソコンの画面が。

 ウィンドウやらダイアログが入り乱れて新しいアートみたいになってるんだけど……一体何をどうしたらこうなるのだろう。


「えっと、ほら。ちょっと苦戦してるみたいだから、僕も微力ながら力になりたいな、なんて……」


 僕は出来るだけ言葉を選び、桜崎さんの神経を逆なでしないよう提案する。

 桜崎さんは僕の言葉を受けると、これまでに無いほどの眼光で僕を睨みつけた。


「はぁっ!? 誰が苦戦してるって!? 馬鹿にしてんじゃないわよ!」

「あっ!?」


 桜崎さんが勢い良く椅子から立ったせいで、ローラー付きの椅子は勢い良く床の上を移動する。

 そしてそのまま……あろうことか、パソコンに直撃した。


「ええええ!? ど、どういうミラクル!? あ、いや、パソコン大丈夫か!?」


 いや、嘘でしょ。なんかこう、パソコンから火花が出ている気がする。ていうか、煙も上がってる気がする。

 いや、そんなまさか。ポスター製作用の素材は全部、あのパソコンに入ってるんだぞ?

 そうしてパソコンの容態を危惧する僕だったが、パソコンはやがて小さな爆発音と共に沈黙した。

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