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第21話:ホームセンターに行こう

*ごめんなさい、4月10日と同じ内容を更新しておりました。

 4月11日20:00頃に改稿したものが正しい21話の内容です。

 混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。

 激しい鼓動が、僕の胸を叩く。

 僕が持っている中で最もおしゃれ(刹那姉ちゃんコーデ)な洋服に身を包み、僕は今、駅前広場の改札前に立っている。

 夏の蝉はここぞとばかりに鳴きまくり、こめかみからは一滴の汗が顎へと滴り落ちる。

 いや、なんだこれ。なんだこの状況。

 例の“カバン飛翔事件”から何日も経っているのに、未だに状況が理解できない。

 あの後モブ子さんから聞いた話を要約すると……つまり桜崎さんは、今日の買い出しに来てくれるらしい。

 確かにあの時“勝手にすれば”とは言われたけど、ううむ……いや、まあともかく、それは良いことだ。桜崎さんが来てくれるということ自体はいい。

 問題は―――


「今日、僕が桜崎さんと仲良くできるか否か……だよな」


 正直言って、1ミリも自信がない。

 言葉という名の暴力によって先日グロッキー状態まで追い込まれた僕にとって、桜崎さんと仲良くなるというミッションは限りなく難しい。

 ただそれについては猛から、たった一言だけアドバイスを貰っている。


『いいか信。もう桜崎嬢を口説こうとか思わんでいいから、普通に友達になってこい。それだけでも大進歩だ』


 ……うん。だから、普通の友達になる難易度が高すぎて困ってるんだけどね?


「くっそ……! どういうアドバイスだよ! というか、ここまで意味のないアドバイスって歴史上存在したのか!?」


 僕はその場にしゃがみ込み、両手で頭を抱える。

 どうしよう、本当にどうすればいいかわからない。

 とにかく今は桜崎さんと会ってみるしかない、か。

 後はその場に合わせて、臨機応変に対応するしかないだろう。


「あの、しぐれくん。おはよう」

「ほわぁあああああああ!?」

「きゃっ!?」


 僕は背後からかけられた声に驚き、反射的に大声を発する。

 バクバクと脈打つ心臓を押さえながら振り向くと、そこには白い洋服に身を包んだモブ子さんが立っていた。


「あ、ああモブ子さん、おはよう。驚かせてごめん」


 てっきり桜崎さんがもう来たのかと思った……ってそれはないか。まだ待ち合わせ時間には30分もあるし。

 それにしてもモブ子さん、今日はおめかししてるなぁ。普段学生服の姿しか見ていないから、なんだか新鮮だ。


「あ、えっと、待たせちゃってごめんなさい。準備に手間取ってしまって……」


 モブ子さんはその長い髪で瞳を隠しながら、もじもじと両手の指先を合わせて言葉を紡ぐ。

 そんなモブ子さんの言葉を受けた僕は、ぶんぶんと両手を左右に振って返事を返した。


「ううん、全然大丈夫だよ! 集合時間にはなってないし、全然平気!」


 僕は申し訳なさそうにするモブ子さんの様子に動揺し、慌てて言葉を紡ぐ。

 そんな僕の言葉を受けたモブ子さんは、重ねた両手を胸の上に当てて「よかった……」と返事を返した。

 それにしても今日のモブ子さんは、本当に雰囲気が違う。クラスの女子の普段着なんて滅多に見ないから新鮮なのかなぁ。


「えっと……その服可愛いね。似合ってるよ」


 僕はぽりぽりと頬を搔きながら、モブ子さんの服に対しての正直な感想を伝える。

 そんな僕の言葉を受けたモブ子さんは耳まで赤く染めると、恥ずかしそうに俯きながら返事を返してきた。


「あ、ありがとう。えっと、しぐれくんもその服似合ってる……よ」


 モブ子さんはたどたどしくも、僕の服を褒めてくれる。

 自分で考えたコーデじゃないけど、褒められるのはやっぱり嬉しいな。


「ありがとう、モブ子さん。今日張り切って来たから、凄く嬉しい」

「っ!? そ、そっか」

「???」


 僕がにっこりと笑いながらお礼の言葉を伝えると、モブ子さんは何故か顔を背けながら返事を返してくる。

 やっぱりさっきから耳が赤いんだけど……どうかしたのかな。


『それにしても、モブ子さんと話したおかげで少し緊張が解けてきたぞ。ありがたい』


 僕はぐーっと身体を伸ばし、未だやってこない桜崎さんの姿を思い出す。

 桜崎さんから見た僕の印象は、言うまでもなく最悪だろう。しかし今日はその印象をひっくり返さなくてはならない。

 よーし、やるぞ。僕はやるぞ!


「…………」

「ふう。しかしそう決意すればするほど、緊張す―――るぅぅぅぅ!?」


 いつのまにか僕の前では、不機嫌そうに腕を組む桜崎さんの姿がある。しかもその背中には、今にも蹴り上げてきそうなオーラすら感じた。

 僕は思わず数歩後ずさり、震える口でなんとか言葉を紡いだ。


「お、おあ、おあよう、桜崎さん! 良い天気だね!」


 僕は震える右手をかろうじて上げると、なんとか無難な挨拶の言葉を放つ。

 桜崎さんは腕を組んだまま一度僕を睨み付けると、そのままモブ子さんの方へと顔を向けてにっこりと微笑んだ。


「おはよう桃園さん。今日は急に付き合ってもらっちゃってごめんね?」

「えっ!? あ、ううん、大丈夫。元々予定も無かったから」


 モブ子さんは突然話を振られたことに気付き、慌てて桜崎さんへと返事を返す。

 あ、あれぇ~? おかしいぞぉ~? 僕って先に挨拶してなかったかな?


「じゃ、行きましょうか。早く終わらせた方がいいしね」

「ふぇっ!? あ、う、うん!」


 桜崎さんは今まで見たことのないような笑顔を浮かべながら、モブ子さんの手を取って歩き出す。

 ふむふむ、わかってきた。つまり桜崎さんは僕を完全に無視していると、そういうことだな? ちょっと死にたくなってきたぞぅ。


「あ、えと、しぐれくん! 今日ってどこに行くのかな!?」


 モブ子さんもそんな桜崎さんの様子に気付いたのか、僕に向かって絶妙なパスを出してくれる。

 ありがとうモブ子さん……いやモブ子様。僕、しっかりそのパスを繋いでみせるよ。


「あ、えっとね。まずは模擬店用の木材とガムテープの確保かな。これはホームセンターに行けば揃いそうだね」


 僕は猛から渡されていたメモを取り出し、行き先を決定する。

 このメモには今日確保すべき物資の情報が書かれており、“調達場所は各自判断”とある。

 しかしまあ木材とガムテープなら、ホームセンターに行けば問題ないだろう。


「じゃあまずはホームセンターに行こっか。桜崎さんもそれでだいじょぶ?」


 モブ子さんはできるだけ雰囲気を明るくしようとしてくれているのか、少しだけ弾んだ声で桜崎さんに質問する。

 桜崎さんはそんなモブ子さんの言葉を受けると、にっこりと笑いながら返事を返した。


「大丈夫だよ」

「そっか。ホームセンターならあまり遠くないし、歩いていけるね」

「ん、そだね。よかった」


 モブ子さんは桜崎さんと同じくにっこりと笑いながら、返事を返す。

 肝心の僕はというと、初めて間近で見る桜崎さんの笑顔に目を奪われていた。


「し、しぐれくん! あの、えっと……」

「っ!? ご、ごめんモブ子さん。ちょっとボーっとしてた」


 いつのまにかモブ子さんは僕の服の裾をくいくいと引っ張り、何かを言い難そうにしている。

 恐らくだが、雰囲気が良くなったことを僕に知らせてくれているのだろう。

 よ、よし。これならいけるぞ。この空気ならいける!


「さ、桜崎さんは、ホームセンターとか行った事あるの? 実は僕行った事ないんだけどさ」


 僕はぽりぽりと頭を搔きながら、視線を左右に巡らせつつ質問する。

 ああくそ、何故か緊張するぞ。しかし、とりあえず僕の言葉は伝わったはずだ。


「はぁ? あんたのホームセンター歴なんて聞いてないんだけど。ていうか話しかけないでくれる?」

「ぐっはあぁぁぁ! 今日もきついぜ……!」


 桜崎さんからようやく帰って来た言葉は、言葉でなく刃でした。

 ダメだ完全に切り裂かれた。もうボロボロだよ僕のハート。


「ていうか、行くなら早く行ってよ。あんたと一緒にいるだけでも気持ち悪いんだから」

「おっぐぅ!」


 マジですか桜崎さん。僕は無条件であなたの気分を害するですか。

 まあ「生理的に無理」って単語が出てこなかっただけまだマシか。もうそのレベルまで嫌われているような気がするけど。


「あ、えと、私は初めてだなぁ、ホームセンターって。ちょっとドキドキするね!」

「だ、だよねぇ! いやぁ、ちゃんと買い物できるかドキドキだなぁ!」


 うまく話を合わせてくれたモブ子さんに対し、にこやかに返事を返す僕。

 ああ、ありがとうモブ子さん。あなたがいてくれて本当によかった。


「私は何度か行った事あるから大丈夫よ。桃園さんをばっちりリードしちゃうね!」

「あ……ふふっ。うん! ありがとう桜崎さん!」


 がしっとガッツポーズを決める桜崎さんと、その姿をにこやかに見つめるモブ子さん。

 二人の姿は夏の日差しに照らされ、なんとも言えない爽やかさを感じさせる。

 な、なんか穏やかな雰囲気だぞ。これなら僕もいけるんじゃないか?


「いやぁーそっか、桜崎さんホームセンター初めてじゃないんだ。これは頼りになるなぁ」

「はぁ? あんたに頼りにされたくないんだけど。てか、早く歩いてくれない?」

「アッハイ」


 僕は心に深い傷を負いながら、ふらふらと二人の前に歩みだす。

 こんな調子で本当に、桜崎さんと仲良くなんてなれるのだろうか。

 けたたましく鳴き続ける蝉の声と、頭上で輝く真夏の太陽に照らされながら。

 そもそも今日一日僕の心は持つのかと、そんな漠然とした不安が胸の中に渦巻いていた。

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