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第2話:時雨さんちのごきょうだい

 朝日の中一階に降りてリビングに続くドアを開いた。……までは、良かったのだけど。

 目の前にある光景を、上手く理解することができない。

 まず、きな子姉ちゃんがいる。それは別に良い。茶色い髪で相変わらず寝癖がひどいことを置いておけば、いつものきな子姉ちゃんだ。

 問題はそのきな子姉ちゃんが、白玉の間に接着剤代わりにあんこを挟んだタワーを着々と組み立てていることにある。

 僕はズキズキと痛む頭を抱えながら、きな子姉ちゃんへと尋ねた。


「きな子姉ちゃん。一応聞いとくけど……今度は何を偶像崇拝してるの?」

「おおっ! おはよう信ちゃん。昨日はよく眠れた?」

「ああ。きな子姉ちゃんのおかげで寝起きは最悪だったけどね。それで、その白玉タワーはなに?」


 僕は強くなる頭痛を抑えながら、きな子姉ちゃんへと質問する。

 きな子姉ちゃんはふんすと鼻息を噴き出すと、やがて僕に向かって返事を返した。


「よくぞ聞いてくれました! これぞ人々の願いを叶える希望の象徴。その名も白玉ハイブリッド―――」

「あ、姉ちゃんも牛乳飲む?」

「うおおおおい信ちゃん! お姉ちゃんせっかく質問に答えたのにスルーは無いんでない!?」

「いや、もう意味わかんないなって思って……で、その白玉タワーに一体何を叶えてもらうつもりなのさ」


 僕はグラスを一つ手に取ると牛乳パックの封を切ってその中に牛乳を注いでいく。

 白くなめらかで絹のような牛乳はグラスの底で跳ね、左右に揺れながらグラスの中に入っていった。


「白玉ハイブリッドじゃーい! こいつにはね、私のとっておきの願いを叶えてもらうのさ。デュフフフフフフ……」


 きな子姉ちゃんは悪そうな笑顔を浮かべながら椅子の上に乗り、どんどん白玉タワーを高くしていく。

 そんなきな子姉ちゃんを見上げた僕は、ちょっと昔のことを思い出した。

 ああ、そういえばきな子姉ちゃんは、流れ星にも願い事とかするタイプだったなぁ。

 確か僕が小さい頃きょうだい三人で流れ星を見て、きな子姉ちゃんは迷わずチョコパフェを要求したんだけど、両手を組みながら“ちゃこぱふゅ”って噛みまくってたんだ。

 もう一人の姉である刹那姉ちゃんは表情一つ変えずに“金金金!”って連呼してたっけ。懐かしいなぁ、ははは。

 そのときぼくは せつなねえちゃんはおとこらしくてかっこいいなとおもいました まる


「あ、そーだ信ちゃん信ちゃん! 信ちゃんも何か願い事する!? 今ならあたしと一緒にお願いできるよ!」

「ははっ、そりゃお得だ。じゃあせっかくだから僕も何かお願いしようかな」


 僕は牛乳を飲み干すとグラスを洗い、きな子姉ちゃんと一緒に白玉ハイブリッドの前に跪く。

 するときな子姉ちゃんは両手を組み、大声で願い事を唱えた。


「明日、晴れになりますよーに!」

「ええっ!? 願い事しょぼっ! きな子姉ちゃんそんなお願いごとでいいの!?」

「もちろんさ! 明日はおでかけ予定だから雨だとだるいなって!」

「白玉ハイブリッドさんの懐の深さハンパないね……じゃあ、僕もお願いしようかな」


 僕は両手を組みながら、白玉ハイブリッドに向かって願い事を唱える。

 と、その瞬間うんこ時計の姿が僕の頭の中を駆け抜け、その恨みがムクムクと起き上がってきた。


「明日、雨になりますよーに!」

「そうそうお願いごとは大きな声で……てうおおおい! 信ちゃんあたしのお願い事相殺してる! 相殺しちゃってるよ信ちゃぁん!」


 きな子姉ちゃんはいやいやと顔を横に振りながら、涙目で僕に飛びついてくる。

 そんなきな子姉ちゃんを受け止めた僕は、困ったように笑いながら返事を返した。


「えっと、ごめんごめん。次はちゃんと晴れになるようお願いするよ」


 最初はきな子姉ちゃんにいじわるしてやろうと思ったけど、ここまで涙目になられるとさすがに罪悪感が勝つ。

 こうして僕らは二人で白玉ハイブリッドの前に跪き、声を合わせて願い事を唱えた。


「「明日、晴れになりやがりますよーに!」」

「な、何やってんのあんた達……」

「ゲェー!? 刹那姉ちゃん、いつのまに!?」

「たった今帰って来たのよ。ていうか本当何やってんの? 一から説明して欲しいんだけど」


 いつのまにか部屋に入ってきた黒髪ロングの美人……もとい刹那姉ちゃんは、その大きな胸の下で腕を組みながら僕らに向かって質問する。

 その目はどこまでも冷たく、明らかに白玉ハイブリッド様の効力を疑ってらっしゃる。いやまあ、当然なんだけども。


「聞いてよせっちゃーん! 信ちゃんがね、急に“白玉は美味い。よって神である”とか言い始めたのぉ!」

「き、汚ねぇー!? 刹那姉ちゃん騙されちゃダメだ! 元々きな子姉ちゃん発案だからこれ!」


 きな子姉ちゃんは刹那姉ちゃんの怒りオーラを感じ取ったのか、即座に罪を僕になすりつけてくる。

 僕はフローリングに膝をつくと、懇願するように刹那姉ちゃんへと弁解した。


「はぁ。ま、どうせ姉さんの変な思い付きでしょ? ていうか姉さん、ほっぺにあんこ付いてる」

「え、マジ? どこどこ?」

「う そ だ よ」

「ヒェー!? こ、こわい! ……あいたぁ!」


 きな子姉ちゃんは刹那姉ちゃんからおしおきのチョップを受けると、痛みに悶絶してぷるぷると震える。

 そんなきな子姉ちゃんを見た僕は、満面の笑顔を浮かべて刹那姉ちゃんへと飛び込んだ。


「さ、さすが刹那姉ちゃん! 僕を信じてくれたんだねぇ!?」

「あんたも同罪よ」

「いっでぇ!?」


 僕が飛び込んだその瞬間、空中を進む僕の頭部に刹那姉ちゃんのチョップが突き刺さる。

 痛い。マジで痛い。頭が割れたかと思った。ていうか割れてないよね僕の頭。まだ使う予定だからちょっと困るんだけども。


「そんなことより信、お茶の一杯でも淹れてくれない?」


 刹那姉ちゃんは胸の下で腕を組みながら、淡々とした調子で僕に向かって言葉を紡ぐ。

 そんな姉ちゃんの言葉を受けた僕は、疑問符を浮かべながら首を傾げた。


「お、お茶? なんでお茶?」

「あのね……あの白玉タワー、あのまま姉さん一人に食べさせるつもり?」

「え……? あ、本当だ! いつのまにかきな子姉ちゃん白玉ハイブリッド食ってるよ!」


 きな子姉ちゃんは刹那姉ちゃんの制裁チョップで観念したのか、泣きながら白玉ハイブリッドを食べている。

 しかし飲み物もなしにあんこと白玉だけ食べるなんて、胸焼けするのは誰の目から見ても明らかだ。というか、何故お茶を準備しないんだきな子姉ちゃん。


「とにかく、そういうわけよ。私はシャワーで汗流してくるから、あんたは三人分のお茶用意して」

「あ、は、はい! いつもお勤めお疲れ様です!」


 僕は新聞配達の仕事帰りである刹那姉ちゃんに敬礼を返すと、そそくさとお湯をわかすためやかんを用意する。

 その後数分と持たずにきな子姉ちゃんから「信ちゃぁん。一人じゃ食べきれなうっぷ、たすけてぇ~」という情けない声が響き、僕と刹那姉ちゃんはきな子姉ちゃんと共に、白玉ハイブリッドを食い尽くすことになるのだった。

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