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第16話:一緒にお食事

「あ、あの、信どの。大丈夫でござるか? ぽんぽん痛い?」


 あずきは四つん這いになった僕を心配そうに見つめ、優しい手つきで背中を摩ってくる。

 いかん、小さな手から来る温もりに思わず涙が溢れそうだ。


「うぐっ。あずき、ありがとう。僕のことをわかってくれるのは君だけだよ……!」


 僕は溢れ出そうになる涙を抑え、あずきへと言葉を返す。

 お腹は痛くないけど、心は物凄く痛い。間違いなく長期入院が必要なレベルだ。


「まあまあ、信よ。お前のその傷は、最終的にあずきちゃんのためになる。それでいいじゃないか」


 猛は僕の肩をぽんと叩き、どこか達観したような微笑みを浮かべる。

 いや、まあ、確かにそうか。


「とにかく元気出せよ信! 俺も全力でお前をバックアップするぜ!」


 猛はぐっと親指を立て、白い歯を見せながら爽やかに笑う。

 僕は猛にアイコンタクトで頷いて見せてふらついていた足を奮い立たせると、今度は真っ直ぐに立ち上がった。


「よっし……じゃ、ご飯にしようか。あずきは刹那姉ちゃんがお弁当を作ってくれたんだよね?」


 僕は鞄の中から朝自分で作った簡易的なサンドイッチを取り出すと、あずきへと話し掛ける。

 昔は僕も刹那姉ちゃんに作ってもらっていたんだけど、少しでも刹那姉ちゃんの負担を減らしたくて学園入学を機に自分の分くらいは自分で作ることにしたんだ。

 もっとも朝あずきの弁当を楽しそうに作る刹那姉ちゃんを見る限り、そんな僕の気遣いは無用だったようにも思えたんだけど……せっかくだから、料理は続けてみようと思う。

 もっとも今は、BLTサンドくらいしかまだ作れないのだけど。

 あずきは僕の質問を受けると、両手で大事そうにお弁当箱を持ちながら満面の笑みで答えた。


「うい! そうでござる! 刹那姫の料理は本当においしいでござるから、拙者、すごく楽しみでござる! あの“はんばーぐ”、本当においしかった……」


 あずきは口の端から涎を垂らしながら、忍者にあるまじき緩みきった笑顔で中空を見つめる。

 いかん、僕まで料理を思い出して涎が出そうになってきた。


「はっはっは。ダメじゃないかあずき。忍者ともあろうものが涎なんてじゅるり」

「お前も涎ダバダバじゃねーか!」


 小気味良い音で猛に叩かれた僕の頭は、某ペ○ちゃん人形のようにガクガクと揺れる。

 ふむ、我ながら素晴らしいチームワークだ。ツッコミの腕を上げたね猛。


「おお!? あっはっは! お二人は“ひょうきん”でござるなぁ! しかし信どの、思い出しただけで涎が溢れるとは、本当に刹那姫はじゅるり」

「最後まで言えてない。言えてないよあずき。あーあー、涎垂れそうだし」


 僕は咄嗟にティッシュを取り出し、あずきの小さな口から溢れた涎を拭き取る。

 あずきはむーむー言いながらも、大人しく僕に涎を拭かれていた。

 それにしてもたった一晩でここまで打ち解けるとは、実は僕とあずきは生き別れの兄妹ではなかろうか。

 そんな突拍子もない発想さえ生まれてしまうそうだよ。まあそれも、あずきの人懐っこさがあってこそなんだろうけど。


「よし、と。綺麗になった。じゃあ、お弁当食べに行こうか。屋上で良いかな?」


 僕はあずきの涎を拭き取ると、そのままあずきへと質問する。

 どこか行きたいところがあるなら、是非言ってほしい。僕も猛も、学園内のお昼ご飯スポットはほとんど制覇しちゃったしね。


「ぷは……ありがとうでござる、信どの。拙者はお二人の行きたいところなら、どこでも構わないでござるよ!」


 あずきはおーっと両手を上げ、その手に下げられた弁当が左右に揺れる。

 僕はそんなあずきに微笑むと、踵を返して教室のドアへと歩き始めた。


「よしっ! じゃ、行こうか。この学校のこと、家のこと、クラスのみんなのこと……話したいことがいっぱいあるからね」


 僕はサンドイッチを小脇に抱えると、あずきに対して微笑みかける。

 屋上なら行く途中に自動販売機もあるし、飲み物も調達できるだろう。我ながら完璧なプランだ。


「おおっ!? クラスの皆さんの話とは、楽しみでござる! 拙者も、はやく皆さんと仲良くなりたいでござるよ!」


 あずきは嬉しそうに瞳を輝かせ、僕を見上げる。

 僕はその笑顔に自身の決意を新たにすると、意を決して足を踏み出した。


『守ってみせる……守ってみせるさ、この笑顔を!』


 猛の作戦が発表される運命の放課後を迎えるまで、あと数時間。

 それまで僕の心臓は早く動悸を続け、不思議な高揚感が僕を包んでいた。

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