Trigger
コンクリートの床に腹這いになる。
服越しでも冷たさが伝わって来る。
スコープを覗き込む。
標的を探す。
……見つけた。
風速・距離・障害物・その他の要素を確認する。
弾道を予測して微調整する。
銃身を固定する。
引き金に指をかける。
…指が震える。
今日は少し寒いかな?
…いや、未だに慣れないだけか。
慣れたその時が人をやめた時だと聞いたことがある。
ただの人を殺すだけの機械になるのだと。
あれはきっと嘘だ。
私は今までに何人も何人も何人も何人も…もう覚えていないくらい殺してきた。
機械と呼ばれる先達にも負けないくらい。
…でも未だに慣れない。
だから嘘なんだ。
…思考が逸れ過ぎた。
スコープを覗く。
もう一度、標的を確認する。
動きはなかったみたい。
風が少し弱くなった。
微調整する。
引き金に震える指をかける。
息を大きく吸う。
冷たい空気が入ってくるのがわかる。
ゆっくりと吐き出す。
指の震えは治まらない。
もう一度、深く息を吸う。
さっきより少し勢いよく吐き出す。
悩みや不安、緊張を一緒に吐き出すように。
指の震えが少しおさまった。
指に力を込めた。
火薬が爆発した音。
銃弾が射出されたことを示す反動。
硝煙。
引き金を引いたまま固まっている指をゆっくりと外す。
次弾を装填する。
…本当はやりたくない。
標的を探す。
…見つけたくない。
目が乾いた気がして瞼を閉じる。
…このままもう開きたくない。
最初は薄めに、徐々に開いていく。
……見つけた。
赤が広がっていた。
視界が歪んだ。
頬を何かが流れた。
体を起こす。
膝を抱える。
顔を膝に埋める。
時間が過ぎる。
…落ち着いてきた。
顔を膝からはがす。
そのまま上を向く。
星が輝いている。
月は三日月と半月の間くらい。
しばらく眺める。
顔を前に向ける。
後片付けをする。
立ち上がる。
…あとどれくらいで慣れるかな?