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第七話 戦闘職の実力は?

9/30 ご指摘を受けまして行った前後の話の改稿と整合性を取るため、一部改稿いたしました。主人公の思考が、少しなりとも深くなったかと思います。

 さらに十日が経った。あれから人の来訪はない。それどころか、ジュイが周辺の動物を狩り尽くしたのか、動物すらやってこなくなった。おかげで、ジュイの食事もDEで用意する必要性に迫られてる。

 こないだの人間五人のDEがまだ残ってるから当面はいいけど、このままだとジリ貧だ。


「って思ってたけど侵入者来たあ!」


 それも戦闘職と思われる人間だ。どうやら理想的な方向に動いてくれたらしい。ボクってばツイてるー!


 というわけで改めてモニターを確認。隣で寝転んでるジュイのふさふさな毛並を堪能しつつ、推移を見守る。


『おい五郎兵衛とやら。ここがその洞窟なのだな?』

『ははは、はい、そうですお侍さま!』

『ふむう……』

『なるほどのう、いかにも何か潜んでいそうなところよ』

『うむ、嫌な気配を感じるわい』

「お? やっと戦闘職のお出ましかな? 待ってたよー」


 思わず頬が緩むのを感じながら、ボクはわしわしとジュイをなでる。最近気づいたんだけど、美しい白い毛並は魅惑のなで心地だ。


 今回の侵入者は、腰に剣を佩いた男三人組だ。五郎兵衛君もいるけど、彼は道案内に連れてこられたって感じかな。


 三人組の格好は、五郎兵衛君とそこまで違いがあるわけじゃない。それでもつぎはぎはかなり少ない。上着には、紋章らしきものが描かれた人もいる。頭には傘……? みたいなものをかぶってる。

 うん、どう見ても上流階級でしょ。鎧の類がないのが気になるけど、モンスターのいない世界じゃ鎧は戦場以外じゃ使わないんだろうな。


 どれどれ、それじゃあ鑑定してみよっか。まずは一番強そう&若そうな人から。


*************************


個体名:笹山・重治しげはる

種族:人間

職業:Mq3イ゛

性別:男

状態:警戒

Lv:36/100

称号:笹山家当主

   甲府c)さリ@

   北S↓一+krョ免許

   =♭モ凵゜、やョ’~


*************************


 おー、レベル36!


 よかったー、だよねー、戦闘職の人ならこれくらいのレベルはあるよね! この人ならゴブリンファイターを相手にしても大丈夫そうだぞ。

 四か所、文字化けしててわからないところがあるけど、ここは追々調べていこう。


 残る二人は……って、あれ?

 レベル13と15? また随分落差が激しいね……一体どういうことなんだろ?


 ……まあ考えても仕方ない。それじゃ、モンスターをけしかけてみよっかな。


 ボクの操作を受けて、配下のモンスターたちが一斉に動き出す。


「グルゥ?」

「ああ、ジュイはボクと待機だよ。君が出たら戦いにならないもん」


 眠そうな顔を向けた彼に、ボクは苦笑を禁じ得ない。

 これがあの、一匹狼として生き抜いてきたウルフなのかなあ。狩りができるほどの動物がいなくなってから、彼の食事もボクが用意してるんだけど……それに味を占めたのか、以来彼は野生をどこかに捨ててきてしまったみたいだ。かわいいといえばかわいいけどさ、それでいいのかい?


 それはともかく。


 ダンジョンの奥から、侵入者諸君の前に現れたのはゴブリンファイターが三匹とポイズンバットが二匹。当然と言うかなんというか、五郎兵衛君は腰を抜かしてへたりこんでいる。

 けど、三人組はさすがに戦闘職なんだろう。迷うことなく剣を抜くと、両手持ちで正面に構えた。


 ……あ、ごめん訂正。迷わず抜いたのは笹山君だけだ。後の二人は、彼が剣を抜いたのを見てから慌てて抜いた。

 構える姿勢も……笹山君はなかなかに隙がない。ぴたりと止まった剣先が、静かに光を反射させてゴブリン達を見据えている。これにはゴブリン達も警戒を露わにしてるみたいだ。


 一方の二人は、身体の重心がブレてるんだろうね。小刻みに剣が震えてる。あれじゃあ、ただのゴブリンならともかく中位種のファイターは相手するの難しいんじゃないかな。


 うーん、これもレベル差だろうねえ。正直、彼らが全員無事でこれを切り抜けられる確率は、限りなくゼロに近い。


「ま、どっちに転んだってボクにはどうでもいいことだけどね」


 そうつぶやいて、ボクは机に置いといた飴玉を手に取ると、封を開けて口の中に放り込んだ。


 前回とは状況が違うのだ。相変わらず成功率の低い【真理の扉】だけど、必要な情報はそろい始めてる。

 そう、この国の住人は、原則移住を禁止されてるってことがわかったからね!


 さすがに餓死者が出るレベルになったら、大目に見られるというか目をつぶってもらえることはあるみたいだけど……少なくとも、現状そこまでの事態にはまだ陥っていないはずだし。

 その上で戦闘職の人間が来たってことは、少なくともしばらくは調査とかで人が来てくれるって解釈をしてもいいんじゃないかな!


 ってわけで、口に広がる甘みを堪能しながら、戦いの推移を見守ることにする。


『お二方、ここは拙者が前に出ましょう! お二方は拙者が多勢に囲まれぬよう、牽制してくだされ!』

『う、うむ、よかろう!』

『任せるがよいぞ!』


 どうやら、前衛は笹山君で満場一致らしい。そりゃそうか。彼が一番強いもんね。

 そんな彼が一歩前に出たことで、戦いが始まった。


 最初に仕掛けたのは、先頭にいたファイター。そいつが剣で笹山君に切りかかった。

 その攻撃を笹山君、わずかに身を動かしてするりとかわすと、そのまま一気に前へ駆け出す。そうしてすれ違いざまに、カウンターの一撃を放った。

 それは綺麗にファイターの横腹を切り裂き、そいつの生命力は一気に半分を割った。ただのカウンターじゃないな、あれは剣の使い方がわかってる人間の、的確な一撃だ。


 笹山君はそうしていなしたファイターには目もくれない。代わりに、後ろにいた二人組が駆け寄ってファイターにとどめを刺す。


「おー、お見事だ!」


 けど、ファイターたちもバカじゃない。下位種じゃないから、戦いの立ち回りはそれなりにわかっているのだ。


 残る二匹のファイターが、笹山君に同時に襲い掛かる。一方、天井付近を飛び回っていたポイズンバットが、二人組に奇襲めいてとびかかった。

 笹山君、最初は片方の攻撃をかわして片方の攻撃を剣で払おうとしていた。ところが、途中で不意に表情を変えると、大きく後ろに跳び退る。どうしたのかな? 最初の判断でボクは正しかったと思うけど。


 一方で、後の二人組は空の敵に苦戦していた。バット種は空中を活動域とするモンスターの中でも、トリッキーな機動をする。あれは慣れてないと、なかなか攻撃を当てるのは難しいよ。二人組のレベル、低いしね。


 案の定、片方が噛みつかれて悲鳴を上げる。もう片方がその隙をついて切りかかったけど、多少飛行に支障が出る程度のダメージしか与えられないまま空中に逃げられてた。

 さっきの噛みつき、毒あっただろうから噛まれた人はおしまいかな。とりあえず一人分のDEゲットってことで。


 視点を変えて笹山君。彼は攻撃をかわしながら立ち回ってた。まあ確かに、防具つけてないもんね。ヒットアンドアウェイは間違いじゃないと思うよ。

 だとしても、剣で攻撃を受けないのは不思議だな。最初は払おうとしてたんだし、防御ができないわけじゃないんだろうけど……。


 と思っていると、遂に彼の剣先がファイターの喉を貫いた。攻撃の間をすり抜ける、鋭い突きだった。その一撃で、なんとファイターが絶命して消滅する。


「うっそ、攻撃力高すぎない!?」


 よく見たら笹山君の剣、対象の喉を貫通してた。マジか、クリティカルだ。そりゃさすがにモンスターでも死ぬ。特にゴブリン種は身体の構造が人間に近い分、急所も大体同じだからなあ。

 故郷じゃそれは常識なんだけど、ここはモンスターが存在しない世界。知ってる人間なんているわけない。それでも戦いの中でそれを察して、しかも狙い通り貫いた笹山君はなかなかの手練れだろう。


 そして、貫いた衝撃で手を離れた剣に固執せず、徒手での戦いに即座に移ったのも評価できる。そうしてなかったら、彼は切りつけられて相応のダメージを受けただろう。

 その状態で数度ぶつかりあって、彼はファイターの剣を持った手元を抑えることに成功した。力はほぼ同じってところかな? 拮抗してる。


『せいっ!』

「おー!?」


 なんて思ってると、笹山君はファイターを身体ごと後ろに投げ飛ばしたのだ!


「そーか、相手の重心を利用するためにわざと後ろに倒れこんだんだな。向かってきた勢いも利用してるかな? へー、すごいや!」


 思わず歓声を上げるボク。モニターの向こうでは、投げられたファイターが剣を取り落として地面を転がり、起き上がったところだ。


 その後ろでは、ようやくバットを一匹倒した二人組が、残るバットと悪戦苦闘してる。ただ、一人はフラフラで真っ青。生命力がだいぶ低下してるね、あれは。もう手遅れだろうね。相手のバットが解毒剤をドロップしたら話は別だけど……ドロップ率は8%だからねえ。どーかなー?


 まあ彼らはあんまり見てても面白くない。笹山君は?


「お、剣復帰してる。こりゃあ勝負あったね」


 立ち回りの中で、落ちていた剣を拾ったんだろう。彼は剣を構えて、無手のファイターと戦っていた。

 ただ、既にファイターの身体にはいくつか切り傷ができている。動きも鈍くなってきた。こうなったらもう、勝敗は決まったもも同然だね。


 案の定、笹山君の一撃がファイターの頭を割り、それがトドメとなった。


「うーん、お見事」


 ……あ、ポーションドロップ。


 地面に転がったポーションを、笹山君は不思議そうに手に取る。けど、すぐに顔を引き締めてバットのほうへと駆け出した。その際にポーションを懐にしまったみたいだけど……あの服、色々ともの仕舞えるのかな。ちょっと便利かも?


 それはさておき、二人組のほうは……あ、一人倒れてる。まだ死んでないみたいだけど、もう虫の息だね。残る一人は……一応、攻撃は受けてないっぽい。攻撃を当ててもいないみたいだけどね。


 まあ、中位種とはいえバット一匹で、あれだけの立ち回りを演じた笹山君には勝てるわけもない。一足飛びに肉薄した彼の斬撃で、あっさりと戦いは幕を閉じた。


『山之内殿! しっかりめされい!』

『長井殿、山之内殿は一体!?』

『恐らく毒じゃ……!』

『なんと……!』


 笹山君は、まだかろうじて息のある一人……えーと、山之内君? の介抱を始めた。唯一紋章入りの服を着てた人だね。ただ、それが実を結ぶことはないだろうな。

 解毒剤がドロップしなかったから、毒を治すには解毒魔法が必要になる。けど、この世界には魔法がないんだもんね。彼らにはもう、どうしようもないのだ。


 そう思って見てると、無事だった一人……んっと、長井君が妙なことを始めた。取り出したひもで山之内君の腕を縛ったり、傷口にいきなり口をつけたり、山之内君に無理やり水を飲ませたり。

 彼は一体、何をしてるんだろう?


『な、長井殿は医術の心得が?』

『そんな大層なものではござらんよ。山国の田舎侍でござるからな、毒蛇との付き合いがそれなりにあるだけでござる』

『左様でござったか……』


 医術? まったく聞いたことのない単語が出てきたぞ。術って言ってるみたいだけど、この世界に魔法はなかったはずだよね? どうなってるんだろう。


『……むう、水がもう残り少ない。危険でござるが、どのみちここにとどまり続けるほうが危険でござろう。笹山殿、村に戻りましょうぞ』

『……左様でござるな。この洞窟……何やら奥から嫌な気配を感じまする。もう少し人を集めて調べたほうが得策かと』

『うむ、それがしも同感でござる。……ああ笹山殿、すまぬが手を貸してくださらんか。患部を心の臓より下げておかねばならんので』

『は、畏まりました。……おい五郎兵衛、すまんがもう少しだけ頑張ってくれ。帰りの案内頼むぞ』

『へ……へ、へいっ!』


 そして彼らは、そんな会話と共に慌ただしくダンジョンから出て行った。無理をせずに撤退を選ぶ判断は、なかなかってところかな。


 ……って、待って。山之内君死ななかったぞ。ポイズンバットの毒は確かに致死性は低いけど、あれだけ死にそうな状態だったのになんで?

 もしかして、長井君がやってた医術? って謎の技術が影響してたり?


 うう、またわからないことが増えた。すぐに真理の記録アカシックレコードで検索しなきゃ。


 でも、今はそれよりもだ。


「……今日もDE収入、ゼロかあ……」


 せっかく一気に手に入るチャンスだったのに!

 おまけに捕虜というか、情報を得るために捕まえるのもすっかり忘れてた。完全に観客だったよね、ボク。

 今回はちょっとしくじったなあ。前回が運が良すぎたのかも。


 はてさて、一体どうしたもんだろう。笹山君が言ってた「もう少し人を集めて調べ」に来るのに期待したいところだけど、それが一体いつごろになるのかは見当もつかない。

 ボクとしては、異世界のことがわからなさすぎる状態はできるだけ早く解消したい。【真理の扉】もいいんだけど、ゼロからの検索は回数がかさむから非効率なんだよね。できれば人からキーワードを聞き出したいんだけどな。

 だからこそ、人間と接触する前に色々と検証してるんだけど……。


 最悪、それを打ち切ってボク自身が外に出ることも考えておかないといけないかもな……。場所を変えることも、念頭に置いといたほうがいいかもしれない。

 まだまだ、前途多難だなあ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


薩摩藩士はたぶん平均レベル70くらいだと思う(独断と偏見

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