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第四十七話 突然のピンチ?

『主よ』


 ユヴィルから突然【念話】が飛んできたのは、結婚式翌日の昼下がりのことだった。

 それは本当に突然で、かよちゃんと一緒に新しい魔力炉の取り付けをしていたボクは思わず動きを止めた。


「ユヴィル? どうかした?」

『耳に入れておくべきことがあったからな……今いいか?』

「もちろん。……ごめんかよちゃん、ちょっと休憩ね」

「わかりました」


 工具を手に図面と魔力炉を見ていたかよちゃんが頷き、姿勢を崩した。

 それを見ながらボクも、作業途中の魔力炉に背中を向ける。


「で、どうかした? ユヴィルがわざわざ言ってくるってことは、アメリカ艦隊に動きでもあった?」


 今、彼は空からアメリカ艦隊を監視している真っ最中だ。そんな彼がこうして【念話】を飛ばしてくるってことは、それしか考えられないんだけど。


『いや、違う』

「んん?」


 ところが彼は、それを否定する。

 どういうことかわからなくって、思わず首をかしげた。


『もっととんでもないものを見つけてしまったんだ。……百聞は一見にしかず、とは日本のことわざだったな。何はともあれ、見てほしいものがある。モニターは用意できるか?』

「ってことは映像か……ちょっと待って、今モニターのないところにいるから。移動するよ」

『わかった』


 というわけで、この場は一旦中止ということで会議室に引き上げることにする。

 ついでにお茶とお茶請けをかよちゃんにお願いして、と……。


「モニター準備おっけー。映像出して」

『わかった。……これだ』


 そうして画面に映し出されたは、灰色の岩場が続くどこかの山麓のようだった。ところどころに白い煙のようなものが立ち上がっていて、おおよそ江戸の街並みとはまるで雰囲気が違う。

 人影はもちろん動物の姿すら見えないその場所は、寂寥感と共にある種の終末感のようなものすら漂ってるような気がした。


「これは……また随分辺鄙なところに来たね」

『下野の国、那須岳の南側にある場所だ。温泉が点在していて、湯治に人が集まる場所のようだ。その一部なんだが……』


 ユヴィルの言葉と共に、画面が切り替わる。

 そしてその瞬間、ボクは息を呑んで絶句した。


『……どうだ? これは見ておくべきだっただろう?』


 その間がある程度続いたところで、ユヴィルが言葉をはさんできた。

 それを受けて、ようやくボクは我に返る。


 どうしてボクがそこまで驚いたか? それはずばり……。


「なんで……なんでこの土地に魔力が漂ってるんだ!?」


 そう、新たに映し出された地点には、微量だけど魔力が漂ってるのが見えたのだ。


 そんなはずはないのに。そんなことはありえないのに。


 だってこの世界は既に魔法が廃止されていて、魔力というエネルギーすら発生しないようになっているはずなのに!


『そうなんだ。で、周りの鳥獣から話を聞く限り……どうも、この岩が原因らしいんだ』

 ボクの言葉に、遠隔地ながらユヴィルが頷いた気配を感じた。

 そこに、扉が開いてかよちゃんが入ってくる。

「旦那様、お茶とお菓子お持ちしました」

「あ、ああ……ありがとう。……ふう、お茶がおいしい」

「……? あの、何か……って……」


 結構な勢いでお茶を口に含んだボクに、かよちゃんが目を丸くする。

 けれど、そんな彼女もモニターの映像を見てさらに目を丸くした。


「……あの、こ、ここってどこですか? 魔力があるように見えるんですけど……」


 そしてそう言う。


 こちら側に来たかよちゃんにも、モニター越しに魔力が見えるのか。そういえば、【魔力察知】のスキルレベルはそれなりにあったっけ。


「驚くことに日本さ。……うん、これは明らかにおかしな事態だ。それについての報告を今受けてるところさ……」


 まだかなり熱いお茶をあおるように飲みながらも、モニターからは目を離さない。


「……ユヴィル、岩ってのはあの一個だけやたら黒い岩だよね? 確かに、あれから魔力が放出されてるっぽい……」


 ただ、魔力は魔力でも、これ生物由来のやつに見えるんだよな……。岩から出てると思われるのに、なんでだろ?


『そうだ。その量自体は俺たちからすると少ない……ベラルモースで通常感じられる魔力よりももう数段少ない量だ。だが、この世界でこの量は異常と断言できる』

「うん……一体何がどうなってるんだ?」

『それで主よ。この岩、地元ではこう呼ばれているらしい。「殺生石」とな……』

「……人を殺す石ってこと?」

『ああ。実際、これに近づいた人間や獣は体調不良を訴え、長時間居座ると命を落とすものがあったそうだ。俺が海沿いから離れてこの山まで来たのは、近場の鳥獣からなんとかしてほしいと懇願されたからでな』

「……断らなくて正解だよ。これは調査の必要があるぞ」


 うーむ、と思わずうなるボク。


 とりあえず石に固有名詞がついてるなら、【真理の扉】を使ってどういう来歴のもので、どういう存在なのか調べることはできるか。

 ……まさかとは思うけど、天然のダンジョンコアじゃないよね? 嫌な想像だけど、そうだとしたらつじつまは合うんだよなあ……。


 近寄った生き物に害が出てるのは、魔力過剰摂取かな? でもあれはアレルギーみたいなもので、そんなに大勢に被害が出る可能性は低いはずだけど……。


 あと考えられる可能性としては、あの魔力が毒性を持ってることくらいか。毒関係のスキルがあれば、それは何もおかしくないからね。


 ……でも、鉱物がスキルを持ってるなんて話は聞いたことがない。少なくともベラルモースではありえない話だ。異世界だからあってもおかしくないけど、さすがにこれは……。


「……ユヴィル、君はその石にどれくらい近づいた?」

『このカメラを仕掛けたところまでだな。7間(約12.6メートル)といったところか』

「そこまで近づいてとりあえずは問題なしか。その距離なら【鑑定】も効くな……一度そっちに飛ぶか」


 さっきから【並列思考】で【真理の扉】を開始してるけど、本当に肝心なところで成功しない魔法だ。5割って信用ならない数字だよね!


 それならいっそ、現地まで行ったほうがいいかもしれない。この世界でボクに危害を加えられる存在なんていないだろうしね。


 何より、ユヴィルをこの周辺に張り付けておくわけにはいかない。彼にはれっきとした任務があるからな。

 つくづく人手不足を痛感するなあ。早く人を増やしたいところだ……。


「……よし。ユヴィル、そこはボクに任せて君は元の任務に戻って」

『了解だ。……気をつけろよ。近づいた時、なんだか嫌な予感がしたからな』

「そっか……わかった、気を引き締めていくよ」

『健闘を祈る』


 そこで【念話】は途切れた。ただし、モニターはそのままだ。

 ユヴィルが仕掛けたカメラは、どうやら定点カメラとして現場に残ってるみたいだな。こうやって現場が見えるなら、時空魔法で一っ飛びだ。


 と、その前にお茶とお茶請けは片付けていこう。


「……かよちゃん、ちょっと急いで確認したいことができた。悪いんだけど、魔力炉の設置はまた今度だ」

「わかりました」

「ごめんね、せっかく一緒にやれると思ったんだけど」

「いいんです。これはどう見てもおかしいことだって、私でもわかりますから」


 魔力炉の設置も、わりと早めにやりたいんだけどね。最近一基じゃ供給が足りなくなってきたから、今後のために増やしておきたいんだけど。

 水戸の斉昭君を相手取るのも間近に迫ってるし、このタイミングでこんな見過ごせない案件が来るとは思ってもみなかったな……。


 ……あ、桜餅おいしい。


「戻ってきたら、作業に戻るから」

「はい、また教えてくださいね」


 口元にあんこをつけて微笑むかよちゃんがかわいい。

 それを指摘すれば、真っ赤になって慌てる姿もまたぐっとくるよね。


 この姿を見るだけでもボクはがんばれる。


「よし……それじゃ、ちょっと出かけてくる。留守は任せたよ」

「はい、お任せください……」


 まだ赤面が治まってない彼女に微笑むと、ボクは残っていたお茶を飲み干す。


 そして、【テレポート】を発動させた。視界が……いや、空間が揺らぎ、ボクが存在する地点が書き換わっていく。

 それはほんの瞬き一度くらいの、ごくごく短い時間だ。それだけで、周囲の景色ががらりと様変わりする。


 白い岩と、白煙が広がる山のすそ野へと。


「……む。温泉の匂いがする。そういえばユヴィルは温泉が点在してるって言ってたっけ……」


 周りを見渡しても、温泉らしいものは見えないけども。決して遠くはない場所にあるってことだろうな。


 ダンジョンがある程度の期間空けてもいいようになるくらいに発展したら、かよちゃんと一緒に日本を見て回りたいところだけど……温泉もありだねえ。二人で一緒に楽しめるし。

 ボク、海水はダメだけど、温泉は大丈夫なのだ。


「……って、そういう話じゃないな。今は殺生石とやらを……」


 温泉の香りと共に漂う魔力。その根元に目を向けていく。


 モニターで見ていた通り、そこには一つだけ妙に黒い岩が鎮座していた。その手前には木で造られた柵があり、人が入れないようになってる。


「これか」


 モニターで見た時も衝撃だったけど、こうやって目の前で見るとその奇妙な様子がよくわかる。


 じわじわと漏れ出る魔力。それは案の定、生物由来の魔力だった。

 魔法工学を修めたボクには、大ざっぱだけど生物由来の魔力と鉱物……つまり魔石由来の魔力の違いがわかる。

 そしてこの距離に来て、はっきりとわかった。この石から感じる魔力は、間違いなく生物由来のものだ。しかも、毒とは違う何らかのスキルの気配がするぞ。


 これはますます妙だよな……もしかしてこの石って、石じゃないんじゃ?


「……なにはともあれ、まずは【鑑定】をしてみ……ッ!?」


《鑑定を遮断されました。情報の一部が秘匿されます》


****************************


個体名:殺生石(本体)

種族:安山岩(ぱspW$DS))

性別:なし(■■■)

職業:■■■■■

状態:仮死/魂食こんじき・微発動

Lv:■■(■■■)

称号:■■■■■

   ■■■■■■■■

   ■■■■

   ■■■

   ■■■■

   ■■■■


****************************


 思わず、本当に思わず、ボクは全力で後ろに下がった。

 それは生存本能だ。めちゃくちゃやばい、そう思考するよりも早く魂が理解してしまったのだ。


 ボクの【鑑定】が、遮断された。これが意味することはたった一つしかない。

 相手のほうがレベルが高い。そうじゃなければ、【鑑定】は失敗こそすれ、遮断はされないからね。


 しかも……だ。隠されてはいるけどこの表記……レベルキャップが存在しないこの表記、間違いない。


 こいつ、最上位種だ!


 カッコで区切られてるってこと、それに本体って記述から察するに、分体を作ってるってことだろう。その分本来のレベルよりステータスも下がってるだろうけど……。

 それでも、総合レベルで言えばボクよりも1000くらいは上の存在だってことは間違いない。超上位種と最上位種のレベルの開きは、最低でもそれくらいあるんだから。


 いやいやいや、どうなってるんだ!? この世界に、魔法に関係した存在はいないんじゃなかったのか!?


 どうする、どうすれば正解だ? 考えろ、考えるんだボク!

 とりあえず、【シンキングタイム】を発動させよう……!


 と思った、瞬間だ。


『そこに……誰ぞおるのか……?』


 脳内に声が響いてきた。女性の声だ。


 やばい。そう思って、慌ててもう一度殺生石に【鑑定】をかける。

 すると案の定、状態の「仮死」が消えていた。


『魔力……おお……久方ぶりの魔力が……感じられる……もしや……もしやそもじは……妾の同類か……!?』


 そんな【念話】と一緒に、金色の魔力が殺生石から漏れ出てきた。そしてボクに向かって迫ってくる。


 あれ、これって超やばくないかな!?


 どうする、逃げるか!? いやでも、今から【テレポート】は間に合わない!

 とりあえずは距離を取って……!


『すまぬ……すまぬ……魔力を……魔力を恵んでくれぬか……。少し、ほんの少しでよいのじゃ……』


 ……うん?


ここまで読んでいただきありがとうございます。


新展開、新キャラクター。

いやまあ、既に名前出ちゃってるんで、これがどういうキャラかわかる方はすぐにおわかりいただけるかと思いますけどね。

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