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第四話 眷属

9/24 死者がDEに変換される描写を、主人公の意思によって変換するかどうかを決められる描写に変更しました。

 始まりの合図は、両者ほぼ同時の吼え声から。ダンジョン内で反響しまくって、音がぐわんぐわんと壁や天井をびりびりと揺らす。


 先に動いたのは、群れのほうだ。一番大きなやつ……こいつがリーダーだろうね。リーダーが真正面から白いのに向かう。

 それと同時に、後ろを固めていた大きめのやつ……サブリーダーってところかな? こいつが白いのの後ろへ回り込もうと動く。


 残る二匹は、後ろに回り込もうとするサブリーダーが阻害されないよう、牽制として動いた。


 これに対して、白いのは迷うことなく牽制に来た仔狼一匹の前脚を、自身の前脚で薙ぎ払う。仔狼は悲鳴を上げて後ろに下がる。そのまま尻尾と耳がだらりと下がったのを見るに、あの仔狼はもう戦えなさそうだな。


 白いののこの動きに、群れのリーダーが怒声を上げて躍り掛かる。その動きはなかなかに鋭く、やはり仔狼たちとの年季の違いを感じる。

 けれども白いのは、さも興味なさげにもう一匹の仔狼へ攻撃を仕掛ける。これも見事に命中し、戦況は一対四から一気に一対二となる。

 ただしその代償と言うべきか、白いのはリーダーのかみつきを食らってしたたかに出血した。これにサブリーダーが後ろから襲い掛かって追随する。


 前と後ろから攻撃されて、身動きが取れなくなった白いの。怪我が増えていく。これはもうダメかと思った瞬間、白いのが吠えた。

 それはボクが今までに聞いたどのニホンオオカミの吠え声よりも、大きなものだった。壁から小石がぱらぱらと落ちる。どんな音量だよ、離れたところから見てなかったらボクもダメージ受けてるんじゃないだろうか。


 そんな咆哮を、至近距離で食らったリーダーは悲鳴と共に数歩後ずさった。サブリーダーのほうも、うめきながら浮き足立っている。

 この隙を、白いのは逃さなかった。狙ったのは、リーダーの喉。そこに、一直線に牙を向けた。


「ギャアアアン!」


 リーダーの悲鳴が上がり、その喉笛から鮮血がほとばしった。どんな顎の力してるんだろう、さすがレベルカンスト間近の攻撃力ってところか。

 白いのは、そのまましばらくリーダーを加えたまま激しく首を振り続けた。ただでさえ激痛が走っているだろう傷口を、さらにえぐるような所業。さぞリーダーにはダメージだろう。


 サブリーダーが、それを離せと言わんばかりに攻撃を加えるが、白いのはリーダーを盾にするように立ち回っている。汚い、汚いけど効果的な戦い方だ。生き残るためには手段を選ばない、ってところか。いいじゃない。


 やがて、リーダーの目から光が消えた。その身体から力が抜けて、四肢がだらりと垂れさがる。死んだようだ。


 直後、ボクの前に別の画面が開く。ダンジョン内で死んだ存在は、普通DEに変換するんだけど別にしないという選択もできる。これはその画面だ。

 ボクがそれにはいと応じると、直後リーダーの身体が光の粒子となって消え、ダンジョンへと吸い込まれていく。


 その現象は、経験したことがなかったんだろう。白いのは目をぱちくりさせて一、二歩下がった。

 けれどそれは一瞬、すぐに視線をサブリーダーに戻すと、うなりながら身構える。傷だらけで、血も出ているけれどその闘志に衰えは一切見られない。


 一方のサブリーダーは、恨みのような感情を見せることなく毅然とした態度で身構えた。どうやら、覚悟を決めたらしい。


「……死ぬ気なんだね、サブリーダー」


 刺し違えてでも白いのを倒すつもりなんだろう。死兵ってやつだ。


 しばらく、ダンジョン内を静けさが支配する。けれどそれは、すぐに破られた。


 白いのとサブリーダー、双方が同時に吠えて互いに突進した。そして交錯する二匹の獣。


 勝者は……白いのだ。白いのは、サブリーダーの目を狙っていたのだ。捨て身の攻撃をしていたサブリーダーは、それを回避できずに目を潰されてしまった。

 もちろん、白いのも相応のダメージは受けた。先の前脚に加えて、もう片方の脚も切り裂かれて出血している。


 ただ、ここからサブリーダーが巻き返すことはできないだろう。実際、白いのは視界を失って暴れるサブリーダーをもはや見ていない。そいつは、サブリーダーをちらっと一瞥してから戦意を失って怯えていた仔狼に歩み寄ったのだ。


 そして、遠慮なく二匹の頭を噛み砕いた。それを見て、ボクは二匹をやはり、DEにして消滅させる。

 その様子を、今度は驚くことなく受け流した白いのは、最後にサブリーダーの背後に立つ。


 サブリーダーは、めちゃくちゃに暴れていた。まるで自分を顧みないその行動は、いたずらに体力を消耗させるだけだ。白いのは、サブリーダーが疲れて動きが衰えるのをじっと待っているようだった。


 やがてその瞬間が訪れる。


 サブリーダーの動きが鈍ってきたと見た白いのは、矢のように鋭い一直線の動きで、サブリーダーの喉笛をかみちぎった。サブリーダーは、しばらく勢いよく出血させながらびくびくと痙攣していたけど……ほどなくして動かなくなり、死亡した。


「おー、終わったねー」


 頷きながら、ボクはサブリーダーもDEに変換する。


 一方画面の中では、一匹だけ生き残った白いのがようやく深い息をついていた。その身体がひときわ大きく上下して、それに合わせるようにしてそいつの傷口から血が滴る。

 そのまま白いのはしばらくそこに立っていたけど、その後荒い呼吸をしながらその場に座り込んでしまった。どうやら、こいつもこいつでかなり消耗したらしい。


「あらら、白いのも限界っぽいかな? んー」


 口元に人差し指を当てて、ボクは考える。


 この白いの、ボクが思ってた以上に強い個体だ。こいつなら、いっそ殺さないでこっちに引き込むことはできないかな?


 ダンジョンには【眷属指定】という、ダンジョン外の存在を部下にする機能がある。これは【モンスタークリエイト】とはまた違う手法になる。

 どう違うかというと、外の存在を利用したものだから同じ存在は二度と作れないし、元にした個体の能力によってかなり結果にムラが出る。相手の意思もあるから、必ず成功するとも限らない。

 同じ強力な固体を求めるなら、手間という意味でも費用と言う意味でも、名づけネームドのほうがいいんだけど……。


「どうもあの白いのが気に入っちゃったみたいだな、ボク」


 白毛に赤目なんていう、普通とは違う個体だ。レベルもカンスト間近で、能力に申し分はないはず。

 それに何より、たった一匹で群れに立ち向かい、何より生き抜くことに重点を置いた遠慮ない戦い方。あれはいい。相手を尊重する、誇り高い戦い方も嫌いじゃないけどさ。結局のところ、世界は「勝てば官軍」がまかり通るようになってるのだ。死んじゃったらどうにもならない。


 征服は考えてないけど、戦力は多いに越したことはないし。何せ、ここは右も左もわからない異世界だもん。あの生を諦めない戦い方のほうが魅力的だ。


「……よし、決ーめた。あいつは仲間にしよう。うん!」


 そうと決めたら、あとは行動あるのみ。ボクはメニューのモニターはそのままに、いそいそとコアルームを経てダンジョンへと移動した。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 ボクが白いののところにやってきたとき、白いのは既に身構えて警戒していた。そして血まみれの牙をむき出しにしながら、ボクをにらみつけてきた。

 満身創痍だったはずだけどねえ。生まれついての戦士なんだろうなあ。


「安心しなよ、ボクは敵じゃない」


 そんな白いのに、ボクは両手を開いて言う。敵意はありませんアピールだ。まあ、動物に言葉が通じるとは思えないから、あんまり意味はないかもしれないけど。


「グルルルル……」

「大丈夫、今その傷治してやるからね」


 唸る白いのに一声かけて、ボクはスキルを展開した。


「土魔法【アースヒール】」


 これは基本四属性の一つ、土魔法のスキルだ。いわゆる回復魔法ってやつだね。他属性の回復魔法より射程が短いというデメリットはあるけど、回復量は一番多い。傍目から白いのの消耗具合がわからない以上、これが一番だよね、きっと。


 土属性は黄色がメインカラーだ。薄暗いダンジョン内に、黄色の光が煌めいて白いの身体を包み込む。その瞬間、白いのの傷が癒え始めた。

 効果は劇的で、ほとんど数秒のうちに白いのの傷はすべて癒えてしまった。


 うん、我ながら完璧な仕上がり。やっぱり土属性はやりやすくっていいな。種族柄適正高いしね。


「どうだい? まだどこか痛むところ、ある?」


 常識外の出来事だったんだろう。自分の身体をしきりに触って確認する白いのに尋ねながら、ボクはにこりと笑った。

 そんなボクに、白いののどこか呆けた目が向けられる。透き通るような赤い瞳が、「なんで?」って感じでボクを見ていた。


 その仕草がおかしくって、ボクはついくすくすと笑う。そして笑いながらも、本題を口にする。


「ふふ、ボクさ、君のことが気に入っちゃったんだ。だから、君をボクの眷属にしたい」


 動物相手に言葉を飾っても仕方ない。ボクは単刀直入に、そう言った。

 言いながら、開きっぱなしにしていたメニュー画面を手早く操作する。


 さあ、【眷属指定】を実行だ。


 これが成功すると、指定された存在は職業がダンジョンキーパーに固定されてダンジョンコアの制御下に……ひいてはシステム内に入る。

 結果、彼らは既にダンジョン外で魂を得ていた存在だから、システム内部において名づけネームドモンスターと同じ定義に含まれることになる。さらに、普通よりも緩い条件で進化させたりできるようになったりもする。


 さっきも言った通り、対象の能力やそれまでの経験で結果には大きな振れ幅ができるから、やる人はあまり多くない。消費DEもかかるし。

 ただ【モンスタークリエイト】の場合は必ずレベル1で生成されるけど、この手法だとレベルは維持される。つまり、即戦力になる。習得してたスキルはすべて引き継がれるから、初期スキルにポイントを振る必要性も低い。


 何よりこの方法でできたモンスターは、死んだときにちゃんとDEになってダンジョンに還元してくれるのが大きい。もちろん、せっかく得た仲間をみすみす死なすことはしないけど、いざという時にDEを得られるというのは保険として有用性が高い、というわけ。


 まあ、指定対象に拒否されたらそれまでなんだけどね。普通は、自我の薄いモンスターや、信頼関係のあるペット、あるいは力づくで従わせるといった方法が求められる。


 あ、言うまでもないかもだけど、【モンスタークリエイト】で生成したモンスターは最初からマスターの眷属だよ。


 閑話休題。


 はてさて、白いのはどう答えるかな……?


〈個体名:なし から返答が来ました〉


 画面に表示されるメッセージ。次を開いてみると……どうやら条件付きで許諾可能、ということだった。


【眷属指定】は、単純な「はいいいえ」の選択肢で済むシステムじゃない。相手から条件を指定してくることもある。今回のように、ね。

 で、白いのが出してきた条件はというと……。


〈まいにち はらいっぱい たべたい〉


 ふふ、シンプルでわかりやすい条件だね。野生の動物はいつも食事にありつけるわけじゃないもんね。他とは見た目が違う分、苦労もしてたのかもしれない。


 ここがダンジョンで、ボクがダンジョンマスターである以上、この条件はもっともかなえやすい条件の一つだ。DEさえあれば【アイテムクリエイト】であらゆる食料は出せる上に、食料品は消費DEが全体的に安いのだ。

 この条件なら、ボクに否やはない。承諾だー!


「よーし、それじゃあ契約は成立だね。君を眷属として迎え入れるよ」


〈個体名:なし の眷属化に成功しました〉


 メニューに成功を告げるメッセージが表示される。それに思わず笑みを浮かべながら、ボクは次の作業に移る。


〈個体名:なし の設定を行います。指定項目に情報を入力してください!〉


 この作業は、【モンスタークリエイト】と同じだ。より正確に言えば、名づけネームドモンスター生成と、だけど。

 その場合は全項目を入力するんだけど、今回は【眷属指定】による設定追加だから、いくつかの項目は変更できないようになっている。性別とか、性格とかがそれだ。


 逆に今入力できるものは、種族の変更とステータスの割り振り、それから名前だ。

 名前以外の要素は、眷属化した個体がそれまでの人生経験で鍛えてきた魂の力をポイントに換算し、それを使うことで強化することになる。


 種族は、ダンジョンのシステム内に組み込まれることで、元の種族とは別の種族へ変更することができるようになっている。さらに、条件を満たしていれば即座に進化も可能だ。もちろんそのままにすることもできるけど、進化すれば基本的に強くなる。ここは当然、変更だ。

 今のところ選択できる種族は全部で3つか……まずは説明をそれぞれ読ませてもらおっと。


******************************************


【ゴールドウルフ】

ウルフ種正統進化系統の中位種。金色の毛並を持つ。

体格はウルフより一回り大きくなり、戦闘能力が一段と向上する。

元々夜目が利くが、その能力も向上している。


【ブラックウルフ】

ウルフ種正統進化系統の中位種。黒色の毛並を持つ。

体格はウルフとさほど変わらないが、毒など状態異常を操る力を持つ。

元々夜目が利くが、その能力も向上している。


【t/Ms&わ+】

テラリア世界の地球産ウルフ種固有系統の中位種。

神の眷属に従う存在であり、憑き物を払うと言い伝えられている。

攻撃手段に念動を持ち、強い個体はオーラを発するようになる。

テラリア世界のバージョンアップに伴い、現在は自然発生しないように調整されている。

進化条件:称号dk#にqバの所持


******************************************


 ……は?


ここまで読んでいただきありがとうございます。


最初の仲間がヒロインとは限らないッ!

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