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第二十二話 乱入

データが飛んだ……書き直しました……(血反吐

急いで公開してしまったせいで、公開してからもしばらくあれやこれやと各所細かいところを修正したりしていたので、読んでるタイミングによってはおかしな文章があったりするかもしれません……大変申し訳ありません。

 で。

 そのあと大体三十分くらい、老中たちの筆談を見てたんだけど。


 その内容は、やっぱりって言うかなんて言うか、アメリカへの対応についてだった。


 見てる限りだと、正弘君はほとんど発言せず他の皆の意見を聞いてるだけだ。リーダーだから迂闊な発言できない、ってことかなあ? それにしても消極的だと思うけどな。

 それから、彼のすぐ隣に座ってる人……小柄ではあるけどがっしりとしていて骨太な印象を受ける牧野忠雅ただまさ君も、ほぼ無言。どうも、正弘君に従ってるっぽい。腹心なのかもしれない。


 積極的に発言してるのは、正弘君の正面にいる松平忠優ただます君。そして彼の意見は、どうやら「アメリカと戦ったって勝てるわけないし、下手したら領土取られる可能性だってあるから、早いうちに開国すべき」って意見らしい。

 だいぶ、現実的な意見だと思う。まあ、その先にどういう国を目指すべきか、って話がほとんど出てこないから、惜しいとも思う。

 ともあれそんな彼の意見を、開国論って仮に呼ぼうか。


 そんな忠優君に同調するのは、その隣に座る松平乗全のりやす君。恐らく一番老齢だと思われる彼が忠優君を擁護する姿は、子供を見守る父親のそれに近いものを感じる。


 一方、そんな彼らに難色を示すのは残る二人。内藤信親君と久世広周君だ。

 とはいえ、彼らの反応は拒絶ではなくあくまで難色。「開国論にも一理あるけど、それってどうなの?」って感じだ。


 彼らが意見の中心にしてるのは、正弘君が求めて届いた意見の中の、えーと攘夷論? っていう考え方だ。


 これは調べた限り、また彼らの会話を聞く限り、外国勢力を打倒すべきって考え方。開国論と正反対っていうにはちょっと違う気がするけど、まあともあれ外国勢力は打ち返して、鎖国を守るべき、って解釈でいいと思う。

 外国の脅しに屈してなるものかって意見はわかるしね。暴力で意見を押しつけてくる相手に、何もしないで従うのは悔しいよね。それができないのが今の日本なんだけどさ。


 ただ、この攘夷論にはちょっと問題がある。あくまで話を聞いてる限りの、主観ではあるんだけど。


 どういう問題かっていうと、その攘夷論の根本に「日本は神の国であり、外国人を忌み嫌い排除する」考え方が透けて見えることだ。

 あまりに自分本位な考え方っていう意見は間違ってないと思うし、当の日本人もそこまで本気で思ってる人間はそこまでいないだろう。でも、そういう意見の人間がいるってことは間違いないみたいなんだ。


 そういう、いわゆる過激派とも言うべき意見の代表は徳川斉昭って人らしい。彼の意見によると、攘夷ってのはただ外国勢力を打倒すべきじゃないんだよね。「自分たちと比べて相手が劣っているから」外国勢力を打倒すべきってことらしいんだけど。

 ヨーロッパ各国を自分たちと並び立つ資格のある相手じゃない、なんて本気で思ってるなんて、何様だろうね? 無理に決まってるじゃん。今の日本は、単独じゃ絶対他国に勝てないよ。


 あ、一応攘夷論を擁護してる二人の名誉のために行っておくと、彼らはそんなおかしなことを言ってるわけじゃないし、偏った意見を迎合してるわけでもない。

 そのあたりはさすがに国政のトップを担う重鎮って言うべきか、手段も言葉も選んで、冷静に対処してるよ。


 彼らがそんなんだから、開国論擁護派の老中は過激すぎる意見にかなり手を焼いてるみたいだ。彼らは現実を知ってるから、過激な攘夷は間違いなく選びたくないだろう。正弘君も……なんとなくだけど、困ってるほうかな。


 そう、彼らは今の日本の力では絶対にヨーロッパ各国に勝てない、ってことがわかってる。だからこそ、上流階級はおろか庶民にすら意見を求めたのに、とにかく外国人キモい帰れなんて意見が来るんだから、報われないよなあ。

 しかも、そういう意見も無碍にしないでいちいち議題に乗せるんだから、実は相当疲れてるんじゃないだろうか? バカの相手をちゃんとするなんて、ボクにはできそうにない。

 相手は、交渉の場にキツネを連れてって考えてることを読ませるなんて言っちゃってる人だよ? そんなの、即刻却下でいいと思うんだけどな。この地球世界は、魔法なんてもう存在しないんだから。


 ともあれ、そんな感じで会議はほとんど進んでない。行ったり来たりを繰り返してるだけだ。黒船来航から二カ月も経ってるのに未だにこの段階ってのは、正直心配になるレベルだ。

 この国に人材がいないのか、それともいても発言する機会がないのかはわかんないけど。これじゃ次にアメリカが来たとき、どうなっちゃうんだろうね。


 さて……そんな感じで話は全然進まないみたいだし、そろそろ聞き手に徹するのは終わりにしよう。知っておくべきことは大体わかったしね。

 ……けど、いざ行くってなると緊張するなあ……どきどきしてきた。深呼吸して……って、ん? なんか外が騒がしいなあ?


「ご注進、ご注進!」

「何事か」


 外から、若手と思われる男の声が響いてきて、正弘君がそれに応じた。


「はっ! 先刻、井伊殿の下屋敷周辺にて面妖な化け物が徘徊する洞窟が出現したとの報せが参りまして!」


 あ、それボクんちです。


「……何ぃ?」


 老中の面々は、理解できないって顔だ。無理もないけど。


「仔細はこちらに……!」


 そんな彼らの前に、扉の隙間から手紙が差し入れられた。それを、一番近くにいた忠優君が取り上げて正弘君に差し出す。

 正弘君はそれを広げて、中身を読み始めた。ボクもその後ろに回って中身を盗み見てみる……。


 どうやら、手紙の中身はさっきの報告内容そのものみたいだ。うちのダンジョンが突然できて、中に入って数人が死んだっていうことなんかが書かれてる。そしてそれに対して、幕府の対応を求む、って感じか。

 この国の文字が読みづらくって、日本語のスキルレベルがまだ低いボクには正確なところがくみ取れないんだけど、大体そんな解釈で当たってると思う。


「……この難しい時期に、またこのような」


 一通り内容を読んだ正弘君が、深いため息をついた。


 だよねー。


 でも君ら、国の重鎮なんだから。そういうのはちゃんとやってあげないとね。人の上に立つってのは、そういうことだ。相応の責任があるんだもんね。


「……この案件、至急吟味いたす故しばし下がっておれ」

「はっ!」


 どことなく疲れた声で正弘君が外に声をかけると、小気味良く青年の声が返ってきた。

 そしてその声の主が遠ざかっていく気配を見送ってから、正弘君は手紙を他の面々に回し始める。受け取った人は中身を見た上で、次の人へと渡していく。

 そうして全員がその内容を把握したところで、みんながみんな腕を組んで黙り込んでしまった。


 彼らに共通してるのは、「わけがわからない」という困惑だろう。そりゃあ、魔法はもちろんモンスターの存在しない世界にいきなりそんなのが出てきたら、誰だってそうなるよね。しかも彼らは、直接それを見たわけでもない。信じられないのは当然だ。

 それでも、封建制度の人治国家で下手な嘘なんてのは即刻身を滅ぼしかねないわけで。彼らもそれはわかってるから、受け取った手紙の内容に一定以上の信憑性は見出してるんだろう。だからこそ、戸惑ったり悩んだりしてるんだろうね。


 大丈夫、その報告は正しいよ。張本人が言うんだから間違いない。


 ……とはいえ、このままじゃ話が進みそうにない。ボクがしたい話に全然行きそうにないぞ。だから、今度こそ本当に出るとしよっか。


 でもその前に……さっきの連絡係がまた来たら面倒だし、いっそ空間ごと隔離しちゃおう。


(時空魔法【アイソレーション】)


 魔法が発動すると同時に、この部屋が実空間から隔離され完全に遮断される。これも【ハイド】と同様、位相を変更する類の魔法だ。通常は、この後大規模な魔法を使ったりして、固有空間内で敵を殲滅するコンボに繋げたりする。


 そんなコンボだけど、魔法の発動が気づかれた様子はない。それを見ると、本当に魔法がないんだな、ってそれで改めて実感するね。ベラルモースだったら、いくらなんでもこの規模の魔法が発動したら大抵の存在は気づくんだけど。

 逆に言うと、これに気づける人がいたら、それはこの世界の住人であってもなお、魔法の才能を持ってる人なんだろうなー。


 って、そんなことは置いといて。本題本題。


 ボクは重い空気が漂う部屋の中で、六人の老中全員の視界から外れた位置に動いた。そして改めて深呼吸をしてから、【ヴォイドステルス】コンボを解除した。


 実空間に現れるボク。けれど、やっぱりそれに気づかれる様子はない。


 そしてボクは、彼らに気取られないように深呼吸を一つすると、努めて優しい笑みを浮かべながら、明るい声音で口を開いた。


「困ってるみたいだね」

「「「「「「何奴!?」」」」」」


 そこでようやく、ボクに向けて六つの視線が注がれた。

 その全員が腰に佩いた剣に手を当てていて、いつでもこちらに攻撃できる態勢……っぽく、見せている。


 うん、申し訳ないけど全然プレッシャーを感じない。剣術をしてないわけじゃないんだろうけど、大したレベルに至ってないんだろう。

 それに、彼らが今手にしてるのは短剣だ。長剣を帯びるのが禁止されてる区域だろうから、仕方ないんだろうけど……それじゃあボクにはダメージは与えられないよ。


 よし、そう思ったら緊張も少しほぐれてきたぞ。なんとかなるかも。


「やあ。ボクの名前はクイン、今君たちが話をしてたダンジョンの主さ」


 少しおどけてボクがそう言うと、全員の視線が鋭くなった。そして、忠優が声を張り上げる。


「ええい、曲者じゃ! 出会え、者ども出会え!」


 けれど、それに呼応した人が来る気配はない。

 そのことに、忠優君をはじめ全員が困惑して次々に声を上げる。それでもやっぱり、反応はない。


 当たり前だ。だって、


「無駄だよ。今この部屋は周りから隔離されてるからね」

「なんだと!?」


 ボクの言葉に、全員が気色ばむ。


 なんだかちょっと面白くなってきた。魔法にまったく慣れてない人間の反応って、からかいがいがあるよね。

 そんなことを考えながら、ボクは【ショートジャンプ】で彼らの背後に回り込んだ。


「こっちだよ」

「ぬおぅ!?」

「うわあ!?」


 完全な瞬間移動に、六人全員が飛び上がらんばかりに驚いた。そのまま、ずざざっと後ろに退いていく。

 その様子がおかしくって、思わずくすくすと笑ってしまう。


「ふふふ、そんなに驚いてくれるとこっちとしてもおどかしがいがあるね」

「げ……ッ、下郎め! お前は一体何者だ!」

「さっき言ったじゃない。ボクはクイン、君たちが話をしてた……ああ、言いなおそう。井伊君の屋敷前にできた洞窟の主、さ」

「な……!?」


 そこでいよいよ、全員が絶句した。


「でも、安心してよ。別に君らに害を加えに来たわけじゃないんだ。それどころか、仲良くしたいなって思ってるくらいさ。だからこそ、主のボクが直接出てきたんだ。でも、だからって実力行使はやめといたほうがいいよ。君たち六人じゃ、天地がひっくり返ってもボクには勝てない」


 そうしてボクは、誰も口を開かないことをいいことにそう言い切ると、六人に向かってにっこりと笑って見せるのだった。


 さあ、交渉開始だ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


幕末の日本人の考え方は、おおよそ開国論と攘夷論に分かれていました。この辺りは歴史で習った通りですね。

ただ、攘夷論の一部は本分で主人公が指摘した通り、やたらと過激な……今で言うとテロみたいなやり口の意見も相当数あったようです。

この意見の代表が水戸藩の徳川斉昭なんですが、本文中で紹介した彼のエピソード。決して根も葉もないうわさじゃなかったりします……。

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