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第十三話 荷造りをしよう

 さて、日が変わって。

 手早く朝の日課を終わらせて、ボクはかよちゃんと荷造り(?)を開始する。


 まず、メニューを開いて【アイテムクリエイト】を実行。表示された画面に、あれこれと情報を入力していく。


 このダンジョン管理用のメニューはダンジョンマスターか、マスターから権限を委譲された代行者にしか開けないし見えない。今のところ【眷属指定】もしてないかよちゃんには見えるはずもないから、なるべくしっかり話を聞いて、綿密に認識の誤差を埋める。


 とはいえ、今のダンジョンコア機能は技術の進歩で使い勝手は格段に上がってるから、そこまで難しくない。

 何せ、特記事項っていう自由記入欄に打ち込んだ内容がそっくりそのまま反映できるからね。数値をいじったり選択肢から項目を選んだりっていうやり方だと、どうしてもできない設定もできるようになってるのだ。

 今回はこの特記事項をフル活用する。何せ、異世界の道具を初めて作るんだ。細かいところまで調整できるこれは、必須だよ。


 ってわけで、今回何を作るかだけど、これはずばりお金だ。道中は駆け抜けるつもりだから使う予定はないけど、江戸に着いてからは使う機会があるだろう。【アイテムクリエイト】をはじめダンジョンコア由来のスキルは、ダンジョンが閉じてる時は一切使えないから、今のうちに用意する必要がある。


 かよちゃんに聞いたり真理の記録アカシックレコードで調べてみた結果、この国では三種類の通貨が使われていて、それぞれがほぼ独立した体制で動いてるらしい。なにそれめんどくさい。

 三種類の通貨ってのは金貨、銀貨、銅貨らしいんだけど、金貨は金貨でしか、銀貨は銀貨でしか基本的にやりとりができないらしいんだよね。つまり、一つの国の中で三つの国のお金が同時に使われてるのとほとんど同じ。だからこの国では、毎日それぞれの通貨の間の交換相場が変動してて、両替商が介在して経済が動いてるみたいなんだよね。


 もっかい言うけど、なにそれめんどくさい。なんで統一通貨じゃないの? しかもお金の単位は4進法みたいで、10進法に慣れきった身としてはわかりづらいったらありゃしない!


 まあ、文句を言っても仕方ない。とりあえず、高額貨幣の金貨は使う機会がなさそうだから作らないことにして、銀貨と銅貨を各種、少しずつ用意することにしよう。


 と言っても、一個一個やってたら面倒だし、わかりづらい通貨制度だからなおのこと面倒だ。

 だから、特記事項で大雑把に金額を入力してその分だけお金を作ることにした。相場がわからないから額は適当だけど、とりあえず銀貨で50もんめ、銅貨で200文。


 そしてじゃらじゃらと音を立てて現れる大量のコイン……。


「うわあ、持ち運び超めんどくさそう」


 銀貨50匁はまあいい。思ってたより大きかったからあんまりよくはないけど、銅貨にくらべたらいい。どうやら五匁銀っていうコインがあるみたいで、これ10枚で解決なんだ。

 問題は銅貨200文のほう。単純に銅貨が200枚も出てきた。これも、思ってたより大きい。それでこの量はしんどいぞ。


 ボクは時空魔法【アイテムボックス】があるからいいけどさ。これ、うかつに庶民は貯金もできないんじゃないの……?


「わ、私こんな大金初めて見ました……」

「これそんな大金かな!?」


 わかってはいたつもりだけど、ボクが思ってた以上にかよちゃんの村の暮らしは貧乏だったんだね……。

 どこの世界でも、地方は貧しいのは変わりないのかなあ。あんまり知りたくない共通点だった。


「あの、こんなにたくさん、持ち歩くんですか?」

「しないしない。下手に馬鹿な奴らに目着けられるのは嫌だし、何よりかさばって面倒だもん。こうするよ」


 言いながら、ボクはコインの山に手をかざして時空魔法【アイテムボックス】を発動させた。すると、あっという間にコインは虚空に消える。


「こ、これって……」

「うん、持ち運びしなくてもものを保管できる魔法。便利でしょ?」

「べ、便利すぎますよぅ!」


 そう言って血相を変える彼女に、ボクははははと笑う。


 うん、知ってる。魔法がないこの世界って、大変だよねえ。ボク、魔法のある異世界出身でよかった。


「安心しなよ、ダンジョンの経営が軌道に乗ったら使えるようにしてあげるから」

「えっ!? そ、そんなあっさりできるようになるんですか!?」

「まあね、そこはね、なんてったってボクはダンジョンマスターだから」

「ほ、本当ですか!? うわあ、すごい、私楽しみにしてます!」

「うん、任せといてよね」


 かよちゃんのきらきら笑顔がまぶしい。そんなにか、そんなに楽しみか。

 これは今から、使えるようになった時が楽しみだな。どんな顔してくれるだろう。ふふふ、夢が広がる。


 まあ、それは後でのお楽しみだ。次に行こう。


 お金の次は、ボクが人間に化けるための道具を作る。単に道具にするだけじゃなくって、身に着ける形で持ち歩けるものにしよう。ないとは思うけど、盗まれたら面倒だし。

 ってわけで、作ったものがこちら。


****************************


アイテム名:変化の腕輪

ジャンル:装飾品・腕輪

品質:3

レアリティ:希少級レア

スキル:変化Lv6

特性:保有スキル内容指定【人化】

   保有スキル発動回数 0/5

   呪い【装備解除不可】


****************************


 こんなところかな。じゃ、早速着けよう。


《個体名【クイン】が呪われました》


 知ってる。知ってて装備したんだもん。呪いの内容も知ってるから、別に困ることなんてない。腕輪が不要になっても、光魔法や天魔法が使えるボクには解呪も簡単さ。


「これで旦那様が人に化けられるんですか……?」


 ボクの肌の色とは少し似合わない色合いの腕輪を見つめて、かよちゃんが小首をかしげる。魔法の使えない彼女にとっては、まだ半信半疑なんだろうな。


「うん、そうだよ。早速見せてあげよう……と、言いたいところだけど、使用回数を五回に限定しちゃってるから本番までお預けね。いざって時のために回数は残しときたいから」

「はい……」


 まだじっと腕輪を見つめるかよちゃん。そんなに未練がましく見つめられても、しないものはしないんだからね!


 とまあ、呪いを含めた三つのマイナス特性で、DEの消費量はおよそ半分にまで減った。デザインもランダムを選択することで、さらに消費量を減らしてる。おかげさまでボク好みじゃない色合いになったけど、それは仕方ないね。

 それでも1000DE取られたから、マジックアイテムはやっぱり高いよなあ。ダンジョンコアのレベルが低い現状では、これでもかなりきついよ。これだけでDEがもう残り400程度しかない。

 日常生活をするだけなら足りるけど、ダンジョンとしては不安な数値だ。江戸に向かう前に、少しでも増やしときたいところだけど……。


「あ……旦那様、もうお昼ですよ。私、ご飯作ってきますね」

「ん? ホントだ、こうこんな時間か。うん、頼むよ。ボク、ちょっと入り口まで行ってくるから」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 ボクにしっかりお辞儀をしてからキッチンに向かうかよちゃん。いそいそとエプロンを着けると、冷蔵庫からチルド食品の袋を取り出した。便利だよね、冷蔵・冷凍食品って。一人暮らしの強い味方だ。

 今は一人じゃないけど、故郷の食材、道具、調理法にまだ慣れてないかよちゃんにも使いやすいしわかりやすいだろう。個人的には、この世界の料理も食べてみたいんだけどそれはもうちょっと先の話かな。


 ……ジュイが尻尾振りまくってかよちゃんの背中をガン見してる。赤い瞳にはこれでもかってくらい期待が込められてる。相変わらず君は食事にどん欲だな。食べる方向だけに特化してるっていうか。いっそ作る側に回ってみればいいのに。


 ……む、今日のお昼は白身魚のソテーがメインか。楽しみにしとこう。


 そんなことを考えながら、ボクは入り口にワープした。


「【誘引】」


 そしてスキルを発動させる。これは、ボクのほうにモンスターや動物をおびき寄せるスキルだ。レベル上げの時にはお世話になる。

 本来は、花であるアルラウネ種が餌を確保するために使用するスキルだ。うん、アルラウネは元来肉食です。


 これでなんで虫を呼ぶかって? そりゃ、虫だろうがなんだろうがDEになるからさ。


 ダンジョンは、アイテムも含めたありとあらゆる存在エネルギーをDEに変換できる。それは高等生物に限らず、虫や軟体動物はおろか、微生物にすら適応されるんだ。

 ただ、そういう存在力が低いものから得られるDEは少なくって、仮に一匹の微生物を殺したって得られるDEは1に届かない。だから、彼らに対しては死亡後のDE変換の確認も表示されることはない。

 でも、ダンジョンはそんな小数点以下の数値もちゃんと蓄積してる。その端数の蓄積をDEに正式に還元すること……これが、実は日々定期収入で得られるDEの正体だ。これをDE端数加算って言う。定期収入の量が不安定なのは、これが原因。


 この方法だと、DEが増えるのは日が変わってからになる。どれだけたまるかわかんないから、明日起きてからのお楽しみだ。


「こんなところか。この森から生き物を完全に駆逐しちゃうのはさすがにまずいだろうし」


 適当なところでスキルを切って、少し様子を見ながら歩きでマスタールームまで戻る。既にそれなりの量の虫がダンジョンにおびき寄せられてるけど、ボクの【誘引】は匂いに由来するスキルだから、しばらく効果が残るんだよね。こうやって歩いて戻れば、より奥までおびき出されてくれるって寸法だ。

 そこまで来たら、あとは彼らの自然死を待とう。明日以降、地味に収入が増えるはずだ。


 なんてことを考えながらマスタールームに入ったら、ちょうど食事ができたところだった。その後、今夜までの予定を話しつつ食事をする。午後からは、靴や服を用意することにして、それが順調に進めば、明日にでも出発しようってことで話は決まった。


 その際、村になんとか食料を提供できないかとかよちゃんに言われて、ボクはそれを了承することにした。

 確かに、ジュイが村の周りの食料を駆り尽くした結果が、彼女という生贄なわけだし。このまま放っておくのは、いくらなんでも自分勝手すぎる。


 それにこのままだと、かよちゃんが後ろめたい思いをしたままになっちゃいそうだったからね。譲歩、って言うのはちょっと違うかもだけど、ここは頷いておいた方がいいって判断したんだ。気持ちの整理は必要だと思うからね。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


江戸時代の通貨制度は複雑で、現代のそれと簡単には比較できないところがあります。

単純に言ってしまえば、国内で円とドルとユーロが同時に使われてるっていう解釈が一番正解に近いんですが、それもすべてを網羅した表現ではないんですよね。

書いてる作者も完全に理解してるわけじゃないので、この辺りはあくまでなんちゃって歴史ものとして生暖かく読んでいただければと思う次第です……。


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