取り乱していると簡単な方法が頭から抜ける
その時、自分がどこに歩いて行っているのか理解する事なく、感情の赴くままに男の子型携帯が犬の着ぐるみを追っている。どこかの部屋(多分従業員用休憩室)でイスに腰掛けたイヌの着ぐるみと話せるかもしれないと男の子型携帯が声をかけようとした。子どもが後をついてきたなんて思わず油断した青年がイヌの着ぐるみの頭部分を脱いで汗をタオルでぬぐう。
「!?」
青年は最後まで気付かなかったが、男の子型携帯はショックを受けた。
そのショックで周囲の状況を理解、誰もいないとわかって不安そうにきょろきょろしていた。
「あれ? いない?」
「何でケータイのはずなのに迷子になるの!?」
強気な口調で話す女の子に言われてしまうのはもっともである。私は男の子型携帯も心配とはいえ、この女の子を待ち合わせ場所に連れて行くまでが責任と考えているのでどれから手をつけようかと迷う。
「わわっ、どうしたら……」
そこでツインテールの女の子から救いになる一言。
「探せばっ?」
「え? だけど」
これじゃあどっちがしっかりしているんだかという感じだけど、私は女の子に貴重な意見をもらった。
「お姉ちゃんにあなた達を連れてきてねって言われたし。それと一人って不安でしょ?」
女の子に聞かれて私は男の子型携帯を心配する気持ちが強くなる。
「そ、そうだよね……泣いてないかな……心配」
女の子がそんな私を見て、小さい子でも同じ目線で話す努力をしてくれる優しい人だなという風に見つめていた。が、私はそれに気づかなかった。
「……っ」
気づかなかった理由は男の子型携帯がどれだけ心細い思いを覚えているだろうと考えてしまっているから。
「あの子、着信音ひとつまともにこなせてないのに。心配だよおぉぉっ」
「何を言ってるの?」
女の子に疑問を投げかけられたが、それも私の耳には届いていなかった。
自分より小さい女の子がいるというのに忘れているかのような動作で、男の子型携帯のみに意識が集中してしまっている。
「誰か気にかけたりしてくれないかなあ?」
「あっ」
結構物事を理解している女の子が、私の考えが混乱して困っている様子から察したのか、私にデパート内の公衆電話の場所を指さしで教えてきた。
「ねぇ、そこの電話で番号にかけてみるというのはどう? 誰か気づくと思うんだけど」
私は女の子に指摘されて、簡単に思いつきそうな(困っていて思いつかなかったのは事実だけど)その方法を試す事にした。