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drifters

drifter2

作者: カンコ

 いつからだろうか。

わたしが笑えなくなってしまったのは。

何時、何故、わたしは感情というもの、あるいはその存在の意味を見失ってしまったのだろうか。

わたしの中の何かが生き続けることを辞め、姿を眩ませたのだろうか。

目の前の世界は、間違い無く進行を続けている。決して時間が止まったのでは、ない。


 いつの日にか訪れた、幻想の世界。

そこで幼き日の“わたし”は、笑っていた。

初めてのコースターや、本の上では無く本当に動いている観覧車を見つけては、それらに心躍らせ、目を輝かせた。母親のものだと思わしき片手を強く引き、輝かしい夜のパレードを廻り、永遠の時間を望んだ。

でも進むにつれて、より一層追い求めて行くにつれて、いつしか繋いでいた母親の手は無くなっており、迷子になっていた。周りは先ほどの輝かしい装飾の景色とは打って変わって、暗く静寂していた。

誰か助けが来そうにもないその暗闇の中で、“わたし”はただ一人泣いていた。



今まで見ていた美しい世界がふと姿を消し、新たな形となって現れたのか。

あるいは偶像崇拝に夢中になっているうちに、その姿を見失ったのか。



 いつの日か訪れた、暗闇の世界。

だがふと、木の匂いがした。

なるほど。“わたし”は“わたし”の知らないうちに、テーマパークのゲートを抜け、外に出てしまっていたらしい。それだけのことだったのだと、そう気付いたから、“わたし”はもとの世界――母親の待つ、幻想を絵に描いたような場所に戻ることができた。



 わたしが見失ったものは、消えてしまったのか、あるいは、わたし自身がそれから遠ざかってしまったのか。自問自答を繰り返す度に、その疑問さえ消えてしまいそうな迷いに背を向けようとする。

「きっと、消えてなどいない」

もしまだ、存在するのなら、わたしが歩み誤ったその複雑怪奇な道を、どうか引き返したいなどと考える。

けれど、振り返る事を恐れ慄く自身が居る。

戻ることが幸せで、正しい事であるのか判断など出来ない。


何度となく繰り返される葛藤への反発心は、一度失い抱いた違和感や、焦燥感というものが、一層呼び起こす。

「帰りたい」

一度離れ離れとなった存在に、恋焦がれているかのような感覚を抱きながら、わたしは振り返った。


 かつてのテーマパークは、居り様によっては思わぬ恐怖を招くものであるが、幸せの形を遙か永遠に描く可能性に満ちた場所であった。

わたしはその世界を求め、もと居た場所を、後にした。


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