幕間
それが僕とユウキが人形としてこの町にいる”意味”だから by都
◆◇◆◇◆miyako◇◆◇◆◇
「あのさぁ…未来君、預かってた原稿用紙さぁ……実はコーヒー零しちゃって…」
とある方向音痴と優等生の同級生を置いて先に教室に着くと、未来君が既に隣の席でなにやら原稿用紙にペンを走らせていた。
そして思い出す、未来君の書いた物語は、未完で終わると原稿用紙に書いたことと未来君の記憶から物語が消えてしまうってことを。なので借りていた原稿用紙は白紙になっていて、原稿用紙を渡せずに苦しい言い訳をしていた。
ところで今書いているのは一体?
「別にいいよ、あれ煮詰まったから、そんな事より今は新しいストーリーを閃いたから、それで忙しいんだよ、だから話しかけないでくれ」
え?切り替え早っ!!未完で終わって翌日に新しい物語書き始めるなんて………どうやらまだまだ僕は安心出来そうに無いようだ。
「ところでどんな……」
「二度言わせんな」
「ごめん……」
駄目だ……今は少しでも速く仕上げてもらうために邪魔をせずに待っている方が得策だ。
「ねぇ、退いてくれない?」
ふぇ?
声のする方を見ると日向さんが僕をジトッと見ていた。二秒程考えて意味が分かった。
「ゴメン、つい間違えちゃった」
昨日、日向さんが未来君の隣の席になったことをすっかり忘れていた。
いや、うっかりさんだな僕、昨日色々あったからなぁ、まるで朝に未来君の小説を読んでから今朝までを二ヶ月間くらいの長さに感じたし、昨晩何故か異世界で勇者が王国から逃げる夢を見るし、疲れてるのかな?
「はぁ、やれやれ」
自分の席に移動してどっかりと座る。また未来君の書く小説が完成したら読まないとな……
しかしその日は放課後になっても未来君の小説が完成する事は無かった。
「さ、帰るかな………」
『ちょっと屋敷に寄りなさい』
帰ろうと荷物をまとめて席を立った直後に脳内にユウキの声が響いた。
マジかよ……そういえばあのゴールデンウィーク以降図書室に行ってないなぁ。
どうせだから屋敷で宿題やろう……
そんな甘い考えは屋敷について一秒後に覆された。
「あれ……なんで………人形屋敷になってるの?」
いつもならかがりさんの魔法で洋館になっているはずの屋敷が中には人形しかないオカルト屋敷になっていた。
ということはつまり……
「やっと来たの?都」
ユウキの声が横から聞こえてきた。横を向くと何十体もの人形が置かれた棚の上にユウキは座っていた。
「なぁユウキ、かがりさんは?」
面倒臭い事聞くなとでも言いたげにユウキは顔をしかめて僕を見た。
コイツ、僕に対してはやたらと喧嘩売ってくるな、やっぱりあの時の事をまだ根に持っているのかな?
まぁそんな事は置いといて、ユウキの言った答えは予想した通りだった。
「出てったのよ、今朝までは居たんだけど、少しうとうとしてたらもうこの有様。びっくりよね、何でいきなり姿を消したのかしら?」
ユウキも眠る事があるんだなと感心する反面、僕もかがりさんがいきなり姿を消した理由が全く分からなかった。
何だか、嫌な予感がする。
予感ですめばいいけど、人形になってからこの予感が外れたことが無いんだよな…。
結局のところ、昨日の東方美人を渡してきた少女の正体も分からないままだし…今の所、問題は山積みだ。
「ユウキ、頼みがあるんだけど……いいかな?」
「そうね、今は気分がいいから一つくらいなら聞いてあげてもいいわ」
なんつー上から目線なんだ、このお人形さんは。というかそんなに仲悪かったんだなかがりさんとユウキって。
「それは………」
僕はユウキに頼みごとを静かに言った。それを黙って聞いていたユウキは笑って答える。
「確かに一つだけど、ちょっと欲張りじゃない?」
「かもね…でも僕はそれだけしてくれればいいから」
僕たちはこれからかがりさんの魔法という援助を一切受ける事が出来なくなったことで、これからの物語を未完にする事はとても困難だろうけども、それでもきっと……誰も不幸になんかさせない。
それが僕とユウキが人形としてこの町にいる”意味”だから。