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Crazy doll  作者: 大夜
No sister No brother
6/21

No sister No brother un finish

「日向さん、その人だぁれ?」by鳩子

   ◆◇◆◇◆Real keito◇◆◇◆◇


「ねぇそこの君、転校してきたばかりの西燕って子知らない?」

 何度か電車を乗り継いでやって来た町の例の心霊スポットとされていて人が近づかないだろうと思われる人形屋敷へ向かう途中で中学校の制服(胸の位置に中のエンブレムがついてた)を着た女の子を見つけた。

 これ幸いと聞いてみる、用意周到のつもりだったけど肝心の西燕みくの顔を僕は知らないんだった。


 どれだけ僕は焦っていたんだろうか、別に相手は逃げやしないのに。


「……だれ?」


 振り返ったその女の子は警戒心剥き出しで僕を見る、手にはケータイを持っていた。

 そのまま百十番に電話されちゃかなわんので、フレンドリーに自己紹介する。


「僕は木場、木場景人、西燕みくちゃんを探してるんだ、僕は彼女の血縁でね、今日会う約束をしていたんだけど、見つからなくて」


 その女の子は動きを止めて僕をじっと見る、田舎町の学生だからもっと友好的かと思ったけどやっぱりこの年頃の子供は警戒心が強いみたいだ。


「君と同じ学校に転校してきた子なんだけど、知らないかな?ええと君は………」


 そんな警戒しなくても君には何の危害も加えないのにな。っていうか怯えてるよ、これはちょっと不味いな。名前を聞こうと催促しちゃったけど失敗だったかな?

 そして女の子はおずおずと自分の名前を名乗った。



 信じられない名前を



「鳳、鳳遥です」



 何……だっ……て?


「鳳…遥………?」


 鳳遥?あの夢に出てきた架空の幼馴染の?

 改めてその女子中学生を見る、夢とはいえある程度の容姿は覚えている。短く首元で切りそろえられた髪、スラリとした長身、パッチリした大きな瞳、そして………気が付いたら声まで似ていた。

 それはもちろん僕より背が高いわけでは無いけども百五十CM以上はあるし何より顔がそっくりだ。


 どういうことだ?


「ねぇ、君!……ってあれ?」


 思考から現実に視線を戻すとその女の子は僕に背を向けて走っていた。

 そして何も考えずに追いかけてしまう。

 逃げる人を追いかけてしまうのはきっと人の本能なのだろうか?

 いや違う、僕は直感した。信じられない偶然だがあの反応を見る限りきっと彼女が西燕みくなのだろう。


「絶対に逃がさない」


 ふと口元に笑みを浮かべて走るペースをあげる。

 そしたら最初の曲がり角で見失ってしまった。まずいな、彼女はケータイを持ってる。

「急がないとな」

 ポケットの中のナイフを握り締めて逃げそうな場所を考える。

 西燕みくの家は…ここから遠い、というか中学校がある位置から大きくずれた道にいたと言う事は道に迷っていたんじゃないかな?


「だとすると中学校に戻ったか………」


 安全で来た道を戻るくらいならそこに向かうだろう。

 なら急ぐか、場所は把握済みだ。



   ◆◇◆◇◆hinata◇◆◇◆◇



 赤碕さんに電話してしてから十分後、赤碕さんから日向君は図書室に居るって返事が来た。

 今は何とかあの男を振り切って、今朝寄った小学校前にいた。別に目指していたわけではなく、闇雲に走っていたら着いた先がここだった。


「あの子、怒られなかったかな?」


 怪しい男を振り切った安心感からか、そんな暢気なことを呟いていた。とりあえず今は日向君に会いに行ってあの物語について問い詰めないと。


 ブ~~~~~~~~~


「ん?電話かな」


 かと思ったらすぐに止まった、メールかな?

 ポケットから携帯電話を取り出すとバッテリー切れだった。


「あ…………………」


 そして思い出した、最初に携帯電話を取り出した理由を


「………お父さんに電話すればいいんだった………」


 もしくは警察とか……なんで気付かなかったんだろう?なんて思っても遅すぎた。

 

「しかたないな、なら学校に戻ろう」


 そしててくてくと今朝通った道を思い出して繰賀中学校を目指す。

 別に日向未来に会ったところで現状が解決するわけじゃないけど、あまりにも今の状況は非日常すぎた。

 とりあえず中学校までの道のりで今自分に起こっていることをまとめてみよう。


 一つ目、道に迷った※あんたが方向音痴なだけです。

 二つ目、隣の席の日向君が書いた小説の登場人物が目の前に現れた。

 三つ目、その人はあたしの事を知っていた。

 四つ目、その人は………きっとあの小説と無関係ではない。

 五つ目、多分あの人はあたしを西燕未来だと気付いてしまっている。


 こんなところかな、今の状況では彼があたしになにかしら危害を加えることは無いと思うけど、いや違うかな、彼の目はまるで何かを隠し、抑えているような目だった。

 あたしはあの目を知っている、だって………あたしはあの目を毎日見ていたから。


「……菜子お姉ちゃん……」


 もう一回、助けてよ………



 「見つけた」



 気が付いたら後方五メートルの位置に木場景人が立っていて、場所は既に繰賀中学校に着いていた。


「……一体あなたは何なの?」


 相沢菜子という実在してあたしに関係している登場人物が出てきた。それならこの人との関係ももちろんあるはず、そうでなければあたしに会いに来ないだろうし、でもあたしはこの人を知らないし心当たりも無い。



 本当に?



 嘘じゃない、あたしはこんな人知らない………



『僕は彼女の血縁でね』



 ふと先ほどの彼の言葉の一部が頭の中で木霊する、血縁?…………血縁!!

 あたしの両親は一度離婚している、理由は聞かされていない。


 当然だと思う”父親が浮気していて、しかも子供まで居たなんて小学生の娘に言えるはずが無い”から


「もしかして、あなたは………お父さんの………浮気相手の子供なの?」


 その言葉に、彼はただ………笑っていた。



   ◆◇◆◇◆Real keito◇◆◇◆◇



 先に中学校に向かい、待っていると案の定彼女がやって来た。


「見つけた」


 何やらぶつぶつと呟きながら彼女は目の前に立ち、僕が発した言葉で顔を上げて僕を見る、その顔には困惑と警戒と焦燥で染まっていて、ふるふると捨てられた子犬のように震えている。

 残念だったね、このさっきの道から中学校の間には建物らしい建物は人気の失せた小学校くらいしかなくて助けを求めようにも現在位置を伝えれる特徴も無い。


 チェックメイトだ。


「……一体あなたは何なの?」 


 まぁここまで追い詰めておいてあれなんだけど彼女が西燕みくである確証は無いんだった。

 もし別人だったら本物の西燕みくに会うことが絶望的になる。

 結局はそんな心配も次の一言で無用になったんだけど。



「もしかして、あなたは………お父さんの………浮気相手の子供なの?」



 なんだ、やっぱり合ってた。

 それなら問題ないな。


「うれしいな、僕のこと知ってたんだ……なら、ちょっとついてきてくれないかな?」


 彼女に逃げ場は無い。




「日向さん、その人だぁれ?」




 ………はぁめんどくさいな。まだ下校してない生徒がいたのかよ、しかもこいつと同級生か。

 ………ん、日向?


「君、西燕じゃないのか?」


 日向って何だ?聞き覚えも見覚えも無いぞ?

「西燕…誰ですかそれは?」

 今、校門前に来たその長髪の女の子は自分に聞かれたと勘違いしたのか首を傾げた。

「失礼したね、僕は木場景人、西燕みくっていう転校生を探しているんだ、知らないかな?」

 まぁ横にいる女の子なんだけど……あれ?

「西燕みく……?知らないです」

 長髪の女の子が返答しているけどそれは僕の耳に届いていなかった。何故ならその場に西燕みくは既にいなかったからだ。

 くそっ校舎に逃げたのか、さすがにそこまで追えば誰かに捕まるだろう。

 だとしたら………一度逃げるか?


「あれ、日向さんどこ行ったんだろう?」


 残された長髪の少女はポツリと呟いた。

 もうここにいても意味は無い、非常に腹立たしいが今日は失敗だ、しかたがない、例の人形屋敷へ向かうか。

 チャンスはまだあるはずだ。

 そしてその少女に礼を言いその場から速やかに立ち去った。そして現状をまとめる。


 一つ、僕は西燕みくを発見した。

 二つ、彼女は僕を警戒している。

 三つ、学校に逃げられた事により何かしらの対策をしてくるはず。

 四つ、彼女は僕の素性を知っている。


 ……かなり不味いな、いや最悪だ。これからの彼女の登下校は親の送り迎えになるか、同級生と一緒にして、一人になる機会はなくなるだろう。そして僕の正体を知っている事から警察の対処も遅くないはずだ。

 これはさっき無理やりにでも連れ去るべきだったのでは?

 ……いや学校前で騒ぐのは得策じゃない、目撃者もいたし……


「あぁ、もうっ!」


 なんで上手くいかないんだ!

 なにか!なにか上手くいく方法は……………ダメだ!思いつかない!!


『あたしね、小学校の頃に二つ年下の友達がいたの』


 なんだろう、急に相沢さんの声が頭に響いた。

 そうだ!……きっとこれなら着いて来るはずだ。



 ”相沢菜子が会いたがっている”と言えばきっと………



 さっき西燕みくはこう呟いていたんだ『……菜子お姉ちゃん……もう一回、助けてよ………』って。

 それなら急ぐか、とりあえず学校の中で何か対策をとられる前に………


 考えがまとまると丁度人形屋敷の前だった。

 気が焦りドアを勢いよく開ける、どんな場所かあらかじめ確認しておくべきだろう。


 果たして、それは正解だった。

 何故ならその屋敷の中には三人の人間がいたからだ。

 

「なんで?ここは無人のハズなのに…………」


 僕は驚愕した。

 外から見た限り、屋根や壁に苔が生え、ツタが伸びて明らかに誰にも手入れされていない事が明らかであり、おおよそ人が住まなくなってから十年単位が経っていると思わせるような外見なのにその中は電化製品などは見当たらないが、豪華な大広間や大きな階段のある、まるで西洋のお屋敷のような内装だった。



  「くそっ!」



 よく分かんないけど、ここにいる奴らとは関わるべきじゃない。無意識にそう感じた僕は屋敷に背を向けて走り出した。その時何か言われた気がしたけどかまわずその場から離れる。


「何なんだ?あそこは廃墟で誰も住んでいないんじゃ無かったのか?」


 夕日が照るあぜ道を走りながら呟くが誰も何も答えない。

 もう何もかもダメだ。あの屋敷が使えないんじゃもうどうしようもない………


「はぁ……はぁ……ごほっ………あれ?」


 走りつかれて立ち止まった場所は、何故かさっき来た中学校前で………





 そして、”何故か一人で立っていて僕を見ている西燕みく”がいた。



 

  ◆◇◆◇◆hinata◇◆◇◆◇




「うれしいな、僕のこと知ってたんだ……なら、ちょっと着いてきてくれないかな?」


 彼は本当に嬉しそうに笑いながらあたしを見る、どうしよう……もう逃げられそうに無い。きっと大声を出そうとしてもすぐに口を塞がれてしまうだろう。

 絶体絶命だ………



「日向さん、その人だぁれ?」



 救いの声は後ろから聞こえた。

 それは見るからに重そうなパンパンに膨らんだ鞄を持った鳳さんだった。中身、全部本かな?

 いやそんな事考えている場合じゃなかった……う?どうしたんだろう、木場景人は怪訝そうな顔をしてる。


「君、西燕じゃないのか?」


 あぁ、そっか前の名前の方しか知らないんだ、なんて中途半端な……日向性の方があたしにとっては長いのに………


「西燕…誰ですかそれは?」


 鳳さんは自分に聞かれたと勘違いしたのか木場景人にこう答えた。

 そして彼の注意が鳳さんに向いた。


 今だ!!


 あたしは素早く鳳さんと木場景人から離れ校舎に向かう。



「…………っっぱぁ!!」



 何とか気付かれずに校舎に辿り着き、止めていた息を一気に吐き出す。

 助かった………思わず置き去りにしちゃったけど……鳳さん、大丈夫かな?いやきっと彼は鳳さんには手を出さないだろう。だってそんな事をしても彼にメリットは無いから。

「さて、図書館に行かなきゃ」

 早く日向君に会ってあの物語について問い詰めなきゃ!!


「何だ日向?もう下校時刻だぞ、こんな遅くまで部活見学していたのか?」 


 そして図書室を目指し歩いていると佐倉先生が現れた。

「えっと、はい……その……今からちょっと図書室に用があって……」

 佐倉先生は見た目がガッチリしているから一対一で向かい合うと何か緊張する。


「図書室?もう閉まってるぞ、さっき鳳が鍵を閉めていたからな」


 え?閉まってる?


「あの、日向君は…図書室にいなかったんですか!?」


「あ?日向(ひゅうが)は三、四十分前に下校しているのを職員室から見たが………」


 なに………それ………


「いいから、早く下校しろよ、日向(ひゅうが)とは明日になっても席が隣なんだから」


 何か変な勘違いをしながら佐倉先生は職員用トイレに入っていった。


 赤碕さんは嘘をついたのかな?だって電話したのは二十分前位だったからその時にもう日向君は学校に残っていなかった。


「何で……何でこんな時に嘘なんてつくの?」


 タイミング悪すぎだよ…………


 その時のあたしがもう少し冷静だったら”一人”で学校から出ることは無かったと思う。

 でも赤碕さんに裏切られたかのような気持ちになっていたあたしはそれがどんなに馬鹿なことか気付いていなかった。

 その結果がこれ………



「あ…………………」



 一人で校門を出ると汗だくの木場景人が立っていた。



   ◆◇◆◇◆Real keito◇◆◇◆◇




 なんだそりゃ、どういうことだ?何で一人で出てきてんだ?さっきまで僕から逃げてたくせに。

 何のつもりだ?……まぁいっか、チャンスには違いない。


「また会えて嬉しいよ」


 彼女は目に見えて動揺していた。つまりは何の対策もしていないのだろう、嬉しい事に周りに人気は全く無い。


「……なんで、あたしを追い回すの?」


 彼女は搾り出すように僕に問う、そんなの決まってるじゃないか。


「君にはね、どうしても聞きたい事が在るんだ、例えば……相沢さんとはどんな仲だったの?とか」


 相沢さんの名前を出すと彼女は「やっぱり」と呟いた。何のことか分からないけど、どうやらあまり相沢さんの名前は効果が無いみたいだった。

「………木場さんは相沢さんのことが好きなの?」

 いやそうでもないのか、彼女はそこそこそれに興味を持ったらしくふざけた質問をしてきた。

「あぁ、好きだよ」

 すると彼女は何か納得したかのように頷く。なんなんだろう?この子の行動がいちいち引っかかるものが多いな。

「でも、付き合っては無いんだよね」

 得意げでも無く何かを確認するように彼女は僕に聞く、確かにその通りだけど好きだから付き合うって固定概念が僕は嫌いだ。


 好きだったら、そんなの一緒にいるだけで十分じゃないか。


「残念だけどね、でも仲はいいんだよ、今日も実は一緒に来てるんだ」

 その言葉で彼女から表情が消えた。

「え………?」

 よし、どうやら効果はバツグンのようだ。

「実はね、君のご両親が再婚した事を知った相沢さんは僕に相談してきたんだよ、知り合いの子にサプライズがしたいってね」

 全部たった今考えた出任せだ、だが彼女の表情を見る限り完璧に嘘だとは思ってない、もちろん半分以上は疑っているのだけれど、僕の話に耳を傾けようとしている。


「菜子お姉ちゃんが?」


「うん、だからまだ面識の無い僕がその木場……景人、だっけ?……その人の事を聞いてそうだと名乗って君に会って相沢さんの待ってる場所に連れて行こうって計画(プラン)だったんだけど、これ以上は君を怖がらせる……いや、もう十分怖がらせちゃったかな?……ゴメンね、”西燕みくちゃん”」


 彼女はしばらく俯いて顔を上げた。





   「嘘」





「へ?」


 彼女はハッキリと言い僕に体当たりをしてきた。

 もちろん二歳年下の女の子の体当たり何て男子高校生の僕に……ゴハァァァァァ!!!!


「な……んで?」


 彼女の体当たりは肘を突き出した鳩尾狙いだった。そして倒れた僕の顔を見た彼女の顔は怒りに染まっていた。


「菜子お姉ちゃんは……あたしのお母さんの旧姓は知らなかった……なのにあなたは最初からあたしの事を西燕としか呼ばなくて日向性を知らなかった。だから……今の話は嘘です、木場景人!」


 なんだと?”あのノートに書かれていたほうの名前は母親の性だった”のか?何にしても、もう彼女を口で動かす事は出来そうに無い。そして僕は押し倒されていて、彼女は立っている、今逃げられたら………



「二度と、あたしの前に現れないで……そして菜子お姉ちゃんの名前を口にしないで!!」



 彼女はそう言い放つと僕に背を向け走り出した。


 そして頭に僕の投げたナイフが当たり、その場に倒れる。


「逃がすかよ、絶対に……」


 僕は肘うちを受けた腹をさすりながら彼女のすぐそばに落ちた”開いてないナイフ”を拾う。そしてポケットにしまうと。倒れている彼女を背負い歩き出した。


「交差点か………」


 正面、畑やあぜ道が見える、最初に通ってきた道だ。

 右、山しかない、ここは調べても下見もしていない。

 左、舗装された道路にちまちまと家が見える、大体把握している。


「こっちだな」


 僕は右に歩き出す。正面に行ってもあるのは人気の失せた小学校と人形屋敷だけ、左は人が住んでいるから誰に見られるか分からない。という消去法により僕はてくてくと歩く。

「最初から………こうすればよかった………」

 歩き始めて数分後、着いた先は山道だった。とはいえ道といえるような道も無くこの時間にここを訪れる人など確実にいないだろう。


「起きろ」


 小川が流れている場所に彼女を乱暴に下ろす、すると数十秒程して身体が冷えてきたのか彼女が飛び起きた。


「寒っ!!」


 そして自身を抱きしめようとした彼女は自分の両手が自由に動かせない事に気付いた。

 僕がもう暴れられないようにそこら辺のツタで縛っておいたのだ。


「やっとだな、面倒だったよ……まったく」


 やっとコイツを”殺せる”よ


「……何で?……何でこんな事するの?」


 なんだコイツ、自分のやったことに気付いてないのか?………なんだそりゃ同情酌量の余地なしだな、せいぜい苦しませてやるさ。


「知らないわけ無いだろう?……まぁ分からないなら教えてやるよ。お前が僕の母さんにした事を……」



 ===============


 それが書いて在ったのは四冊目のノートだった。

 その内容は僕のことがあの男に知られてしまったという事だ。

 理由は不明だけどそれはとても状況が悪いものだったのだ。それは夫のほうより先に妻のほうに浮気と同時に僕がいることまで知られてしまった。おかげで夫は浮気と同時に自分の知らない子供の事を責められて逆上し、二人の間に決定的な亀裂が生まれてしまった。

 そして離婚するのも時間の問題だった。それならいい、別に僕には何の関係も無い事だから、その夫も僕の母さんを責める事はしなかった。


 そう、その”男”は


 問題は、その後僕の母さんの元に訪れた一人の少女………西燕みくだった。


 そいつは両親が離婚した原因を僕の母さんだと思い込み、僕の母さんに……何度も……僕の母さんが自殺を決意しかけるまで”責め続けた”んだ。ノートには一部、その言葉が書かれていて何度も母さんは自分の事を責め、何度もナイフを手にしていた。


 五冊目のノートには西燕みくとその両親に対する懺悔の言葉で埋められていた。


 僕は……絶対に許せなかった……母さんにした仕打ちを……西燕みくを………


 ===============



「……分かるか?一人の子供がただ気晴らしのために悪く無い人を罵り、心が壊れかけるところまで追い詰められた人の想いが…」


 僕の話をただコイツは俯いて涙を流しながら聞いていた。どうやらその時の事を思い出しているのか、それとも僕にこれから受ける仕打ちに対して怯えているのか。



「……ごめ……ん………なさいっ………ゆる………し…て…………」



 なんだよそれ、何だよ…ふざけんなよ……そんな、そんな……






「そんな…勝手な………勝手なことをっっっっ言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 絶対に許すかよ!


 僕は開いたナイフを両手で持ち、振り下ろした。



   ◆◇◆◇◆hinata◇◆◇◆◇



 二年前までのあたしの家は壊れていた。

 家事をしない母親に家にまともに帰ってこない父親、あたしは二人がとても嫌いだった。いやそんなもんじゃない嫌悪していた。よくニュースでやってるDVとかは無かったけど、だからといって幸せとは程遠い家庭だった。ご飯を食べる時も皆別々で、三人揃うことなんてまるで思い出せないくらい家族全員が関わる事を拒絶していた。もともと両親はビジネス上の都合とやらで結婚したらしい、愛が無ければここまで冷めた家族になるのかとどこかあたしは小学生ながら達観していた。あたしを生んだのも何でも世間体を意識しただけらしい。そのくせご近所とは愛想良くも無い。とても中途半端な二人だった。


 だから、だから嫌になっちゃったんだ。


 嫌になって、耐えられなくて、苦しくって、辛くって………仕方なくて……あたしは菜子お姉ちゃんに頼って……………




 二人を、この家族を終わらせたんだ





 菜子お姉ちゃんはとてもお金持ちの家族で探偵を雇えるような家で、家になかなか帰ってこない父親の事を調べてもらった。そして木場という女の人に行き当たった。

 その人と父親との関係は探偵さんの調べから浮気だと言われた。小学六年生のあたしでもその意味は分かった。それが……とてもいけないことで


 あの家を終わらせられる鍵になると


 菜子お姉ちゃんは何度もあたしを慰めてくれた。でも、それでもあたしは菜子お姉ちゃんの言葉が耳に入ってこなかった。ただ頭の中にあったのは、父親の浮気をどう利用するかだった。


 結果、思いついた方法がお母さんに浮気相手のことを知らせるという事だった。

 もちろん直接言う訳にはいかないし、間接的に伝えようにもどうすればいいか分かんない。だから探偵さんに教えてもらった父親と浮気相手が出会う場所をピンポイントに母親を連れ回す事にした。簡単にいってるけど、実際は家事すらしない面倒臭がりの母親はなかなかあたしと一緒に出かけてくれず、学校で必要なの物で高価な買い物があると言ってようやく引きずり出せた。家の生活用品の買い物はほとんどあたしがしていたんだ。

 そして何とか粘って二ヶ所だけ行くことが出来た、そして……タイミングよく(悪くかもしれない)父親と別れるその浮気相手をあたしと母親は目撃した。

 さすがに面倒臭がりの母親でもそれは見過ごせなかったらしくその”浮気相手”の方を追った。そして決定的な場面を目撃する。


 その浮気相手が子供と会っている所を


 その日の夜、父親は早く帰ってきた、どうやらなにか母親が仕組んだのだろう。

 そしてその日あたしの覚えている限り初めての三人が揃った夕食になり、そして………


 この家族が完璧に壊れた。


 あたしは嬉しかった。やっと、やっとこの家から開放されるんだと、涙が出た。

 そう、あたしは幸せになるはずだったんだ。


 あの引越しまでは………


 父親と母親の二人は離婚した、あたしのがんばりの成果だったとその時は思った。

 少しばかり誇らしげな気分になっていた二人が言い争っている内容も気にならないくらい。いや、実はちゃんと聞こえてて、分かっていたんだ、二人が


 あたしを押し付けあっている事に


 二人共あたしを引き取る事を拒絶していたんだ。別にこの二人に愛されてる実感は無かったけどこの有様は何なのだろう?と嫌気が差した。結局は浮気をしていた父親の方ではなく母親の方に引き取られた。

 そして離婚した後あたしは引っ越す事になる。

 何故なら離婚したとなると”世間体が悪い”らしい。そんな下らない理由であたしと菜子お姉ちゃんは会うことが出来なくなった。

その時、都合のいい部屋があったことと父親から渡された慰謝料と母親の希望で都会に引っ越す事になった。


 来るはずの幸せなんてなかったんだ、あたしにあったのは前よりも酷い、菜子お姉ちゃんとも会えない日々だった。その悲しみから生まれた怒りは父親でもなく母親でもなく、木場という浮気相手だった。

 あの女がいなければ菜子お姉ちゃんと会えなくなることはなかったと、その時のあたしは本気で思っていた。

 そして離婚から引っ越す間に探偵さんから聞いた家に何度も行き、その都度その女を責め続け、恨んだまま、遠い都会に引っ越した。

 


 あたしは自分が引き起こした事を他人のせいにして、そしてその人は、危うく自殺するところだった。



 なんて………どうしたら受け入れられるの?



 あたしは、目の前の振り下ろされるナイフを虚ろに眺めた。






「ハァァァァァァァァァァアアア!!!」





 ………あれ?誰の声………………


 うっすらと目を開けると、抜き身の刀を振り切った男の子が木場景人の後ろに立っていた。



   ◆◇◆◇◆miyako◇◆◇◆◇


この刀『東方美人』の効果は予想以上だった。

僕は目の前に木場景人と倒れている日向さんを視認する。


よし、間に合った!


 ===============


「いい、この麗刀『東方美人』はね、この世の全て……物に限らず、あらゆるもの、そう…たとえ幻想すらも斬れて、そして持ち主が斬りたいものだけを斬る刀なのです」


 ………何だそれ?どんな裏技(チート)だよ。


「……そしてこの鞘の『UJI』に収めると斬ったものが元通りになる、私のマスターが創った中で最初の作品なのです!!」


「マスター?」


 誰だろう?そんな魔法使いみたいな存在はユウキとかがりさんと僕で十分だって………あ、未来君もか。


「失礼、マスターについては何も教えれません、教えても意味がありません」


 確かに要らない情報だ、今の所は。


「何でそんな物を僕に渡すのか、と聞いても答えてくれないんだよね?」


「それくらいなら答えますよ、日向未来の物語を悲劇にしない事がマスターの目的なのです」


 予想に反してあっさり答えてくれた、何も教えてくれないのではなかったのかな?。まぁ気にしないで置こう、だったらそのマスターという人とは敵対しないですみそうだ。


「それでは、ここら辺でお(いとま)させていただきますね、チャオ!!」


 するとその少女は夕闇にに溶けるように消えた。一体何者なのか気になるけど今は詮索している場合じゃない。


「麗刀『東方美人』……か、本当に使えるのかな?…これ」


 でも彼女の言ったとおりの効果があるならば、この上なく便利な道具だ。


「えーと、今から走っても山道には間に合わないだろうし、……試してみるか」


 僕の予想では人形屋敷に木場景人が現れて、その後僕が物語を頭に叩き込むまで十分くらい掛かっていた。その間に彼は中学校まで走り、日向さんと接触した、その後人気の無い山道へと連れ込んだのだろう。

 これは中学校と人形屋敷周辺に張ってある糸から送られてきた音を頼りにした情報だ。ユウキは人形使いであり、糸の扱いにも長けていて、念のために張り巡らせていて、その情報は僕にも聞きたい時に聞く事が出来る。

 僕が屋敷から出たときに糸から送られてきた時の情報ではまず二人が中学校ですでに接触していた、そして急に日向さんの声が途切れた時に、僕は彼女と出会う、そして今は……



『そんな…勝手な………勝手なことをっっっっ言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



 ッッ!?間に合え!!


「今、止めてやる」


 すぐさま東方美人を抜き、斬るものをイメージする。


 ===============


「ハァァァァァァァァァァアアア!!!」


 成功だ!

 僕がイメージしたものは”自分の居場所から木場景人がいる場所までの距離”だった。

 ……本当に、何でも斬れるんだな……

 目の前にはナイフを振りかぶった木場景人と日向さんが倒れている。そして返す刃で僕は木場景人を斬りつけた。

 イメージするのは、木場景人の”殺意”のみ





「止まれェェェェェェェェェェ!!」





 東方美人は木場景人を一切傷つけずにすり抜ける。




 そして………木場景人の振るったナイフは止まらなかった。




 ……それも当たり前だろう、殺す気が無くなっても”一度力を込めて振り下ろした腕が途中で止められる訳が無い”から。


 そして、刀を振り切った僕がまた斬りつける余裕なんてあるはずも無い、完全に……斬るものを間違えたんだ。


 ナイフは無情にも日向さんへと振り下ろされ、突き刺さった。


 『一体の人形』に


「何……だ?どうなって……お前は……?」


 木場景人は自分が振り下ろしたナイフが何故か日向さんではなくて見知らぬ人形に突き刺さっていて、さらに僕に気付き、混乱していた。


 その隙に僕は木場景人の”意識”を斬った。

 斬りつけられた木場景人はその場に崩れるように倒れる。


「ありがとう、助かったよ…ユウキ」


 そして糸に向かって……糸を伝って人形を送ってくれたユウキに言う。


『情けないわ、この山に捨てられていた人形が無かったらその子死んでたわよ?』


「あぁ、面目ない」


 不法投棄はダメだけど今回ばかりはそれに助けられた。



「楠木………くん?」



 そして頭にナイフの刺さった人形を乗せた日向さんが僕を見つめていた。

 さて、これからどうしたものかな?

 今回はやたら複雑だ、いっそこの二人の今回の事件に関する記憶を東方美人で斬ってしまうか?

 いやダメだ、鞘に収めたらまた記憶が戻ってしまう。こんな危ないもん抜き身で持っているわけにはいかない。


 とすると………………


「ねぇ、楠木くん!!」


 横から大きな声がして思考が中断される、何だよ、ちょっと静かにしていてくれよ……ってあれ?


「日向さん……なんて格好してるの?」


 倒れている日向さんをよく見ると部分的に濡れた制服に両手を縛られているという、何やら如何わしい姿だった。


「好きでしてるんじゃない!!いいから早くほどいて!!」


 さすがに初夏の梅雨の季節とはいえこんな格好だと風邪をひいてしまうだろう、ささっとツタをほどき……ええい面倒だ、斬っちゃえ。東方美人で水気とツタを斬る。その際に日向さんは僕が東方美人を振りかぶる姿を見て「ちょ、何する気!?」とかうろたえていたけど気にしなかった。



「どうなってるの?」



 日向さんは身体が自由になると真っ先にそんな質問をしてきた。とはいえ僕はその質問がどれに対しての疑問かは分からないのでとりあえず名乗る。


「僕は楠木都、十三歳、趣味は野鳥観察です(嘘)」


「ずいぶんとアウトドアな趣味ね……ってそんな事聞いてない、ふざけないで」


 怒られた、当然だろう。

 でも少し彼女は落ち着いたみたいだった。

 目論見どおりだ。


「じゃあ、何が聞きたい?答えれる範囲で答えるから、できれば一つずつ」

 木場景人が起きだす気配は無い……ってあれ?なんか足にくっついてる……まさか……僕と木場景人の間の距離が斬られていて、存在しないから離れられないのかな?

 改めて凄い刀だな東方美人(これ)


「…じゃ、最初の質問、なんで楠木くんが突然現れたの?」

「ノーコメント」

 日向さんはジトッとした目で僕を見る。でも僕だって真実を言っても日向さんが混乱するだけだと思うから言わない。意地悪じゃなくて優しさなんだよ、伝わらないだろうけど。

「二つ目……その刀は何……ってこっち向けないでよ!!」

「ごめんごめん…ええとこの刀については、ノーコメント」

 通りすがりの女の子からもらったんだ、とは言えないよね。日向さんは諦めたように目を伏せた。




「………最後の質問……日向くんの書いた小説って、なんなの?」




 あぁ、やっぱり気付いちゃったか、仕方ないな、元々この物語はイレギュラーの連続だったから。

 まず登場人物である西燕みく、日向さんが物語を読んでしまった。

 そして舞台に人形屋敷をしようして、本来有り得ない、魔法が関わってしまった。

 結果、物語から大きく外れた歪な現実が生まれた。


 未来君の書くあの物語に疑問を持ってしまったのならもう無関係ではいられない、それは僕にはどうしようもない事だ。これをきっかけに日向さんが未来君の小説に積極的に興味を持ってしまうだろう。そして現実とリンクしている事に気付いている日向さんはどうするか想像もつかない。

 だから……


「未来君はね、現実に起こる悲劇を書いてるんだ……自分でも気付かずにね」


 正直に言うしか無いのだろう、残念ながら。

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