カウントダウン、カントリータウン
「あたしはつぶ餡派かな」byみく
◆◇◆◇◆hinata◇◆◇◆◇
「みくー、元気してる?」
あたしはベットに寝転がりながら引っ越す前の学校の友達と電話していた。
「してるよー」
明日から転校生としてのあたしの学園生活は再スタートする、別に前の学校でトラブルがあった訳ではないけど、子供というものは誰だって親の都合とやらに引っ張り回されるものだから。
あたしの両親は二年前に一度離婚していて(理由は聞かされていない)、その間あたしは小学校が変わり、仲の良かった友達と離れて、一年と一緒にいなかった同級生と卒業式をする事になった。
だいたい二年も離婚していたくせにいきなりまた再婚するだなんて勝手すぎる!そのせいでまた両親は同居する事になり、あたしはようやく住み慣れた土地から、全く知らない土地に住むことになった。最初に住んでいた場所、離婚した後の住居、再婚後の家、全てが違っていたから。
「急だよねぇ、みくの両親って一度離婚するまで仲良かったの?」
「ぜんっぜん良くなかった。喧嘩ばっかりで家事はしないし常に互いの愚痴ばっかり言ってて。何で結婚したの?って聞きたいぐらい。なのに今では気持ち悪いくらいバカップルなの、全く、どうかしてるわ」
「うわぁ、それホント?」
「うん、マジ」
やっぱり持つべきものは本音の話せる友達だ。こうして話してるだけでも寂しくなくなる。
「電話してくれてありがと、また電話してね」
ケータイを枕の横に置いて明日に備えて眠ることにした。
明日はいい日になるようにと祈りながら。
===============
悲しい夢を見ていた、そんな気がする。目を開けると何故だか涙が零れた、やっぱり寂しいのかな?あたし。
「こんなんじゃ、駄目、かな」
両手で自分の頬を挟むようにバチンと叩く、そして気合を入れる。両親が離婚する前からあたしはこうして自分で自分に活を入れていた。
「よしっ!何でもかかって来い!」
その三十分後、あたしは迷子になった。
~三十分後~
「もう、学校なんて見当たらないじゃない!」
自宅を出発して十分間、父親から『五分で着くよ~』と渡された手書きの地図を見ながら嘆息する。
「何が、五分で着くよ」
周りには中途半端に舗装された道と田畑と山しか見えない、手元には小学校低学年が書いたような紙切れが一枚あるだけ、別に五分で着くなら、少し歩けば見つかるだろう。と高を括っていたんだけど、学校どころか、家一軒見つからない。って道行く人すらいないし!
「どこなの、ここ」
だんだん不安になってきた、あれ、ここまでどうやって来たんだっけ?
振り返ると目の前と同じような景色だった。当たり前だ。
来た道戻った方が良いかな?
~五分後~
「なんで戻れないの!」
半分パニックを起こしたあたしは一人で叫んでいた。誰もいない事を確認するために。
って来た道を戻っていたハズなのに何故か山の中にいた、ホントになんで?
「朝から騒々しい人ね」
ヤバッ!?聞かれてた?……じゃなくて、やっと人が見つかったぁ。
「見慣れない人ね、この山は私有地だから勝手に入られては困ります」
え?そうなの?
「まぁでも看板も壊れちゃってるから、別にいいんだけど」
その人はふっと小さく微笑んだ、きれいな人だな、あたしと同じ学校の制服を着てるから歳はそんなに離れていないと思うんだけど、なんていうかすっごく大人びていて年上にしか(こういうと失礼かな)見えない。なんていうか生徒会長でもやってそうな人。
「あ、すいません、あたしここに引っ越したばかりで迷っちゃて……その、ごめんなさい」
するとその美人さんは穏やかな顔をする。
「だから、別にいいんだって、それより一緒に学校行きましょう。登校途中なんでしょ?」
美人さんはあたしの制服を指差しそう言った。
「はい、ありがとうございます、助かりました」
よかったぁ優しそうな人で、もしこんな山の中で出会った人が中年男性だったらと思うと寒気がする。
「赤碕静、よろしくね転校生さん」
へ?
一瞬何を言ったのか分からなかったあたしは数秒考えてその人の名前だと分かった。
「はい、西燕……じゃなかった日向未来です、よろしくお願いします、赤碕さん」
あたしが名乗ると赤碕さんは少し考えるような仕草をした。そうした仕草もサマになっている。
「日向さんね、どういう漢字を書くの?」
「影日向のひなたに過去未来の未来でみくです」
説明すると何故か笑われた、そんな可笑しな名前なのかな?
「ごめんなさい、クラスにひゅうがみらいっていう日向さんと同じ漢字の男子生徒がいてね、同じクラスになったら可笑しいなと思って」
「う、それはちょっと嫌ですね」
絶対からかわれるネタになるなそれは。
「でも彼、ちょっと変わってるけど面白い人だから」
そう言いながら赤碕さんはニコッと笑った。
その時の赤崎さんが猫をかぶっていたと知るのはもうちょい後の事である。
山を降りてから五分ほどでやっと周りの景色が町っぽくなってきた。
あたしと赤崎さんはこれまでの道中に部活や学年、クラスの雰囲気などの話で盛り上がった。そこで一番驚いた事は、なんと赤碕さんとあたしは同じ学年だという事だった。
絶対上級生だと思ったのに。
「日向は初対面の相手に対して買い被りすぎるんじゃない?」
「そんな事ないですよ」
ファーストコンタクトから五、六分であたしは赤碕さんとケータイの番号とメアドを交換していた。
どうやらこのままいけば、ここの学校生活も安泰かな。
なんて一安心していると
「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
目の前にないているランドセルを背負った女の子が現れた。
田舎町らしく朝なのに人通りがあたし達とその子しかいない。
だったら仕方ないよね。
「どうしたのかな?お姉さんに話してくれる?」
あたしはその子をみて三秒後には話しかけていた。
そんなあたしに赤崎さんは軽くあたしの肩を叩いた。
「日向、遅刻するよ」
……どうやらあたしは赤碕さんに対するイメージを改めなければならないみたいだ、小学生の子(見た感じ低学年)が泣いているのに「遅刻するから」と見てみぬふりをするなんて……
「赤崎さんは先に行ってください、この子はあたしが面倒見るんで」
そう言うと赤崎さんは笑い出した。
「日向、何言ってるの?貴方はこの町の地理に疎いでしょう?」
それは、もっともだけど、それでも見捨てる気なんて無い、だってあたしにも………助けてくれた人がいるから。
「でも赤碕さん、一人より「三人ね」ふた………え?」
喋ってる途中に言われたのでよく聞き取れなかった。
「都会から来たって言ってるからてっきり現代人ッぽい人かと思ったけど……お人好しなのね、あぁ見誤ったな、まさかこんな面倒臭い人だったなんて」
さっきまでとは打って変わって平坦な口調になった赤崎さんが捲くし立てた。あれ、もしかしてこっちが素?
「あの赤碕さん?」
混乱したあたしは意味も無く名前を言う。そんなあたしをキッと睨みつけ
「その子はあたしが面倒見るわ、遅刻になるけど同級生の子が……学校に行こうとして山に入っていくような方向音痴の人が道も分からない土地で小学生を連れまわして、もし危険な目にあわせたり、怪我でもさせたら夢見が悪いから」
完璧な優等生発言でした。
そしてあたしのプライドはズタズタにされました。
なんだろう?さっき赤碕さんが遅刻すると言ったのもあたしが相手しても遅刻するだけで解決しないと思っての言葉だったのかもしれない。
つまり
「ありがとうございます赤碕さん!」
なんて真面目で頭のいい人なのかな、さっき心の中で少しでも軽蔑して本当にごめんなさい!!
「はいはい、急ぐわよ」
そう言うと赤碕さんは泣き止み、あたし達を不思議そうに見ていた女の子に話しかけた。
その女の子は拙い口調で説明を始めた。
どうやらその子はいつも兄と一緒に集団登校の集合場所まで行っていたらしいけど、今日は兄が風邪で休んでいて一人で集合場所に向かったんだけどいつも兄の後ろを付いて行っただけなので迷ってしまいようやく着いた頃には他の人たちは出発してしまっていた。
一人で学校へ行った事が無いその子は困り果てて泣いていた、という訳だ。
ちなみにこれだけの話を聞きだすのに十分掛かかりました。その時の赤碕さんの粘り強さには何か母性を感じました。
そしてその子を小学校まで案内して(赤碕さん、女の子、あたしの順)ようやくあたし達が中学校に到着した頃には……
「ま、遅刻よね」
赤碕さんがうんざりしたように呟く。
えっと、あたしが悪いのかな?でも雰囲気的にそうだから謝っておこう。
「ごめんなさい、赤碕さん」
「別にいいけど、ほら職員室に案内するから」
赤碕静、あたしが最初に会った同級生はどこまでも優しい人でした。
◆◇◆◇◆keito◇◆◇◆◇
「けーいとー、ケータイ返せー」
一限目の終了チャイムで僕は教頭先生の説教から開放されて、ようやく教室に戻ってきた時の第一声が、善之助のそんな言葉だった。
「あぁ、ありがとな善之助、お蔭で…僕は…僕はぁぁ……ムグッ!」
喋っている途中で口の中にあんパンを突っ込まれた。本日二度目だ。
「ふぁんでふぃふぃありくふぃひひふぁうふっふぉふふぉは(何でいきなり口にパン突っ込むのさ)?」
「何言ってるか分からんけど、今の流れから次に突発性絶叫症候群がくると思ったから」
叫ばないよ、とは今まさに叫ぼうとしていたので断言できない僕だった。むぐむぐ…あ、これはこし餡だ。
ゴックン
「お前はエスパーか」
僕の行動を察知し、すぐさまあんパンを用意する親友にちょっとした恐怖を感じる。
「アホ、お前が分かりやすいだけだっての」
「まぁ、不本意だけど僕が分かりやすいという事はおいといてだ、何でそんなにあんパンを持ってるの?」
「それは……いや言わないで置こう」
何でだよ?と聞こうとして止めた。確かにどうでもいいことだ。
「そうかい、じゃケータイ返すよ、ありがとうな、お蔭様で僕にも………何してるの?」
善之助はケータイを受け取るとすぐに何やら操作を始めた。
「お前………やられたな………」
かと思えば何故か凄く哀れむような目で僕を見た。
「やられた?何それどういう意味さ?」
僕の言葉に善之助はそっか、知らねぇのかと呟く。
「メールってのはな、なりすましってのが簡単に出来るんだ」
「なりすまし?」
なんだそれ?どんな漢字書くんだろう『成守馬士』かな?
「あのな、このメアドはまずこのケータイに登録されてない、つまり俺とは関わりの無い人物だ、そしてそいつが相沢と名乗った。ここで問題だ、果たして本当にそのメールを発信したのは相沢本人でしょうか?」
どうゆうこと?よく分かんないな。っていうか説明まどろっこしいよ。
「そりゃ本人でしょうよ、相沢って名乗ってるんだから」
「………お前、将来的にケータイ持ったら大変な事になりそうだな」
「もう、結局何が言いたいのさ?」
いい加減怒るよ?
「だからな、俺のメアドを知っている奴が相沢になりすまし……つまりは違う奴が勝手に相沢と名乗ってるだけだって事だよ」
な、何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
「つまりはその成守馬士って奴が僕をからかうために相沢って名乗ったのか!?」
「あぁ、お前の言ってるなりすましは何かイントネーションおかしいけどな……まぁそんな事が出来るのは大体見当がつくんだけど」
と言って善之助は教室でも最後尾の席で寝息を立てている悠我を指差した。
「ケータイでメアドなんて二、三分あれば変更できる、そうすれば登録されているはずもねぇ、元々俺のケータイをお前のスラックスに入れたのも悠我が面白くなるからって言うから、そしたらこんな笑えない冗談を用意してたなんて………」
「ゆ、許せねぇ………」
よりによって相沢さんだと名乗るなんて……………これは冗談にしては性質が悪い、いや、悪意しか感じない!!
「そうだな、これはちとやり過ぎだな、メアドだってNako.Miku.Memory@………ってテキトーだし」
ふん、十分に楽しんだか?悠我、だけどこれまでだ………今から服をひん剥いて廊下に晒してやる………
「木場君!戻ってきたんだ、良かった。でも昼休みにはちゃんと来てね、待ってるから!!」
…………さぁ今から………あれ?
「なぁ善之助、今の相沢さんだよな?」
隣に立っている汗をダラダラと流す友人に聞く。
「さぁ、幻覚幻聴じゃないか?」
確信犯か!
「そうか、見間違い、聞き間違いかぁ~……って納得すると思う?僕にはたった今、さっきのメールのやりとりが無かったら有り得ない事を言われたんだけど?」
汗を流し続ける善之助はこちらを見ようとしない。
「これはさっきのメールが成守馬士では無かったという事じゃないかな?」
汗を(以下同文)
「つまり、善之助はあれだけ本人ではないと煽っておいて見事に見当違いだった………てことかな♪」
なんて言いながら善之助の前に、回りこむ。
「てへっ☆勘違いだった♪ゴメンネ!」
舌を出しながらコツンと自分の頭を叩き、どこぞのマスコットキャラのポーズをとりやがった。
「何だそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
素直に相沢さんだった事が喜べない僕だった。
ま、一波乱あったけど運命の昼休みまで残り三時間。
◆◇◆◇◆hinata◇◆◇◆◇
市立繰賀中学校
それがあたしの転校してきた学校の名前だった。繰賀っていうのはこの町の名前。
新校舎と旧校舎(木造)と体育館にプールのある中々大きな(想像していたより)学校だった。
「え?佐倉先生いないんですか?」
今は職員室で赤碕さんが入り口付近のデスクに座っていた先生に事情を説明していた。そこで判明した事は、あたしと赤碕さんは同じクラスであるということと担任の先生がもうクラスに向かっているということだった。
「やった、赤碕さんと同じクラスだ!」
「そうねークラスメイトが増えたーやったーわーい」
物凄く不服そうな赤碕さんだった。理由は、なんだろう?
元々クラスが一学年二クラスなので確率的には二分の一だったんだけどね。
「あ、でもそのクラスには日向未来って男子生徒がいるんですよね?どんな人だろう?」
「いつも原稿と睨めっこしてるただの根暗よ」
なんかさっきと言ってること違う………そしてすごくテンション低い、出会ったばかりが嘘のようだ。
「ほらここよ」
辿り着いた教室の前で赤碕さんが立ち止まる、そして中からタイミングよく
「なんだ、女の子か…」
……どうやらあたしはとある男子生徒からは歓迎されていないみたいだった。
女というだけで………
「変態の言う事は気にしないで」
赤碕さん……やっぱり優しい……
「お、来たみたいだな、よし入れ」
ドアの向こうから成人男性の声がした、きっと担任の先生だろう。
赤碕さんはドアを開けて中に入る。続いてあたしも。
「ん?何で赤碕までいるんだ?」
教室に入ると約三十人が一斉にあたし……じゃなくて赤碕さんを見た。
「登校してくる途中で迷子になってるコイツの面倒みながら来たんです」
と言いながらあたしを指差した。
うぅごめんなさいぃ 方向音痴で……
すると担任の先生(凄くマッチョだ、体育教師かな?)は不思議そうな顔をした。
「時間になっても来ないから何の演出かと思っていたんだが……迷子だったのか」
ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
演出?どういう発想なの?それってよくあることかな?
「「「まぁそう思うよねぇ」」」
クラスのほぼ全員が首を縦に振りました。どうやら常識のようです。
ですが一人何か言いたそうな生徒がいました。
きっと彼はあたしの仲間です。
「はい、これが家の敷地内に居たので仕方なく案内してきたんです」
これは赤碕さんの弁、ホントにスミマセン。
「ごめんなさい、赤碕さん」
あたしさっきから赤碕さんに頭下げっぱなしだな、クラスの人たちからはどう思われているんだろう?
ん、あれ?赤碕さんと先生が何やら口論を始めました、あたしの紹介は?
「あの、自己紹介……してもいいですか?」
おずおずと聞くと先生が今まさに気付いたようにあたしを見た。
「ああ、スマン、とりあえず赤碕は席に座れ、改めて今日から二ーBに転校した日向未来さんだ」
ようやく自己紹介が出来る、思えばここまで長い道のりだった……山行ったり、小学校行ったり……。
感慨深い気持ちを振り払いあたしは教壇の上に立つ。
「親の事情でこちらに引っ越してきた日向未来です、よろしく」
そう言った途端にクラスがざわついた。理由は恐らくこのクラスに”彼”がいるからだろう。
「いやぁ先生もビックリだ、まさか日向と同じ漢字の名前の奴がこのクラスになるなんて」
何か白々しいな、面白がって同じクラスにしたんじゃないかな?
そしてクラスの注目の的になっている彼、日向未来君がニヒルに笑い、口を開いた。
「ネタだな、三流の、俺だったらもっと面白く出来る」
言ってることの意味が分かりませんでした。どうやら赤碕さんの言っていた『変わっている』は合っているようです。
「席はそうだな、楠木から一つずつ後ろに下がれ」
先生に指名された生徒は先ほど何か言いたげな顔をしていた男子でした。そしてその隣の席は……
「で日向は空いた席に座れ」
日向君の隣でした。
「ふぅ、四流のネタだな」
やはり、言ってる意味が分かりません、ですがこれからこの学校で長く接する事があるだろう彼とは良い関係を築いておくべきでしょう。
「よろしくね、日向君」
「よろしく」
これがあたしと日向君とのファーストコンタクトでした。
そして初授業は数学です。
もうドキドキですよ、なんたってこれから会う先生は誰も知らないので。
数学の先生どんな人だろう?男性かな女性かな?
わくわく
がらがら~
来た!!えぇと体格は大きめで男性で……って
「佐倉……先生?」
あれ?佐倉先生って体育の先生じゃないの?ジャージ着てるし、ムキムキだし。
「どうした、ひなた、先生がどうかしたか?」
あたしが戸惑っていると後ろからノートの切れ端が見えた。
『佐倉先生は見た目体育教師だけどれっきとした数学教師なんだ』
えぇぇ、そうなの?後ろを向くとあの何か言いたげにしていた彼だった。
仲間の彼が言う事ならきっとそうなのだろう。
「いえ、髪型が素敵だな……と思って」
とりあえず適当に答えた。ちなみに先生は角刈りで髪をいじるような余裕は無い。
「そうか?いやぁ都会から来たひなたに言われると照れるな」
どうやら満更でもないようでした。クラスの皆は忍び笑いをしています。ごめんなさい先生。
そして新しいルーズリーフを一枚取り出して『教えてくれてありがとう』と書き、手紙折りにして後ろにまわした。
その後、幸いにも教科書が余ってたらしく、あたしはすぐにその教科書を受け取り、特に授業内容にも取り残される事も無く、順調に一限目が終わりました。
そして休み時間にはお約束の………
「ひなたさんって前はどこに住んでたの?」
「趣味と特技は?」
「好きなアーティストは?最近流行のKーPOPとか?」
「みくって呼んでいい?」
「今週の土曜はヒマ?一緒に遊ばない?」
「彼氏とかいたりする?遠距離恋愛とか?」
「このクラスってどんな感じに見える?」
「どこの部活に入るの?よかったら陸上部に来ない?」
「こら、今は質問タイムでしょ、勧誘しないの」
「もぅ……委員長のケチ」
「ねぇ、さっきの佐倉先生に言ったことって何?超面白かったんだけど?」
「赤碕と今朝なにか話したの?」
「ねぇ君、実は男の娘だったりする?」
質問攻めが待っていました。
ホントに皆同時に言ってくるから返す間が無い、なのに次々と質問されるから最初何を聞かれたか忘れてしまう。そして最後の人は何なのかな?
「えっと前に住んでいたのは………」
こうして半分も答えられないうちに休み時間は終わってしまいました。
~~~~~~~~~~~~
「あたしはつぶ餡派かな」
あれから休み時間のたびに質問攻めされ、四限目の終わった後にやっと全部の質問に答えきった。
つ、疲れた~
今は昼食の時間で皆ご飯を食べてる。この学校には購買があるらしいけど、あたしはお弁当なので利用する事は無いだろう。
そして質問の合間に小耳に挟んだんだけど赤碕さんの家はこの町一番の大きな家でこの学校では知らない人はいないらしい。
そりゃあ山ひとつ(二つ以上あるかもしれないけど)所有しているのだからお金持ちだと思っていたけど、すごいお金持ちだったんだ。
そんなことを考えながら机にお弁当を広げていると、視界の端に原稿用紙が見えてさらに、見覚えのある単語を見つけた。
そういえば隣の席の日向君と後ろの席のええと……楠木君(だっけ?)がずっと自作の小説について話し合っていた。
「ねぇひゅうが君、その原稿用紙って何が書いてあるの?」
あたしが思い切って話しかけると日向君はこちらを見もせずに言った。
「これは俺の夢だ」
なんでしょう、この訳の分からない返事は
「夢って……どうゆう事?」
「俺は、文士になるんだ」
ブンシ?聞き慣れない言葉ですね、作家のことかな?
「えっと、じゃあこれは小説なのかな?」
原稿用紙にはチラッと見た限り焦っている男子高校生が何か言い訳している所みたいだ。
「あぁ、そうだけど」
やっぱりか、だったら
「読ませてくれない?」
あの人の名前があるんだもん、内容が気になって仕方ない。
「どうぞ、まだ駄文だが読者が多いに越した事はない、まだ未完だけどな」
そう言うと日向君はクリアファイルから原稿用紙を取り出してあたしに渡してくれた。
「ありがと」
さぁとりあえず目の前のお弁当から片付けなきゃ!
◆◇◆◇◆keito◇◆◇◆◇
「よくやったな景人、昼休みに二人っきりなんて予想以上だよ」
二限目終了後に僕はトイレでのメールのやりとりについて報告していた。
どうやら相沢さんにメルアドを教えたのは悠我だった。
「にしても、ありがたいよ、もうなんと呼べば良いか分かんないね」
「だったら俺のことは、へタレのサポーターYU☆U☆GAと呼べ」
「それは断る、という呼ばれたいのか?」
「絶対嫌だ」
即答だった。一体何が言いたかったんだよ?謎の多い奴め。……どうせなら呼んでやればよかったかな?機会があれば呼んでみよう。
「そんな事より今は昼休みの事が問題だろう」
仕切り直すように悠我が言う、そうだよな、でも何でコイツの方が僕より積極的なのだろう?
「なぁ悠我、どうして僕の恋路にそこまで協力的なの?」
すると悠我はきょとんとし、数秒考えてから小さく頷いた。
「多分、上手くいきそうにないからお膳たてくらいはしっかりしてやろうかな、と思ってさ」
なんだそりゃ、僕が玉砕する事前提なのか。とはいえ怒る気にはならない。それは僕のルックス、成績、経済力、全てにおいて一般並みかそれ以下なのだ(得意なのは体育くらい)。それに引き換え彼女は、美人で人徳もあり、成績も上の中といったところだ、さらにピアノまで弾ける。いわゆる上流階級の人で雲の上の存在なのだ。そんな彼女と一緒の高校に通っていられるのもこの学校は就職率が高く、母さんが無理して入れてくれたから。
「そっか、でもそうなっても僕は悠我がしてくれた事は忘れないよ!」
「別にそんな感謝されてもな、こっちも楽しませてもらってるからそれでドッコイってことで」
「謙遜しないでよ、まるで悠我が良い人みたいじゃないか」
普段から人を戸惑わせて喜ぶ節がある彼には似合わない台詞だ。
「だったら今度パシって来てくれよ、アメリカまで」
「何を買いに行けばいいんだよ?」
「うーんホットドック?」
「駅前に売ってるよ!」
そんな会話で二限と三限の間の休み時間が終了した。
昼休みまで残り二時間。
~~~~~~~~~~~~
「移動教室だったのか」
次の授業は地学だった、教室に遅くまで残っていた僕と悠我は駆け足で実験室を目指す。
「すっかり忘れてたよ」
チャイムは二十秒ほど前に鳴り止んでいて辺りには二人分の足音しかしない。
思いっきり遅刻である。全く、今日だけで一体いくつ単位を落としているのだろうか?
「おい待てや、木場と平地ぃ!」
………後ろから今朝お世話になった教頭先生が追いかけてきました。
「悠我!」&「景人!」
「「ここは任せた!!!」」
「はぁ?何言ってんだ悠我、僕は今朝もお世話になってんだ、ここはお前が僕の盾になるとこだろ!?」
「ほざけっ、今こそ俺にさっきの恩を返す時だろうが!」
なんてこった、悠我がこんな奴だったとは……見損なったぜ!……ん?あれは………
視界の隅でそろりそろりと動く同級生がいた。
「ってお前も遅刻かよ、善之助!!」
気付けば追いかけっこをしている僕たちの後ろで気付かれないように忍び足をしていた善之助が全身で何バラしんてんだよ!とジェスチャーで訴えてくるが、とき既に遅し、教頭は振り返り、善之助の存在に気付いた。
「掌、貴様もか……」
「ちきしょう!景人ぉ恨むぞぉ!!」&「でかした景人ぉ!」
僕達二人は教頭に捕まる善之助を確認した後実験室へと駆け込んだ。
そう僕たちは勝ったのだ、犠牲は出たが、それが戦いというもの、仕方のない事さ……
「おいそこの二人、教頭が呼んでるぞ」
だけど辿り着いた実験室で待っていたのは残酷にも勝利の美酒ではなく携帯片手の担当の先生による容赦ない死刑宣告だった。
マジかよ………
~~~~~~~~~~~~
三人仲良く指導室に連行された僕たちは長時間にわたる説教を受けていた。
くそう、遅刻しただけなのに何だこの仕打ちは、この教頭め、頭禿げてるし中身もスッカスカなんじゃないのか。
「そうか木場、反省文が書きたいのか」
あれぇ何かご立腹だぞ?何でだろうか。
「お前の症状って絶叫するだけじゃなかったんだな」
隣でムスッとしていた善之助が呆れたように僕を見た。
何の事だろう。
「それの事だよ景人、お前は考えてるだけかと思っているみたいだけど口から駄々漏れだぞ、『この仕打ちは』のくだりから」
え?考えが口から漏れてる?えっと、『この仕打ちは』の次に考えた内容は………
『この教頭め、頭禿げてるし中身もスッカスカなんじゃないのか。』
………………なるほどねぇ
「むぅおうしわけっっっありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
人生最初の土下座だった。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
そしてタイミングよく三限目終了のチャイムが響く。
運命の昼休みまで残り一時間を切った。
………なのにまだ開放される見込みは無い。
~~~~~~~~~~~~
「ぜぇぜぇ……よし、つい…ごほっごほっ…た……」
あの後、四限目が始まるチャイムで僕たちは解放されて(僕だけ反省文)、やはり授業にも遅刻し、四限目終了後にもその担当の先生に呼ばれている内に時間は刻一刻と過ぎていった。
そして校舎裏に辿り着いた時には昼休みになってから二十分が経過していた。いくらなんでも遅すぎだ、絶対相沢さんの方が先に着いているだろう。
「木場君、どうしたの?そんな息を切らして」
案の定、相沢さんは校舎裏の木の木陰でメモ帳片手に立っていました。
うぉう、彼女を待たせていた自分が憎い!
「ごめん、先生に呼び出しされてて遅れちゃったから急いできたんだ」
なんて情けない事を言った端から後悔する、遅れてきて言い訳するなんて、最低じゃないか!しかも理由が先生に呼び出しくらってたなんて。
「賑やかで飽きないね、木場君は」
なんて自己嫌悪になっていると相沢さんは笑って流してくれた。
やっぱり天使だ!
「じゃあ本題なんだけど、木場君」
「は、はい!」
「今、お母さんの事で悩んでたりしない?」
「へ?」
これから彼女が語る事は決してここに来るまでのようなウキウキ気分で聞けるような内容ではないという事を僕は心から嘆いた。
「お母さんの事で?別に特別気になる事は無いけど………何で?」
相沢さんはやっぱ知らないかと呟く。
そんなミステリアスな所もやっぱり可愛い。
「あたしね、小学校の頃に二つ年下の友達がいたの……」
ん?なんだろう相沢さんが突拍子も無い事を話し出したぞ?新手のドッキリかな?
「その子がね、あたしが中学二年の時に遠くへ引っ越しちゃってね」
相沢さんは淀みなく語り続ける、どういう話なのかさっぱり読めてこないけど雰囲気から茶化していいような話ではないという事だけは分かる。
「その理由が両親の離婚だったの、元々その両親は仲が悪くていつ離婚してもおかしくなかったんだけど、その子がどうしてもここから離れたくないって、私に言ったんだ」
それがどんな子だったか知らないけどなんとなく想像はつく、両親の仲が悪い家庭にいて学校や外でこんなに素敵な女の子と一緒にいたんだ。
僕だったら一人暮らしをする覚悟がある。
この時、当初の景人の相談事という名目は完璧に忘れていた。
「それは私も同じでその子とは離れたくなかった、そして私は家が少しお金持ちでね、親も少し顔が広くてね、探偵とか雇えちゃったりするんだ」
ん?何か一気にドラマチックになってきたぞ?
「それで調べてもらったの、その子の両親の不仲の理由をね、それが、夫が浮気していたの、結婚する前から」
「な、何それ?結婚する前から二股掛けてたの?」
「そう、しかも浮気相手には子供もいたの、”その子より二つ年上の男の子が”」
え?
さすがにこの流れで相沢さんが言わんとしている事は分かる、でもそんなの証拠なんて……
「浮気相手の人も子供が出来てからその人と会うことを控えてずっと隠していたらしいの、でもそれが夫より先に妻にばれて離婚となった、その結果、夫はもう一人の子とは”一度も会わぬまま”この町を去った、そして変な噂になる事を恐れた妻とその子も結局都会の方へと引っ越しちゃったの」
「相沢さん…なんなのその話、あんまり趣味良くないんじゃないかな………」
何故だか今の相沢さんからは愛らしさが感じられなかった。それどころか不思議と足が震える。
ドッキリなら速くプラカードを出してくれよ!
しかしそんな祈りもむなしく彼女は決定的な一言を告げた。
「木場君、あなたがその浮気相手の子供なの、その君にどうしてもお願いがあります」
やっぱりそう言うの?僕の父親が二股かけて結婚して挙句の果てに僕を見捨てた男?
ふざけた冗談だ。
趣味が悪いにも程がある。
笑う所なんてありゃしない。
なのに・・・
「お願いって、何?」
僕はこう答えていた。