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Crazy doll  作者: 大夜
No sister No brother
3/21

変わらぬ平穏、動き出す人形

「どうやらお客さんみたいね」by篝

   ◆◇◆◇◆keito◇◆◇◆◇



 あ~、朝から最悪の気分だ。

「誰だよ、鳳遥って」

 僕にそんな幼馴染いねぇっての。

「にしても、妙にリアルな夢だったな」

 誰も居ない四畳半の部屋で一人、呟く。家には母さんと僕しか居ないし、その母さんもパートに朝早く出かけてしまっているので今は僕一人だ。

 キッチンにはトーストとスクランブルエッグが用意されていた。

 これくらい自分で用意するのに。

 朝早くにパートに出かけているのにも関わらず、母さんは毎日しっかり僕の朝食を用意してくれる。家は裕福なほうではないし、父親もいない…というか合った事すらない、その事を一度母さんに聞こうとした事があるけど、母さんは辛そうに目を伏せるだけで何も語ってくれなかった。

 でもこうしてしっかりと僕を育ててくれている母さんを困らせたくは無いから僕は父さんの事について聞く事はしなくなった。

 そして今では少しでも母さんの負担を減らすためにクラスの皆が当たり前のように持っているケータイを持っていなかったり(なのでメールも出来ない)、バイトを掛け持ちしたり(バイトの掛け持ちついては母さんには内緒だ)と頑張っている。

 ま、今一番頑張っている事といえば……相沢さんへのアタックかな?

「さて学校行くか」

 とは言っても結局一週間前から書こうとしている相沢さんへの手紙は未完のままだ。自分のことながら情けないと思う。

 でも仕方ないじゃないか!彼女の魅力と僕の想いを文にするなんて考えるだけで赤面モノだよ。って今時ラブレターというのも古いかな?でも僕ケータイ持ってないからメールも出来ないし、なんて諦めた思考をする今日この頃……というかあの夢って僕が告白しようとしても失敗するって思ってるから見たのかなぁ?

 だとしたら僕はとてつもなくヘタレだ。


「駄目だな、僕」


 そう呟いた矢先に目の前のT路地から同級生が現れた。


「ああ、その通り!お前は駄目な奴だよ、景人」


 はぁ、朝から面倒な奴と出くわしたよ。

「黙れよ善之助」

 隣でケラケラ笑いながら現れた、悪友の掌善之助(てのひら ぜんのすけ)に軽くチョップする。

「いや、黙らないぞ、こうやってお前を挑発してやらないといつまでたっても相沢に告白なんて出来ないだろ?」

「いらねぇお世話だ」

 少しは落ち着かせてくれよ、こちとら今朝から変な夢見てブルーなんだから。

「バカとは失礼な奴だな、ヘタレのくせに」

 ふん、実際お前はバカだろう、………僕も十分ヘタレだけど………。

「それにしても善之助のバカさ加減は上限が無いよな、一昨日のグラマー(英語の文法)の授業で指名された時の答えが古典の源氏物語の和訳だったよな?」

「それは古典の授業中に寝てて起きたらグラマーだったんだよ」

 それはオカシイぞ

「グラマーの前の授業が数学でその前が世界史……古典って一限目だったよな?」

 つまり善之助は三時間近く、一度も起きることなく寝続けていたという事だ。

 うん、バカだね♪

「なるほど、だからあの時、腹が空いてたわけだ」

 何やら今さらながらに気付いたようだった。

 やっぱりバカだね♪

「それはそうと景人、先週の掃除当番の時に相沢と一緒だったのに何で一言、二言しか喋らねぇんだよ、俺の聞いた限り『チリトリとって』と『お疲れ』しか言わなかっただろう?」

 何で知ってんの!?

「う、うるさい!あの時は……充電切れだったんだ!!」

「何だ、お前は太陽光でも浴びて動いてるのか?」

 苦しい言い訳に対してバカな善之助らしかぬまともな突っ込みに僕は唸るけど、一度アホな事を言っているので言い返しにくい。

 そんな下らない言い合いをしていると校門が見えてきた。

「なぁ景人、思ったんだけどさぁ」

 珍しく善之助が真面目な声で前置きする。と言ってもどうせ下らない事なんだろうけど。

「何さ、改まって」

 だけど茶化すような事はしない、もし真剣な話だったら彼に失礼だからね。

「俺達ってさぁ、……毎朝同じ話題でよく飽きないよなぁ」

 それ、お前が言うなよ。

「毎朝善之助が同じ話題を振ってくるだけだろうが」

 面倒だけど付き合ってやってるんだよ僕は!

「あぁだからか、お前も良く付き合ってくれるな……と、あれ、相沢じゃね?」

 善之助がふと明後日の方向を見た。

「え?どこどこ!!」

 慌てて周りを見渡すけど、相沢さんの姿は見えない。


「てめぇ、謀ったな!!!」


 ホラ吹きの悪友目掛けて拳を握り振り上げた、その時


「おっはよー!今日も元気だね、木場きば君」


 後ろから発せられたエンジェルボイスによって動きが止まった。そしてゆっくりと振り返ると僕の片思いの相手である相沢菜子さんがいた。

「あ、相沢さん!?………お、おはっ…おはよう……」

 急に滑りの悪くなった舌でかろうじて挨拶を返すと相沢さんは小さく笑い、じゃぁねといって校舎に入っていった。


「……か…………」


「か?」



「可愛すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」



 登校途中の校門付近という事も忘れて僕は絶叫していた。そして気がついたら僕の半径4メートル付近に人垣ができ、全員が変な目で僕を見ていた。

「さっさと行くぞ」

 状況がよく分からないまま善之助に引っ張られ、そそくさと校舎に入った。


「景人、あんな人の多い場所で叫ぶなよ、恥ずかしいな、今日の昼には有名人だぞ」

「うん、ごめん」

 下駄箱を過ぎたあたりで善之助に平謝りしているといきなり肩を叩かれた。


「お前も度胸があるのか無いのか分からん奴だな、景人」


 聞き慣れた声がして振り返ると、毎朝遅刻すれすれで登校して来る幼馴染の平地悠我(さかなし ゆうが)がいた。

「あれ?悠我、今日は早いんだな」

 珍しい事もあるもんだいつも予鈴すれすれに登校してくるのに。

「まあな、なんか妙な夢を見て飛び起きたんだよ」 

 こいつもか

「妙な夢?それってどんな内容なんだ?」

 善之助が好奇心をむき出しで尋ねる。

 遠慮無い奴って良いなぁ…

 無神経になるつもりは無いけど。

「それがなぁ、信じられない内容でさぁ……なんと…………」


 バコッ!!


「勿体ぶんな、さっさと言え」

 

 善之助……容赦ねぇなぁ、悠我…涙目になってんじゃん。


「あぁハイハイ分かったよ、実はな…景人に妹が居たんだ」


 ……………………ゑ?


「しかもな、景人とその妹が仲良くてさ、もう見ていられないくらいベタベタしてて気味悪くなって飛び起きたんだ」


 何……ソレ?

 I・MO・U・TO?


「なんとも……突拍子も無い夢だな…お前の頭の中どうなってんだ?」

 呆れたように善之助が言う。

 そうだ、僕に妹なんて突拍子無さ過ぎる。

 別に僕は妹が欲しいとか小さい子が好きとか言った覚えが無いし。

 

 シングルマザーだし。


 兄妹なんて単語、僕には無縁なのだから。


「そうなんだよな、寝る前に『MASK THE HERO BIKEMAN BEETL』を見てたからかな?」

 なんで六、七年くらい前の特撮ヒーローなんて見てるんだよ!

 MASK THE HERO BIKEMAN(以後MTHB)は僕らが小学生の頃に流行った特撮ヒーローで主役が帰国子女の超イケメンだったので女子から大人気だったシリーズだ。

 内容は確か……突如隕石が飛来してきてその隕石からエイリアンが出てきて、そいつらから地球を守るために組織が創られ、その組織が開発したパワースーツを装着した主人公がハイスピードで戦うんだけど実はその主人公はその隕石のせいで妹と生き別れているという感じのストーリーだったと思う。

「影響されやすいんだな、悠我は」

 まぁ突拍子もないけど夢ってそんなもんだよね。

「そうかもな、にしてもやっぱあのシリーズが一番面白いな、今の奴ってなんかデザインがカッコいいじゃなくて斬新って感じだし」

 それについてはよく分からないな、この歳で特撮ヒーローなんて見ないし。

「そうだよな、もう見た目がギャグにしか見えなくなってきてるよな」

 善之助は今でも結構見てるらしい。

「今でも特撮ヒーロなんて見てるの?」

 小馬鹿にした言い方にならないように気をつけて聞いてみると、二人は真剣な顔になる。

「まぁ確かに世間一般的には小学生向けってイメージがあるけど、ストーリーは中々面白いし、キャストも可愛い子が結構出たりする、主人公がイケメンだから女子も見るし需要はかなりあると思うよ」

 これは悠我の弁

 さらに

「最近はCG技術も発達してきてるから、下手なアクション映画よりカッコよく見えるな」

 こっちは善之助の弁

「へぇ~最近の特撮ヒーローって需要が広いんだなぁ」

 全く知らなかった、ぶっちゃけてしまえば要らない情報ではあるけど。

 そんなこと言っては二人に悪いので自重しとこ。

「にしても去年の信号機みたいな配色のやつはまだカッコよかったな」

「ああ、でもその前のやつもシンプルなデザインでカッコよかったよ」

「「それに比べて今の奴は………」」

 二人は僕のついていけない話題を始めてそこそこ盛り上がっていた。

 それでも僕は特撮ヒーローものを見ようとは思わないんだけどね。

 そんな事より今は相沢さんへの…………………


「あ、今思いだしたんだけどさ、夢に出てきた景人がその妹を名前で呼んでたんだよな」


 一人思考にふけっているとそんな言葉が聞こえた。

 もちろん悠我の言葉だ。

「その名前って?」

 善之助がすかさず質問した、これには僕も興味がある。


「その名前ってのは



   ◆◇◆◇◆miyako◇◆◇◆◇



「もう帰っていいか?」


 読んでいる途中の原稿用紙が横から未来君に抜き取られた。

「あっ、もうちょっとだけ!」

 今すごく重要なとこだった!というか狙ってやってるんじゃないか?

「ふぅ~、そうか、じゃあ今日は貸すから明日感想聞かせてくれよ」

「うん、分かった」


 図書室で鳩子ちゃんと別れてから急いで市立図書館にやって来た僕は市立図書館の個別ブースで原稿用紙と睨めっこしている未来君を発見し、偶然を装い近づき今に至る。

 端折り過ぎ?確かにそうかもしれない。でもぶっちゃけ、どんな会話をしてまた続きを読ましてもらえたか覚えてないんだよね。


「じゃあな、都」


 未来君は荷物を整えると僕に軽く手を振り、帰っていった。そしてすぐに姿が見えなくなる。

 ん、あれ?何か忘れてるような……


「ん~~~」


 ま、いっか

 とりあえずこの原稿の続きを読むほうが先だな。

 気合を入れて原稿に目を落とすと……


  ♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~


 閉館を知らせる音楽が流れた。

 うん、帰ってからでいいかな。


「い・い・わ・け・な・い・で・しょ!!」


 またか…………

「耳をそんなに強く引っ張るなよ、千切れるだろユウキ」

 いつの間にか真横に立っていたユウキに囁く。

「あなたが怠慢な態度をとるからよ」

 そんな理由で耳を失いたくない。

「仕方ないな、じゃあ続きは屋敷で読むよ」

 この時間は図書館に人気が少ないけどユウキは見た目が目立ってしょうがない。

 あぁ、中学二年生で帰宅拒否なんて僕って不良だな。

「そうね、それなら近いし」

 はぁ行きたくないな。


 人形屋敷


 今から僕達が向かう屋敷は町の人々からそう呼ばれている。

 理由は簡単、その屋敷には国籍を問わず、あらゆる人形が飾られていて余りにも不気味だからだ。

 元々は都会の資産家がこの町で新しくビジネスを始めようとして建てた屋敷だったんだけど完成して数ヶ月でその資産家は病により亡くなり、身内も居なかったらしく、その屋敷の引き取り手のが現れなかった。

 結果、町はこの土地を利用するため屋敷を取り壊す事にしたのだが工事の度に土木関係者が行方不明になるという事件が発生して中止された。その屋敷にはその資産家の趣味だったのか大量の人形に埋め尽くされており、その後の怪談のネタになっていて、肝試しにも使われていたんだけど、今では老朽化が進み、いつ崩れるか分からないので近づく人は居なくなった。


 というホラ話で有名な屋敷だ。


 実際はとある世界で唯一人の人物の別荘で、普通の人が入れば人形の館で、その主人が入れば現代チックな洋館になるという。摩訶不思議な建物である。

 何故そうなるかといえばそれはこの館の主人がなんたって……ねぇ。


「やぁ、よくきたね、都ちゃん、また良い子と会ったのかい?」


 僕とユウキが屋敷に着くと妙齢の女性が出迎えてくれた。

 上はタンクトップに下はジャージという今まさにエクササイズでもしていました、という格好だ。

 汗一つかいていないけど。

「良い子かどうかは分かりませんけど、クラスに転校生が来ました。……かがりさん、今日はアイツの筋書きをまだ読みきってないんでちょっと場所借りていいですか?」

 この屋敷の主人、神語篝(かんがたりかがり)さんに僕は頼んだ。

「いいよ、お茶は飲む?」

 ずいぶんとあっさりだな、今回もまた何か厄介ごとを僕に押し付ける気かな?

 かがりさんは初めて会った時に命を助けてもらってから、何かと僕に厄介な頼みごとをしてくる。

「はい、お願いします」

 屋敷の中に入ると外から見た時よりずいぶんと広い、いつも思うけど全くどうなっているのやら?

 そして二分ほどするとかがりさんがティーポットとカップをトレーに載せてきた。

「ご丁寧に、どうもありがとうございます」

 そしてカップにお茶を注いだその時


「どうやらお客さんみたいね」


 意味深なかがりさんの言葉で僕は動きを止めた。


「……どういう意味ですか?」


 僕の質問に対してかがりさんはニコニコと笑いながら玄関を指差す。


  バァァァァァァァァァァァァン


 その時屋敷の玄関が勢いよく開かれた。

 もちろんユウキの仕業ではない。


「ほら、来た」


 そこに立っていたのはこの町には無い高校の制服を着た青年だった。


「なんで?ここは無人のハズなのに…………」


 その青年は目を丸くして僕たちを見る。確かにこの屋敷の明かりは外には漏れないようになっているので人がいるとは思わなかったんだろう、変な噂もいっぱいあるし。

 まぁ明らかに不審者である、ここにいる全員。

 片方は町でお化け屋敷扱いの場所に普通に住んでいて、片方はいきなり屋敷に侵入しようとした青年。


  「くそっ!」


 二秒ほど固まっていた青年は踵を返し、走り去って行った。


「ちょっと!!扉くらい、開けたら閉めなさいよ!」


 そんな場違いなかがりさんの声で思考が回復した。


「な、なんだったんだ?今の人」


 それでも動揺を隠せず思った事を言う。


「気付かなかったの?今回の主人公じゃない」


 ……………………え?


「あれが?……木場景人?」


「そっか、本当に全然読んでないんだね?じゃあイメージをあなたの脳に直接送るね、もう読んでる時間なんてないし」


 呆れた顔でそう言ったかがりさんは壁に掛けてあった箒を手に取った。


「Un Look!」


 その瞬間箒から莫大な光が生まれた。

 そして僕の脳裏に走馬灯のように物語が流れ込んでくる。


「嘘……そんな………ことって…」


 それは、あまりにも…悲しい物語だった。

 未来君はこんな話を考えていたなんて…………それが…………




   現実であるとも知らずに




 ===============


 僕が始めて未来君と話した日が五月一日でその次の日、翌日にはゴールデンウィークの後半を控えていた五月二日に僕は一体の人形と出会った。

 それがユウキだった。

 ユウキは巧みな話術で僕を人形屋敷に連れ込み………


 僕を人形にした。


 ユウキは意志を持った人形であり、そして人形遣い(パペッター)だったのだ。

 そして僕はユウキに操られるだけの人形にされて、意志はあるのに思い通りに体が動かせず、二日間生き地獄にあった。

 そして三日目の朝、五月五日にかがりさんが現れた。本人からすればゴールデンウィークを利用して(別に働いている訳ではなく【大型連休には別荘に行く】というイメージがあっただけ)別荘に来た。その程度理由だったんだけど、それが僕の命を救った。


 なんたって彼女は現代で唯一の魔法使いだったのだ


 ユウキも人形屋敷が人気の無い廃墟で誰か持ち主がいたなんて知らなかった。

 そして僕はかがりさんに助けられたんだけど、また人間には戻れなかった。

 いや違うな、僕は戻らなかったんだ。


 だって、僕が元に戻るためにはユウキを壊さなきゃいけなかったから。


 二日間、たったの二日間、一緒に過ごした人形の為に僕は自分の人生を捨てた。

 何故ならユウキの人形でいる間、僕には体を操られる度に、彼女の感情と記憶が流れ込んできていたんだ。

 それは彼女が人形になってから蓄積されてきた四百年以上にも及ぶ物語。

 そしてユウキが元人間であったことも。


 結局僕はかがりさんに反対されたけど、魔法で自分の意志で動ける自動人形(オートマタ)になった。

 人間の模型であり、成り損ないの姿、見たものはまるで画面の向こうのようで聞いたものはスピーカーから流れたようなもの、そして温度も分からない、そんな人形になってしまい、そしてさらにパぺッターになった、僕はユウキをいざという時に操る事が出来る、絶対にそんな事をする気は無いけれど。僕とユウキは今現在、絶対に切れない糸で繋がってる。

 もちろん辛いし、不便だし、人間に戻りたいと思う事もあるけど後悔だけはしていない。

 あの時に誓ったから、ユウキの事を僕が覚えているって。

 そしてゴールデンウィーク最終日、五月六日に僕は人間として不自然に見えないように出来る事と出来ない事の検証でこの悪夢のゴールデンウィークを終えた(両親には大量に出た宿題の消化合宿という事で無理やり通した、かなり疑われたけど)。


 だけど悪夢はここからだった。

 五月七日、久々の登校日に僕は隣の席の未来君に話しかけられた。

 内容はこうだ。

『楠木、この前書いてた原稿、仕上がったんだけど読んでみないか?』

 その時僕は特に何も思わずにその原稿用紙を受け取り、内容を読んだ。


 そして嘔吐しそうになった。


 いや人形だから吐くものなんて無いけど、その内容はまさに”僕とユウキ”が主人公の物語だった。

 台詞も、経緯も、思考も全てがあのゴールデンウィークと一致していた。


 その後、僕は体調不良で早退し、かがりさんの屋敷へ向かった。

 かがりさんならこの怪奇現象を解明できると思ったから。

 そして案の定かがりさんはその答えを知っていた。


「それは、あれだよSeventh Writeだよ」


「せぶんすらいと?」


 かがりさんの説明によると未来君はアカシックレコード?(だったと思う)と繋がっていて無自覚のうちに七日分、四日目を中心としてその三日前と三日後のこの町に住む人、またはそれに関係する人の人一人の言動と思考が頭に浮かぶ能力。


 全く持って意味不明な能力で何故そんなことを未来君が出来るかは、まだ分かっていない。そして未来君は悪くないんだろうけど彼がもしあんな事を書かなかったら……と思う事もある。


 そして、未来君はまた新たに物語を書き始めた。

 一体誰が主役か分からない物語を

 そしてその物語もまた悲劇であった……だがそれは二日後の出来事であり、まだ起こっていなかった。

 そして新しい発見をする。


 それは、僕が未来君の小説に干渉できるという事だった。


 どうやらSeventh Writeという能力は対象が人間に限られており、人形になった僕には通用しないらしい。

 僕はその主人公を探して物語の完結を邪魔して小説通りの結末を回避した。

 そして次の日に未来君に会った時、彼の様子がおかしかった。

 彼はその物語の変えられた部分を忘れていた、原稿も途中から消えており、その物語は未完のまま終わった。

 これが僕の出切る事Un Finishe(未完)だった。

 その後、かがりさんに協力してもらい(その分面倒事を押し付けられている、主に掃除とか)それからの未来君の物語は一度も完結していない。

 そう、今の所は………


 ===============


 急がないと……………




 日向さんが危ない!!!!



   ◆◇◆◇◆keito◇◆◇◆◇



「その名前ってのは、みくだ」


 ミク?あの歌うロボットのこと?

「なんだそりゃ、まるで馴染みの無い名前だな」

 遥だったらビックリだったのに。

「そうだな、菜子なら面白かったのに」

 ちょ、おま……てめぇ!!!



「相沢さんを呼び捨てにするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」



 校門前の時と同様に絶叫している僕だった。

 学習能力の乏しい僕である、そして今は場所が悪かった。 


 ざわざわざわ!?(クラス中が僕を見る音)


 はい!教室でした。………何だよ、章替えしろよ、こんなシーン長いこと描写しても面白くないよ?


「はぁぁぁ……さっきも言ったろ、場所を考えろって、何で相沢のことになるとお前はそんなに盲目的なんだよ」

 くそっ、焚き付けたのお前だろう!?あとお前は馬鹿なんだから盲目的とか言葉使うな! 

 なんて現実逃避しても現状は全く変わらない。

 当たり前だ


「あのぅ、木場君………どうして私の名前を大声で叫ぶのかな?」


 あらビックリ!相沢さんが僕に話しかけてきました。

 普段なら諸手をあげて喜ぶんだけど今はちょっと状況が悪いかなぁ。

 というかどうしよう!?相沢さん、ガチでひいてるよ!!


「相沢、それはコイツが突発性絶叫候群(とっぱつせいぜっきょうしょうこうぐん)という病気でな、いきなり叫びだすんだよ、残念な事にな」


 ちょ、おま、悠我!!どさくさに紛れて何テキトーほざいてんだ!!


「そうなんだよ、時も場所もかまわず絶叫し放題なんだ、でも今日は多いほうでいつもは少ないんだよ、それと絶叫する内容についてはあまり意味は無い」


 いや、ナニ便乗してんの善之助!?違うからね、僕はそんな怪しい病気じゃ無いから!!クラスの大半が『そうなんだ……』とか『そういえば今朝も校門で……』とか納得しちゃってるじゃん!!


「ち、ちが………ムグッ!!」 


 否定しようと口を開くと善之助にあんパンを突っ込まれた。

 いつの間に用意したんだよ………


「いや、悪かったな相沢、コイツがいきなり絶叫して」


 本当のことなのに今の謝罪、何か納得いかねぇ!!むぐむぐ!!


「全くだ、ホントに残念な奴で申し訳ない」


 悠我!!好き勝手言ってんじゃねぇ!!あ、これつぶ餡だ。


「そう?意味は…無いんだね?」


 あぁ、納得しないで相沢さん……ゴックン。


「あいさ………」




  キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン




 始業ベルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!


「ヤベ、もうホームルームだ」


 クソォ!!寄ってたかって僕の弁解を邪魔しやがってぇぇぇぇ!!!!


「おーし出席とんぞー」


 やる気の無い先生の言葉を聞き流しつつ二人への仕打ちと相沢さんへの弁解について考え始めた。



  ~~~~~~~~~~~~



「何か言い残す事はあるか?」


 ホームルーム終了後、僕は善之助と悠我をトイレに引きずり込んでいた。

 理由はもちろんさっきの僕の言い訳を邪魔した事の復讐だ。


 ゴスッ! バコッ! メキッ!


 四秒でボコボコにされました………

 卑怯だよ、二人がかりなんて………


「「何か文句でもあるか?」」


 ハモって言うなよ……怖いじゃないか……


「うぅ……どうしてさっき、あんな適当な事言ったのさ?あれじゃあホントに残念な奴じゃないか……絶対ひかれたよ……」


 満身創痍ながらも何とか言わなきゃいけない事を聞く。


「「どうしてってそっちの方が面白いからに決まってるだろうが」」


 一言一句同じタイミングでした……


 オニだ!!!この二人!!!!!


「元々善之助が「叫んだお前が悪いだろ」……………」

 苦し紛れの言い訳を言いきる前に否定されました。


 だがもっともだ!


「あぁ、もう相沢さんの顔見れないよ……」


 もう僕の学園生活は灰色だよ………この二人の悪魔のせいで………


「「安心しろ、元々脈無しだったじゃないか」」


 ブッチィィィィィィン


 頭の中で種がはじけた。


「言いたい事は、それだけかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ゴスッ! バコッ! メキッ!


 一発のパンチも当てられずにボッコボコにされました。

 二人がかりなんて卑怯だYo!


「「何か文句でもあるか?」」


 だから何でそんなにきれいにハモるんだよ、怖いって。

 あと、もう少し手加減してよ、起き上がれないじゃないか……



  キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン



「あ、やべ一限目って何だっけ?」


「たしか古典だったはず」


「マジかよ、俺あの先生にめぇ付けられてるんだよなぁ」


「お前に目を付けていない先生なんていねぇって」


「それもそうか!」


「「あっはっはっはっは………」」



「僕を置いていくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



 二人は談笑しながら僕を置いて行きました。


「あぁ、これも夢だったらいいのに」


 二人の去った後のトイレの片隅で僕は同じ内容の一人言を八回くらい呟いていた。

 ちなみに今は、一限目の真っ最中で僕は絶賛サボタージュを決め込んでいた。

 今の精神状態で授業を受けれる気がしない、受けれない気しかない。


 ブ~ ブ~


 な、なんだ?お尻がブルブルする!?

 ゆっくりと震えている場所に手を当ててみると……


「ケータイ?なんで?」


 もちろん僕の物ではない、こんな物が買えて毎月お金を払う余裕など家には無いのだ。

 とりあえず二つ折りのそれを開いてみると、待ち受けがMTHBだった。

 趣味丸出しだな………じゃなくて

 Eメールが届いていた。

 それを開いて見ると悠我からだった。


『トイレに蹲っている(笑)ヘタレな木場?毛糸君へ、君に朗報だ。安心していい、相沢さんやクラスの皆は何も無かったかのように授業を受けている、授業の最初に欠席無しといっても疑われなかった。それくらいいつも通りだ。


 僕は無言で両手に力を込めた。


 ちなみにそのケータイは一万円以上する、決して壊さないように』


 ……………………



「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」※突発性絶叫症候群発症中



 なんなの?アイツは?どうゆう神経してるんだっての!なんで木場で疑問符を付けるんだ!あと毛糸は誤字だろ!!そして地味に空気扱いしてんじゃねぇ!!!

 ぐぐぐと両手に力を込めるが、ケータイに負荷はかかっていない。

 一万円というのは僕にとって、とても高額なのだった。

「あいつ等、どこまで人をおちょくったら気がすむんだ?」


 ブ~ ブ~


 ええい、しつこい!!

 再び震えだしたケータイを床に叩きつけようとして腕を振り上げた


『そのケータイは一万円以上する、決して壊さないように』


 …………………


 ピタリと止まりゆっくりと腕を下ろす。

 いちまんえんかぁ、そりゃ壊せないよ。

 思わず涙が零れそうになったけどそれを堪えて再びケータイの画面を見てみるとまたしてもメールだった。しかも登録されてないのか送信者が誰か分からない。

 そしてこのケータイは多分善之助の物だろう、彼宛のメールかもしれない。


 よし、読もう。


 僕は迷わずそのメールを開いた。


『今このメールを開いてるのは木場君ですか?』


 ん?なんだこのメール、名指しですか?


『はい、このけーたいはぼくのじゃないけど』


 ぎこちない操作でその送信者に返信した。

 するとまたしばらくしてケータイが震える


『よかった、私、相沢だよ木場君、今授業休んでるけど大丈夫?』


 【相沢】何か見覚えのある名前だな………あいさわ………A・I・SA・WA!?

 相沢って相沢さん!?あのエンジェル相沢さんでございますか??

 どういうことだ?これは善之助のケータイ(多分)でそれに僕宛の相沢さんからのメールがきた……うん意味が分からない。

 なんて考えている間に新しいメールが来る。


『平地君から聞いたの、木場君が病気で落ち込んでるって』


 ………怒っていいのか感謝したほうがいいのか分からんぜぇ。

 えっと、相沢さんとメールできるという夢のようなシチュエーションを用意してくれたのは確実にあの二人だ、僕のスラックスのポケットにケータイが入っていたのがいい証拠だ。

 だけど、そこに至るまでの経緯が酷すぎる。

 そう酷すぎる、だが………


 ありがとう、二人共……僕は君たちを忘れない……


 持つべきものは良き親友だ。


『ありがとう、だいじょうぶだよ、しんぱいさせてごめん』


 とりあえずそう返信する、一つだけワガママを言えば僕はメールを打つことに慣れていないということだ。

 当然だよねケータイ持って無いもん。

 あ、返事来た。


『本当に?私でよければ相談にのるよ?』


 ……………………ゑ?

 何々、なんて書いてあるんだっけ?


『本当に?私でよければ相談にのるよ?』


 そ、そうだん?


相談ー物事を決めるために他の人の意見を聞いたり、話し合ったりすること。

   また、その話し合い。「デートの予定をーする」「新婚旅行先をーする」※一部大辞林からの引用


 ありがとう善之助、悠我、僕が死ぬ時、きっとその名を最後に口にするだろう。


『それなら、あいているじかんにおねがいします』


 お、送っちゃった、どうしよう!?………わ、返信きた。


『はい、じゃあ昼休みに校舎裏で』


 昼休み 校舎裏 相談 二人きり ×××(※僕にはとても書けません)


 よし、昼休みまで充電だ。


「は~るがき~た~♪は~るが(以下略)」


 スキップ気分で僕は歌いながら廊下を歩いた。

 その数十秒後、教頭先生に見つかって数十分間、説教を受けた事はまぁ当然だった。


 その説教されている間、僕は昼休みに相沢さんとキャッキャウフフできると信じて疑わなかった。

 これまでのやりとりが全てメールであるという事も忘れて。


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