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Crazy doll  作者: 大夜
No sister No brother
2/21

夢の幕開け、読み始め

「だから何と張り合ってるの未来君?」by都

   ◆◇◆◇◆keito◇◆◇◆◇


 変な夢を見ていた、そんな気がする。目を開けたら朝だった。窓からは光が差していて、外からは小鳥が囀る小さな演奏会が聞こえる、また僕のいつもと変わらない一日が始まった。

 身体を起こして僕の部屋を見渡す、壁際にデスクトップパソコンと小さな本棚(本は入っていない)があるだけのベットも机も無い殺風景な部屋だ。確認のため左手を見ると何本もの線がある。世間一般では自傷行為と呼ばれている、ネットでもニュースでよく問題視されてて結構流行ってるそうだ。理由なんて人それぞれで、大概の場合がイジメとか薬物中毒者とかがやるみたいだけど、僕の理由はその例に当てはまらず、突然の罪悪感と自己嫌悪で死にたくなり、衝動に突き動かされるまま自分の身体を刻み付けていて、それでもこの世からオサラバする勇気も無く、しぶとく生き続けているである。

 情けない事に。


「今日は……何しようかな……」


 確か昨日はオンラインRPGを一日中していた。何も無い部屋だけど、インターネットが繋がっている現状に感謝する。それで今日もゲームすればいいじゃないかと自分に問うと、キーボードの上の赤い絨毯を見る。

昨日の僕は何を思ったのか、ゲームの最中に衝動的に死にたくなって本棚からバタフライナイフを取り出して自分の左手に傷をつけた。

 血が傷口から流れ出るのを見て落ち着いた僕はしばらく自己嫌悪になり、適当に止血して寝た。その際流れ出た血がキーボードとコントローラーに大量に付着していて、壊れてないとしても気持ち悪くて触る気にはなれない。なんてことは無い、ただの自業自得だ。

 そんな自虐思考はコンコンと小気味のいいノックの音が部屋に響き中断される、母さんが朝食を持ってきたのだろう。毎日頼んでも無いのに、律儀なものだ。僕が引きこもってから母さんと一度も顔をあわせていないし、会話もしていない、何も言ってこないのだ。僕は足音が離れていくのを確認して小さくドアを開ける、顔をあわせないように、そして朝食ののったトレイを取りドアを閉める。いい具合に空いた腹を満たそうと箸を取った、すると遠くから聞き慣れたチャイムが聞こえてきた。


  キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン


 そのチャイムは以前僕が通っていた高校から聞こえてきた。今では引きこもりの僕だけど、二ヶ月前のあの日まではちょっと引っ込み思案で個性の強い高校生だった。周りからはよく変わってるって茶化されたな。だけどそんな僕はあの日を境に生きていく事に絶望してしまった。

 そう僕は二ヶ月前にクラスのアイドルで可愛くてキュートで僕の密かな初恋相手の相沢菜子(あいさわ なこ)さんに一世……いや十世一代(十回の生まれ変わりの内、一回だけ)くらいの覚悟と勢いをもってラブレターを書いたのだ。(その日、朝のニュースの運勢ランキング一位だった)そして手紙に書いた場所に約束した時間の三十分前に行き、ドキドキしながら脳内で何回も告白するシミュレートを繰り返し、よしっ!バッチ来い!と気合を込め、その時を待った。


 それなのに約束の時間に僕の目の前に現れたのは何故か相沢さんではなく親が仲がいいとかで幼馴染みであり年上の鳳遙(おおとり はるか)だった。


「っ何でだよ!?」


 とりあえず突っ込みを入れてから改めて彼女をよく見ると左手にある見覚えの無い桃色の便箋が握られていることに気付いた。

 もしや誰か違う奴と告白の時間と場所が重なったのか?確かに客観的な目で見ると遥は美人だ、いや待て、だったら遙の相手が来ているはずだろう、相手を呼び出しておいて遅れてくる奴などいないはずだ。よし落ち着け、冷静になれ僕!

「ねぇ景人(けいと)、この手紙を書いたのって…」

「知らん!」

 即答した。すると緊張していたのであろう遙はふぅと小さくため息をついた。そんな仕草もサマになっている。一つ年上とは思えないほど大人びていて美人だ。外見に関しては、そう外見だけは!!

「だよねぇ、景人にそんな度胸があるわけ無いもんね、やっぱりただの悪戯かぁ、それで何で景人がここにいるの?」

 うぐっ!

 い、言えない、ラブレターを書いたけどすっぽかされたなんて、なんかもう情けなくて言えない。

「ちょっとね、一人になりたかったんだよ……それに遙の方こそ何でここにいるの?」

 僕の質問に遙は顔を若干しかめながら左手の便箋を見せつけた。便箋には筆書きで恋文となかなか男らしい字で書かれていた。何時の時代だよ。

「どっかの馬鹿があたし相手に悪戯の手紙を書いてきてさぁ、ぶちのめしてやろうと意気込んできたんだけど」

 ………ぶちのめす?

「遙、その手紙の内容ってどんな感じ?」

 脳が聞くな!聞くんじゃねぇ!!とアラートをガンガン鳴らしているが好奇心が勝り、つい聞いてしまった。遥は少々男勝りな性格で気に入らないことには暴力で解決しようとする悪癖があるのだ。しかも凄く強くて、何度も殴られた経験がある。つまりは好奇心は猫を殺すって奴。うかつなことを言うと痛い目を見るのだ。

 後悔?そんなもの、後でするよ。

 生きていればね。


「この手紙の内容?ええと

 『拝啓 鳳遥殿、突然このような手紙を送りつけた非礼を許してもらいたい。この度某(それがし)は貴殿のあまりの美しさに筆をとった所存である』

 って文から始まって七枚ほど筆書きで書かれてるの」


「一体どこのどいつだよ!?そんなふざけた手紙書いた奴!僕がぶん殴ってやる!」

 いやいや殿って女子相手にそりゃねぇだろとか言い回しが古臭いとか某とか名乗ってんじゃねぇとかなんで桃色の便箋を使ったんだよ!とか突っ込み所満載だった。決して知り合いでは無いことを祈る。

「ええ、あまりにふざけてるからどこの馬鹿野郎かと気になって、思わず来ちゃったんだけど、そしたら景人がいたから、ビックリした」

 僕だって相沢さんが来ると思って待っていたのに遥が来てビックリだよ。どんな詐欺だよ、僕の勇気を返せ!

「ところでさっきから景人がその右手に握り締めてる青い便箋は何?」

 僕が一人で世の中の不条理を憎んでいると遥が僕の右手を指差す。その指先には……ガッチリ握り締められた相沢さん宛てのラブレターがあった。


「ホワイ!?」


 何で?どうして?嘘だろ?僕のバカァ!!な・ん・で僕が持ってんだよ!?そりゃ来るはず無いよぉっ!

 ……一体僕はこの三十分間誰を待ってたんだ?


「誰が来るはず無いの?」


 ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ聞・か・れ・て・たぁ!どうするんだ僕?いや考えろ、落ち着け、大丈夫だ。この女は昔から鈍感だ。今から僕の巧みなトークで挽回してやるぜ。


「……景人ってさぁ昔から自分の考えが口からだだ漏れだよね」


 しまった………あぁ遥の視線が痛い………。

「えっと、、それってもしかしてラブレター?」

 ななななんで分かるんだよ。

「ち、違うよ!これは………」

「これは?」

 遥が疑惑の目でじぃぃっと効果音がでるくらい僕を見た。おいなんなんだよこの状況?ええい!!ままよ!もうどうにでもなれ!


「は、果たし状だ!」


 遥の顔が一転して「ええぇぇぇぇ?」と若干引いたように後ずさる。

 しまった、適当過ぎた!

「へぇ……そうなの、だったらあたしは邪魔だよね、じゃ…さよなら」

 あからさまに僕を蔑む目で見て、そそくさとその場から遥は僕から離れていく、一度だけ振り返り敬語で


「気持ち悪いから、今後話しかけてこないでくださいね」


 拒絶された。

「嘘です!冗談です!ごめんなさーい!」

 何故か平身低頭で謝っている僕だった。

 朝のニュースキャスターのおねーさん、今日の僕のラッキーアイテムってなんでしたっけ?

 今、用意できるものだといいな。

 雲の無い青空を見上げて僕は現実逃避した。



   ◆◇◆◇◆miyako◇◆◇◆◇



「という書き出しなんだけど、どう?面白いっしょ?」

「う~~~んぅぅぅ…………」

 連休明けの教室で僕を待ち受けていたのは自作の小説を自信満々に音読してくるクラスメイトの日向未来(ひゅうが みらい)君だった。今日は早く来て寝る予定だったのに、いい迷惑だ。

「よくそんな自信満々で面白いって言えるね、いきなり主人公がリストカットしてるじゃん」

「読者の目を釘付けだぜ!」

 凄くいい笑顔の未来君だった。キラリと光る前歯が眩しい。彼は僕がこのクラスで唯一まともに話す相手なんだけど、別に仲が良い訳ではなくて僕は彼を友達だと思っていない。そしてそれは未来君も同じらしく、僕にも彼にも友達はいない、クラスでは浮いているほうだ。

 ま、だからどうしたって事でもないけどね。

「僕はそこで興味が失せたけど」

 未来君のまぶしいぐらいの笑顔に対して、僕も出来る限りの笑顔で返した。

 その内容はもちろん皮肉だ。

「都はクレームが多いな」

 未来君は僕の目の前でフーヤレヤレとこれ見よがしに溜息をはいた。

 なかなか鬱陶しい。

「つけたくなるような内容なんだよ、それに鳳って鳩子ちゃんと同じ名字使ってるけど、それはなんでなの?」

 僕が窓際の端の席でいつでも本を読んでいる鳳鳩子(おおとり はとこ)ちゃんを指差しながらそう聞いた。

 その質問に対して未来君はふん、それはだなぁ。と何故か得意そうに説明する。

「鳳なんて珍しい名字、いかにも仮想世界にピッタリじゃないか、それに遥で漢字二文字!どうよ!なかなか味のある名前だろう?」


 あっそ。


 あまりの下らなさに思わず口にする所だった。危ない危ない、未来君は休日の度に自作の小説を書いてわざわざ僕に読ませたり、話して聞かせたりするんだけど一度だけ聞き流しながら、あっそう、と言っちゃった時、烈火のごとく怒り出し、宥めるのが大変だった。なのでしっかり考えて返答する。それに今ではどんな話でも聞き逃す事は出来ないし。

「確かに空想の人物って感じがするけど、それじゃ現実味が薄れてファンタジックになるんじゃない?」

 冷静に指摘すると未来君はそこで考えを変えたのか、なるほど、確かにとしきりに頷く。未来君って自分勝手な考えが目立つけど、しっかり人の意見を素直に聞くから僕も趣味に付き合ってられるんだよね。本を読むこと自体は好きだし。


「それは都の言うとおりだな、だったら今度は楠木都(くすのき みやこ)って名前を使うよ」


 なんで僕の名前をつかうのかな、しかもフルネームで。

「未来君、あんまり身近の人の名前を使ってると、その使われている人は嫌な気分になるよ。っていうか昔一回使ったよね?」

 覚えてないだろうけど。

「え?使った覚えは無いけど………嫌なのか?」

「そりゃ嫌だよ!」

 全くこのボンクラは何を考えているのだろうか、知り合いの名前をそのまま架空の物語に登場させるなんて。

「なんだよリアリティにしろって言ったくせに」

 どんな納得の仕方だよ、ていうかなんで不貞腐れるのかなぁ、振り回されてるの僕なのに。

 とむくれていると、朝のHRの時間になり、教室の扉が開いた。

 どうやらずいぶん話し込んでいたようだ、あぁ僕の貴重な睡眠時間がぁ(泣)


  ガラガラ~


「おらー席につけーって皆座ってるか、ふん、感心、感心」

 僕と未来君が不貞腐れると同時に担任の佐倉旋衛(さくら せんえ)先生が入ってきた。佐倉先生は数学教師で今年で三十歳の若い先生なんだけど、身体がどう見ても体育教師としか思えないくらい物凄くマッチョメンだ。何故体育教師ではないのだろう?(この学校に七不思議があれば採用されるだろうに)その見た目どおり言葉遣いは荒いけど、そんな外見に反してとても優しく、生徒に甘い先生で怒った所は一度も見ていない。

 もちろん生徒からは人気がある。

「よし、欠席はいねぇな、ん?赤碕が来てない?珍しい事もあるもんだな、まぁいっか、それよりお前らぁ、朗報だ。今日この二ーBに転校生がやって来たぞ」

 え?梅雨になったばかりのこの時期に転校生?親の転勤かなんかかな?無い事もないだろうけど、こんな田舎に来るなんてよっぽど珍しい事だな。いや、田舎だからこそ転勤させられるのかな?う~ん……わかんないや。


 ガタッ


「せんせー、男の娘ですか?女の子ですか?」

 

 勢いよく立ち上がってここぞとばかりに質問したのはクラスで普段は目立たない男子、鈴樹(すずき)君だった。というか男の娘って何?何故か寒気がするんだけど。

「喜べ、女の子だ」

 男の娘はスルーされたようだ。一般的にその質問は普通なのかな?

「なんだ、女の子か…」

 それと何故か鈴樹君のテンションが下がった。いや彼がガッカリした理由が分からない。それになんでチラッと僕を見たの?

「お、来たみたいだな、よし入れ、…ん?何で赤碕までいるんだ?」

 教室に入ってきたのは見知らぬ女子、つまり転校生ともう一人このクラスの一番の秀才、赤碕静(あかさき しずか)さんだった。

「登校してくる途中で迷子になってるコイツの面倒みながら来たんです」

 赤碕さんは後ろで申し訳なさそうにしきりに謝る転校生を一瞥した。

 あれ?先生が廊下で待たせていたんじゃないの?

 不審に思い佐倉先生を見ると……


「時間になっても来ないから何の演出かと思っていたんだが……迷子だったのか」


 おいぃぃぃぃぃこの不良教師!!なんで約束の時間に転校生が来ないのを演出だと考えるんだよ!!


「「「まぁそう思うよねぇ」」」


 いやいやいやいやなんでクラスの皆さんは納得してるの!?下手したらっていうか赤碕さんがいなかったら今教室で転校生と会えたかどうか分かんないよ!!


「はい、これが家の敷地内に居たので仕方なく案内してきたんです」

 駄目だ、完全に流されてる。

 ………ま、別にいいかな、僕に関係のあることでもないし。

「ごめんなさい、赤碕さん」

 その転校生は下げた頭も上げずに赤崎さんに謝っている。

 災難だな転校生、赤碕さんは他人にも自分にも厳しい人で言葉がきついし一緒にいると何かと疲れる、でも自分が遅刻してまでも人の面倒をみる、優しい人だったりもするんだけど。

「そうか、なら赤碕は遅刻にはしないでおくよ、他の先生には内緒だぞ」

 甘いな先生。ばれたら退職させられるんじゃないかな?

「別にそんな事する必用はありません」

 強情だな赤碕さん。相変わらずの優等生だ。

「あの、自己紹介……してもいいですか?」

 すっかり蚊帳の外だな転校生。……あらためてよく見ると結構可愛いな、目はパッチリしててショートへアも似合っていて元気なスポーツ少女って感じがして。

「ああ、スマン、とりあえず赤碕は席に座れ、改めて今日から二ーBに転校した日向未来(ひなた みく)さんだ」

 そう言いながら先生は黒板に名前を書く。


「親の事情でこちらに引っ越してきた日向未来(ひなた みく)です、よろしく」

 

  ざわざわっっ!!(クラス中がこっちを向く音)


 クラスが一斉に僕の隣の席、未来君の席を見た。……えーと?ひなたみく?……未来君と同姓同名!?…読み方は違うけど。

「いやぁ先生もビックリだ、まさか日向(ひゅうが)と同じ漢字の名前の奴がこのクラスになるなんて」

 僕は隣の席の未来君を見ると何故かニヒルに笑っていた。


「ネタだな、三流の、俺だったらもっと面白く出来る」


 彼は何故現実と張り合っているのだろうか?確かに面白くないけど。どっちも

「席はそうだな、楠木から一つずつ後ろに下がれ」

 ……佐倉先生……もしかして、その転校生の席を未来君の隣にするつもり?

「で日向ひなたは空いた席に座れ」

 うん、やっぱりか。なんて漫画チックなんだろう、まるで面白くはないけど。


「ふぅ、四流のネタだな」


 だから何と張り合ってるの未来君?

「よろしくね、日向(ひゅうが)君」

 気がつくと転校生は席に着き未来君に挨拶していた、それに対して未来君もよろしくと返した。元気で陽気な印象のその転校生とのファーストコンタクトはすごくグダグダだった。そのせいでこの時の僕はまだ気付けずにいた。一つの違和感に。



   ◆◇◆◇◆keito◇◆◇◆◇



「……それで景人はラブレターを書いたはいいけど渡し損ねて、それに気づかずにここでその相手の女の子を待っていたの?」

「はい、その通りでございます」

 結局、僕はあの後、遥を呼び止めて全てを話してしまっていた。ちきしょう、一体どこで間違えたんだ。ラッキーアイテムを持ち歩いてなかったからか!?


「プッ…クク……」


「おまっ!笑ったな!笑いやがったな!!人の失敗を笑う奴なんて犬に噛まれて死んぢまえぇ!!!」

 大激怒している僕の顔を見ながら遥はおなかを抱えて笑い出す。

「ぷっくく、ふふふ、ご、ごめっ、ぷっあはははははっははははは、お腹…痛、…あははははははあははは……ごほっごほっ、十世一代だって、ふふふっ、く、くるし……ごほっごほ…けい…と…かお………まっか……」

「てめぇ!謝る気ねぇだろ!ってか笑いすぎだぁ!」

 笑いすぎて過呼吸をおこしてる遥に向かって怒鳴りつけた。顔が赤くなってしまったのは怒っているからです。決して恥ずかしいからではありません。勘違いすんなよ!!


  ~三分後~


「ふぅすっきりした」

 笑いすぎて涙まで流している遥に対して僕は体操座りで地面にのの字を書きながらいじけていた。

 この時間ここは完全に無人なので(だから告白や喧嘩などでよく使われる)人目を気にせずにいじける事が出来た。

「なんだってこんなミスをしちまったんだ僕は」

 真剣に頭を抱える僕にまだニヤケ顔の遥がボソッと言う。

「ま、景人らしいっちゃらしいけど……」

 何だそりゃ、いったいコヤツは僕にどんなイメージを持ってるんだ?

「僕らしいって何だよ!?」

 その問いに遥は余裕の表情で答える。


「レタスと白菜を間違えるのが貴方らしさよ」


「間違ッッッ……た…事もあるけど、それ五歳の時だろうが!!」

 なんて昔の事を掘り返してくるんだ!恐るべし幼馴染!!

 そんなツッコミに対してさらに昔を思い出すような表情になって

「懐かしいな…農場見学の時に一人『あれがレタスだよ』って自信満々で言って農家の人に白菜だって言われた時の景人の顔……」



「やめてぇ!それ以上言わないで!!」



 誰にも聞かれてないのに恥ずかしい!!超恥ずかしい!!!!!


「そんなアホらしさが、景人!貴方なのよ!!」


 少し芝居がかった言い方をする遥を見て、少し頭が覚めた。

 あぁ、またからかわれたよ……。


「どーせ僕はアホな子ですよーだ」

 諦めて開き直った僕に遥は、頭をポンポンと叩き優しく笑いながら

「やっと自覚できたんだね、お姉さん感激」

 追い討ちをかけてきやがった。


「てめぇ!いい加減にしやがれ!」


 凹んでいるのに追い討ちしてきた遥の頭に置かれている手を強く掴んで立ち上がった。そしてそのまま自分のほうに引き寄せる。

「え?ちょ…まって…」

 ふん、ざまぁみ……あれ?遥ってこんなにでかかったっけ、……しまった、こいつ、僕より背が高い、つまり

「ちょ…おま……倒れてくんなぁ!」

 引き寄せたまま支えきれずに僕のほうに倒れてきた。

「引っ張ってんのそっちでしょー!」


  どって~ん


 とりあえず僕は遥を地面にぶつけないよう自分が下敷きに(元々下だけど)なるように倒れた。

 うぅ~めっちゃ背中痛いようぅ。


「痛ったぁ~…」


 ん、何か顔に温かい空気が当たる、転んだ拍子できつく目を瞑っていた僕はゆっくりと目を開けた。


「………………………」


 一寸先の遥と目がバッチリ合いました。遥は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。

 ……ええとなんだっけ?こういう時はどうするんだっけ?……確かドラマとかだと熱いキッ……

「っじゃなくて!近い!近いよ遥!さっさと起きて!?」

 慌てて起き上がろうとするけど遥が邪魔で起き上がれない。と、その時破滅の(エンジェルボイス)が聞こえた。


  「こ、こんな所で!?なんて大胆なの?」


 ……ちょっと待てぇ、なんでだ!?なんで彼女がここに?なんだって相沢さんがこんなタイミングで現れるんだよぉ!!神様ぁ!居るならでてきやがれぇ!!その顔面凹ましてやるぅ!


「ご、誤解だ相川さん!これは事故なんだぁ!」


 僕の魂の叫びがどう伝わったのか分からないけど相川さんは何かを悟ったように一人でぶつぶつと呟きながら

「そうよね、若いってこういう事もあるんだよね」

 と、しきりに納得していた。というか自己暗示していた。そんな慌てる姿も可愛いぜちきしょうぅ!そしてようやく遥の下から這い出た僕はパニックをおこしている相沢さんに突っ込みをいれる。

「相沢さん、落ち着いて聞いてね、これは不慮の事故なんだよ!!僕は潔癖さ、なんたってこんなドS女に興味なんて……」

 僕はやっと立ち上がった遥を指差して身の潔白を訴えようとして数秒後、自分の失言に気付いた。

 

 振り返ると…………般若が立っていました。


 あ……死んだこれ


「誰が……ドSだって?へぇ……興味ない……か」


「あの~おおとりさ~ん?」



「景人の……景人の…………バカァァ!!!!」



  ッパァァァァアン



 稲妻のような鋭いビンタがとんで来ました。


……あれ?目の前が真っ白に………





 妙な夢を見ていた、そんな気がする。目を開けたら朝だった。窓からは光が差していて、外では小鳥がチュンチュンと小さな演奏会が聞こえる、自分の部屋なのだが何故かベッドではなく机に座っていて目の前に『相沢さんへ』と書かれた新品の青い便箋と真っ白な手紙がある。部屋にはコミック等が詰まった本棚と衣装ケースやノートパソコンがある、いつもどおりの自分の部屋だった。

 左手に違和感を感じて、見てみるとみると蚊に刺された痕があるだけだった。

 ボリボリボリ(左手を掻く音)

 えっと、つまり



   ◆◇◆◇◆miyako◇◆◇◆◇



  「夢かよっっ!!」


 あれだけ意味深な書き出しから始まって全部夢かよ!納得いかない!!

 僕は昼休みのクラスで未来君の書いた小説の続きを読んでいた。……だけどあんまりな展開に僕は大声で突っ込んでしまった。

 周りの目も気にせずに。

「楠木、うるさい!」

 そしたら自習をしていた赤碕さんに睨まれてしまった。

 納得いかないけど赤碕さんは悪くないので、とりあえず謝る。

「ごめんなさい」

 すると赤碕さんは何も言わずにまた自習に戻る。

 どうでもいいけど赤碕さんって休み時間は勉強しているところしか見ないな、なんて思考をそらすと

「いくら面白いからってそんなに興奮するなよ」

 満足そうな笑顔でふざけた事を言う未来君の言葉でこっちに戻る。なんてムカつく解釈の仕方なんだろう、ぶん殴っていいかな?

 グーで

「なぁんだ、夢だったんだ、なんか残念」

 未来君を殴ろうと腰を浮かせた僕は横から声がして、そっちを向くと転校生の日向さんが未来君の小説と呼ぶにはお粗末なものを読んでいた。あれを強要されずに読めるなんてずいぶん神経が太い人だな。

「というかなんで日向さんも読んでるの?」

 未来君の席の隣で『え?今さら?』とでも言いたげな表情で僕を見る。いや、だってね、未来君の小説を読むのって体力と集中力使うんだよ、主に突っ込みで。

「隣の席と後ろの席の人が朝から自作の小説の話ばっかりするから、気になって日向(ひゅうが)君に読ましてもらったの。そしたら中々面白くてね」

 何……だっ…て。

 面白い?

 これが!?

「ふん、これが一般的な意見という事だなクスノキ君」

 斜めの席でたった一人の支持を受けただけの未来君がふんぞり返って言う。

 確かに世の中にはいろんな感性を持つ人がいる、でも未来君の書いた小説を面白いと思う人なんて万人に一人くらいのものだろう、そしてそれがたまたま日向さんだったというだけの事だろう。

 だけどそれでも認めたくないものだってある。これが……若さ故の……いや自己嫌悪はやめておこう。

「……どうせ万人受けしないさ……」

「なんでそんな事言うの?みゃー君」

 僕の苦し紛れの嫌味を否定する声がする。それは予想外の人物だった。

「鳩子ちゃんまで……」

 クラス一……いや学校一かな?先月の図書室ランキングで四十二冊の本が貸し出しされてて名前が貼ってあったし(さらに市の図書館からも借りている)……の読書家の鳩子ちゃんがこっちに来た。

 鳩子ちゃんと僕は……再従兄妹(はとこ)で※ダジャレではない…幼稚園の頃からよく一緒に遊んでいて愛称で呼び合う仲だ、中学生になってからは少し疎遠気味になってたんだけど、いきなり会話にはいって来るなんて、どういう風の吹き回しなのかな?そして気がついたら四面楚歌だった。どうして僕の周りには一般的な感性を持つ人がいないんだろう?

「ええと、楠木君…だっけ、君ってなんか偏見が強くてガンコだよね」

 日向さんは今朝の未来君みたいにフーヤレヤレと溜息をつく(まさに今朝の再現)、どうやら日向未来という人種は僕と相性が悪いらしい。

 めっちゃムカつく。

「もういいや、だったらもう読まないさ」

 言い返すのもアホらしいので相手にしないことにした。どうせまた読まずにはいられなくなるんだろうけど、今くらいは拗ねたっていいだろう。

「みゃー君って昔からこうだから、私のすすめる本もあんまり読んでくれないし」

 呆れたように鳩子ちゃんが呟く、それは聞き捨てなら無いな。

「ちょっと待てや、読んで数ページ目からのセリフが『お兄様、お兄様、お兄様』ってひたすら連呼する本なんて読めるか!実際に妹がいるんだぞ!嫌な想像しちまうじゃねぇか!!」

 自分のキャラを忘れて思わず再度大声を出してしまった。


「楠木!うっさい!」


 後ろから赤崎さんが投げたシャープぺンシルが飛んできて背中に刺さる。

 刺さった背中は痛くないけど、クラスメイト達からの視線が痛い、敵がどんどん増える僕、誰か味方してください。


  バァーーーーーーン


 そんな事を考えたのがいけなかったのかな、いきなりクラスの扉が勢いよく開きそいつは登場した。

 ……あぁ、面倒臭いのが来ちゃったよ。



「呼んだかい?愛しのマイハニィ」



 隣のクラスの二-Aの美男子、窓辺渡(まどべ わたる)君だ。彼はスポーツ万能で成績優秀、そして眉目秀麗、なのに………

「キミの心の声を聞いて駆けつけてきたんだヨ!都、これもボク達の愛の成せる業サ!」

 物凄く残念なガチホモ野郎なのだった。

「………キモ………」

 日向さんが呟いた。よかった、渡君は黙ってさえいれば万能美少年なので勿論最初は女子から凄くモテるんだけど、彼の本性を知ると……大概の人がショックを受けちゃうんだよね。だから初対面の内に彼の本性を見れた日向さんはラッキーな方だと思う。

 ま、関わっただけで十分アンラッキーなんだけどね。

「呼んでないよ渡君、だからさっさと自分のクラスに帰ってね」

 下手に出ると渡君は付け上がってくるので、できるだけ冷たく言うんだけど、それをどう解釈したのか分からないけど何故かすごく嬉しそうな顔をしながら渡君は頷いた。

「そうか、ボクが来た時点でキミの問題は解決したんだネ!では退散するヨ!」

 確かに鳩子ちゃんは自分の席で我関せずといったように読書していて、赤碕さんはうるさ過ぎて教室から出て行き、日向未来コンビは呆れていてポカーンとしている。周りのクラスメイトにいたっては白々しく世間話をし始めた、どうやら皆も渡君と関わりたくないようだ。ま、おかげで助かったけど……


 素直に嬉しくない!


 渡君は出てきた時と同じように騒々しく教室から出て行き、その後面倒臭くなったのか未来君達は僕に何も言って来なくて、日向さんと仲良く話していた。


 その後、放課後まで僕は未来君と一言も話す事は無かった。だからどうしたって訳でもないけど。一つ、今日の教訓、面倒事というのは団体でやって来るのだ。

 迷惑な事に。


「この時を待っていたヨ、マイハニィィィィ!」


 六時間目が終わった直後に渡君が現れた。もういいよ、君の出番は一日一回で十分なんだよ。だから引っ込めよ。

「今日こそ一緒にかえ…グボハァァアアアアアァァァァァァ」

 大きく振りかぶって、渡君の鳩尾に渾身の右フックをぶち込む。ああ、やかましいなこいつ。少しして大人しくなった渡君の耳元で優しく囁く。

「渡君は部活があるでしょ、さっさと行って来たら、期待のエースなんでしょ?」

 こうすると渡君は目を輝かせながら一瞬で消えてくれる。周りでクラスメイトがひそひそと話す声も気にしちゃいられない。

 こっちだって必死なのだ。

「分かったヨ、愛するキミがそう言うなら、ボクは行って来るサ!」

 激しく痛むであろうお腹を押さえもせずに凄まじい勢いで渡君はグラウンドへと向かった。さっさと行っちまえ、そして出来れば逝っちまえ。

 そんな黒いことを考えているとまだクラスに残っていた鳩子ちゃんが寄ってきた。


「ねぇみゃー君、実は彼とデキてたりする?」


「え?」


 一部始終を見ていた鳩子ちゃんがとんでもない事を言い出した。それに対し、僕は大げさなくらい全身で否定のアピールをする。

 そんな勘違い、あってはいけない。


「何言ってるの鳩子ちゃん?あんなの付き合っているなんて、未来君と付き合う方がマシだよ」

 

 ざわざわざわ!?(クラス中が僕を見る音)


 ひそひそひそ!?(クラス中が囁きあう音)


 ???????(全身アピール男の反応)


 えっと~僕、何か変な事を言ったかな?ちゃんと渡君とは何にも無いって言ったよね?なのに目の前の鳩子ちゃんは目を見開いて顔を真っ赤にしてる。なんで?

「みゃー君って……その……ホモ…………なの?」

 その瞬間、思考が止まった。

「ほ?もけ?………%e3%82%ae%e3%83%a3%e3%82%b0%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%82%ac%e6%97%a5%e5%92%8c%e80%80%e8%81%9…………………???」※文字化けではありません

「あの、みゃー君?大丈夫?」

 あ、やべ、なんか電子世界の向こう側にDIVEしてた。いけない、いけない………………っじゃなくて!何で僕がホモなんだよっ!

「鳩子ちゃん、君はとてつもない勘違いをしている、僕は決してホモなんかじゃない!っていうか同性愛なんて認めない。僕はちゃんと女性が好きな普通の男だよ」

 鳩子ちゃんの肩を掴み、力説する僕。周りからひそひそと話す声が聞こえるけど、気にしちゃいられない。これだけは訂正しておかないと。

「でもさっき、渡君と付き合うより未来君と付き合うほうがいいって」

 ……なんて間違った解釈の仕方なんだろう。

「その付き合うは未来君の書く小説を書く事に付き合うって意味だったんだけど…ええと、つまりは、面倒事に付き合うって意味で言ったの」

 はぁ、今未来君が教室に居なくてよかった。HR後に未来君は続きを書くため図書室に向かっていた。これを聞かれたらもう自作の小説を読ませてくれなくなるだろう。

「……そっかぁごめんね、変な事言って……」

 そうして安心したように鳩子ちゃんは一息ついた。危ない危ない、根も葉もない噂が流れる所だった。



 「「「「「「チッ」」」」」」(クラスメイトが一斉に舌打ちした音)



「お前達は一体、僕に何を望んでいるんだぁ!」

 いじめだ!クラス単位でのいじめだぁ!助けて佐倉先生!

「期待させやがってぇぇ、この女顔がぁ!」

 誰だ!人の気にしてる事をオブラートにも包まずにダイレクトに僕の心を的確にえぐってくる奴は!ん?あれ、鈴樹君?なんか、泣いてる?

「信じていたのに、信じていたのに、楠木は男の娘だと信じていたのにぃ!!」

 いつもは大人しくてクールなクラスメイトの豹変振りに全く着いていけない僕がそこにいた。……じゃなくて。

 なるほど、こいつは渡君と同類か、なら簡単だ。


  ゴスッ(僕が鈴樹君の鳩尾を殴る音)


  ドサッ(鈴樹君が倒れる音)


  ペッ(それに僕が唾を吐く音)


「さて帰ろう」

 パンパンと手を払いながら僕は唖然として誰も動かない教室を去ろうとすると。

「よう楠木、元気いいなぁ」

 いつも通りの笑顔の佐倉先生が現れた。何故か右手にロープを持って。そして視界の隅には何故か幸せそうな鈴樹君の顔が見えた。幻覚であると信じたい。

 

  もう…嫌だ……


 その後、お縄を頂戴した僕は職員室に強制連行され、くどくどと三十分間説教を受け、さらに反省文五枚を言い渡された。普段温厚な佐倉先生があんなに怒るなんて、僕、何か悪い事したかなぁ?

 思いっきりしてます。とツッコミを入れてくれる人が誰もいない教室で僕は溜息をついた。


「あれ?楠木、何でいるの?」


 ああん?誰だ、放課後にわざわざ教室に来るアホは…って赤碕さん?

「どうしたの赤崎さん」

 あからさまに顔をしかめている赤崎さんは面倒臭そうに僕を見る。彼女が不機嫌な原因は間違いなく昼休みの事だろうけど、そんなに僕は悪い事をしたとは思えない。とりあえず適当に流して刺激しないようにしよう。

「先に質問してるのはこっち、先に答えなさい」

 まったく……言いたくないのに。

「未来君の書いた小説の添削してる」

 言いたくないから適当に嘘をついた。

 皆もよくあるよね言いたくない事を隠すために付く嘘って♪

「あんた達って仲いいのか悪いのか分かんないわね」

 上手く誤魔化せたようだった。

「別に仲がいいわけじゃないよ、興味本位で話しかけたら、いつの間にか付き合わされちゃってるだけさ」

 実際に後悔はしている。

「それでもホントに嫌なら付き合わないでしょ、やっぱり楠木ってあれなの……ええとホモ?」

 まだそのネタを引っ張るのか、ん?いや待てよ。

「何で、赤崎さんがその事知ってるの?」

 ……ん、あれ?

 自分で言った言葉に違和感を感じた。そして赤崎さんが目を見開いて…マジ……なの?…という呟きが漏れて、自分の失言に気付いた。今の答え方ではまるで僕がホモであることを言い当てられたみたいじゃないか。

「いや、今の言葉は、その、さっきそういう話題があっただけで、別に僕は男が好きなわけではなくて……」


「…………………………………」


 必死で弁解してみるも、赤崎さんは黙って俯いているだけだった。

 ええい、なんで一日に二回もホモ疑惑の弁解しなくちゃけないんだ!

「赤崎さんがそんな事言い出すとは思えなくて、つい……その、言葉のあやで……」


「…………………………………」


 必死で弁解を続けてみるも、やはり赤崎さんは僕から目を背けている。

「その、あれだ、いい間違えっていうか……」

(以下同文)


「…………………………………」


「あ、あのね、ぼ、ぼくはね……」

 あ、とうとう舌が回らなくなってきた………

 口もからからになって、嫌な汗を感じる。

 あぁもうヤダ……


「もういいよ」


「へ?」


 俯いていた赤崎さんが顔を上げながらそう言った。

 あれ、笑ってる?

「あんた達の会話、廊下にまで響いてたから知ってるよ、今のは昼休みの仕返し」

 

 な、なんだそりゃぁぁ


 脱力した僕を尻目にクスクス笑いながら赤碕さんはそういえばと呟く。

「さっき西燕(さいえん)…じゃなかった日向(ひなた)日向(ひゅうが)を探してたけど居場所、分かる?」

 うん?今聞き逃せない単語(ワード)が出たぞ。

「赤崎さん、その西燕って何」

「だから、先に質問してるのはこっち、あんたが先に答えなさい」

 こ、この子めんどくせぇ!

「未来君はこの時間ならまだ図書室にいるよ、っていうか赤碕さんが知ってどうするの?」

 その質問はポケットから取り出した携帯電話を見て、なるほどと納得した。

「西燕ってのはあの子が今朝会った時に私にそう名乗ったの、すぐに訂正したけどね」

 なるほどね、親の事情で転校してきた………か。

 僕の妹も中々複雑な事情があるから人事とは思えないな。

「本人には言わないでね?理由は分かると思うけど」

 赤碕さんは釘を刺すように僕を睨みつけて教室から出て行った。

 そういえば、彼女は何をしに教室に来たのかな?結局聞けず終いだったし、まぁ何かの伏線じゃないといいけど。

 

 と、それはともかく反省文も書き終わったし、さっさと提出してかーえろっと。



   「その前に、やることがあるでしょ?」



 今度こそ、と荷物をまとめて教室を出た僕に追撃の一言が浴びせられた。

 …ええと、なんで学校(ここ)に居るのかな?ちゃんと屋敷で大人しくしてろとあれだけ言ったのに。


「やることって何だよ?…ユウキ」


 振り向くとそこには金髪碧眼で白いワンピースを着た、まさにビスクドール(西洋人形)のような少女がロリポップキャンディを持って立っていた。

 味なんて分からないだろうに。

「あの人の書いた筋書き、まだ全部読んでないんでしょ?」

 っち、やっぱりお見通しか。

「いいんだよ今日は、夢オチだったし」

 投げやりに答えるとユウキは虫けらを見るような目で僕を見た。

「それってつまり、現実の事は何も分かっていないって事じゃないの?」

 ……あぁ、そっか。

「でも今回は大した事無いと思うよ、主人公が馬鹿だし」

「あの人の小説って話の前半と後半がかみ合ってないってこの前言ってたでしょ、そんな夢の部分だけでその物語の何が分かるの?」

 まぁたしかにその通りなんだけど、今はちょっと未来君に話しかけるのは気まずいというか………ええい、分かったよ行ってくるよ、行けばいいんだろ!

「あなたがサポートしろって言ったんでしょ?」

 はいはいその通りですよ、確かに言いました。


 もう、僕以外に理不尽な不幸に悩まされる人なんて見たくないし。


「よし、それでこそあたしの人形ね」

「お互い様だろ」

 この人形遣い(パペッター)さん。

 そっと本音を心で呟き僕は図書室へと歩き出した。



「なんて奇跡、なんて幸福、都がボクを待っててくれ…バフゥゥゥゥゥッ!!!!!」



 何も見えない、何も聞こえない………うん、OK図書室に行こう。

「時々思うんだけど、あなたってすぐ暴力行為に走るわね」

 まだ居たのか、ユウキ。

「なんの事?」

 足元に転がる体中が凸凹した物体を足で小突きながら笑顔で聞く。

 ユウキは、ドン引きしていた。いやいや僕がユウキにされた事に比べれば可愛いもんだと思うけど?

「えぇと……何かごめん」

 いきなり謝られた、頭でも打ったのかな?心配だ。

 なんてふざけるのもここまでにして。

「別にユウキが気にする事なんてない、元々僕たちは同じ被害者だからね」

 あの物語のね。

「じゃ、もう行くから、寄り道せずに真っ直ぐ帰れよ」

「うん」

 ユウキが視界からいなくなったことを確認すると再び図書室へと歩き出した。

 はぁ、気が進まないな。


「あれ?みゃー君?」


 図書室の前に着くと中から鳩子ちゃんが現れた。いつも通りここで本を読んで今から帰るところなのだろう。

「偶然だね鳩子ちゃん、今から帰るの?」

「うん、もしかして日向君に用があったの?伝言を頼まれてるんだけど」

 え?伝言?

「中には未来君はもういないの?」

「えぇ、三十分程前にみゃー君が来たら市立図書館に行くからとを伝えてくれって」

 すごいな、僕が読みにくる事を想定してるなんて、読まないって言ったのに……

「ありがとう鳩子ちゃん、じゃ行って来るね」

「うん、私はここを閉めてから帰るから」

 そう言った鳩子ちゃんに手を振り、早歩きで市立図書館を目指した。

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