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Crazy doll  作者: 大夜
Princess duel
19/21

Princess duel11

「長いよ!!!」


 これだけで本編より長いよ!!でもまだ半分くらい残ってるのに…てかそこそこ面白くなってきている事がすごくムカつく。


「また下らない事言ってる」


 黙って原稿を読めない僕をユウキが冷めた眼で見つめている。

「急いで読まなきゃいけないってのに…このボリュームはなんなの?腹立つんだけど」

 言いつつも読むスピードは緩めない。本当に今は時間が惜しい。

「前読んだのは竹取物語風だったのに今回はどう見ても浦島太郎だよね」

 オムライスを食べ終わり、熱めの緑茶を飲みながら未来も原稿を読んでいた。読む速さは僕に比べて遅いけど。

 あれから僕達はずっとヨーロッパ研で原稿を読んでいた。一応テレビにも注意を向けているけど続報は出ていない(ユウキは同席して二、三個デザートを頼んでいた。食えないくせに)。

 だから結局この原稿でしか情報を得ることが出来なかった。

 と、ここで少し本編について回想してみる。この設定の中で彼と呼ばれている人物つまり浦島太郎ポジションの男はあの先に読んだ原稿のお爺さんにあたる人物のはず。千年前に生まれた人物が今現在お爺さんとして生きているのは浦島太郎の原作由来なのだろう。そしてここまでで解らないのはお婆さんとかぐや姫ポジションの少女だ。

 この流れではお爺さんが現代に現れる時点では若者の姿でその後に玉手箱を開けてしまい、お爺さんになってしまう。というオチになる。そしたらお婆さんと一緒に暮らすということにはならないんじゃないだろうか?

 千年も前に生きていた人物が現代に現れたとしても戸籍も無ければ知人も居ないはず。そのまま現代の社会に馴染めないまま死ぬか、運がよくて保護されるくらいしか続かないだろう。

 …改めて考えると浦島太郎って絶望感凄いな。一応知人がゼロだったわけではないけど。

 一体どういう筋書きになってたらこうなるんだか……え?


「おいおい何だよこれ…こんなの日本のお姫様の決闘じゃないか」


 僕は読んでいた原稿を最後まで読みきらずに立ち上がる。

 これは、ちょっと一筋縄ではいかないかも知れない。


「ユウキ、アレ持ってきてる?」


 財布から適当に日本銀行券を数枚出して未来に渡しながら聞く。

「え、アレって何、下ネタ?やめてよ」

 ピタと僕の動きが止まる。

「ユウキ…こんな時にふざけるんじゃないよ?」

「はいはいちょっとしたお茶目でしょ、怒らない怒らない」

 そう言いつつユウキは眼を閉じて指先を微かに動かした。

「近くまで持ってきてるから、入り口で受け取りなさい」

「全く、一体なんだよ今の無駄な問答は…ま、ありがとな。…じゃ、未来また学校でね」

 僕は小さく礼を言うと未来に一方的に適当な別れを告げて店を飛び出した。

 入り口付近の時計を見ると午後四時になりかけている。

 少し、急ぐか。

 外に出た僕の前に一人の少女が出迎えてくれる。ユウキが手配してくれた人形だ。その人形は口を大きく開けると二尺三寸程度の刀、東方美人を吐き出した。

 口から取り出したからといて体液に塗れている訳でもないそれを(人形だから当然か、といっても僕も人形だからたとえベタベタしてても気にならない)受け取ると僕はその刀身を抜いて、自分に刺す。

 前の未来の所に行くときは距離を斬って向かったけど今回は違う、今回の物語では恐らく何度か刀を鞘に納める必要がある。その度に何度もこの場所に戻ってられない。

 だから、僕は自身に掛かる重力を斬った。

 瞬間身体がバラバラになりそうな錯覚に陥る。遊園地とかに観覧車という乗り物がある。観覧車は乗っている間は一歩も動いていなくても外からみればぐるぐると回っている。それはあの部屋が身体を支えてくれているから落ちることはないし、ぐるぐると移動することが出来る。地球は一箇所に留まっているつもりでも宇宙から見れば常に回転するように移動し続けている、それは重力が身体を支えてくれているから宇宙へと放り出されることはない、つまり重力から切り離されたことにより僕は地球の自転という観覧車から降ろされた状態になった。それは本当の意味で同じ場所に留まるという事であり、地球の自転する速さで西方向へと飛ばされた。

 時間にして二秒足らず。僕は海岸沿いを移動してオリエンテーリングの行われた場所付近へと移動した。

 納刀(のうとう)した僕は身体と衣服に欠損が無いか確認した。

 移動中は音波と空気を斬っていたけどもし鳥にでもぶつかっていたのなら大惨事になっていただろう。


「さて、待っててよ雅ちゃん」


 東方美人を腰に差して歩き出した。



   ◆◇◆◇◆hinata◇◆◇◆◇




「全く、一体なんだよ今の無駄な問答は…ま、ありがとな。…じゃ、未来また学校でね」


 あたしを置いて前にあった西洋風の女の子、ユウキと楠木は店から出て行った。一方的に置き去りにされたけどさっきのニュースを見みていたから怒るにも怒れない。家族が大変なんだもん、あたしなんて放っておいて当然だよね。

「あーあ道わかんないけど帰ろ」

 楠木から受け取った代金を手に席を立つと目の前に見覚えの無い可愛らしい女の子が通せんぼしていた。


「やっほ!元気してる?」


 重ねて言うけど目の前の子にはまるで見覚えが無い。


「アンタ誰?」

「残念だけど名乗ることは出来ないの、それよりさ、ちょっと聞きたいことがあるの」

「話になんない、じゃ」

 無視して帰ろうとしても先回りされる。

「どいてくれない?」

「まぁまぁ、ちょっとだけでも話しよーよう、おじょうさん」

 うさんくさい。さらに言えばウザい。

「今機嫌悪いの、また今度にして」


「そっか、残念。日向未来君の書いた物語についてお話したかったのになー」


 その言葉であたしの足は止まった。

「何言ってるの?」

「あれぇ?機嫌悪いんでしょう?さっさと帰ればぁ」

 うわウゼぇ。楠木の数倍ウゼぇ。

「…気が変わったの、お話しするんでしょう?座れば」

「ふふん、最初からそう言えばいいの、おじょうさん」

「それで、日向くんの物がた…」


「すいませーん、カツ丼いっちょー」


「聞きなさいよっ!」

「いやさ、注文もせずに居座ったら居心地悪いっしょ?」

 飄々と目の前の女の子は答えた。

 なんかムカつく、妙にスタイルいいし躊躇い無く肉をがっつこうとするところも含めてかなり腹立つ。

「ああもう、イライラするな。さっさと話なさいよ」

「短気は損気だよぉ、あわてないあわてなーい」

 イライラする私を見て楽しそうにケラケラと彼女は笑い出した。おかげで怒りを通り越してなんかもうどうでもよくなってきた。

「ああもう好きにさせるわ」

 かれこれ彼女が話し出すのはカツ丼が届いて完食するまでかかったのだが未来は鋼の精神で耐え抜いた。


「はぁ~美味しかったぁ。ってあれ…君誰?」

「こっちが聞きたいよ!!」


 鋼の精神にも限界がありました。

「冗談だよおじょうちゃん。私はグレイ、通りすがりのレディよ」

 茶目っ気たっぷりに赤い舌を覗かせながら目の前の未来と同い年くらいの少女は言った。

「くだらない冗談はもういいよ、いい加減はなしたら?」

「そうね、いい加減飽きてきたしいいよ。さてまずどこから話したものかな…ええと日向君の書いた物語なんだけどね、知ってるかもしれないけど現実を捻じ曲げて本来存在しないものを生み出すの」

 急にまじめな口調でグレイは淡々と告げた。

「え?」

 存在しないものを生み出す?

「例えば幽霊、例えば妖怪、例えば神話の神々。いろいろあるけどまぁ大体そんな感じね」

「つまり楠木やあの金髪の女の子みたいな存在?」

「そういう事、話が早いわ」

「ちょっと待ってよ、確かにこれまではそうだったかもしれないけどあたしが関わったあの話には何もそういう怪奇現象の類とは関係なかったはずよ、それに楠木は彼が書く物語は共通点が悲劇だけって言ってたのよ」

「悲劇ねぇ、あの子はそんな括り方してたの、ばっかみたいね、そんな曖昧で主観によって変わるようなことを共通点としてみてるなんて。で、あんたが関わった話に怪奇現象は関係ない?…貴方それ本当にそう思ってるの?」

「当然じゃない、木場さんにあたしも普通の人間だし」

 楠木を馬鹿にしたような言葉は気に入らないけどその後の含みのある言い方にむきになって否定する。

「普通の人間ねぇ…哀れだわ本当の貴方は…」


 チリン♪


 グレイの言葉を遮るように小さな金属音が鳴った。それはグレイが身に着けていたポーチについた五百円玉サイズの鈴だった。

「あ~あ、いいとこなのにお呼びがかかっちゃった。」

「はぁ?何よあんた…さんざん人を待たせた挙句に中途半端なこと言って帰る気?せめて今言いかけたことだけでも…ってあれ?」

 未来が帰ろうとするグレイを引きとめようと伸ばした手は空をきる。そして視線で姿を追うとしても既に店内に姿はない。

「何なのよ…本当のあたしって何よ……あいつ何者なのよ………」

 あの謎の少女はいくつもの謎を未来に残していった。


「というか食べた分くらい払いなさいよぉ!!」


 どうやら残していったのは謎だけではなかったみたいだ。

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