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Crazy doll  作者: 大夜
Princess duel
18/21

Princess duel10

お爺さん

年齢―19歳

彼は昔、今より千年ほど前の世界に産まれ落ちた。しかし物心つくころには両親が流行り病にて他界し、祖母と祖父に育てられていた。

 海辺に住んでいたことから漁師を生業とし生計を立て、静かに暮らしていた。そんな彼は人生を狂わす”亀”と出会う。漁の帰りに夕日のさす浜辺で彼は打ち上げられて生気を失いかけている亀を見つけた。亀は見た目は悪いが味はよく、日持ちのいい食料であった。しかしその日の漁は普段より大漁に捕れ、運ぶことが出来そうに無い。悩んだ末に彼は仕留めた魚達を海へ返し、亀を持ち帰ることを選んだ。滋養にいい亀を祖父母に食べさしてやろうと思ったからだ。惜しい気もしたが。まだ息のある魚達を海へ返し、亀の鮮度を保つため海水を汲み、亀へと降り掛けた。すると亀から眩い光がさし、思わず目を閉じて光が収まるのを待った。そして再び目を開けた先には絶世の美女が柔らかく微笑み、彼を見ていた。

 美女は亀姫と名乗った。

亀姫はここから遠くない島に住む仙人であり、その島の長の娘であった。立場上自由の無い彼女は亀の姿になって島を抜け出して遊泳していたところ、慣れない波にさらわれてこの浜辺に打ち上げられ、活力を失っていたという。しかし海水から生命の糧を摂取することで元の姿に戻ることが出来たという。

 亀姫はぜひお礼がしたいので私の屋敷に招待したいと言い張り、美女に言い寄られてそれならと彼はすんなりと了承した。すると亀姫は改めて亀の姿になり私に掴まるように言いました。彼はどうせ掴まるならば美女の姿の方がよかったなと思いながらも亀に掴まると亀は見た目からは想像も出来ない勢いで海へ飛び込み、泳ぎだしました。あまりの速さに彼は目を閉じ、力いっぱいに亀にしがみつき息が苦しくなってくると同時に陸へと辿り着きました。

 彼が恐る恐る目を開けるとそこは今までに見たことも無い妙に虹彩異色の建物が並んでいて感嘆のため息を吐きました。

 亀姫はまた美女の姿に戻り、此方へどうぞと彼を手招きしました。

 彼は海水で濡れていたはずの身体が乾いており、それを不思議に思いながらも彼女の後を追いました。そして着いた先は一度だけ見たことのある都の領主の屋敷とは比べることも出来ない程の豪奢な屋敷であった。

 亀姫は彼に少し待っていただけますかと断り、先に屋敷の中へと消えていった。

 その間彼は暇になってしまったので祖母と祖父のことを考えていた。思わずここまで来てしまったが、二人は心配していないだろうか?今日の漁で取った魚も海に返してしまった。…ここで保存の利く物をもらい土産にしよう。このような面妖な場所ならさぞかし珍しい食物があるだろう。

 そう考えていると屋敷の中からは亀姫ではなくしかしこれまた美しい女性が現れた。

 彼女は亀姫の側近のメゴチと名乗った。彼女は彼に深くお辞儀をし、屋敷の中へと案内した。

 案内された屋敷の中はおおよそ彼の平凡な一生ではお目にかかることが出来そうに無いほど透き通った宝玉が壁一面を飾っており、眩しくて眼が眩むほどであった。そんな廊下を数分ほど歩くと大きな広間に出た。視界が開け、やや眼が慣れてきてはいたがその部屋は天井から太陽の日が差しており、先ほどまでとは比にならないほどの輝きが彼の網膜を焼いた。数十秒ほどでやっと目が光に慣れてくると広間の中央に二人の人物が立っていた。一人は先ほど助けた亀の美女でもう一人は恰幅のいい着流しを着た優男だった。

 優男はまず彼に娘を救っていただき感謝します。お礼にこの屋敷で出来うる限りのおもてなしをさせていただきましょうと告げた。

 彼は悩んだ。

 先ほど漁を終えた時には日は沈みかけていた。そしてどれほどの時間を掛けてここに辿り着いたか分からないがそろそろ帰らなければ二人を心配させてしまう。

 彼はその旨を伝えると優男はそれなら此方から貴方の祖父母に使いを出しましょうと言われ、彼はそれならと了承した。


 その屋敷はとても居心地がよかった。見目麗しい女人に囲まれ、口にした事の無いような筆舌しがたい程、大変美味な食事、与えられた広くて豪奢な部屋。唯一気がかりなことは外が常に太陽があって一定の明るさを放っており、今が朝か夜かが判別できず、一体どれほどの時間がたっているのかまったく見当もつかないということだけで。気付けば彼はその場所から帰るという事を考えなくなっていった。

 そんな贅の過ぎる日々を彼が送っているとある時その屋敷の主である優男に呼び出された。

 急に呼ばれた彼は相当長く滞在したためいい加減追い出されるのだろうか?と考え、それならこの暮らしから離れるいい区切りになるなと思い至った。祖父母もいつまで生きているか分からない、孝行しなければ、と彼は贅沢をしても溺れる男ではなかったのだ。

 しかし話の内容は彼の予想とは遥かに見当違いのものであった。


 長い間滞在されこの地にも慣れたでしょう?

 もし貴方様の出生地である場所に未練が無ければ

 ここに永住する気はありませんか?


 優男は少々早口になりながらも一気に捲し立てる様子を見て彼は不審に感じ始めていた。


 いえ私は漁師の子です。出生の地には恩のある祖父母が居りますゆえにここに永住することは出来ません。


 彼はその話を丁重に断った。

 彼は優しく、義理堅い人情を持っていたのだ。


 しかし彼は逃げられない。


 あの日海岸で亀を見た時から。


 彼の運命は。


 決まってしまっていたのだ。



 彼はこれを機に帰りたいと優男に伝えた。

 それに対し優男は今は波が荒れているためしばらく海を渡ることが出来ませんと答えた。

 彼は嫌な予感がした。


 その話が終わり彼は与えられた自室に向かうと異様な眠気に襲われ、そのまま抗う間もなく眠りに落ちる。

 彼が眼を覚ますのはしばらくした後のことである。

…嘘つきました、今回ではまだ姫様の正体は明かせません

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