Princess duel7
「未来、ここのカード作る?」
入口のオープンスペースで立ち尽くしている未来に僕はしびれをきらしていた。
「え?…あ、うん、作る」
どうやらぼーっとしていたらしく生返事を返した未来の手を引き、館内へと入った。
「ちょっ…楠木!手を…」
「さっさと作って次の場所に行くよ」
未来が何か狼狽えていたけど知った事じゃない、早く周りたいのだ。
そして数分後、無事にカードを作った未来は少し中を見ていきたいと言った。
ま、いいか少しなら
僕は未来を興味のありそうなファッション雑誌コーナーに向かわせて、郷土史コーナーに向かった。僕と未来の読書趣味は絶対に合う気がしないから余った時間で少し調べたいことがあった。
それは『竹取物語』の舞台だ。
以前書かれた物語の中に実在の物語の裏舞台を書いたものがあった。その時は新聞やネットで検索した情報から解決出来たんだ。今回もその例に則り竹取物語をそのまま現した物語だろう。実際のところ繰賀市は全くもってそういった由来は無い。一番有力な由来の地は日本で一番高い山のある、お茶などで有名なあそこだ。だけどもう一つ引っかかっていることがある。それは竹取物語に登場しない”海”という舞台、これがキーワードになると思う。つまりは、竹取物語ともう一つの物語、それは…
「ねぇ、思ったよりつまんない」
知ったことかよ。
声の主を見ると本当につまらなそうな顔だった。
「未来が残りたいって言うから仕方なく付き合ってる僕にどういう言い草だよ」
思考を中断されて…よく中断されるよな、僕って…不機嫌な僕はジト目で未来を見る。
「ごめん、図書館ってとこに来たこと無いから興味あったんだけど…全然面白くないね」
ふん、残念な現代っ子め。巷では無料ネットカフェと呼ばれているくらい設備が充実しているのに。
「分かったよ、続きを廻ろうか」
僕は結局何の進展も無く資料を戻して図書館を後にした。
館内から出ると容赦なく太陽が照り付けてくる。涼しかった図書館が恋しい…とは思わないなんたって僕に温度なんて関係ない、便利な身体である。ポジティヴ思考が僕の持ち味だ。
「うぅ、こんなに照ってたっけ?」
未来は手で簡易日傘を作り、顔への日光を遮る。
「そうだね、さっきは少し曇ってたけど、急に晴れてきたね」
そう言いながら大きな道路に出ると見慣れた人物を発見した。だけど僕はそれを視界から隔離し、この世に存在しない暑い日ざしが見せた蜃気楼と思い込み、無視した。
「グ~~~テンッターーーーーーーーク!マイハニィィィ!!」
ま、無駄な抵抗だったんだけどね。
「やあ渡君こんにちはいい天気だねさようなら」
「いやいやそんな照れ隠しは必要ないんだよ、ボクは何時だって本当のキミの気持ちを理解してイヤァァァァァッァアx」
さよならの挨拶をしているのにもかかわらず喋り続けようとする渡君を僕は顎先にシャイニングウィザードをきめて吹き飛ばした。
「人って案外飛ぶんだね」
未来はそれくらいの事ではもううろたえなくなっていた。
その後、駅や小型デパート、アミューズメントパークを案内しているうちにお昼になった。
いや少しお昼というには遅いかもしれない。
「ねぇ楠木、お腹減ってきたんだけど…何処か美味しいお店は無いの?」
そりゃそうだろう、今は2時半過ぎだし。
いや僕は腕時計をしていないしお腹の減る身体じゃないから時間にはルーズになりがちなんだ。
「そうだな、美味しいイタリアンの店なら知ってるんだけど…ここからじゃ遠いんだよなぁ…近くだと、あそこしか知らないな」
「もう何処でもいいよぉ、歩き詰めだし、ちょっと休ませて」
そうなのだ、都は今日一度も交通機関を利用していない、本当はバスを使って当たり前のようなルートを選んでいるにも関わらずだ。こんな男は絶対にもてない、みんなは気をつけよう。
「じゃああそこでいいかな、ヨーロッパ研ていう店なんだけど…」
僕が指差した先にはレトロな洋館といった風体をした建物があった。
「へぇ、中々お洒落で大きなお店ね」
未来は興味深そうにヨーロッパ研を見た。
「そうなんだけどね、ここはカツ丼屋なんだ」
「……え?」
未来は一体何の冗談なの?とでも言いたそうだ。でも本当にその通りなんだよな。
「洋食屋さんじゃないの?」
「うん、違う」
「そうなんだ…」
ま、でもグルメ雑誌に載るくらいの名店なんだけどね、特に今日は休日だから込んでいるかもしれないけどこの時間ならそんな心配は要らないだろうな。
「とりあえず入ろうか」
僕は少し意気消沈している未来の手をとり、店内へと入った。
「建物の全部がお店じゃ無いんだね」
店内に入ると未来は外見に劣らず西洋風の内装にあちこちに目を向けていた。
「うん、上の階はマンションになってるんだとさ」
店員に案内されて席に着くと窓から一面の海が見える。
「凄くお洒落なのに…カツ丼屋さんなんだね」
しばらくメニューとにらめっこして、しぶしぶオムライスを注文することにした。
「せっかくこの店に来たのにカツは食べないの?」
「うるさい、この朴念仁!!」
何故か怒られてしまった。美味しい物をすすめただけなのに。
さて僕はどうするかな、別に食べなくてもいいんだけど二人で来ておいて一人だけ食べているというのはあまり気分がよくないだろうし、何か一品頼んでおいて食べる振りだけしておこう。
そんなことを考えて、おしながきを手に取ったときだった。
「速報です、昨晩××海岸に○○小学校の生徒が林間学校のレクリエーションの途中で行方不明のまま、未だ見つからず、さらに海岸付近は急な荒波のため・・・」
僕はおしながきを手から離し、ゆっくりと店内の備え付けのテレビを見た。
「・・・捜査は難航しております。行方不明の小学生は・・・」
え?嘘…いやまさか。
「六年二組の楠木雅さんです」
テレビの画面には無愛想な雅ちゃんの顔が映っていた。