Princess duel6
「それじゃあ、明日の午前九時に家前まで迎えに行くから」
それだけ最後に告げると、僕は電話を切った。
電話相手はみくだ。内容は明日の町案内。
両親には図書館で勉強してくると伝えてある。父さんはあまり僕に関心が無いんだけどお母さんは女の子と出掛けるなんて知ったら大騒ぎするだろうから。
そして、雅ちゃんはもう家には居なかった。
当然だ。今日から林間学校なのだから、初日は県内の海近くの旅館に泊まり、二日目からはK地方を周るらしい。
なんだか凄く嫌な予感がして止まらない。雅ちゃんがあの童話に巻き込まれるんじゃないか?…なんて考えてしまう。
「心配しすぎなのよあんたは」
「そんなことと言われてもこのいやな予感って大体当たるんだよ」
糸を伝って脳内に響くユウキに相槌をうち、また頭を抱えた。
なんかいい策は無いかな?
と考えて一晩、何も思いつかずに朝を迎えてしまった。
もちろん寝ていない。
かといって目にクマも出来ないから両親から何か言われることもない便利な身体である。
「いってきまーっす」
朝食をささっとかきこむと、僕は家を出た。
「ずいぶんと早いね、まだ三十分も前だけど」
待ち合わせ場所に着いた僕は、やたら派手でこんな田舎で浮いている格好をした未来を見て呆れたようにいった。
「別にいいでしょ、遅れるより」
すましたように言っているが額に汗が浮かんでいた。おそらくここにたどり着く前に色々と回り道してきたんだろう。
方向音痴め(笑)
「そうだね、じゃあまず図書館に行こうか」
と僕は切り出して、さっさと歩き出した。ラブコメ的展開はこの小説には無いのだ。ご了承願いたい。
「ちょっとまって…って歩くの速いよ!」
ギャーギャーうるさい未来を従えて、僕は歩きなれた道を通り、図書館を目指した。
「この図書館、なかなか新しいんだ…」
未来が図書館を見た感想がそれだった。確かにこの市立図書館は二年前に建てられたばかりの洋館だ、蔵書も多く、中にはシアタールームやインターネットスペースまである。
お年寄りや勉強する学生などでいつも人が多い。
僕は昔建っていた小さくて古い図書館の方がずっと好きだったんだけどね。
「あれ?みゃー君が女連れだ」
図書館の入り口付近にあるオープンスペースで見知った顔から声をかけられた。
ま、鳩子ちゃんなんだけどね。
鳩子ちゃんは休日は大体ここにいるから会うかも?って思ってたけどまさか本当に出くわすとは思わなかった。
「こんにちは鳩子ちゃん、今日は日向さんにこの町の案内を頼まれたんだ、そんなもんじゃないよ」
いきなり会って驚いたけど無難に流す。鳩子ちゃんは不審げに僕を見た。
「なんか変な組み合わせだね、日向さんとみゃー君って…まぁみゃー君はどんな女の子ともいたら違和感だらけに見えそうだけど、むしろ男の子の方が…」
「ストップ」
一体彼女は僕にどんなイメージ抱いているんだろうか?
「それは三分の一冗談として、あんなに転校してきた日に仲悪そうだったのに」
三分の二は本気か…ま、それはほっといてと、確かに彼女と僕が一緒にいるのはほかの人から見たらかなりおかしいことだろう。
「鳩子ちゃん、日向さんとは川原で殴りあうような仲になったってことで納得してくれない?」
「なにその少年漫画みたいな状況は?…とりあえず聞いて欲しくないんだね」
何とか納得してくれたようだ。
理解の早くて助かる、興味が無いだけかも知れないけど。
「あの、鳳さん…この前は急にいなくなってごめんね」
と、横からみくが意味不明なことを言い出した。
何のことだろう?
「別に気にしてないよ、それよりあの人誰だったの?引越し前の知り合いとか」
ああね、木場景人の一件のときに何かあったのか。
「あの人は…ええと親戚の人なんだけど…あんまり会ってなかったから急に来てびっくりしたの…」
みくは言葉を濁そおうとあいまいに答える、確かに生き別れた兄だなんてドラマみたいなことを言えばいくらクラスメイトに無関心な鳩子ちゃんでも不審に思うだろう。
「うん、あの人ちょっとおかしかったからあれでよかったと思う、私なんか全然みてなかったし」
なるほどね、みくは鳩子ちゃんを利用して木場景人を撒いたのか、そしてそれに対して罪悪感を感じていると。
「日向さんの親戚ってやっぱり都会の人なの?」
これ以上のグダグダな会話を断つため話題を逸らしてやる。
「失礼だけど、見た感じ垢抜けない田舎の人だった」
「まぁ…遠い親戚だから」
「そうなんだ、急にくるなんておかしな人だね」
「うん、だから思わず避けちゃったんだ」
「仲いいんだね、二人とも」
がんばって話を適当に流そうとしていると鳩子ちゃんが僕達を見て唐突にそんなことを言った。
「そう見える?」
「うん、クラスで未来君としか話さないみゃー君がこんなに喋ってる」
「そう言う鳩子ちゃんも今日はよく喋ってるんじゃない?」
「うん、私…つかれてるから」
?
「鳩子ちゃん、それって……」
「じゃ、私はそろそろ行くね」
気になる言葉を残して鳩子ちゃんは行ってしまった。
「鳩子ちゃん…どうしたんだろう?つかれてるからって…」
図書館に残された僕は呟いた。
「ねぇ、楠木」
そしたら難しい顔をしたみくが僕を見ていた。
「どうしたの?」
「今七月だよね、なんで鳳さん長袖だったのかな?」
なんだよ、そんなこと
「図書館の中は空調されてて涼しいから長時間いる鳩子ちゃんには長袖くらいが丁度いいんだよ」
そんなことまで気にし出したらキリが無いよ。
「それなら…いいんだけど」
煮え切らないような返事をした未来はしばらく鳩子ちゃんが向かった先を見ていた。