プロローグ
「面倒だ」
やっちゃったな、教室に忘れ物するなんて
明日提出の数学のプリントを教室に忘れた僕は早足で教室に向かっていた。図書室で今日の宿題を済ましてから帰宅しようと思っていたんだけど。一番面倒な数学のプリントを最後に回していたから、無い事に気が付いたのはすっかり日が傾き始めたころだった。え、部活?そんなだるい事やってらんないって、僕は何にも縛られずに生きていくのさ。せめて学生でいる間だけでもね。
人気の失せた校舎を一人、てくてくと歩いているとグラウンドから部活動をしている連中の掛け声が聞こえてくる、全くもって何が楽しいのやら。
教室に着くと中から誰かまだ残っているのかシャープペンシルの音が聞こえてくる、教室に入ると僕の隣の席の日向未来君(コイツも帰宅部)がいて、原稿用紙と睨めっこしていた。
へぇまだやってるんだ。
「ねぇ未来君、なに書いてんの?」
中学二年生になり早一ヶ月が過ぎて、ようやくクラスの雰囲気が出来上がってきた今日この頃、いきなり隣の席の未来君が朝からいきなり原稿用紙にペンを走らせ続けていた。それは帰りのHRになっても止めず、僕が忘れ物を取りに教室に来た今現在まで続けていた。
未来君は学年が上がってからのこの一ヶ月間ずっと誰とも関わらず、一人で読書ばかりしていて根暗なイメージが強かったんだけど、今日の未来君はこの一ヶ月間の時間を取り戻すかのように、執筆していた。そんな事より友達作れよと僕は思う。といっても僕もあまりこのクラスでつるむ奴なんていないけど。
それを見た僕は興味本位で初めて未来君に声をかけた。その時の教室には忘れ物を取りに来た僕と原稿用紙に何かしら書き込んでいる未来君だけじゃなく、一人で自習している女子生徒と一人で本を読んでいる女子生徒を合わせて四人いた。思えばこの四人がこの時、この場にいたのは既に未来君のあらすじだったのかもしれない。
「これは、俺の夢だ」
突然声をかけた僕の方を向くこともせずに未来君は抽象的な事を言った。窓から差し込む夕日のせいでその時の未来君の顔は見えなかったけど、きっと自信に満ち溢れた表情だったんだろうとその声だけで容易に想像できた。憎々しいことに
「夢?」
ようやく逆光に目が慣れてきて、ゆっくりとこっちを向いた未来君の顔が見える。想像していた通りの自信満々の笑顔で彼は言った。
「ああ、俺は………文士になるんだ」
後に僕は、未来君の夢に毎日付き合う事になるんだけど、この時はまだ知る由も無かった。一番悪いのはこの時に未来君を止めようとしなかった僕なのか、そんな運命を押し付けた神様なのかは分からないけど、やっぱりそれを書き続ける未来君を恨まずにはいられない。だけどそれも仕方の無い事なのだろう。
そうだよね?ユウキ。
自分の未熟さを衆目の下に晒す時が来ました。
辛口意見をお待ちしております。