プロローグ
五月の風が揺らす校庭、そして夏の兆し。
二人の運命が大きく歪み始める少し前、俺たちの日常はどこにでもある、退屈で穏やかな高校生活そのものだった。
アスファルトから立ち上る蜉蝣が、校門の景色をゆらゆらと歪めていた。セミの鳴き声が耳の奥でジリジリと焦げ付くような、息の詰まる八月の午後。
「おい、遅いぞ蓮。熱中症で倒れるかと思った」
部活終わりの影が落ちる靴箱の前で、幼なじみの葵が汗の浮かんだ額を拭いながら呆れ顔で立っていた。その手には、近所の神社で買ったばかりの小さな『結び守り』が握られている。
「悪かったって。グラウンドの片付けに時間がかかってさ」
俺が眉を下げて駆け寄ったその瞬間、突然、視界のすべてが眩い白に染まった。
耳をつんざくような鈴の音が響き、足元から世界が浮き上がるような激しい眩暈が二人を襲う。息を吸い込むことすらできない奇妙な浮遊感の中で、俺は確かに聞いたのだ。葵が落としたお守りが、カラリと乾いた音を立てて床を転がる音を。
――そして目を開けた時、俺の視界は、いつもより十センチほど低い位置にあった。
胸のあたりに走る見慣れない圧迫感に驚いて視線を落とすと、そこにあったのは男物のズボンではなく、小さく揺れるセーラー服のスカートだった。
「……は?」
喉から出たのは、自分のものとは思えない高く鈴の鳴るような声。恐る恐る見上げた目の前には、自分自身の顔が、信じられないものを見るような目で俺を見下ろしていた。
入れ替わり後の混乱としなくてはならなかったため約束
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
夏の蒸し暑い日の空気感と、突然の怪異に巻き込まれた二人の疾走感を楽しんでいただけていれば幸いです。
お守りの効力(?)によって身体が入れ替わってしまった蓮と葵。姿と中身がチグハグな二人が、このあと無事に元の姿に戻れるのか、はたまた周囲にバレずに乗り切れるのか……妄想は尽きません。




