『漆黒』の翼を喪失せし者、の日常のひとコマ
しいな ここみ様主催『無謀! 瞬発力企画2』参加作品です。
20XX年。
世界各地で計数百人もの有翼人が保護されるという事件が起こった。
基本的には人類と同じ外見で、背中に鳥のような翼を有している彼らの容姿は、正に人類が想像した天使そのものであった。
彼らは地上数メートルの高さの空中に突然現れ落下した。
なぜか言葉が通じる彼らの話によると、この世界とは別の世界から飛ばされてきたのだという。
また、その翼で飛行が可能なのか聞いてみたところ、この世界ではアストラル体を操作するのが難しくて飛べないとのこと。
なお、彼らの大半は白い翼を有しているが、稀に黒い翼を有している者もいた。
彼らの居た元の世界では、白い翼を有する種族と黒い翼を有する種族との間で争いが起きていたとする噂がネット上に流れたりしたが、それが事実かは定かではない。
◇◆◇
「漆黒の翼を喪失せし者よ!この声は届いているか?」
「な、なんだ?突然?」
「いや、昔のアニメの次回予告でそんなのがあったなーって。『漆黒の翼を喪失せし者』って今のクロイそのものじゃない?」
「まあ、そうかな」
と俺は返事と苦笑を、この部屋の主である芽依に返す。
俺の背の黒翼は左は根本近くから、右は元の五分の一ほどの長さを残して引きちぎられていた。
そもそもは十日前、俺は元の世界で敵と戦闘していた。
敵をほぼ壊滅させたところで不意打ちを喰らって翼のほとんどを引きちぎられた。
と、次の瞬間なぜかこの世界の芽依という女性の部屋に飛ばされていたのだ。
不審者としてこの世界の警察に突きだされることを覚悟した俺だったが、「回復するまでここで過ごせばいい」という芽依の言葉に甘え、居候させてもらっている。
「翼を引きちぎられたクロイを見たときには、もう死んじゃうんじゃないかと思ったけど意外に早く元気になって良かったよ」
「翼は身体と違ってアストラル体で構成されているからな。ダメージはそんなに無いんだよ。回復すれば元の大きさに戻るし。たとえば指がちぎれるとかの方がダメージでかいくらいだ」
「へー、そういうもんなんだ」
「そういう情報も知られてないのか?」
「クロイみたいな人たちがこの世界に飛ばされてくるようになって二、三ヵ月だからね。多分デマの方が多く出回ってる感じ」
「なるほどな……ところで1つ確認したかったんだが」
「何を?」
「俺の黒翼に忌避感、みたいなものは無いのか?この世界では白い翼の者は尊ばれ、黒い翼の者は悪の手先とされるみたいな話が伝わっているんだが」
なぜか俺の居た世界ではこちらの世界についての情報が多数ある。
「ボクにはそういうのは無いね。現代でもそういう所は結構あるかもしれないけど、この日本ではあまり関係ないんじゃないかな?」
「そうか。そういうことなら外出も可能なのか?」
「まあ、いきなり襲われる心配は少ないとは思うけど。なにか外出したい理由があるの?」
「稼がなきゃな。動けるのにタダ飯食らってるわけにもいかんだろ」
「えー、まだゆっくりしてていいのに。でも稼ぐって何するつもりなの。こないだネットで見た新興宗教の教祖様みたいの?」
この世界に飛ばされた者の中で、特に白翼の者たちはその外見を生かしてあちらの世界の教えを説く新興宗教を始める者も多いようだ。
「いや、俺はやるつもりはないけど」
「そっかー。やっぱりねー」
「やっぱり?」
「あー、この世界の宗教家でもそういう人いるんだけどさ、白い翼の人たちってなんて言うか『愛のお化け系の人』っていう感じの人が多いんだよね。クロイはそういう感じしなかったから」
「愛のお化け系の人?」
「そう。神様を愛しすぎちゃってその愛のためには何しても赦されると思ってる人。ま、ボクの勘だけど」
その勘は正しいぞ。
「まあ、そもそも黒翼の俺がやってもあいつらみたいに信者集められんだろ。あいつらの見た目こっちでいう天使そのものなんだろ」
「んー、こっちの聖書なんかでは、天使は光の運び手とされているんだよね。神の栄光を纏まとって現れたりとか」
「適役だな、あの白翼自体が光り輝いてるし」
「あんなの羽根の白色で光を水増ししてるだけじゃん。白い翼の人たちの発する光はたいした強さじゃないでしょ。言ってみればニセモノだよ。」
「なっ!?」
「漆黒の翼」
「え?」
芽依はなにを言いたいんだ?
「ボクさっき『漆黒の翼を喪失せし者』って今のクロイそのものって言ったよね」
「あ、ああ」
「漆黒っていうのはツヤのある純粋な黒色。光り輝く黒色」
「芽依、ちょっと待て」
「光を吸収する黒色でさえ輝かせるほどの強い光。翼が回復すれば再びその光を纏うことになる。そんなクロイこそこっちの世界でいう天使に近い存在なんじゃないの?」
……芽依は知っているのか?
いや、生来の勘の良さで感じ取ったのか?
「なーんてね」
「は?」
「まあ、クロイはそんなのやる気ないって言ってるし。このまま良き同居人でいてくれればいいよ。クロイもそのつもりなんでしょ?」
「お、おう。勿論だ」
「じゃ、そろそろお昼ごはんにしようかー。今日はねぎ塩焼きうどんだよー」
「あー、なんか手伝うか?」
「まあまあ、座って待っててよ。じゃあサッとつくっちゃうねー」
芽依は楽しそうに料理の準備をはじめる。
「はあ、まあ、当面これでいいか」
俺は芽依に気付かれないようそっと安堵のため息をついた。




