第8話 ナビビ族
俺は今日も動けず、玉座で天井を見上げて過ごしている。
「で、俺の迷宮、今どうなってんの?」
横に浮かぶ地属性の精霊ガイアが淡々と答える。
「現在、第一層である《風の回廊》の迷路構築が完了しています。構造は、螺旋型ループ+錯綜分岐型による視覚混乱型。分岐数は54」
「なんか凄そう」
「アシュラ様のおっしゃった『侵入者が迷って帰るのが理想』という思想にピッタリのダンジョンになりつつあります」
「迷って、何て言ったっけ。まぁ疲れさせた方が良さそうか」
「なお、通路全域にラベンダーの香りを流すクッション素材が敷かれております。現在のダンジョン内部は癒しの香りに満ちています」
「う、うん? アロマサロンかな……?」
三つの顔すべてで、ため息をついた。怖さもなければ威厳もない。ただ巨大な体でスローライフを夢見てるだけの残念王である。
「それから一つ問題が起きました」
「はいはい、なんだ?」
「モンスター達が迷宮内で迷子になっております」
「……またか」
9時から17時に俺の部屋にモンスターが来るように迷路を作ってもらったが、まだ安定しないようだった。
「ラヴァ・ゴブトカゲ五体が永遠に同じ区画を巡回中。ラヴァ・スライム二体は方向感覚を失い、現在は干涸びてドライトマトみたいになっています」
「なんか美味しそう」
「さらに地底アリ型モンスターであるラヴァ・アントが菜園予定地に巣を作り始めました」
「え、ちょっと待て。菜園って何? 聞いてないんだが」
「プスプス族が忖度して勝手に作り始めました」
えぇ……。もしかしてプスプス族ってハズレ種族か……?
俺は三つの顔をまとめて手で覆い、頭を抱えた。
「どうすべきだ?」
「提案がございます。ダンジョンの案内役として《ナビビ族》を召喚してはどうでしょうか」
ガイアの魔導画面に新たなスキルアイコンが表示された。
《誘導精霊召喚:ナビビ族》。
「ナビビ族……?」
「空間認識能力に優れた精霊です。構造把握・視覚誘導・地図生成・侵入者ガイド・接客対応まで全対応。いわゆる精霊ナビです」
「ツアーガイド的なものか?」
「そうですね。ただ少し問題がありまして、性格の個体差が激しいです。観光地のガイド風やハイテンション案内人型などが存在します。完全ガチャ式です」
「ガチャて……」
運ゲーかよ。でも今さらだよな。ガイアもプスプスもガチャ回して出たようなものだし。
「召喚、してみるか」
俺は手を前に出して小さく詠唱した。
すると、眩い光と共に召喚陣が開き、小さな影が飛び出す。丸っこい体に妖精のような羽、バタバタとホバリングする足、発光する眼。大きめの口が震え——
「ヨウコソ!! アシュラ様の迷宮へ!! ナビビ族No.92、テンション全開でご案内いたしますッ!!」
「うるせぇ……!」
「No.92の語呂合わせでクズと呼ばれていますッ! よろしくお願いしますッ!」
「笑いづらい語呂合わせやめろ」
「特技は目潰しですッ!」
「クズだった! 笑っていいな!」
俺のツッコミになんら動じることなくニコニコしている。
……はぁ。完全にガチャハズレだろ。つか当たりあるのか?
ともかくハイテンション精霊ナビが誕生した。
「それと外部の状況報告をいたします」
ガイアがふわりと浮き、魔導スクリーンを展開する。
「まず雷帝ゼウ様。現在、複数の町の広場で『アシュラは本気で真の挑戦者を求めている』と、演説を続けています」
「は? マズイだろそれ」
強キャラ来たらどうするんだよ!?
あのジジイ、お喋りすぎるだろ! そりゃあ妻と娘に煙たがられるわな!
俺の嘆きを気にすることなく、ガイアは淡々と話し続ける。
「続いて怪盗ハデス様の情報です」
「アイツまた来たのか……?」
「いえ、今回は外です。町の酒場にて、『アシュラの玉座の奥には失われた理想郷がある』と吹聴しておりました」
「口の軽いやつしかいねぇな!」
「『神々が封印した楽園エデン、そこにあるのは永遠の美と静寂と、眠れる宝だ』と詩人のように語り、拍手喝采を浴びておりました」
「……アイツ、意外とお喋りなタイプなのか? っていうかそれ広めていいのかよ、宝を独り占めしたくないのか。宝ねぇけど」
特大ため息をつく。その息でナビビ族が『あーれー』と言いながら飛んでいった。ムカつくけどかわいいな。
それにしてもゼウにハデスと、俺の情報を知られてはならないやつに知られてしまった。ついてねぇ。
こうして、俺のスローライフと誤解の物語が加速していく。




