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最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 雷帝編

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第7話 プスプス族

「この部屋……なんか、じめっとしてないか?」


 転生して五日目の朝、玉座の間の中心で目覚めた俺は真っ先に違和感を覚えた。冷たい石造りのはずなのに空気がやたら湿っていて、頭の左顔のちょうど眉間のあたりが妙に(かゆ)い。


 そこへ、出勤してきたガイアが淡々と報告を始める。


「アシュラ様、本日朝の定期観察ログをお伝えします」


 彼女は魔導スクリーンを表示しながら、さらりと言った。


「頭部左側に(こけ)の付着あり。主因はダンジョン内の湿度と換気不良による微生物繁殖です」


「……うそだろ、カビかよ……」


「対策として空気循環設備と除湿構造の導入を推奨します」


 俺は(かゆ)みに(もだ)えながら昨日から温めていた計画を思い出す。


「じゃあ、空調と換気。それと……拡張工事も始めよう」


「かしこまりました。ダンジョン拡張にはDPの他に《亜精霊召喚》スキルが必要です。取得にはスキルポイント3が必要です。現在の所持ポイントは5なので取得可能です」


 昨日の夜に雑魚狩りやっといてよかった。ちなみに雷帝ゼウも来たけど、また返り討ちにしてやった。


 ゼウは、妻と娘に『日曜日に家に居られるの邪魔だから日曜日に行け』と言われ、今度から毎週日曜の朝に来るらしい。定期便かな?


 とにかく家に居場所がない父親っぽい。少し同情する。でもワザワザ俺のところに来るな。


 (まゆ)を下げながらスキルをタップする。


「よし、スキルとったぞ」


 すぐにスキルツリーから《亜精霊召喚》を選び、詠唱を開始。


 すると床に魔法陣が現れて淡く輝くと地面のあちこちから小さな震動が起こった。そして。


「……なんだ、あれ」


 土煙の中から現れたのは、(たる)のようにずんぐりした小さな亜精霊たち。身長は80cm前後、体表は石のように硬く、そして何よりも特徴的なのは顔の真ん中に一つだけギョロリと光る単眼。


「プス」

「プスプス」

「プスプスプス」


 変な鳴き声を発しながら、三十体以上の彼らが隊列を組んで整然と並ぶ。工具を構え、足を踏みならし、一斉に建築準備に入った。


「彼らは《プスプス族》といいます。構築系の亜精霊で、空間拡張、素材採取、ダンジョン施工に特化しています」


「なんか癖になる可愛さだな」


 中でも一体、腰に『班長プス』と書かれた名札をぶら下げた個体が目立つ。班長が工具を掲げて「プス」と鳴くと、全員がいっせいに動き始めた。


「では、第一段階として玉座周辺の空気循環と換気設備から開始します」


 ガイアの言葉の後、プスプス達は天井へ登り、壁に魔導管を()わせ、風魔法と排気口を連結する作業を開始。見ているうちに空気がさらりと乾いていく。


「こちらが空気清浄魔装置、《クリーン・エレメントMK-IV》です。香り設定はラベンダーです」


「香り必要か?」


「最もユーザー評価の高い香りです」


 ……この世界には会話が成り立つ奴がいないのか。


 とにかく甘ったるいアロマが流れる中、俺はそっと首の後ろを掻き、(こけ)が剥がれた跡に安堵した。


「次にダンジョン構造の迷路化を開始します」


「“人を傷つけずに帰らせる”をコンセプトに頼むぞ」


「構造案として螺旋型ループ回廊と進行錯誤式多重分岐を複合するのはいかがでしょう。脱出困難な心理効果を誘発します」


「よくわからないが、それで」


 目の前に表示された魔導スクリーンを眺める。


 ガイアが投影した立体マップに従ってプスプス達は地下を掘り進み、通路を構築していく。足場の設置、怪我しない罠の設計、魔力転移ループの埋設(まいせつ)など、すべてが無言かつ迅速だった。壁に『←トイレ』と勝手に彫ってるやつもいて妙に気が利く。


 つーかなんでコイツらにはダンジョンの壁が掘れて俺には掘れないんだよ。こちとらボスだぞ。クソ設定どうにかしろ。


「なぁ、この玉座の間は掘れないのか?」


「ここは核となる場所なので穴を開ければ崩壊します。人間でいえば心臓に穴を開けるようなものです。辞めておいた方がいいでしょう」


 はぁー、クソ設定。


 俺が内心プリプリ怒っていると、ガイアが素知らぬ顔で話を続ける。


「魔力転移ループを組み込めば、侵入者を通路内でループさせられます。方向感覚が乱れ、自発的撤退を誘えます」


「それ、いいじゃん。こっちが手出ししなくても済むな」


「ただし、内部の魔物も迷子になります」


「うーん? どういうデメリット?」


「魔物がいつ来るか分からなくなります」


「24時間勤務は嫌だな。9時から17時に俺のところに来るように出来ない?」


「分かりました。そのように調整します」


 こうして、ダンジョン拡張の第一段階が完了した。


 その後、玉座の間の内外をトテトテ走り回るプスプス族に癒されていると、あっという間に夕方になった。


 空気清浄と迷路構築が終わり、ガイアの画面に通知が表示される。


◆◆◆


【ダンジョン拡張ログ】

第一層

《風の回廊》:通行困難型/非殺傷構造/空気浄化済

→ ダンジョンポイント+18(拡張成功/快適度向上)


◆◆◆


 ダンジョン拡張してもポイント貰えるのか。助かるな。ただ、そこまで大きいポイントじゃないから錬金術はできそうもないか。


「とにかく、これでようやく俺の拠点の基礎ができたな」


「アシュラ様、今後の成長に関する外部報告があります」


「ん?」


 ガイアが小さく咳払いをしてから報告を続ける。


「先日の討伐者、雷帝ゼウ様が近隣の村で、次のように発言したとの情報があります」


 彼女は淡々と、しかしなぜか誇らしげに口にした。


「『奴は……さらなる進化を遂げたようだな』」


「はい? どこが進化だよ!? 空気清浄機とラベンダーだぞ!?!? つーか情報漏れるのも伝わるのも早過ぎだろ!?」


 俺は思わず立ち上がって叫んだが、ガイアは涼しい顔で付け加えた。


「さっきこっそり様子を見ていたゼウ様が雷の速度で移動して自慢げに吹聴(ふいちょう)しているせいです」


「あのジジイ! 高速井戸端会議すんじゃねぇ!」


 こうして思わぬ方向で俺の(うわさ)が広がり始めていた。

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