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最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 雷帝編

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第6話 怪盗ハデス

「寝よう」


 精霊ガイアが去ってすることもないので寝ることにした。


「お前達は見張りな」


 俺は左右の顔に語りかけた。すると、二つの顔は目をつぶった。


「寝るんじゃねぇ! 何のために顔が三つあるんだよ!」


 願いは届かず目を開けることはなかった。使えねぇ。イルカみてぇに脳を半分ずつ休ませろよ。


 文句は届かない。仕方なく真ん中の顔の俺も寝る。


 そして夢現(ゆめうつつ)の中にいた時だった。何かの気配を感じ取り、目を開ける。


 石床の上に転がっているのは黒い羽根が一枚。見覚えはないが、さっき何かがそこを走ったことは確かだ。


 静寂の中、かすかに響く足音。一歩、また一歩と忍び寄る気配。空気の微妙な流れ。


 六本ある俺の腕のうち、右下の手が無意識に拳を握る。


 俺はあえて気づかないフリをして様子をうかがうことにした。


 背後の壁にある“巨大なハリボテ門”に何者かの気配が集中する。


 玉座の裏であるそこには、古代神殿風の彫刻が(ほどこ)されていた。二枚の大扉を模したレリーフで(おごそ)かな神々の意匠が彫られている。MMORPG、《ティタノマキア》の開発者が『意味深な雰囲気を出したかった』とインタビューで語っていた。もちろん何の機能もない。ただの壁だ。


 だが、どうやらその事実を知らない者が一人。


「……やはり、ここが入口か」


 その声は背後から聞こえた。


 ぬるりと柱から現れたのは全身黒装束の青年だった。口元にマスクを巻き、短剣を逆手に持つ。腰には道具袋。目は鋭く、狙う獲物を正確に見極めているつもりらしい。


「ここが宝物庫の入り口……そして、その奥には理想郷が眠っている。間違いない。直感がそう言っている」


 いや、ただの門の形をした壁だぞ。


「間違ってるぞ」


「っ!」


 俺が問いかけると青年は肩をすくめた。


「……さすがは残酷王アシュラ。オレの気配に気づくとは、あなどれないな」


 俺は静かに立ち上がった。床が揺れ、石柱の一部が震える。三つの顔のうち、中央の顔が青年を(にら)みつけた。


「勝手に入ってくるなよ」


「よく聞いてくれたな。オレの名前はハデス。怪盗だ」


 会話が成り立たない。やはり言葉が通じていないようだ。


 にしても、やたらキザな物言いをする奴だ。それと身体の使い方は素人じゃない。おそらくギルド出身のアタッカーだろう。この世界にもギルドがあるのかは知らないが。


「怪盗ねぇ……で、何を盗むつもりだったんだ? その“ただの壁”から」


「ふふっ、そうだオレの好きな食べ物はレーズンバターサンドだ」


 聞いてねぇよ! いくら会話できないからってそんな日常会話するわけねぇだろ!


 ハデスは(きびす)を返し、壁の装飾を見上げた。その目は輝き、まるで本当に宝物が向こうにあると信じ込んでいるようだった。


「この壁の先には、失われた理想郷がある……。かつて神が封印したユートピア。そして今、そこには誰も到達できない」


「ないよ」


「オレが初めての到達者になる」


「ないって言ってんだろ」


「ここにあるのだ。人類の求めていたものが」


「ないっつってんだろ!!!!」


 俺の怒鳴り声がダンジョンに反響した。


 ハデスは手慣れた様子で、ひるまずにクナイを投げてきた。


 反射的に左上の腕で受け止める。手加減してくれてありがとう、と言いたいくらいの威力だった。


 ハデスは煙玉を投げて瞬時に姿を消す。


「逃げ足だけは早いな」


 ハデスが逃走しながら通路の出口で振り返る。


「ふっ……次こそは宝を盗んでみせる。怪盗ハデスの名にかけて!」


 そして、疾風のごとく消えていった。


 その背中を見送りながら、俺はつぶやく。


「カッコつけんな。ただの泥棒が」


 それからは何事もなく、朝の定時にガイアが現れた。


「おはようございます、アシュラ様」


 翡翠(ひすい)色の髪と瞳の精霊ガイアがふわりと現れる。昨日と同じ柔らかな笑顔。だが口調は事務的だ。


「昨日の怪盗の侵入記録を確認しました。警戒対象に設定します」


 くそコソ泥に簡単に侵入されるなんて徒歩二分でたどり着けるダンジョンって最悪だな。


「警報装置ないのか?」


「拡張すれば《感知結界》《魔力式トラップ》の設置が可能です」


「……拡張。やっぱそれか」


 ガイアは手をかざし、ダンジョンの構造マップを表示した。一本道。装飾ゼロ。直通で玉座。レイド感も戦略性もない。


「なんだこの手抜き構成は……開発者はアシュラに何の恨みがあるんだよ」


 俺のボヤキを無視してガイアが続ける。


「拡張には《ダンジョンポイント(DP)》が必要です」


「ダンジョンポイント? 昨日は言ってなかったよな?」


「聞かれなかったのと、定時退社の時間だったので」


 やっぱりコイツくそ精霊か? という言葉をかろうじて発することはなかった。口が三つあるからどれかが悪口を言ってしまわないよう注意しないとな。


「DPは討伐者の撃退や、侵入者対応、また観光客の誘導成功でも蓄積されます」


「観光客!?」


「将来的には集客活動も可能かと」


 俺のこめかみがピクつくのをガイアはスルーしつつ、続ける。


「DPを使えば部屋の増築・迷路構造・トラップ設置・生活エリアの整備などが可能です。非殺傷構成も選べます」


「非殺傷……なるほど。敵を倒さなくても追い出すだけでいいのか」


「はい。《精神消耗型迷路》や《終わらない館》など、精神的退路誘導構造が人気です」


「……何そのホラーアトラクションみたいな構成」


 だけど、いいかもしれない。誰も殺さず、侵入も防げて、俺はダンジョン内でスローライフ。自室以外は観光地でもいい。俺の暮らしを邪魔しない範囲なら、好きにしてくれてかまわない。


「……よし。ポイントを貯めて、拠点を俺の王国に仕立ててやる」


 静かに、そして強く、俺の三つの顔が決意を共有した。

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