第5話 精霊ガイア
雷帝ゼウと、その仲間が去った後。
俺は静寂が戻ったダンジョンの大広間で六本の腕をぶら下げて、どっかと地べたに腰を下ろしていた。
「……無駄に疲れた」
戦闘というより、誤解の応酬だったが……精神的疲労がひどい。
今は玉座のあるボス初期位置。背もたれもない岩の床だが、不思議としっくりくる。さすが俺のダンジョン、俺のケツに合うよう出来ているようだな!
そうぼんやり考えていた時、目の前に、ふわっとウィンドウが表示された。
◆◆◆
【システムログ】
雷帝ゼウとの戦闘を終了:スキルポイント+1
◆◆◆
「お? アイツの攻撃、ほぼ静電気だったのにこれでもポイント貰えるのか」
殺さなくていいのも助かる。
で、今の合計スキルポイントは1。元々あった1ポイントは氷の槍を覚えるのに使っちゃったからな。
「小型化取るまで溜めるか……いや待て。他にも選択肢はあるか」
念のためスキルツリーを確認する。
◆◆◆
【アシュラ専用スキルツリー】
——神殺しの道——
◇攻撃
・連環・多重撃(取得済)
・灼炎穿破撃
・氷牙連迅(取得済)
・灼氷連刃※上位スキル
◇補助
・武器召喚(剣)
・威圧の眼光(防御低下)
・三面一体(視野共有)
・多腕操術(個別制御)
・縮躯転位(小型化)
◇特殊
・再誕の刻印(一度だけ復活)
・百腕神顕(???)
◇新規カテゴリ
・精霊召喚(NEW)
◆◆◆
「……ん?」
見慣れない項目が増えている。さっそくタップしてみた。
◆◆◆
《精霊召喚》
王の意思に呼応する精霊を召喚し、助言・支援を得る。
※召喚される精霊はランダム。
※稼働時間制限あり。
◆◆◆
「助言!? それめっちゃ必要なやつ!!」
転生以来、三つの顔で自問自答を繰り返すだけだったこの孤独な生活にようやく他者との会話チャンスが。
「小型化は後回しだ。まずはこれに賭ける!」
思い切ってポイントを《精霊召喚》に投じると、再びウィンドウが浮かぶ。
◆◆◆
《スキル《精霊召喚》を習得しました。発動しますか?》
◆◆◆
「するする! 今すぐ! さぁ来い精霊!!」
その瞬間、空間がうねり、足元に淡い翠色の魔法陣が浮かび上がる。
眩い光と共に現れたのは——森の香りをまとった翡翠色の髪と瞳の女性型精霊だった。全身を包む木の葉の衣装、浮遊する姿勢、どこか凛として柔らかな雰囲気。
「……うわ、綺麗だ……」
目の保養にもなるビジュアルを前に三つの顔が同時につぶやいた。
彼女が静かに微笑む。
「私の名はガイア。大地の精霊にして、あなたの支援者です」
「おおっ! よろしく! やっとまともな会話相手が……!」
「なお、稼働時間は9時から17時までとなっております」
「……ん?」
「精霊労働組合により、時間外の対応は禁じられております」
「組合!? え、えっ、あの、俺が召喚したんだけど!? そういう概念あるの!?」
「あります」
即答された。どうやらこの世界、労働環境に妙な配慮があるらしい。ともかく、ガイアは言葉通りに支援者として淡々と状況を解説しはじめた。
「二瀬アスラ様、あなたはMMORPGに似た異世界に残酷王アシュラとして転生しました。理由は不明」
ふむ、予想通りか。
「あなたがいるのは《ラストサンクチュアリ》と呼ばれる迷宮の最深部。アシュラの玉座に該当します」
「最深部っつっても徒歩二分なんだよな」
俺のナイスなツッコミに対して、ガイアは無の表情のまま話し続ける。
「ダンジョンの構造は素材とポイントを用いて任意に拡張できます。拠点の整備、トラップの設置、あるいは菜園エリアや居住スペースの構築も可能です」
「それって、スローライフできるってこと?」
「可能です。ただし——現在、使用できる所持資材はゼロです」
「だろうな」
希望を見せてから叩き落とすこのシステム、性格が悪い。
ガイアが続ける。
「初期の拡張には最低限、《魔晶石》と《木材》が必要になります。これらは迷宮内または周辺の野外にて回収可能です」
どうやら現実のダンジョン運営も最初はリソース集めから始まるらしい。RPGあるあるが骨身に染みる。
「つまり、外に出ないといけないってことだな……」
「その通りです」
「でも俺、部屋から出られないんだけど」
「現状では小型化スキルの取得が最短ルートとなります」
「マジか……取得に必要な特殊条件って分かる?」
「残念ながら不明です」
また不明……もしかしてこの精霊無能か?
他の精霊を召喚できないかスキル画面を横目で見てみるが、残念ながら文字がグレーになっており、再召喚は受け付けないようだ。もしかしてクソゲーか?
俺はヤレヤレとため息をついて話題を変える。
「スキルポイントはどうやって集める?」
「モンスター、もしくは人間との戦闘を経て生存すると得られます。討伐成功でも可」
「つまり、今みたいに理不尽に来客が来れば得られると」
「そうなります。素材も同様ですね」
ポイントも素材も向かってくる敵からチマチマ集めるしかないのか。どんなブラック迷宮だよ……!
しかし、とにもかくにもガイアの存在はありがたい。情報は手に入るし、今後の展望も見えてきた。ダンジョンがカスタマイズ可能だと分かっただけでも希望の灯がついた。
「うん、まずは素材を集めて俺だけの居住空間を作ろう。温泉も欲しいし、畑も欲しい。書斎も。あと、ベッドはキングサイズで……」
夢は膨らむ。いや、夢に逃げてる気もするけど、いいんだ。それがスローライフってやつだろ。
「そうだ、ガイア。他にも聞きたいことが——」
その時だった。
ガイアの頭上に、ぴたりと時間を示す数字が浮かび上がる。
“17:00”。
「……まさか」
「本日の稼働時間が終了しました。続きは明日、9時から対応いたします」
「ちょっと待って!? 5分だけ! せめて明日の天気だけでも!」
「申し訳ありません。精霊組合規定により、残業はできません」
彼女は丁寧に一礼し、光とともにふっと姿を消した。
「えええええええぇぇぇ……!!」
俺は三つの顔すべてを天井へ向けて叫んだ。
「ホワイトすぎるだろ! 俺より労働環境いいじゃねぇかああああああ!!」
こうして俺のダンジョン開発計画は始まる前に労働時間の壁にぶつかった。
だがそれでも、確かな一歩だった。情報があり、支援があり、夢がある。この異世界で最弱レイドボスとして生きる希望は確かに灯りはじめている。
「仕方ない……明日は9時から本気出すか……!」
なんか頑張らなさそうなセリフを吐いて俺は玉座に腰を下ろした。




