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最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 雷帝編

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第4話 雷帝ゼウ

 一瞬、フロアが淡く光ったかと思えば入口にひとりの男が姿を現した。


 全身を包む白銀のマント。風に揺れる白髪と白髭(しらひげ)。その背中に担がれた雷の大剣と筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)体躯(たいく)。まるで雷光を具現化したような老人。


「……やっぱりゼウか」


 この異世界に転生する前、俺がプレイヤーだった頃、《ティタノマキア》で名を()せていたNPC。雷を操る老戦士、通称“雷帝ゼウ”。


 時にはアタッカーとしてプレイヤーを助けてくれる彼が今、俺のダンジョンに討伐者として現実に立っている。


 その背後には三人の仲間。大盾を構える騎士風の男、金髪で杖を持った魔術師、そして白衣を羽織るヒーラーらしき青年。役割分担バッチリの四人パーティー。どう見ても本気の討伐隊だ。


「これは……詰んだか?」


 まだ俺は小型化スキルを使えないため、この玉座の間から出られない。


 そんな俺の不安をよそに雷帝は一歩前へ進み出た。


「我が名はゼウ。雷を操る者にして討伐隊の長。残酷王アシュラよ、ここに貴様を討つ」


 決め顔と同時に雷が体を包む。ゲームならムービー流れてそうなカッコ良さだな。


「いや、ちょっと待ってくれ。話せばわかる。まず落ち着いて……!」


 俺は三つの顔で必死に言葉を発する。しかし。


「…………」


 ゼウの顔に浮かぶのは警戒と緊張。


 え? 伝わってない?


「おい嘘だろ、人間と会話できない系!?」


 俺が必死に口を動かしても、ゼウはますます警戒心を強めている。明瞭(めいりょう)にしゃべっているつもりなのに伝わっていない。マジか。言語仕様が違うのか?


「ま、まいねーむ、いず……アシュラ……?」


 (わら)にもすがる思いで、日本語と英語の境界線を滑りながら叫んだ。その瞬間。


「詠唱か!? 全員退避!!」


 ゼウが全身を硬直させ、背後の仲間に怒鳴った。


「いや違う、自己紹介なんだけど!?」


 パーティーの三人が一斉に距離を取る。ヒーラーが詠唱、魔術師がバフをかけ、盾役が前に出る。完璧な戦闘体勢。完全に誤解が加速している。


 そしてゼウが叫ぶ。


「ヤツの魔法が来る前に叩くぞ! 《神速迅雷(しんそくじんらい)》!!」


 雷をまとった老人が(まばた)きの間に視界から消えた。


「速い……っ!?」


 目の前に現れたゼウの剣が、俺の胸に迫る。


 当たった、けど。


「……なんか、ピリってしただけ?」


 バチッとした感覚が走ったが痛みはない。これは、あれだ。冬場にセーター脱いだときの、静電気。


「俺、雷耐性でもあんのか? それとも雷帝が弱いのか?」


 ゼウの連撃を受け流しながら俺は手を上げる。言葉が通じないなら“無害アピール”するしかない。


 銃を向けられた犯罪者のように六つの腕を持ち上げてお手上げポーズ。


 それを見たゼウがニヤリと笑う。


「よし! 詠唱を中断させたぞ! 一気に畳み掛ける!」


 違う違う、ちがーうッッ! 勘違いすなー!


 俺は慌てて手を前に出してハエでも追い払うようにブンブンと手を振った。


「な、なんだ!? 見たことのない動き——まさか新スキルか!?」


 違うって! バカ老人!


「ええい、させぬぞ!」


 有無も言わさず切り掛かってくる。


 やばい、このままだとHPが尽きるかも……! こうなったら仕方ない。動きを封じる!


 俺は敵の攻撃を受けながらもスキルツリーを開いた。


 氷の槍のスキルを取る。火だと燃やして殺しちゃいそうだしな。元々は初期からあったはずのスキルのためかポイントを1払うだけで取れる。


「ええと……確か、これが氷のやつだよな。いけ、《氷牙連迅(ひょうがれんじん)》!!」


 冷気が集まり、前方へ鋭い氷の槍が数本、一直線に飛び出す。ゼウは避けた……が、足元が凍った。


「うおっ……ぬおおおっ!?」


 彼の足が滑り、綺麗に転んだ。


「おいおい、気をつけろよ。殺したくないんだからさ」


 ゼウは急いで起き上がると、顔をしかめながら俺を見た。


「追撃して来ないだと……?」


 うんうん、戦う気がないんだよ。分かってくれるよな?


「……なるほど。(ひる)んでいる時は攻撃しないのか。意外と紳士なのだな」


 だから違うんだって!


 ゼウは剣を構え直すと、足元の氷を砕きながら突っ込んでくる。


「ならば、全力で応えよう。我が誇りに懸けて! 《雷閃刃(らいせんじん)》!!」


 雷撃を纏った斬撃が目にも留まらぬ速度で襲いかかる。まるで稲妻が地面を刻むような軌跡。だがこちらもさっきより冷静だ。


「こっちは六本あるんだよ、腕が!」


 三本の腕で受け止め、残りの腕で反撃する。氷を(まと)わせた拳でカウンター。《氷牙連迅》を拳に付与したのだ。この世界はゲームであってゲームでない。多少の応用は効く。


 ゼウの剣が俺の肩をかすめ、同時に俺の拳が彼の体をかすめた。


「グッ……!」


 うめくゼウ。雷撃が一瞬、乱れる。


「やりおる。ならば!!」


 ゼウは後退し、雷を剣に集束させ始める。これは、大技だ。


「雷帝奥義! 《天衝雷穿(てんしょうらいせん)》!!」


 雷が槍のように一本の光となり、俺に向かって一直線に放たれた。


「マジかっ!?」


 直線予測、回避不可能。とっさに氷の槍を足元に撃ち、氷壁を構築するも——雷撃が氷を貫き、爆風が玉座の間を包んだ。


「がっ……!」


 衝撃で後方に吹き飛ばされ、尻餅をつく。しかし、致命傷ではない。皮膚が軽く焦げただけだ。


「さすがに手応えあり……む?」


 ゼウが困惑の表情を浮かべる。多分、思ったよりダメージが通ってないことに気づいたんだろう。


「……やっぱ俺、雷耐性あるのか? それとも火力がショボいのか……?」


 よく考えたらレイドボスってプレイヤー側はチクチク足元を削っていく感じだし、一撃必殺はないよな。だから、めちゃくちゃ強そうな技も俺からしたらちょっとチクッとしただけって訳か。


 俺が納得している中、ゼウが(まゆ)を寄せ、さらに雷を溜めようとする。


「やるしかねえか……《氷牙連迅》!!」


 俺は今度は斜め上に向けて氷の槍を発射した。そうすることで槍の雨が降る。


 ゼウは剣で受け流しながら跳躍し、そのまま空中から突撃してくる。


 六本の腕と一振りの雷剣が何度もぶつかり合う。雷と氷の魔力が衝突し、玉座の間の空気がピリピリと震える。


 ゼウは苦しげに笑う。


「ふむ……さすが千人殺しのアシュラと(うた)われた怪物の実力か」


 そんな設定あったの!? まだ誰も殺してませんけど!?


「だから話せないだけであって、戦う気ないんだけどなー!!」


 斬撃をかわして背後を取るも、ゼウは体を回転させて雷撃を撒き散らし、距離を取る。


 そして、ゼウは剣を下ろした。


「……ふむ。何かおかしい」


 お、やっと気づいたか。


「なぜ我らを殺さぬ?」


 うん、聞かれても、しゃべれないんだけどな。


「殺すつもりないからな」


 俺はまたしてもお手上げポーズをとってみた。


「……なるほど」


 ゼウがポツリと(つぶや)いた。


 うんうん、ようやく気づいたかな?


「貴様は“強者しか斬らぬ”というわけか……我々ではまだ力不足……と」


 はああああ!?


「違うってば! そういう哲学じゃないの!!」


 叫ぶも届かず、ゼウは剣を収めて背を向ける。


「今回の戦い……貴様の勝ちだ、アシュラよ」


 いや、だから勝負とかしてないし、むしろこっちはどう相手すればいいか分からなくてパニックなんだって。


 だがもう止まらない。


 タンク役の男が「雷帝、危険です! 背を向けるのは——」と慌てるがゼウは余裕の表情で言う。


「心配無用。ヤツは……背中から斬るようなマネはしない」


 いや、いざとなったら斬りますけど!!!


 結局、ゼウたちはそのまま撤退を始めた。


 そして外へと姿を消す直前、ゼウが振り返り、最後に言った。


「次は……さらなる力を持って挑む。待っていろ、残酷王アシュラよ」


 お願いだから来ないでくれ……!


 俺は三つの顔で虚空を見上げながら、ため息を三重奏で響かせた。


「これ、後から大問題にならないよな……?」


 そして、フロアに静けさが戻る。


 だがその静寂は長く続かない気がしていた。

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