第3話 スキル
ラヴァ・ゴブトカゲ達を叩きのめした直後、部屋の空気がようやく静まり返った。
俺は六本の腕をぐったりと垂らし、玉座に腰を下ろす。
「……ったく、なんだよこの異世界」
巨大な体を持て余してるだけでも情けないのに、まさか雑魚モンスター相手に苦戦するとは思ってもみなかった。
と思ったその時。ゴブトカゲの一体が、ゴロンと転がり落ち、光の粒子となって消えた。その跡には石のようなものが転がっていた。
「え、ドロップアイテムがあるのか?」
慌てて拾ってみると、それは小さな光る結晶のようなアイテムだった。
◆◆◆
《魔晶のかけら》
品質:Cランク
用途:スキル使用の触媒、またはダンジョン改装の素材。
◆◆◆
「おお……! ちゃんと落とすんじゃん! 良かった、リアル過ぎる世界じゃなかった!」
かすかな希望が湧く。戦えば報酬がある。それだけで少しだけ安心する。
だが、肝心の問題は解決していない。そう——。
「……俺、まだ部屋から出られてないんだよな」
相変わらず出口のアーチは俺の体躯にまったく合っていない。どう頑張っても正攻法では通れないのだ。
仕方ないので再び頭の中に浮かぶスキルツリーの画面を開いた。枝分かれしたツリーには技名が表示しているものと“???”となっているものが無数にある。
◆◆◆
【アシュラ専用スキルツリー】
——神殺しの道——
◇攻撃
・連環・多重撃(取得済)
・灼炎穿破撃
・氷牙連迅
・灼氷連刃※上位スキル
◇補助
・武器召喚(剣)
・威圧の眼光(防御低下)
・三面一体(視野共有)
・多腕操術(個別制御)
・縮躯転位(小型化)
◇特殊
・再誕の刻印(一度だけ復活)
・百腕神顕(???)
◆◆◆
なんか情報があったりなかったりでややこしいな。そういえば、この視認性の悪さが《ティタノマキア》のサ終の原因の一つとも言われていたな。
それはともかく小型化あるじゃん!
俺は詳細を確かめるべく《縮躯転位》の文字をタップした。
◆◆◆
《縮躯転位》
王の力を一時的に封印し、体を常人サイズまで縮小する。
※戦闘能力は大幅に低下し、使用可能スキルが制限されます。
◆◆◆
「制限? いい、そんなの。今は出られることの方が重要なんだよ!!」
叫びながらも、スキルを即取得しようと意気込む。しかし、システムが冷酷なウィンドウを叩きつけてくる。
◆◆◆
《スキルポイント不足》
&
《特殊条件未達成》
◆◆◆
「は?」
確認してみると、現在のスキルポイントは「1」。そして《縮躯転位》の習得に必要なポイントは「10」。それよりも特殊条件ってなんだ?
タップしてみても“???”となっている。
「いやいや、希望を見せといてそれはねぇだろ……」
特殊条件か。特定の敵を倒すとか、キーアイテムがいるとかか? うーん、分からない。
「くそ、こうなったら他のスキルでも確認しておくか……」
視線を《攻撃》カテゴリに移す。すると、そこには見覚えのある、でも名前がやたらかっこよくなったスキルが並んでいた。
◆◆◆
《灼炎穿破撃》
高温の火球を放つ中距離魔法。
【属性:火】【射程:中】【範囲:単体】
《氷牙連迅》
鋭利な氷の槍を連続で召喚し、対象を貫く氷結魔法。
【属性:氷】【射程:中】【範囲:直線】
◆◆◆
「おお、火球と氷の槍、ちゃんとあるじゃん! 名前だけやたらスタイリッシュになってるけど!」
さすがに《灼氷連刃》とかいう上位スキルまでは取得できないが、低レベルスキルであればなんとか実戦投入できそうだ。ポイントさえあれば、だが。
続いてステータスウィンドウを確認する。
◆◆◆
【残酷王アシュラ】(二瀬アスラ)
レベル:1(次レベルまで:不明)
HP:9999/9999
MP:384/384
顔数:3
腕数:6
属性:灼熱・氷結
スキルPt:1
◆◆◆
HPカンストか? ゲーム時代、プレイヤー側は四桁ダメージ連発してたような……これ下手したらワンパンされるぞ。
……うん、とりあえず見なかったことにしよう。
さて、他のステータスは……顔とか腕の数とかどうでも良すぎるだろ! 攻撃力とか防御力書けよ!
使えねぇ。このステータス画面デザインしたやつバカだろ。
イライラしていた、その時。
ズン……と、空間が一度揺れたような気がした。
「……ん?」
視界の端に淡い雷光が浮かぶ。瞬間的にダンジョン内の空気がビリリと緊張感を帯びた。床の魔法陣のような模様がかすかに発光し、遠くで誰かの足音が響いている。
「誰か来る……?」
ふと、身を乗り出した俺の脳裏に懐かしくも不吉な名が浮かんだ。
「まさか……雷帝ゼウ……?」
そいつは《ティタノマキア》に登場する有名NPCの一人。かつて無数のボスを雷剣で斬り裂いて討伐してきた伝説のアタッカー。という設定がある。
「いやいや、まさかな……」
つーか、全然考えてなかったけど今の俺はレイドボスだから人間どもと戦うこともあるんだよな……!?
や、やばい。人なんて殺したくないんだが。
かといってむざむざ殺されたくない。
「……くそっ、仕方ねぇ。迎撃するしかないか……!」
不安と緊張が入り混じる中、俺は六本の腕を構え直した。




