第22話 先行部隊戦2・決着
S級冒険者である天翔剣士ブリューナ、風魔導士ジャギル、憤怒のダルダとの戦いが続いていた。
コチラの動きが読まれて対応されつつあるが、まだ披露していないスキルがあるので、それで時間を稼ぐ。
選んだのは俺自身の体重と質量を活かしたスキル《修羅車》。
六本の腕と巨大な躯体を高速回転させる。まるで巨大な車輪のように玉座の床を転がって円を描いた。回転と同時に地面が削れる。接触するものを全て弾き飛ばす攻撃と防御の融合技だ。
「チィ! 止めろ、ジャギル!」
斧使いダルダの怒鳴り声が上がったが遅い。風使いジャギルの展開していたバリアが一瞬のうねりで裂け、巻き込まれた彼は浮遊を乱して壁に叩きつけられる。
その瞬間、俺はさらに追撃する。
「《修羅扇》!」
扇状に魔力を展開し、空間そのものを斬り払うような範囲攻撃。
俺の六本の腕がそれぞれ異なる角度から、巨大な扇の軌道を描きながら振るわれる。青白い魔力が空気を裂き、ダルダと、突撃してきたブリューナを押し戻す。
「ッ……この威圧、さすが災害級モンスター……!」
ブリューナの風をまとった剣を押し返した。
だが斧の気配が迫る。
「落ちろッ!」
ダルダだ。横殴りに振るわれた斧の威圧が玉座を割らんとする勢いで迫りくる。
とっさにスキル《修羅扼》を発動した。一点集中の拘束打撃スキル。右腕すべてを束ね、渦のように力を集めた拳で斧を迎撃する。
金属と肉体がぶつかる瞬間、空気が沈む。音が失われたかのような圧力の中で斧をわずかに押し返した。
「はっ……ハハ……おもしれぇじゃねぇか、お前ッ……!」
押し合う力は拮抗。その間に左腕を伸ばし、ダルダの体へ攻撃。
当たった。しかし、敵は怯まない。コイツの筋肉は、まともじゃない。おいおい、特殊なプロテイン使ってんのかぁ?
次の瞬間、背中に熱の気配。ブリューナの炎をまとった剣だ。
「させるか!!」
俺は叫びながら、宙に浮かぶ分身体の腕を操作して叩き払う。六本の腕が別方向から打ち出され、風、斧、炎の三重連携を全て乱す。
だが、敵はすぐに体勢を立て直すと、三者が別方向から同時攻撃を仕掛けてきた。
逃げられない。こうなったらアレをやるしかねぇ。
「舐めんじゃねぇ……!」
魔力が沸騰する。体内で熱に変わり、血を叩きながら全身に回る。
そして奥の手、スキル《修羅の流転》を発動。《連環・多重撃》の上位スキルだ。
六本の伸びる腕を同時に違う軌道で操作し、複数の敵を別々の角度から打つ。まるで川の支流のように別れ、絡まり、また合流する。
この技に真正面から対応できる奴はいないだろう。動きの読み合いすら無意味な、ただの暴力の流体だ。
腕が踊る。風を裂き、剣を叩き、斧を払う。
「下がれ、ブリューナ! 俺が前に——!」
「間に合わない!」
三人の動きが同時に乱れる。
俺は全ての腕を叩きつけるようにして、彼らを後方へ吹き飛ばした。
土埃と風圧が部屋を満たす。それらが静まった先、三人は余裕の表情で立っていた。
「面白い。戦いは歯応えがなくてはな」
「どうするブリューナ。そろそろ回復限界が近いが、引くか?」
ジャギルが言った。
この世界では短時間の間に回復し過ぎると中毒になり、逆にダメージを受けるようになる。ゆえに無限に治癒はできない。
回復出来ないなら帰ったほうがいいよ? と、俺は手揉みしながらニッコリと笑いかけた。
もちろんブリューナ達にその意図は伝わっておらず、ゴミを見るような目でコチラを見てきた。
「まだ引かない。技は派手だがダメージはさほどでもなかった。動きも鈍くなっているようだし、もう少しで狩れるはず」
あはは、バレてら。こっちも体力、気力ともにかなり削られている。次ミスしたら確実に死ぬだろう。
「ジャギル、ダルダ。全力で行くぞ。合わせろ」
ブリューナが静かに言った。どうやら次で決めに来るらしい。こりゃあ詰み——な訳ないんだな。どうやら間に合ったようだ。
入り口から邪悪な気配。紫色の霧が入ってくる。中には女の影。
「私の王子様にちょっかいを出しているのは誰かしら?」
アガペーが紫の蛇髪を逆立てて冒険者達に敵意を向けている。
ブリューナが驚愕し、目を見開く。
「あれが例の番、“禁断の花嫁”アガペー……!?」
なんだよその二つ名は。
「やはり繁殖しているという噂は本当だったか……!」
「してねぇよ!」
俺は思わずツッコんだが、当然敵には伝わっておらず、警戒心を強めただけだった。
「チッ、二頭ともお怒りのようだ。さすがに分が悪い。今回は撤退する」
瞬間、煙幕が張られた。
煙の向こう、彼らの影が消えていく。
「あら、逃がすと思って?」
「待てアガペー。行かせてやれ」
俺が止めると、アガペーの鋭い視線が飛んできた。
「……人を傷つけないって約束はしたけれど、ああいう手合いは例外じゃない?」
それはそうだが、殺したらそれこそ総力を上げて俺を討伐しに来るだろう。もう引き返せなくなる。
不満げな顔のアガペー。彼女を納得させるには、そうだな——
「いや、キミの白魚のように綺麗な指を血で汚すわけにはいかないよ」
「……え? そ、そう?」
コイツは褒められるのに弱いからな。この歯が浮くようなセリフが一番効果的だ。あとは話題を逸らして誤魔化せばいい。
「それより今日も助かった。アガペーが来ただけで戦況が変わった。さすが美人で強い俺の婚約者だな」
アガペーの蛇髪が一瞬ふわっと跳ねた。
「えへ、えへへ。ふ、不意打ちは卑怯よ……! でも、そういうの……嫌いじゃないわ」
三つの顔で『はいはい』と心の中で呟きつつ、続けておだてる。
「禁断の花嫁なんて呼ばれてるのも納得だ。頼りにしてるよ」
「~~っ!」
アガペーが耳まで真っ赤になり、蛇髪が全部くねくね揺れる。
「分かったわ王子様! 誰が来ても私が守ってあげる! 私、禁断の花嫁だものね!」
彼女がハートのエフェクトを浮かべている。ダンジョンポイントで実装したらしい。ポイント勿体ねぇな。
科を作りながらアガペーが話を続ける。
「でも、長期的に見たら私だけじゃ守りきれないわ」
「分かってる。使者として送ったナビビが良い返事を持ち帰ってくれれば、それで終息するんだが」
「それが失敗したら……どうするの?」
冷酷な瞳が俺を見つめる。
「……その時は覚悟を決めて全面戦争になるかな。今のところはだけど。だが、時が来るまでは人を殺すなよ」
「うん。それで戦いになって、もし、負けそうになったら——心中しようね!」
重いわ!!
それから、俺は静寂が訪れた玉座の間で、ようやく腰を落とす。
とりあえず生きててよかった。




