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最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2部 禁断の花嫁編

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第14話 妄想加速

 隣に住むレイドボスのアガペーが現れて一日が経った。


 昨日はなんとか帰らせたが、今日も朝っぱらから玉座の間へ来ている。


「……あのさ。念のため聞くけど、いま何て言った?」


 俺は玉座の上で三つの顔をすべてアガペーに向けた。


 彼女は満面の笑みで、しれっと答える。


「呪いを解くには、温泉によるお清めと——キスが必要だって言ったのよ」


 プスプス族がコケた。ナビビ族が手帳に書きかけて止まった。ガイアがナビウィンドウの中で、ものすごくニヤニヤしている。


「……まず確認したいんだが。俺、呪われてないぞ?」


 封印設定どこいった。


「これは直感よ。乙女の(かん)ってやつ。私、昔から霊感的なものがあって運命の分岐点とか分かっちゃうタイプなの」


 その(かん)、トンチンカンだね!


 アガペーは蛇髪をくるくると(から)ませながら手帳のようなものを取り出して言った。


「で、調べたの。封印系・不動系・三つ首持ち・玉座座りっぱなし・喋るけど動かない系……それらの共通項を洗い出すとね、たどり着くの」


「ど、どこに」


「呪われた王子様」


「よし、ナビビ。俺、小型化スキルで一旦どっか逃げられないか?」


「小型化覚えてないから無理ですッ!」


 ナビビ92号が横からそっと(ささや)いた。


「アガペー様は先ほどからヒロインが登場してアシュラ様の運命を変える展開をシミュレーションしておられる様子ですッ!」


 ひぇぇ……。無関係ならいいシチュエーションなんだがなぁ。


 アガペーは、にっこり微笑(ほほえ)むとスカートを(ひるがえ)しながら堂々と宣言した。


「というわけで、解呪の儀を()りおこなうわ!」


「おい、いきなりか!? まだ準備とか段取りとかいろいろあるだろ!?」


 (なげ)く俺をよそに彼女が迷宮奥の温泉区画の方を指差す。


「癒しの湯、聖なるミスト、愛の毒素中和風呂……呪い解除には絶好のフィールドがあるじゃない! 一緒に温泉に入りましょ!」


 どれも聞いたことない風呂の設定なんですけど! というかなんで一緒に入るんだよ!


「無理だって! そもそも俺、この部屋から動けないって!」


「だったら、そこの一つ目の精霊達! ここに温泉を引いてきなさい!」


「プスプス族、プス!」


「じゃあラブラブ族に族名を変えて作業に取り掛かりなさい!」


「分かりましたラブ!」


 ノリいいな! じゃなくて断れよ! 俺の精霊だろ!


 ガイアを見るとニヤニヤしながら温泉卵を食べていた。コイツ人の不幸で飯を食いやがって。一番ハズレ精霊だろ。


「ナビビ族の協力を得て大型風呂(がま)を組み立てるラブ!」


 プスプス族がほぼ出来ている風呂のパーツをせっせと運び込んでいる。


「もう準備してんのかよ!?」


 ガイアが小声で補足する。


『さっきから裏でプスプス達が風呂釜の設計図描いてました。恐らくもう物理的に作成可能です』


 えぇ……。アガペーの奴、俺に言う前から根回ししてたのかよ。外堀(そとぼり)から埋めるタイプの女だったか。クソ。


 俺はもう抗議の顔をする気力すらなくなっていた。


「アシュラ様……少しよろしいですかラブ」


 足元に一匹のプスプス族。妙にまつ毛が長い個体だ。首から『工場長』と書かれた名札をぶら下げている。確か初めに召喚したプスプス族の一体で、その時は『班長』だったはず。出世したのか。ガイアめ、人事について何にも聞いてないぞ。


 俺が眉根(まゆね)を指でつまんでいると、工場長が心配そうに覗き込んできた。


「アシュラ様?」


「いや、すまない。どうした? 工場長」


「ワタクシのことはマツゲーノとお呼びください」


 まつ毛が長いからか。覚えやすくて助かるけどそんなコメディな名前でいいのかよ。まぁいいか。


「……オホン、それでマツゲ、何の用だ?」


「どうやらアガペー様の事でお困りのようでしたので、お声を掛けさせていただきました。(よろ)しければこの“色男”マツゲーノがアドバイスして差し上げましょう」


 色男って自分で言うのか。少しハズレ精霊臭してきたな。ロクなこと言わなさそうだが、一応アドバイスとやらを聞いておくか。


「じゃあどうやったらアガペーを追い出せると思う?」


「それは簡単ですラブ。“自分好みのメスに調教”すればいいのです」


 俺は玉座から滑り落ちた。


 慌てて起き上がり、しゃがんでマツゲーノに顔を近づける。


「ちょ、何言ってんだよマツゲ。まぁ言わんとしてることは分かる。何でも俺に従うようになれば、追い出すことも、呪いを解くために生け(にえ)を捧げるとか言い出しても止められそうだもんな。でもそんな従順な女にできるのかよ……!?」


「安心してくださいラブ。策があります。それはアシュラ様が“ちょいクズ”になることですラブ。人間関係というのは恋愛に関わらず初動が大事です。自分が上であると、相手の無意識に刷り込むのですラブ」


 人間関係っていっても、こっちは怪物同士なんですけど……。いけるのか?


「具体的にはどうする?」


「古来よりあるモテ男の属性、“オラオラ系”になるのですラブ」


 俺は思わず息を吹き出した。その勢いでマツゲーノがぶっ飛んでいく。


 その後、五、六回転した後、何事もなかったように戻ってきた。


「わ、悪い。でも今どきオラオラ系って……この世界では流行(はや)りなのか?」


流行(はや)りというより、もはや定番ですラブ。いつの世も少し傲慢(ごうまん)でデリカシーに欠けているものが恋愛という面においては勝利するのですラブ」


 確かにヤンキーが清楚で美人な女を連れているのをよく見る気がする。ふざけやがって。


「優しい男ではダメなのかよ。俺みたいに」


 その俺の言葉に大きなため息を吐くマツゲーノ。


「アシュラ様、自分の心に問いかけてみてくださいラブ。本当にあなたは優しいですか? 嫌われたくないから我慢して助けてあげていたり、人間関係崩壊を恐れて無難な行動を取っているだけではないですか?」


 や、やめろ。やめてくれ。


「真の優しさとは、相手が困っている時には手を差し伸べ、時にはダメなことをダメという、相手のためになる言動をすることではないんですかラブ!? あなたがやっている行動は全て自分のためでしょう!?」


 いやあああ! 心に刺さるううう!


 俺はガックリと頭と肩を下げて四つん這いになった。いや、腕が六つ、足が二つだから八つん這いかな……どうでもいいか、タハハ……。


「……俺は、俺はただのヘタレだ……うぅ」


「すみません。言い過ぎましたラブ。とにかく、ほんの少しだけ上から目線を意識してみてくださいラブ。きっと上手く行きますラブ」


 いまいち分からないが仕方ない。他に策もないし、やってみるか。


 ゆっくりと立ち上がり、アガペーへ向き直る。


「お、おい。アガペー」


「なぁに、王子様?」


 お、王子様ぁ!? やばいやばい、どんどん妄想が加速していってるよ! 早く対処せねば!


「お、オラオラ、お前、最近調子に乗ってないか? オラオラ」


「あら一人称変えたの? かわいい」


 そんな訳ないだろ!


「ち、ちげーよ。おめー、俺様に逆らうんじゃねぇって言ってんだよ」


「やっぱり一人称変えたのね。素敵!」


 いや、ちがっ、き、キャラが定まってないだけですぅ!


「そ、そこはいいからさ。俺の言う事を聞け。俺は呪われてないから。解呪の必要なんてねーの。分かったか、ぶ、ブース!」


 決まったな。ちょっと好きな子をいじめる男子小学生っぽいが、気のせい気のせい。


 うんうん、と(うなず)くアガペー。よかった、分かってくれたか。


「大丈夫。理解しているわ。私に冷たく当たるのは、そう——呪いを周囲の人に感染させないためね!」


 ち、ちげぇぇぇ!


「その行動から分かったことがあるわ。呪いの詳細を教えてはならないことと、呪いは思った以上に強力だってこと!」


 これ以上、設定を盛らないでくれぇ!


 俺が心中で祈っていると、アガペーの頭上に電球のエフェクトが浮かんだ。


「いい事を思い付いたわ! 人間を殺して、その血をお湯に入れて血の池温泉を作りましょう! きっと呪いに効くわ!」


 ぎゃあああ! 一番ヤバい展開になってんじゃねぇか!


 俺は急いでマツゲーノに視線を送った。おい、助けてくれ色男!


 当の本人はコチラに敬礼した後、スタコラサッサと部屋から出ていった。


 あのやろぉぉぉ! 今度会ったらまつ毛、二、三本抜いてやるからな!


 とにかく、この窮地(きゅうち)を乗り切るため、俺はハッタリをかますことにした。


「ま、待てアガペー。人間は殺すな。その、あれだ、一回試したことがあるんだよ。そしたらお腹が痛くなったんだ。だから呪いには効かないと思う」


「んー、じゃあ精霊使う?」


「それもダメだ。働き手が居なくなるのは困る」


「じゃあ私とアシュラ二人で温泉に入るしかないわねっ!」


「う、うむ、とりあえずそれで」


 時間稼ぎのためだ。仕方ない。まぁ死ぬほどかいた汗も流したかったしな。


 俺は言い訳をしながら玉座に深く腰を掛けた。

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